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WILL second 4

 

 

 朝食をとったとき、我愛羅の姿がなかった。気になって訪ねると、もう仕事をしていると言う。驚いたナルトはそれ以上を追及しなかったが、彼の事が気になってしょうがない。昨晩の事が、頭から離れない。あんな辛そうな顔をさせているのは自分だと思うと、自分がここに居てはいけないのではないかと言う気がしてくる。もちろん、砂隠れの里に到着したのは昨日で、サクラの事もあり自分だけが木の葉に帰る事もできない。そんな当たり前の事を考えながら、深い溜息をついてしまった。それを目聡く見ていたテマリは、苦笑しながらナルトに話しかけた。

「疲れているようだな?」

「テマリの姉ちゃん……違うってばよ。オレってば、自分んちにナイトキャップを忘れてきたんだってば。あれがねぇとなんか寝つきが悪くて」

「ナイトキャップ…?」

 ナルトは本当の事を口にした。どこに行くにも必ず持って行く、愛用のナイトキャップを忘れたのは本当の事なのだ。えへへと笑うと、テマリがくすりと笑った。すると、そこにカンクロウがやって来る。

「ナルト〜。メシ食ってたのか!」

「なんだ、騒々しいな…」

 テマリは湯呑に口を付けながら、カンクロウを睨みつけた。

「って言うかよ…なんか我愛羅の奴、もう仕事してんだってな?ナルトの相手をするように、あんだけ言ったのに」

 ナルトは特に何も言わずに、湯呑を握る。昨日の昼間の時点の話だ。我愛羅はそれを喜んでいてくれたようなのに、今では違うのかもしれない。

「いいってばよ!我愛羅は風影なんだし、仕事もいっぱいあるってば。オレの相手なんか…」

「それは違うぞ、ナルト」

 テマリはナルトが何を気にしているのか殆どを把握しているつもりで居る。ナルトが遠慮している気持ちも察してしまった。カンクロウは何も言わずに、じっとテマリを見つめる。何となくではあるが、この雰囲気を感じたのかもしれない。

「我愛羅はナルトと会うのを本当に楽しみにしていた。もちろん四六時中、執務から離れる事は無理だがな。今日もナルトにこの里を案内したいからと、早くから仕事を片づけているんだ。その気持ちを汲んでやってはくれないか?お前を蔑ろにする気なんてないんだ」

「テマリの姉ちゃん…」

 ナルトはにこりと笑う。

「ありがとだってばよ。我愛羅の邪魔しないように、大人しくしてるってば」

 顔の前で手を合わせたナルトは、食事を終えた事で席を立つ。その後ろ姿をカンクロウは胡乱な眼差しで見つめた。そして、ナルトが座っていた席に腰を下ろす。

「何があったんだ?」

 もちろんその問いかけはテマリに対するものである。ナルトの態度が明らかに可笑しいと思って訊ねたのだが、あっさりとそれを無視された。

「テマリ。だんまりかよ?」

「別に。…何もない、と言うか私の一存で話せることでもない」

「なんだよ!滅茶苦茶気になるじゃんっ!」

「気にするな」

「我愛羅は俺の弟でもあるんだぞ!」

 自分だけ除者にされているようで、顔が引きつる。そんなカンクロウを一瞥したテマリは、くすりと笑うとぺろりと舌を出した。

「お前は可愛くない弟だな」

「おい、差別すんなよ。差別!」

 我愛羅を大切に思っているという事では、カンクロウもテマリに負けないと思っている。今回も出来るだけ協力したつもりでいるのに、扱いが納得できない。文句は言い足りないのだが、今日は他の任務が入っていてゆっくりテマリと話す時間がない。即ち、我愛羅ともと言う事になる。

 カンクロウが不満そうに立ち上がると、テマリは何も言わずに手を振る。邪魔者扱いされているような気がしてならないのだが、カンクロウはしょうがなく任務に向かうしかなかったのだ。ナルトはまだ暫くこの里に滞在するだろうから、次こそはテマリに遅れを取らないように気をつけようと心に誓ったカンクロウは、さっさと任務を済ませてしまおうと逸る気持ちを抑えた。

 

 

 

 

 

 ナルトはベッドに横になりながら、ぼうっと天井を見つめた。それから両手を上げてみる。特に意味などないのだが、天井についたシミが気になって思わず手を伸ばしてしまったのだ。それから、両の手をじっと見つめた。口から洩れるのは無意識な溜息だけ。

「蔑ろにする気はないかぁ…」

 テマリに言われた事を思い出して、また溜息をついてしまった。ナルトは我愛羅に嘘はついていない。そんな事はしたくなかった。自分の気持ちを何偽りなく口にした。後先を考えないのは、いつもの自分の悪い癖である。だが、それが長所であると言ってくれたシカマルの事を思う。彼の危惧は当たってしまった。だけれど、我愛羅を思う気持ちが変わったかと言うとそれは別だった。彼の事が好きだ。それは我愛羅が自分に向けてくれる愛情とは違うものだが、ナルトは彼を嫌いになんてなれそうにもない。

「オレってば…自分勝手なのかなぁ」

 そう呟いたのと、扉がノックされたのはほぼ同時だ。ナルトは緊張しながら、がばりと起き上がる。

 鼓動が早くなる。ドキドキしながら、答えた。

「開いてるってばよ」

 遠慮がちに開かれる扉の向こうから、我愛羅が姿を見せる。

「入っていいか?」

「あ…うん。いいってばよ」

 ナルトは我愛羅をじっと見つめる。彼は部屋の中に入ると、ベッドの隣にある椅子に腰かけた。

「テマリからあまり眠れなかったように聞いたが、大丈夫なのか?」

 ナルトは我愛羅の言う「大丈夫」が何に対してなのか一瞬迷う。そして、ワンテンポ遅れて体調についてだと気が付き頷いた。

「俺の所為だな…余計な気をかけた」

 ナルトは首を横に振る。我愛羅に初めて気持ちを告白された時に、通るべき道だったのではないかと思う。彼に甘えて自分の都合よく解釈してしまったことに後悔しているのだ。ナルトも人を好きになる気持ちを知っているからこそ、我愛羅の気持ちも分かってしまう。なのに、それに気が付かないでいた自分はなんて無神経なのかと反省している。

「ナルト。お前が俺と友で居たいという気持ちに変わりはないだろうか。…その、勝手な事を言っているのは承知の上だ」

「当たり前だってばよ!」

 慌てたように我愛羅の言葉を肯定するナルトを見て、口元に笑みが浮かんだ。その我愛羅の微笑を見たナルトもつられて笑顔になる。

「昨日の夜はすまなかった。自分の都合よくお前に許して欲しいなどと…」

「謝らなくてもいいってば…」

「でも、お前に許してもらわなくて良かったと今では思っている」

 意外な言葉にナルトは首を傾げる。

「えと…それってどうゆう意味だってばよ?」

「ナルトが俺を許して居たら、俺は思い上がってお前にもっと酷い事をしていたかもしれない。ナルトが俺のしたことを許して居たら、俺のした事を正当なものに変えてしまう。でも、それは…違うと気が付いたんだ」

 我愛羅の言う事は難しくて、ナルトはよく分からない。なんとなく意味が雰囲気で分かるといった具合だ。我愛羅はそっとナルトの手を取る。一瞬ビクリとしたナルトは、そっと彼を見つめた。

「何もしない。ここに誓う…俺はお前をずっと好きでいると思う。それは変えられないんだ。だけれど、もうナルトを苦しめたりはしたくない。俺は、お前と友で居たい。その気持ちも変わらないんだ」

「オレも我愛羅を好きな気持ちは変わらないってばよ。その…友達としてだけど」

 遠慮がちな声のトーンに我愛羅がくすりと笑った。

「お前は正直だな」

「サクラちゃんには、いつもそれで怒られてるってばよ。無神経だって…」

「それはナルトの長所ではないのか?」

 ナルトは目を大きくして、じっと我愛羅を見つめた。同じ言葉をシカマルにも言われたのだ。

「でも、それってば…なんてーか、長所は短所みたいな事じゃないのかな」

「まぁ、長所と短所は裏返しだからそう感じるのかもしれないが、俺はそんなナルトの性格を好ましいと思う」

 ナルトは照れ臭くなって、我愛羅から視線を外した。どうしてだろうか、無性にシカマルに会いたくなってしまった。彼も我愛羅と同じ事を言ってくれたのだ。我愛羅もシカマルと同じように、自分を認めてくれている。それが嬉しくて、でも、どうやってこの気持ちを我愛羅に伝えればいいのか分からない。

「サンキュだってばよ。なんか、滅茶苦茶嬉しいってば」

 ナルトは久々に心からの笑顔を我愛羅に向ける事が出来る。我愛羅はすっとナルトの手を離す。

「ナルト、里を案内する」

「ホントにいいんだってば?我愛羅は仕事とか…」

「カンクロウが俺の為を思って、せっかく休みをと言ってくれた。それに、ナルトともゆっくりと話をしたい」

 ナルトは素直に嬉しくなる。当初の予定通り、色々な事を話したい。今までそんな時間をとる事など、二人の間にはなかったのだから。我愛羅はナルトの笑顔を見て、自分の気持ちが落ち着いていくのを感じた。自分は甚だしくもこの笑顔を守れる存在でいたいのだ。その為には、彼の言うように自分は強く居なくてはいけない。ナルトが信じてくれたように。自分が自分を信じたように。

「楽しみにしていたんだ」

「オレもだってばよ」

 里のあちこちで、風影である我愛羅は人気者だった。それに驚きながらも、皆に必要とされている我愛羅の姿を見て、自分の事のように嬉しくなる。

「我愛羅!」

 振り向いた顔が、どうしたのかと視線だけで訊ねていた。

「オレもぜってー火影になるから!」

 それから、優しい笑みを浮かべる我愛羅。

「ああ、楽しみにしている。チヨ婆様が言っていたように…新しい砂と木の葉の架け橋に俺とお前がなれればいいな」

「だから、絶対にそうするんだってばっ!約束だってばよ?オレも強く…なるから」

 我愛羅が差し出したジュースを受け取りながら、ナルトがにこりを笑う。

「俺もうかうかしていられないな?」

「我愛羅はもう風影になってんだし、オレのが一歩も二歩も遅れてんだってばよ〜」

「いや、決められた道ではなく、自分たちが選んだ道を行く事が俺の決めた道だから…」

 風影としても、我愛羅という一人の人間としても。それに気がつかせてくれたのは、この世で初めて心から好きになった人。それを誇りに思いながら、はしゃぐナルトの背中を追った。

 

 

 

 

「かなり時間がかかってしまいましたけど、それなりにいい結果が得られました。これを綱手様に報告してみます」

 プランターで育てた薬草の苗は、しっかりと土に根を張った。厳密にはその湿度管理が大変なものになったのだけれど、これも打開策が見つかるはずである。

「ありがとう、サクラ。仕事詰めで疲れているんじゃいのか?」

「まぁ、ナルトと一緒で体力だけはありますからご心配なく。あいつ、我愛羅くんの邪魔ばかりしなかった?」

 心配そうに問うサクラに首を振った。

「反対に感謝している…次こそは、こちらから火影殿に挨拶に行くと」

「はい」

 サクラは我愛羅に差し出された手を取ると、握手を交わした

「ナルト〜!」

 離れた所にいるナルトをサクラが大声で呼ぶ。ナルトは嬉しそうにサクラの元にやって来た。

「難しい話は終わったってば?」

「アンタね〜!遊んでばっかじゃないの。帰ったら、みっちり資料整理手伝ってもらうわよ」

「えええっ!それは勘弁だってばよ〜サクラちゃ〜ん…」

 ナルトがへたり込むと、そこに居たテマリもカンクロウも声を上げて笑った。サクラは恥ずかしそうにしながら、ナルトの頭をパチンと叩く。

「ナルト、前々から言おうと思ってたんだけど、お前からしたら俺も兄ちゃんじゃん」

 ナルトの隣にしゃがんだカンクロウの顔は真剣だった。

「いきなり、なんだってばよ?」

「テマリは姉ちゃんで、どうして俺は呼び捨てなのか納得いかねえじゃん?」

「それって、カンクロウの兄ちゃんとか呼ばれたいってこと?」

「まあ…」

「なんでピースサインしてるんだってばよ?」

「だから、二つも年上なんだぞ」

「それと、なんの関係があるんだってば…」

 テマリはくすりと笑うと、腕を組んだまま馬鹿な弟を見下ろす。その視線を感じたカンクロウは、下からテマリを見上げた。

「そんな事に拘ってるとは驚きだな、カンクロウ」

「うるせえよ」

 我愛羅が時間を開けられるように、任務に明け暮れた数日間。ナルトのへらへらした雰囲気に何度か癒された。それが、どうもテマリに懐いているようにみえて、カッチーンときたのだ。我愛羅の事は置いておいても、どうも自分の方が分が悪い。

「それくらいいいじゃん!な、ナルト?」

「まぁ、構わねぇけど?」

 カンクロウは拳を握り締めて、小さくガッツポーズした。座り込んだナルトに我愛羅が手を差し出す。それを当たり前の様に受け取ったナルトは、我愛羅に満面の笑顔を向けた。

「今度は木の葉で待ってるってばよ」

「ああ、会いたい奴も居る事だしな…」

 我愛羅の会いたい人が、ナルトの恋人だとピンときて顔を真っ赤に染める。

「ま…その内に……」

 あまり気乗りしないのだが、この数日間で随分と我愛羅とも打ち解ける事が出来た。

「じゃあ、私たちはこの辺で失礼します。また、報告書の方は送らせて頂きますので」

 きっちりと仕事をこなすサクラはきびきびとした態度で、頭を下げた。ナルトもそれにつられて、小さく会釈をする。

 二人の背中を見送った三姉弟は、その影が見えるまでそこに佇む。

「今回は…本当に感謝している。その…ありがとう。 ―――― 姉さん…兄さん」

 我愛羅がぽつりと呟いた言葉に、テマリとカンクロウが顔を見合わせる。テマリがばちんとカンクロウの背中を叩いた。

「イテ…っ、テマリ!」

「行くぞ、カンクロウ!任務が待ってる」

「はいはい…」

 テマリもカンクロウも無意識に口元に笑みを浮かべる。やはり、うずまきナルトは不思議な奴だ。数年前なら考えられなかった、姉弟関係が始まろうとしていた。

 カンクロウは多少の骨を折っても、我愛羅が木の葉へ向かえるような算段を付けようと心に誓う。もちろんテマリも同じような事を考えているのだが。

 

 我愛羅はナルトが消えた砂漠を見つめた。この視線の先に、変わらない永遠がある。

 誰に課せられたのではない、自分が心に決めた事。心の中にうまれた決意を胸に。

 

 

 

 

    

 

 

 

我愛羅の決意や意志というところから、

このお話のタイトル「WILL」は来てます。

それがうまく表わされているのか、ちょい不安です。

そんでもって、また続きそうなシリーズです。

きっとずっと、我愛羅はナルトの事が好きだと思います。