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WILL second 3
風が強くて少し肌寒いのに、唇に感じる熱は熱い。ナルトは思わず我愛羅の身体を押し返す。 「…ダメだってばよっ!」 許すとか許さないの問題ではない。これは、ナルトの中ではいけない事。ナルトの腕に我愛羅は抵抗しない。唇は離れたけれど、顔は近い場所にある。お互いの表情を読み取れてしまうくらいには。 「ナルト…」 「ダメだってばよ…我愛羅。我愛羅は、オレの大切な友達なんだってば!」 彼が自分に好意を寄せてくれているのは知っている。同じ痛みを知っているから、共感する部分が多いのだと思っていた。そんな彼の為に出来る事はしてやりたい。自分が役に立つのなら、いつでも砂隠れの里にもやってくるだろう。彼が自分の助けを必要とするなら、いつでもその力になりたい。きっと、我愛羅も同じ事を思ってくれるだろうから。 「でも、……今みたいなのは、絶対にダメなんだってばよ」 ナルトは俯いて唇を噛みしめた。キスは大事な行為の一つだ。愛情を表現する方法だと言ってもいいだろう。親が子供に親愛の口づけを送ったり、恋人同士が愛を伝えあったり、様々な形はあるだろうが、我愛羅と自分の間には存在してはいけない行為なのだ。 「許すとか、そうゆう問題じゃ…ないんだってば」 ナルトは胸が苦しくなった。自分には抱きしめてくれる腕があり、帰る場所がある。それに、その人を失いたくもない。彼に知られなかったらしてもいい行為ではない。これは、突然な事でも大切な人への裏切りのような気がしてくる。 「ナルト、お前は幸せなんだろうな」 呟きに近い我愛羅の声が、風に攫われる。ナルトは静かに頷いた。 「俺は愚かな人間だ。お前の事を愛しているのに、お前からその幸せを奪おうとしている…」 「我愛羅…」 「勝手だと思う。でも、許してほしい…」 ナルトは答えに困る。我愛羅は今、自分の事を考えていてくれる。たった一言、「許す」と言って冗談にしてはぐらかしてしまえばいいのだ。そして、またキスする前の関係に戻ればいい。 でも…とナルトは思うのだ。自分はそれでいいのかもしれない。だが、目の前で辛そうな顔をしている我愛羅はどうなるのだろう。彼の愛情を受け取る事はできない。そんな振りすら無理だ。もっと器用なら、彼の願いを叶える事はできるのだろうか。 やはり、それは出来ない。 「……我愛羅、ごめんってば。オレ、我愛羅のこと好きだけど、我愛羅がオレの事好きみたいな気持ちじゃないんだってば…」 我愛羅は微笑を浮かべた。 「知ってる。それを知っている上で、俺は……」 愛しいと思う気持ちを止める事ができなかった。ナルトを見ているだけで良かったはずなのに、その手に触れたくなり、その身体を抱きしめたくなり、その唇に触れたくなった。衝動を抑える事が出来なかった。結果、ナルトを苦しめる事になってしまった。 「どうしたらいいのか、わかんないってば…」 我愛羅はナルトから顔を背ける。ナルトから与えられる優しさの一つ一つが、嬉しい半面辛い。 「ナルト…」 許してほしいが、忘れて欲しくない。それも、またエゴ。全てはナルトを苦しめる原因にしかならない。 「もう…お前を、苦しめたりはしない」 「…我愛羅」 「それが、俺に出来る唯一の事だろう。だから…」 我愛羅は自分の気持ちをどう言葉にすればいいか分からなかった。言葉にすることが出来なかったというのが本当の気持ちだ。 ナルトは何かを決心したように、我愛羅の手を取って自分の方へ向かせる。ナルトは我愛羅から視線を逸らさずに、じっと見つめた。それは、我愛羅が好きだと思った強い意志がこもった瞳である。 「我愛羅。もしオレに好きな人が居なくても、オレは我愛羅の気持ちを受け取れなかったってばよ。我愛羅はオレの同士って言うか、戦友みたいな存在なんだってば。大切な仲間だけど、それ以上の存在だけど…」 「必然だったと言う訳だな」 初恋だったのだと思う。愛などと呼ぶのもおこがましい、幼い感情だった。我愛羅は、それをひしひしと感じる。大人ぶって、自分の感情に蓋をしたから簡単に溢れてしまっただけの事。自分自身ですら気が付いていなかった真実。ナルトが幸せならば、それ以上を求めないとそう決めていたのに、容易く崩れてしまった牙城。脆いものだと失笑してしまう。 そして、今もナルトに教えられた。 「俺は、何も変わってないのかもしれない。風影となった今でも」 ナルトはぎゅっと握った手に力を入れる。 「そんな事…ないってばよ。自分を否定するなんて、我愛羅らしくないってば。オレの知ってる我愛羅は、もっと強いってばよ」 ナルトが見ている自分の影は、己が思っているよりも大きいのだろうか。彼が信じてくれているように、自分は強く在らなければいけない。それが、必死に探し出した答え。自分の手を握ってくれているナルトの気持ちに心からの誠意をはらう必要がある。そうすることが、彼への思いの証のような気がした。 さあっと吹いた風は、いつも感じるそれよりも優しいものに感じられて、我愛羅はそっと目を閉じた。
風にあたると言った我愛羅に背を向けて、ナルトは来た道を戻る。無意識に俯いてしまうのは、理由のわからない気持ちが心の中を渦巻いているからだ。 自分は我愛羅を傷つけただろうか、そう思うと胸が痛い。それは、やはり彼の存在が大切なものだから。だけれど、大切な人だから自分の気持ちに嘘をつきたくなかったのである。曖昧にしたままで別れるのも嫌だった。これはナルトなりのけじめの問題だった。だが、今では一方的に自分の気持ちを押しつけて、彼の気持ちを考える余裕がなかった事に悔いが残る。 重い溜息をついた所で、前から来ていた人に思いっきりぶつかってしまう。下を向いていて意識は我愛羅に向けていたナルトは、人の気配に全く気が付いていなかったのである。 「ナルト…?」 「テマリの…姉ちゃん」 テマリは元気がないナルトの顔を見て、そっと後ろを伺う。 「我愛羅が一緒だと思ったんだけど…居ないんだな?」 「うん。もうちょっと…風にあたりたいんだってばよ」 歯切れの悪い返事に、頭の回転が早いテマリは何かを察したように笑みを作る。 「そうか…」 「じゃ、オレ…行くってばよ」 テマリの顔をまともに見れない。ナルトがそそくさとその場を立ち去ると、テマリはしょうがないと言ったように笑った。元気だけが取り柄だとサクラが言っていたような、あの笑顔が曇っていた。それはきっと、自分の弟が原因なのだろう。何かに執着した事のない不器用な弟が、初めて見せた執着心。それを感じていたテマリは、物事がうまくは行かなかった事を察する。それは、一般的に考えてもそうだろう。 テマリは塔の上に続く階段を、迷いもなく進んだ。その先には、きっと我愛羅がいる。木で作られた扉を押すと、蝶番が鈍い音を立てる。 テマリはすぐに我愛羅の姿を見つける。一瞬迷って、近づいた。 「我愛羅?」 「テマリか…」 我愛羅は振り向かずに呟いた。テマリは我愛羅の隣に腰をかける。そして、弟の顔を覗きこんだ。 「なんて情けない顔をしてるんだ?」 「そんなことは…」 「私に弱みを見せるのは…やはり気が引けるのか?」 「そんなんじゃない」 「ここへ来る途中、ナルトに会った。何か気落ちしている風に見えたな。そうさせたのは、我愛羅なのか?」 テマリの言葉はいつもストレートだ。包み隠さないさっぱりとした口調に、我愛羅はすんなりとそれを認める。 「我愛羅がナルトを特別に思っている事は知っているつもりでいる。姉ちゃんからの有難い言葉、初恋は叶わないものだと相場が決まっている」 我愛羅は驚いたように顔を上げる。テマリはにっこりと笑っていた。 「叶わなくても、友でありたいと願った。それなのに、俺は簡単にそれを壊してしまった…」 「そうでもないだろう」 テマリは立ち上がると、ぐいっと背伸びをする。 「テマリはどうしてそう思う?」 「ナルトの顔を見てそう思った。うずまきナルトは本当に不思議な人間だ。何といっても、可愛げのなかった弟に恋をさせたんだからな?」 我愛羅は口元に笑みを浮かべた。 「からかっているのか?」 「まさか!その反対。ナルトの中で、我愛羅が大切だという気持ちは変わっていないと思う。それに、我愛羅の中でナルトが大切だという気持ちも……違うか?」 「………そうだな」 この幼い感情は、もっと大きな気持ちに変わりつつある。 「選んだのは俺自身だ」 「そうか…なら、それを信じていけばいいんじゃないのか?」 「ナルトにもうあんな顔はさせない。言葉で言うのは簡単だったんだ。あいつの幸せを願えば、自分も幸せで居られると…なのに、目の前にしたら感情が抑えられなかった。それに、ナルトは俺のことを強いと言ってくれた。だから、強くなりたい」 テマリは無意識に我愛羅の頭を撫ぜる。優しく優しく何度も。 「失恋したんだから、泣いてもいいんだぞ」 「ふっ…男のくせに、と言わないのか」 「お前は私の弟だ。男も女も関係ない。大事な、弟だ」 大切な肉親。近くにいたのに、そう実感することが少なかったように思う。当たり前のように近くにいたからだろうか。それとも、テマリがそうしてくれていたからだろうか。 「選んだのは我愛羅自身なんだから、…誰に課せられたものでないのだから……貫き通せばいい。ナルトは我愛羅から孤独というものを払拭した存在だ。好きになって当たり前なんじゃないのか?それに、その気持ちに恥じる事も何一つない」 テマリの言葉が心の中に沁み渡ってくる。思い出や感情がばらばらになっていたはずなのに、一本の糸がそれを繋げるように、優しく感情を紡ぐ。 「気持ちは自由だ。誰にも支配する事はできないと思う。それでも、我愛羅が何かを決めたのなら…そうすればいい。いつか、答えもみつかる」 テマリの手がぐいっと我愛羅の頭を俯かせた。目尻にたまっていた透明な雫が、ぽたりと膝に落ちる。 「たまには姉ちゃんに、甘えていいんだぞ」 我愛羅は答えなかった。テマリは弟の肩が小さく震えているのを、少し寂しい気持ちで見つめる。 「強情なんだから…」 甘え下手の弟の頭をポンポンと叩きながら、テマリも目をごしごしと擦った。
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流されるままのナルトで居て欲しくなかったんです。
我愛羅も、自分の気持ちに整理をつけようとしているとこかな?
テマリ姉ちゃんは、男気があるっていうか格好いいイメージです。
我愛羅の姉ちゃんとして、彼に接しているとこが書けてたらいいな。