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Position 4

 

 

 冷房が効いている室内と違い、外へ出ると太陽が沈んでいるというのにまだ気温が高く感じる。

「暑っちい…」

 思わず口にすると隣から「ホントだな」と呑気な声が返ってくる。そっとその横顔を見上げた。自分より身長が高いからどうしても見上げてしまうのだが。

 それにしても、とナルトは思う。シカマルはどうゆうつもりで自分をからかっているのだろううか。男から恋愛感情を向けられて不快ではないのだろうか。それとも、彼流の冗談というやつなのだろうか。もしもナルトがシカマルと同じ立場ならば困惑してしまうと思う。そして、友人というポジションにいる男友達とどう付き合っていけばいいのか頭を抱えてしまうだろう。シカマルの気まぐれだとしても、気持ち悪がられたり嫌われたりしている風でないのが唯一の救いであるような気がした。

「駅までの道のりもうんざりするってばよ」

 とりあえず当たり障りのない話を振ってみた。今日は今日、明日は明日。また太陽が昇れば、今日の事なんてなかった事になっているかもしれないのだ。それくらいには、あやふやな感じ。

「俺、初めてだぜ?」

「何が?」

 振り返ったシカマルがふっと笑う。

「てめーから誰かに付き合おうとか言うの」

 ナルトは思わず硬直してしまった。そして、やっぱり困ってしまう。どう答えていいのか判らない状況なのに、目の前のシカマルの事をカッコいいな…と見上げているのだから。急に喉の渇きを覚えた。

「シカマルは……」

「ん?」

 ナルトの言葉が止まってしまったために、それ促すようにシカマルが首を傾げる。

「なに怖い顔してんだ?」

「……――――― あの、さ。キバの手前、……オレと付き合うとか言ったんじゃねえの?」

「キバの手前?」

 雰囲気が少し悪かった。キバにそうゆう態度を取らせた原因は自分にあると思っているナルトは、本当に悪いと思っていた。

「あいつは関係ねえよ。あるのは、俺とお前じゃねえのか」

「だけど……」

 自分に好かれている事が嫌ではないのかとは聞けない。そうだと言われてしまったら立ち直れない。

「ナルトは冗談にしてーんだ?」

「したいのはシカマルなんじゃねえのかって!」

「弱ったな……」

 シカマルは真剣なナルトの瞳を見つめて苦笑した。バツが悪そうに頭をかいている。弱ったのも困っているのもナルトの方だと言うのに、シカマルの言いたい事が分からない。分からない事だらけで頭の中もぐちゃぐちゃだ。シカマルはそれきり口を噤んだ。だから、ナルトからも何も話さない。いつものように駅のホームを抜け岐路へ向かう電車に乗る。電車の中でも一言も口はきかなかった。そして同じ駅で降車する。定期を滑り込ませて改札を抜けると、シカマルがようやく口を開いた。

「公園、よってかねえ?」

「…公園?」

 駅から自宅方向へ向かう道のりには小さな児童公園があった。シカマルはその場所の事を言っているのがすぐに分かる。

「うん、いいってばよ」

 自転車置き場へ向かう間も無駄口は一切なし。とりあえずは公園を目指して行けばいいので、お互いに会話をする必要もないのである。どちらかと言えばナルトの家寄りの公園に到着すると、シカマルは公園の中にあるベンチを促す。こくりと頷いてそこへ向かったナルトは隣にシカマルが居ない事に気が付いた。

「あれ…?」

 ちょっと考え込んで自分の世界に居た事は確かだが、自転車を公園の脇に止めた時は二人とも一緒にいたはずなのに……しかも、ベンチを指差された時も、俯いたままでも彼の存在を感じていたのに。狐につままれた思いで腰を押しつかせると、すぐに目の前に影が落ちた。

「ほら」

「シカマル…?」

 手の中に放り出されたのはジュースの缶だ。

「今もすげー怖い顔してるぜ、ナルト」

「そんな事……ないと思うけど……」

 手渡されたジュースはひんやりとしていて気持ち良かった。隣に座ったシカマルはすぐに缶のプルタブを開けて喉を鳴らしている。

「い、いただきますだってばよ」

 一口飲んだスポーツ飲料が冷たくておいしいのだが、特に会話がなくやっぱり気まずい。そう思って缶のジュースをちびちび飲んでいた。

「俺は冗談にするつもりなんてねえよ」

 何の脈絡もなくポツリとシカマルが呟くのだが、ナルトには先程の話の続きだとすぐに分かる。きゅっと缶を握ったナルトはどう答えていいのか分からずに返答できずにいた。

「お前は俺の事を狡い奴だと思うかもしれねえけど、…言っただろ?自分から誰かと付き合いたいなんて言った事ねえってよ」

「それと……これは話が違う気がするってばよ。シカマルは分かってないんだって」

 両手放しに喜べない。片思いをしているのも辛いけれど(それが叶わない恋ならば特に)、こんな風になりたいと本気で思っていたのか、ナルト自身も不思議なのだ。

「オレの好きは、その…恋愛感情だから。ダチの事好きとか楽しいとかと違うと思う」

 ナルトの認識している一般常識の中では、同性は恋人として付き合うものではない。自分は常識からはみ出した逸脱した存在だという事は痛いほど分かっている。

「シカマルはオレの事、好きじゃないのに……付き合うのはすげーおかしい」

 嬉しいと、それでも嬉しいと言えないのが悔しいくらいだ。一時でもいいからシカマルを誰かから独占できるチャンスなのに、そうすることができない。

「好きじゃなかったら付き合うなんて言わねーよ」

 くすりと笑ったシカマルの顔にナルトは頬が赤くなる。

「ナルト、俺な。恋愛感情とか分かってねえんだと思う。どっか感情が欠落してんだよ、多分」

「え…?」

「告白されて付き合って、デートしたりキスしたりセックスしたり?人並みな事やっても、付き合った相手に対して興味がわかねえんだ。それを感じた相手方がプッツンってくるんだろうな」

 さらりと凄い事を言われた気がするのだが、ナルトは内容を飲み込むのに時間を要してしまう。シカマルの恋愛観と自分の言いたい事はどこかしらの共通点があるのか不思議でたまらない。

「お前には興味があんだよ」

「興味…?」

「そ、興味。ガキの頃からつるんでて気がしれてて、俺のこんな性格も全部わかってるだろ?それでも俺の事が好きだっつーナルトに興味がある。俺の本性知った女は全員俺と別れたいって言うんだぜ?お前って趣味悪りぃな。キバのいう事も強ち嘘でもねえ。自分で言うのも難だけど、俺は性格歪んでるからな」

 シカマルの言う事がひどく自虐的に聞こえるのはどうしてだろう。わざわざこんな事を言ってまでナルトと付き合うような理由はどこにもない。明日になって、「あれは冗談だった」と言ってもキバだって笑って済ませるだけだ。

「シカマル……なんでって思わねえのかってばよ。オレはいっつも思ってた。なんでだろって。なんで男のシカマルの事好きになったんだろうって。可愛い女の子もいっぱい居るのに……よりにもよって、どうして男のシカマルなんだって、いっつもキバからも言われてて……」

 言葉にしてどんどんと暗くなってきてしまった。自分で言っていて悲しくなる。シカマルが好きなのか、元々男を好きなのか言葉にしていて混乱してしまった。シカマルだから好きなのだ。たまたま彼が男だった……と言うのは言い訳で、もしかしたら自分は男が好きな人種の人間なのかもしれない。

「お前の言う恋愛感情ってどんなん?」

「えっ?」

 本当の気持ちを口にしてしまう事を躊躇ってしまう。その動揺を読み取ってかシカマルがくすりと笑った。

「お前の俺と付き合いたいって気持ちの根っこってどんなん?って聞きゃいいのか?」

「それは……」

 独占欲。自分の事だけを見て欲しくて、自分だけを好きでいてほしくて。いつも一緒に居たくて、彼の一番になりたい。

「シカマルと一緒に…いたいなって」

 口にして一気に体温が上昇する。

 恥ずかしくてしょうがない。

「そんだけ?」

「……好きだから…、シカマルの一番がいいなって思うようになって。あと、なんだろ……」

 言葉で現せるような感情ならばナルトだって手に余らない。困ってしまうくらいに、シカマルの事が好きなのだ。それは理屈とか全部を度外視した、特別な感情。

「シカマルは恋愛感情とか分かんねえって言ったから、オレの気持ちなんて分からねえんだってばよ」

 ぽつりと憎まれ口を叩いてしまう。自分の気持ちはきっとシカマルには伝わらない。

「かもな」

 すんなりと認めたシカマルにナルトは溜息を付いてしまった。多分、誰に好かれようが嫌われようがシカマルには興味がないのだ。それが男でも女でも同じ線上にいる。友達でも見知らぬ誰かでも関係ないのもしれない。

「多分、……好きって気持ちが一番に来る感じだと思うんだってばよ。好きだから、一緒にいたいし。好きだから……その、好きな人に好きって思われたいってか。シカマルはそう思ったことねんだろ?」

「お前さ、俺の事好きだとか言いながら一番自分が拘ってんじゃねえの。男同志っつーこと」

「そんなんっ…すげ、悩んだし!!男の事好きになるなんて、おかしいんじゃねえのかって!」

「もっと楽に考えようぜ?」

 必死になって自分が熱くなればなるほど、肩透かしにあった気分になる。ナルトは眉を顰めてシカマルを睨みつけた。

「ほら、怖い顔しねーで」

 眉間のシワをツンと指先でつつかれる。

「男だとか女だとか、ンなのフィフティな訳よ。分かるか?50パな確率なんだよ」

「ご、50%?」

「そ、男と女しかねえんだから。どっちと付き合うとか一般常識を取っ払らっちまえば、半分の確率問題」

 ナルトは自分が今まで悩んでいたのがとてもバカらしくなってしまった。自分が好きになった相手はひどくフランクな思考の持ち主のようだ。

「お前は俺の事が好きで、俺はお前の事に興味を持ってて、付き合いてーとか思った」

 見開かれた大きな青い瞳。

「そんなに目ぇ開けたら、目玉落ちるぜ?」

「シカマル……とオレが付き合ったら、何か変わる?」

「さあな。変わらねえような気もするし、変わるのもしれねえし。そんな事分からねえよ」

「もうっ!オレってば、すげー真剣に悩んだのに。どうしてシカマルってば、そんないい加減なんだってばよ。自分がバカみてーだって」

 よく話すし表情もころころ変わる。一緒に居て飽きないし、楽しいと思う。意思の疎通には手間がかかるがそれすらも楽しいと思えてしまうのはどうしてだろうか。嫌悪を感じるどころか、ナルトが自分の事を好きだと精一杯に伝えてくる態度が嬉しい。

「とりあえず、デートでもしようぜ?」

「どっか遊びに行くって事?」

 首を傾げた小動物の瞳がキラリと光る。嬉しいと思っているのだろうか。手に取るように分かる。

「遊びに行くっつー事だけど、付き合ってんだからデートだろ、デート」

 一番面倒くさいと思っていた事の一つ。いちいち約束をして出かけるなんて、休日は恋人と一緒に過ごさなければいけないというカップルの掟にうんざりしていた。

「キバとかチョウジとか、他にも誘う?」

「誘わねえ。デートにならねえだろ。曲がりなりにも付き合ってのに、ダチ連れ立って遊びに行くんじゃいつもと変わらねえじゃん」

 ぷっと吹き出してしまったのは、ナルトの科白にだ。デートだと言っているのに幼馴染の名前が出てくるのはどうしてなのだろうか。もしかしたら、シカマルよりもナルトの方が“付き合う”という事を分かっていないのかもしれない。

「そ、そっか…だよな。うん」

 顔を赤くして俯いているのは、自分のやらかしたドジな発言に羞恥しているからかもしれない。

「おもしれーな」

「からかうなってばよ!」

 子供みたいに頬を膨らませる態度は自分と同じ年だとは到底思えない。思わず膨れた頬を突きたくなるのだが、ナルトが憤慨しそうなのでやめておく。

 太陽が完全に沈んでしまって薄暗くなる公園。連絡はメールでする事に決めて、手を振り別れる。どちらとも納得しているのかどうか分からないという状況は変わらないのに、一日は終わり新しい明日が始まるのだ。まだシカマルもナルトもお互いの感情の変化には気が付いておらず、いつもと同じ一日の終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

事件です!

二人きりなのに、甘くないです(ひやひや)

思ったよりもシカマルのチャラ度が足りない…

ナルトはすんごい鈍感な子だと思うのですが、シカマルも何か欠落した人になってる。

シカナルと言っていいのか悩みます。