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Position 2
ナルトは机に突っ伏して座っていた。 別にキバから“うざい”と言われたので落ち込んでいる訳ではない。それよりも、シカマルの事を諦められない自分に一人で落ち込んでいたのだ。 最初は特に好きだとか嫌いだとか意識したことなんてなかった。友達の一人でしかなかったはず。 いつから厄介な独占欲が沸いてでたのだろうか?それが恋愛感情だと気が付いたのだろうか。 堂々巡りになる疑問に答えは存在していない。 不意に人の気配を感じる。コトリとテーブルにトレーが置かれる音。キバが早く戻ってきた事に少しだけ驚きながら、溜息を付いてみた。 「なんつー溜息ついてんだよ」 頭の上から降ってきた声はキバの物ではない。ナルトはぴくりと固まる。 全く状況が把握できなくて、整理できない頭の中が一気にパニックに陥った。 「おい、起きてんだろ?」 つむじの辺りをツンツンと突っつかれる感覚にそっと顔を上げた。視界に入ってきたのは、自分の前に腰を落ち着け頬杖を突きながら見つめてくる黒い瞳。 「ひ、久しぶり……だってばよ」 「お前もキバと同じ事言うんだな」 「え?同じ?…?」 「なんか、あいつらしくなく嫌味な言い方してきたからな。ここに居るのがお前だけっつうの聞いて、どうせお前がぶーたれたフラストレーションがキバに溜まってんだろうって推測した」 ご名答である。この場にいない彼がまるで二人のやり取りを見ていたかのような……。 「なんで分かるんだって顔すんなよ。ナルトって分かりやすいよな」 「それって、オレが単純って事?」 「ま、そーゆうことか?」 本当に真正面からシカマルの顔を見るのが久しぶりなのだ。嫌味でもなんでもない。むっとしたナルトは尻目に、シカマルはトレーの上の物を食べ始める。キバにシカマルが彼女と別れた事は聞いている。恋人とのデートがないから、こうやってこの場所に来ているのだ。だけれどシカマルからはそんな説明は一言もなかった。 「食欲ねえのかよ」 「ンな事ないけど…」 「減ってねえよな」 トレーの上に残っている、包まれた儘のハンバーガー。 「これから、食うんだってばよ」 「ふぅん…そっかよ」 シカマルはがさがさやりながら包みを取って、温かいハンバーガーを口にした。隣にある飲み物はきっとアイスコーヒー。シカマルの好みはブラックで何も入れない。ナルトには到底できない芸当のひとつだ。 「俺の顔になんかついてんのか?」 「…べつに、」 「今、目と鼻と口とか言おうとしたんじゃねえの?」 「ンなベタなボケしねえって!」 「……そんな見つめられてもコレはやらねえぞ?」 シカマルににやりと笑われて、ナルトは言葉を失う。 「そっそ…そんな意地汚くねえ…」 思わずどもってしまったのは、シカマルの「見ている」ではなく「見つめている」という表現についてだ。ナルトの心情的には、確かに“見つめている”。 「ナルト、何真っ赤な顔してんだ?」 そこにまたタイミングがいいのか悪いのかキバが戻って来た。最初自分が座っていた場所をシカマルに陣取られたので、その隣に腰かける。 「赤面するような話でもしてたのか〜?」 キバがにやにやしながらナルトの顔を覗き込んでくる。思わず否定の意味でぶんぶんと首を振った。 「怪しいな。二人でエロい話でもしてたんじゃねえのかよ」 「ち、ちが…」 まるでキバに、シカマルをエロい視線で見つめていると言われたようで、ますます顔が熱くなった。 「ま、いいけどよ。シカマル、お前の所為で俺のハンバーガーが不味くなった」 「どんな言いがかりだよ」 ナルトは眉を顰めてキバを凝視してしまう。何を言い出したのだろうか、彼は。仕入れてきたコーラを美味しそうに飲みながら、シカマルのポテトを横から頂戴していた。 「こいつの愚痴に付き合ってたら夜が明けそうだっての」 「キバ!!悪かったってばよ。オレ、奢るからっ!好きなの奢るし。何がいい?マジでごめんっ」 これ以上キバの口を開かせてはいけない。本能的に阻止しなければと立ち上がってしまう。冗談の延長のつもりだったキバは呆気にとられて、ナルトを見上げた。 「おい、どうしたんだよ。マジに取んなよ……別にもういらねえし」 「遠慮しなくていいって!」 「ナルト?」 今月の小遣いが底をついても好きなものを奢ってやるから、その無駄口を噤めと視線で訴えてみる。しばしの間、ナルトとキバの間に沈黙が生まれた。 「ナルト」 シカマルがその沈黙を破る。 「大声出すなって。さすがに常連でも人様に迷惑かけると店にいい顔されねぇぞ?まず、座れよ」 「ごめ…ん」 ストンと腰を下ろしたナルトは、むっとしながらキバを睨みつけてみる。一応、懇願の眼差しなのだが彼に届いているだろうか。 「それでよ、なんで俺の所為でナルトが愚痴んだよ」 大きく見開かれる青い瞳。シカマルはいつ見ても大きい目がいつか零れるんじゃないかと思ってしまう。 「俺が悪りぃんなら、キバにゴチるのナルトじゃなくて俺だろ?」 「シカマルの所為じゃねえよ?」 ナルトは思わず必死になってしまった。自分が女々しくて愚痴っぽくて、キバ曰くうざくてしょうがないのだ。悪いのは自分で、キバでもシカマルでもない。 「おい、キバ〜」 促すようなシカマルの視線。すでにバーガーを食べ終えた包みを右手でくしゃりと潰している。 「……悪りぃ悪りぃ。なんもねえよ。ちょい、お前に突っかかってみただけっつうの?」 口が滑ったとでもいいたそうな笑みで、ひらひらと両手を振る。そんなキバの仕草を見てシカマルは嘲笑を浮かべた。 「よく言うぜ。会った時から突っかかってきたくせにな」 「そんな事ねえし?」 作り笑いの下手なキバの頬が少し引きつっているように見えた。なんとなく、シカマルとキバの間に険悪な雰囲気が流れたような気がしてナルトは無意識に溜息を付く。 「違うって……そのさ、キバは本当に何も悪くねえんだって。悪りぃのは俺ってか……」 「めんどくせえな。誰が悪りぃとかじゃねえって感じ」 シカマルは珍しく感情を露わにしてアイスコーヒーを口にする。ハラハラしてキバに救いを求めてみるが、彼もお手上げ状態なのかひょいっと肩をすくめただけ。 「オレが……その、シカマルが彼女と別れた事……シカマルじゃなくてキバから聞いたから、なんか拗ねてたってか、そうゆう理由だってばよ!」 今まで絶妙な距離感で仲良くしてきた仲間が、些細な事で仲違いをするのは嫌だ。現状を作り出したのは、どう考えても自分が原因なのだ。 「は…?」 シカマルはそんな返答がくると思っていなかったのか不思議そうな視線をナルトに向けた。 「だからっ!キバはシカマル本人から聞いたのに、オレは違ったからヤキモチ妬いたんだってばよっ!」 「やきもち…?」 「おう!」 「お前が、キバに?」 復唱されてナルトは頬が再び熱くなるのを感じる。恥ずかしくてみっともなくてしょうがない。穴があったら入りたいどころでなく、今すぐに穴を掘りたい気分に陥る。やきもちを焼いた相手は正しくはキバに対してじゃない。シカマルと付き合った彼女たちにかもしれない。泣きたくなるような現実に気分が暗くなった。 「来るもの拒まず去る者追わず。良いのか悪いのかってな」 シカマルがいきなり何を言い出したのか、ナルトは首を傾げてしまった。 「別れた女。別れようって話に二つ返事だった俺に愛想尽かしたらしいぜ?勝手なもんだよな。付き合ってきてくれっつうから付き合ったのに……別れようって言ったら引き留めてくれるのが愛情なんじゃねえのかってよ」 ツキンと胸の奥が痛んだ。 ナルトには彼女の言いたい事が分かってしまう。好きな人に告白して付き合って、愛情を試そうと別れを切り出しても素っ気ない態度を取られたら……悲しくてしょうがない。それ以前にシカマルの気持ちが自分にないと感じた事があったのだろうか。だから、愛情を試すように別れを切り出したのだろうか。 「対して好きじゃねえ女とほいほい付き合うから悪りぃんだろ?」 「断るのもめんどくせーけど、今回のでマジ懲りたから女はいらねえよ」 ふっと笑ったシカマルにナルトはほっとした。キバの科白に軽口で答えている辺り、険悪な雰囲気は払拭できたのだろう。 「好きじゃなくても、付き合えるもん?」 「それなりに選り好みはあるかもしんねえな。基本、来るもの拒まず」 しれっと答えるシカマルにキバが吹き出して笑った。真剣に聞いたナルトはばつが悪くて俯いてしまう。 「ナルト、こんな誠実さの欠片のねえ男なんて相手にしねえほうがいいぜ?」 「キバ?」 「俺は思うね。きっとこいつと付き合った女って、すげー不幸」 「そうかな……一瞬でも好きな人と恋人同士なれたんだから、幸せなんじゃねえのかな。オレならそう思うかも」 「お前、幸せになれねえな」 キバの呆れたような声色。ナルトだって分かっている。シカマルを好きな時点で、自分の未来に望むような幸福が待っているようには思えない。 「ナルト、シカマルは来る者拒まずらしいから付き合ってみたらどうだ?」 言葉を失う。なんと言われたのだろうか?気持ちをすっぱ抜かれて指先が震えた。 「きっと、付き合ったらシカマルの事嫌いになるぜ?なんせ、前例はいくつもあるんだからな」 皮肉った笑みに、まつ毛まで震えるのを感じてしまう。 「キバ!なに、最低な事言ってんだってばよっ」 「別に俺はいいぜ?」 ナルトとシカマルの言葉が重なる。笑みを浮かべているシカマルに、ナルトは唖然としてしまった。 「なんだよ、ナルト。俺と付き合いたかったのかよ」 「な…に、いきなり……言ってんだって、キバの冗談……」 「お前が俺に懐いてんのは分かってたけど、やきもちやくくれーに好かれてるとは思ってなかった」 「……シカマル?」 「お前の事は好きだから別に構わねえし。好きでも嫌いでもねー女と時間潰すよりマシだよな。さっきも言ったけど、女はもう面倒だからよ」 「つか、ナルトを代用品にする為に付き合うんだったら、許さねえぞ」 キバの声が低い。地を這うような声色。茶化す訳でもなく真剣になっている時のキバの言葉にシカマルの顔からも笑みが消えた。 「怖えーな」 「当たり前だろ。ダチだったら」 こんな状況を作り出してしまったのは自分だし、皮肉を込めた冗談をシカマルが本気に受け取るとは思わなかったのだ。キバは、一生懸命にシカマルの事を好きでいるナルトの気持ちを知っている。次の女までの繋ぎに横に据えるくらいの軽い気持ちであるならば、ちゃんと“冗談”で終わらせなければいけない場面だ。 「ナルト」 シカマルの視線が真っ直ぐにナルトへ向けられた。 「お前、俺の事好きか?付き合いたいくらいに?」 「……、も、やめようぜ?こんな茶番みて―な事」 「お前、茶番って言葉知ってんだな」 くすっとシカマルが笑う。ナルトはただ困惑してしまった。なにがどうなっているのか分からない。 「ナルト。真剣だぜ、シカマル……わかんねえのかよ」 「真剣とかそうじゃねえとかじゃなく、おかしいだろ?こんな状況」 「なら、好きな奴変えろって何度も言ってんだろうが……」 「キバっ!それ以上なんか言ったら絶交だってばよ」 気持ちを知られた事より、現状が把握できない。シカマルの気持ちも分からない。 「シカマル、オレがシカマルの事好きでもっ……普通、可笑しいじゃん。オレら男同士だし、ダチだし。気持ち悪りぃとか……」 「俺も男と付き合うってどうゆう事か分かってねえのかもなぁ。なんせ、初めてだし」 「話それてるってっ!!」 「どうでもいいけど、ちゃんと質問に答えろって。俺の事、好きなのかよ」 シカマルの浮かべた笑みが優しい。彼は基本誰にでも優しいのだ。面倒だなんだと言っても、ちゃんと相手の気持ちを考えているのを知っている。それでも、今シカマルに求められている事の意味がりかいできない。好きで好きでたまらなくて……嘘でも嫌いなんて言えない。 「す…き……」 「なら、付き合おうぜ」 真っ赤になって口を噤んだナルトの視界には、にやにや笑いを浮かべたキバの顔が映る。 いきなり幼馴染の腐れ縁の悪友から、恋人へ昇格した瞬間だった。
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トントンと話が進んでいくのは、当初WEB拍手お礼用に書いた話だったからです(笑)
くどいくらいに言い訳(笑)
展開早いですが、付き合う事になりました。
いやいや、ちゃんと恋人(?)になるまでは長いですよ。