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LOST WORLD 9
「感覚が、麻痺してるみてーな……すげえ曖昧な、よく分かんねえ感情」 ナルトの言葉いつも難しいな、とシカマルは思う。感性の塊みたいな彼はひどく感覚的な物の言い方をする。それが、ナルトらしい。 理屈とか、そうゆうものを取り払った素の感情をナルトはシカマルに対して見せてくれようとしているのだ。シカマルにもそれは痛いほど張り詰めた空気からも伝わってきて、よく分かった。 「オレ、誰なんだろうって。うずまきナルトってのは誰なのかって……でも、ばあちゃんとの生活はすげー楽しかった。ばあちゃんはオレを知らねえし、……楽だったんだと思う。ありのままを受け入れられてる感じがしてた」 シカマルはくっと唇を噛む。ここで横槍を入れるのは良くない。最後まで、ナルトの感じて居る事を吐露させることで、きっとナルトを枷から解放する事ができるはずだ。 「それでも………胸が苦しくて、オレが何者で今までどうやって生きてきたのか、確かめたかった…」 そこでナルトが顔を上げ、シカマルを見てにこりと笑った。 「うずまきナルトを知ってる人間と会う事で、オレの何かが……苦しい全部の原因が、分かるって」 「それで?お前が木の葉に戻って、収穫できたのはなんだったんだ?」 「収穫?」 ナルトがふふっと笑う。それは自分自身を嘲笑するような、まるで諦めに似た何かを含んで居る様にも見える。 「そんなモン、なんもねーんだってば。シカマルも知ってる通り、オレは過去の記憶から向き合う事から逃げ出したんだってばよ」 「それは……」 「怖く、なって……怖くて怖くて堪んなくって。もう叫び出したいような…もう、何もかも捨てて、全部無くなった事にして、オレは……木の葉の忍とかうずまきナルトって存在を、捨てたかったんだと思う。ばあちゃんを利用してんのは分かってんだってばよ。逃げたんだ、全部から」 何かを失くす。 その代償がなんであるのか分からなかった。でも、後ろを振り返っても溢れてくる感情はどうしようもない焦燥感と似ていたのだ。焦ってもしょうがないと思う前に、本能が拒絶しようとした真実。 「でも……――――――― 」 ナルトの青い瞳が少しだけ潤む。 「あの夜、シカマルと会って……怖くなった。なにか、分かりそうでソレがとてつもない事なんじゃないかってすげー怖かった。今から思うと、怖いのはシカマルじゃなくってオレ自身だったのかもしれねえ」 弱さに向き合う事が怖かった。 だが、逃げ出した後で襲ってくる寂しさや空虚は計り知れないものだったのも事実だ。 「………すげえ、なんか頭ン中ぐっちゃぐちゃ。逃げ出した先にも欲しいものなんて、なんもなかった。夜になると、……逃げ出したくなった。また、逃げて逃げて、どこに行けるかも分かんねえけど……どこかに消えちまいたかったんだって。朝が来るのか長くて、身体の中のココ?」 ナルトは自分の胸の辺りを指差す。 「求めてるんだ。何かなんて分かんねえ……でも、知ってる気もした。でも、でもさ。オレ…どうしたらいいのかなんて今でもちっとも分からねえままなんだって」 シカマルはナルトの中の空虚が自分であると信じたい。 「隠しきれなくなる感情から、救ってほしかった。でも、何に誰に手を差し伸べていいのかもオレには分からなくて」 「それは違う」 否定したい訳ではない。根拠のない自信がシカマルを突き動かす。 「俺の今までの人生の中から、お前の記憶がなくなっても……俺はそれが何であるのか、探す。見つけ出す。俺の中からお前の存在が消える事は、俺の世界がなくなると同じ事なんだよ」 「シカマル……?」 「イカレテルって思っても構わねえぜ?お前がいねえと思うだけで、夜が長くて朝が恋しい。明日が始まる朝が来ても、お前が居ない。それは俺の世界の崩壊に近けーよ」 「……シカマルっ」 「俺の世界はお前が居ねえと、もう倒壊寸前なんだぜ? 意味、分かるか?」 ナルトは何も答えられない。距離が近くなった二人の間に、儚い感情が揺れていた。シカマルがナルトの頬にそっと、手を当てる。 「お前を愛してる。 任務でそれぞれ違う毎日を過ごしてても、俺にもお前にも帰ってくる場所が決まってた。行きつく先が決まってた。それが俺を慢心させて安心させた。お前を愛してる事で俺は強くも弱くもなれる………お前は俺の世界の一部で、俺はお前の世界の一部でありたいと、そうであると信じていられたから虚勢を張る事なんて簡単だ。いつも、お前が傍にいたから」 ナルトの顔がくしゃりと歪む。肩を揺らして嗚咽を漏らす身体を抱き寄せる。抱き寄せるとナルトは震えながらも、シカマルの腕を振り払う事なんてしない。胸に顔を埋めて温かい液体が衣服に沁み込んだ。 「オレは……自分を守る事でいっぱいで……!」 「ああ…」 「自分の事だけ考えてて…」 それでも、シカマルに揶揄されたように確かに身体はシカマルを覚えていたのだと思う。意味も分からなく身体を重ねたけれど、それに意味がなかった事だとは思いたくない。 あの瞬間、たった一人の人間を求めた。 快感と快楽に身を侵されながら、それでも、シカマルをどこかで心のどこかで求めていたのだ。 それが、真実なのだろうか。うずまきナルトと言う人間はシカマルを求めて居て、その存在に重なって溶けていった。求められる事に幸福を感じたのだ。彼に満たされる事で安心している自分に気が付いたのだ。シカマルの与えてくれる温もりを恋しく感じた。与えてくれる快感も熱も、懐かしい様なそれでいて新しいような感覚をナルトに与えてくれた。潤されているような感覚。 ナルトは悔しさから唇を噛みしめる。 「シカマルが…近くに居てくれて、嬉しい」 「ナルト?」 「ホントの気持ちだってばよ。怖いのはシカマルじゃなくって、オレ……でも、でも」 震える声。何かがナルトを迷わせているのだろうか。自分の手を取る事を躊躇っているのだろうか? 「ごめん。 ホントに思い出せない―――――― …ごめ…」 シカマルがふうっと息を吐くのを感じる。ナルトは心地よい腕の中で身体を強張らせた。 「ばーか…心配すんな。別に、……今すぐどうこうとか俺は考えちゃいねえ。少しでも、俺の存在を受け入れてくれたお前に、俺は嬉しいと思ってんだぜ? もっとお前の言葉聞いててーんだけどタイムリミット。カカシ先生たちとの夕飯の時間。お前も気がえろよ」 ナルトはうん、と頷いて身近にある浴衣に手を伸ばそうとしてソレを止められる。 「シカマル?…なに?」 シカマルは苦笑した。 「ま、隠す事なくバレバレなんだろーけどなぁ。あの人たちにはさ」 ナルトは首を傾げた。 「浴衣はちょいやべえ…」 シカマルはナルトの肌蹴た胸元に指を当てる。 「調子に乗り過ぎて、ハメ外した」 ナルトはシカマルの視線につられる様に、彼の指の当てられた自分の胸を見てぎょっと目を見開く。 無数に付けられた紅い花弁。 シカマルとの間に何があったのか一目でわかるその様に、ナルトは一瞬にして真っ赤になった。 「……我慢、出来なかったんだって。悪りぃ」 余裕に見えるシカマルが、照れたように鼻の頭をかいている。 「ウン…それは、オレも同じ……だから…」 ナルトは真っ赤になりながら、脱ぎ散らかされた自分の洋服に手を伸ばした。もぞもぞと着替えていると、その腕をシカマルに取られる。不思議に思って顔を上げると、柔らかい唇が降りてきた。 それがとても自然なような気がして、導かれるように瞼を閉じた。
ナルトは感じている。彼に、シカマルに心が乱されて、それでいて惹かれている。 だから、全てを曝け出して彼に嫌われてしまう事が、一番怖かったのだ。 だから、全てを知る前に……逃げ出したのだと。 見せかけじゃない温もりを与えられて、ひどく気持ちが落ちついている。 シカマルの言葉が、響いてしみ込んで、彼から――― 離れられない。 愛している、と言われ。心の中の開いた風穴にぴったりと当てはまった。
だから、離れたくないと。熱い舌を絡めながら、心の奥底で涙が流れた。
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前回、次回がラストですとか大ウソつきました!
本当は、カカシ先生たちとの夕飯まで入れたかったのですが。
なんとなく二人の間が少しずつ解きほぐされてる雰囲気のままで
この回を終えたかったので分けました。
見えてるようで遠いラスト?