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LOST WORLD 10
カカシがにやりとしながら、箸を置く。 「いいねぇ…若いって」 隣に居たヤマトもその前に座るナルトも首を傾げている。カカシの前に座るシカマルには、その言葉の意味が分かるのか、それでもしれっとした態度で箸を進めている。 「いきなりなんですか?先輩…」 ヤマトの科白にも、にんまりと笑ったままのカカシは質問の答えを用意する気がないらしい。 「……うまいっすね」 そこで、ぽつりとシカマルが呟く。 「あ、うん。美味しいってばよ!」 なんとなく雰囲気の分かっていないナルトも、カカシとシカマルの間に流れている特有の空気には気が付いているようだ。あまり野菜類の減っていないナルトの取り皿には、シカマルが遠慮なくナルトの苦手なものを増やしていく。 「シカマル、こんなに食えねえってばよ」 「お前、肉や魚は食ってるだろ?野菜も食えって事だって」 「……性格悪りぃってば」 ぶすっとするナルトを見てヤマトがクスリと笑う。こんな風に対面していると、いつも通りの彼のような気がしてくるから不思議だ。あの庵を出る時の、冷たい様な寂しい様な顔付きではない。それが、普段の彼の姿とダブらせるのかもしれない。記憶がない…なんて信じられない程に。少しだけ柔らかくなったナルトの表情を見て、少し安心したのだ。 「それにしても、ナルト。君はあの夜、どこへ何をしに行ったんだろうね」 「……それは」 ヤマトは、ナルトが消えた晩の事を言っているのだ。 「わからないんだってば…ほんとに」 しゅんと肩を落とすナルトにカカシがにっこりと笑う。 「サクラには、誰かさんへのお土産を買いに出かけたと聞いたよ。俺は」 「……お土産?」 「ああ、そう言えば…そうやってからかわれてたね。君は」 同調するようなヤマトの言葉に、やっぱりナルトは首を傾げるのだった。任務の帰りに、この宿で一泊しようと言う話から自分は行方不明になってしまったらしい。ナルトが助けられた時には記憶がなく、ケガを治すことで精一杯だった。 「それが……オレの記憶が戻る鍵になるかもしれねぇってこと?」 ナルトにしては鋭い質問にカカシの箸が止まる。 「どうだろうなぁ…関係ないかもしれないし、あるかもしれないし。真実はナルトの中にしかないんだから、俺としても皆目検討がつかないねぇ」 うまいうまいと食事を続けるカカシを尻目に、ナルトの箸の動きが止まる。カカシに言われた「真実」の話が心に引っかかる。 「…どうした、ナルト?」 それを不思議に思ったシカマルが、胡座をかいた膝にほう杖をつきながら顔を覗き込んできた。取り繕うように口元に笑みを乗せたナルトは首を振ると「なんでもねえ…」とポツリと答える。あらかたの食事を終えた四人は大した話をする訳でもなく、共に時間を過ごした。 「明日は早くに宿を立つからね?」 確めるように言ったヤマトに、ナルトは頷いて答えただけだ。 「そうだ、ナルト。ここの露天風呂、良かったよ。君、好きでしょ」 「……風呂、……好き、かな」 「行っておいでよ。二十四時間やってるらしいから、いつでもね」 「サンキュだってばよ、ヤマト…隊長」 シカマルがそう呼んだ様にヤマトの名前を口にすると、彼は少しだけ嬉しそうに表情を綻ばせた。 「本当に、みんな心配してたんだ。次に迷子になるときはちゃんと行き先を告げてからにしてほしいね」 「マイゴ…?」 ヤマトの隣でシカマルがくすりと笑った。 「本当に的を得てますね、ヤマト隊長」 「いや、これは先輩がね…ナルトは迷子になってるって言ったんだよ、と言うかそう言って譲らないし」 「カカシ先生らしい表現って言えばいいんですかね」 「ま、あの人らしいよ」 部屋の真ん中では、酒が足りないと文句を言っているカカシの姿が見えた。肩をすくめたヤマトは、ぽんとシカマルの肩に手を置くとにっこりと笑う。 「よろしくね」 「………誰に言われなくても、ヨロシクしますんで。ご心配なく」 「全く…可愛くない子供だ」 カカシやヤマトから見れば、ナルトもシカマルも十分に子供だ。それはいつまでも、という意味で。大人びようとも、それは変わらない現実である。そして、自分が可愛げのない子供だというのも小さな頃から変わっていない。言われても堪えない自分も面の皮が厚いのだろう。 シカマルたちが泊まる部屋は、カカシたちの部屋からは離れている。とぼとぼと歩くナルトの後姿が少しだけ寂しそうに見えた。 「おい。ナルト…」 「ん?」 一応振り返ったナルトが訝しげな表情を浮かべた。 「なんだってばよ?」 「なにっつーか…お前、なんか考え込んでだろ?」 「それは…さっきヤマト隊長に言われた事だってば。オレは仲間とこの宿に泊まる事にして、んで…土産を買いに出かけたんだろ?何をどこに買いに言ったのかなって……」 ナルトはシカマルと恋人関係だと言う事を考えて、土産を買う相手がシカマルだと容易に推測できた。それならば、目の前の彼に自分は何を土産にしようと思っていたのだろう。 考えても答えがでないのは、ナルトの中にシカマルとの思い出の記憶が全くないからだ。もし、シカマルの事を良く知っている本来の自分ならば彼のほしいものを、すぐに思い浮かべる事が出来るのではないのか…という歯痒さがある。 不思議とシカマルの事が気にかかる。彼の嗜好や、その他もろもろ。知っているはずなのに、何も知らない(思い出せない)と言うことが悔しくてしょうがないのだ。きっと、自分の中にはシカマルとの大切な何かが存在していているはずなのに……それを、思い出す事ができない。
気が付いているはずなのに…… 気が付かない振りをしているような、そんな曖昧な感じ。 それは、シカマルに抱かれた後の自分の心境に近い。 届きそうで届かないから、歯がゆい。
ナルトは無意識に深い息を吐く。それを見逃すシカマルではない。だが、無理に問いただす事はナルトを刺激する事になるかもしれない。だから、落ち込んだように肩を落としたナルトの手をそっと握った。驚いたように顔を上げたナルトが、じっとシカマルを見つめた。視線がパチっと合うが、シカマルはその手を離すつもりもない。 繋いだ手を離してしまったら、どこかへ行ってしまいそうな不安定なナルトを離したくないのだ。少し恥ずかしそうに頬を染めながら、ちょっとだけ俯いたナルトの口元に笑みが浮かぶ。きゅっとシカマルの手を握り返したナルトは、特にシカマルと会話をせずに部屋へ続く廊下を歩いた。 シカマルを否定していたような態度から一変したようなナルトの様子に、シカマル自身も喜びを隠せない。完全に拒否されてもしょうがない事をナルトにしたと思うのだが、それはシカマルの中の素直な気持ちを吐露したに過ぎない。最初は無理やりでも、ナルトに抱きしめ返された事に心が震えた。全てを受け止めてくれた彼に、不覚にも涙がこぼれそうになったのだ。強気でいなければ、崩れてしまいそうな心の内はナルトと同様でシカマルも同じなのだ。 宿泊する部屋に到着して、名残惜しく繋いだ手を離す。 「P、飲むか?」 尋ねられて、ナルトは少し考えてからコクリと頷いた。 「オレは淹れられねえから、シカマルが淹れてくれってばよ?」 部屋の中には布団が敷かれており、座卓は端の方へ寄せられていた。新しくそろえられた茶器を手にシカマルはポットの中身も確認する。ちゃんとお湯も用意されていて、サービスが行き届いている事に感心した。 手際のいいシカマルを見つめながら、ナルトがポツリと呟く。 「オレが……いっつも、淹れてた?」 「ん?」 顔を上げたシカマルは少し真剣な表情でいるナルトを見て、くすっと笑う。 「なんだよ、いきなり」 「シカマルが…さっき言ってたじゃん。最近は、オレのが上手く淹れられる様になってたって…」 「ああ…その事か」 迎えてくれる笑顔と、懐かしい新緑の香りが自分のほっとできる場所になっていたのは確かである。一番はナルトの元へ帰ってこられたと実感できる瞬間だった。家で飲むお茶とは少し違う、二人の間にある特別な時間だったのかもしれない。 近くにありすぎる幸せは、なくすまで幸せだと気が付かない。目の前の「当たり前」が「幸福」なんだと気が付くのは、手のひらから零れ落ちた時なのだろう。だから、シカマルはナルトとの時間を大切にしたいし関係を大切にしたいのだ。今回の事で実感したと言うか核心に近い自分の気持ちに気が付かされた。ナルトに、彼が自分の中から居なくなると言うことが世界の崩壊だと言ったのは揶揄ではない。真剣にそう思ったのだ。 時間を共有できる幸せ。 目が合った瞬間に彼が居てくれる幸せ。 指が絡まる時の心の安らぎや、吐息も寝顔も、全てがシカマルに幸福感を与えてくれていた。 抱きしめあって、ぬくもりを感じる。 柔らかい唇に振れる。熱い舌を絡ませる。 ひとつになるときの高揚感と、意識が溶け出すような甘い…瞬間。 「すぐに思い出す」 それはお茶の淹れ方なのか、二人の関係なのか。シカマルは的を得ていない自分の回答に思わず嘲笑してしまう。ナルトの前に湯のみを置くと、じっとそれを見つめるナルトの瞳がきれいに見えた。 大好きな色だ。空の、海の、時には闇に近い純粋なアオ。この色に惹かれ、彼という存在に惹かれ、愛してやまない。 「俺はお前が…好きだ」 「……え?」 いきなりの告白に驚いたナルトは、顔を上げてシカマルに視線を移す。 「お前が俺の事を忘れるなんて許さないなんてのは、俺の強がりにすぎねえ……俺の感情をお前に押し付けてるだけなのかもしれねえ……それでも、俺はお前を離したくないし、なくしたくない。俺はお前が好きなんだ…」 「そんな………」 ナルトの顔がくしゃっと歪む。 「弱気なこと…言うなってばよ」 「ナル…――――――― 」 「シカマルが強気で居てくんねえと、オレだってどうしたらいいか分からなくなるってばよ」 「……ナルト」 零れ落ちそうになっている涙が、青い瞳に水の膜を張る。 「俺の事を忘れるなんて、やっぱり許せねえな…」 ほろりと落ちた涙を拭うために、シカマルはそっと手をナルトの頬に当てた。
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やっぱり、次がラストとか大ウソつくのやめます…
ラストが近い事は、あながち嘘では無いです(笑)
も〜…なんか、すんごいラブいんですけど!※当社比。
こんな感じで、最後まで続きそうです…orz