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LOST WORLD 7

 

 

「ああ、……そうゆう事か」

 ヤマトがぽつりと呟いたところで、カカシが振り返る。

「なに自分だけで納得しちゃってるの?」

「いやね…地図を見てたんですよ。そしたら、ナルトが失踪してしまった近くにある川とここは繋がってるんですよ。ナルトが川岸で倒れた所から推測して、流されたんだろうと」

「そうゆうコト。ふ〜ん…」

 シカマルは一番後ろを歩きながら、一言も口をきかないナルトの背中を見つめた。彼自身、望んで居ない事なのだからしょうがないのだろうか。その歩みがぴたりと止まる。

「どうした、ナルト?」

 顔を覗きこむと、驚いたように瞳を丸くしたナルトがふっと視線を外した。

「カカシ先生たちが……立ち止まってるから」

 シカマルが先を見ると、ひらひらと手を振っているカカシの姿があった。

「どうしたんですか、先生?」

「いやぁ、あのね〜俺疲れちゃってさ。今夜は宿を取ろうって話になったんだよねぇ」

「は?……疲れたって、まだそんなに歩いてませんけど?」

 シカマルからすればナルトを早く里に連れて戻りたいというのに、カカシはいつも通りの心の内が読めない瞳で居るだけだ。根気負けしたシカマルは、これ見よがしな溜息をついた後了承する事にした。もちろんハナからカカシに盾付こうと言う気はないのだけれど。

 それから延々と歩かされて宿に着いた頃には、とっぷりと日が暮れていた。

 

 

 

 

「じゃ、夕飯は一緒の部屋でとろう」

 ヤマトにそう言われ、シカマルは眉を潜めた。ナルトと一緒に部屋を取ってくれたのには、彼らなりの気遣いがあるのだろうか。邪推したくないが、感謝はしている。むっとしているナルトの肩を叩いた。

「行こうぜ、部屋。あっちらしいぜ」

 はっと驚いたように顔を上げたナルトは、静かに頷いて答えるだけだった。なんと気まずい雰囲気だ。シカマルは無意識に溜息をついた。彼の記憶からは多様な事が欠落している。木の葉のことも、友人たちのことも、自分との関係についても。

 だけれど、ナルトを抱きしめた事については彼からの追及は何もない。仲間が感動的な再会を果たしたとでも勘違いしているのかもしれない。記憶がなくなってしまっても、ナルトはナルトだ。それくらいの事は許容範囲である。

 部屋は開き戸であるが、鍵がかけられるようになっていた。開いている戸を閉めたシカマルは無意識にその鍵を閉める。

 疲れたのか、部屋の座卓の前ではぺたりと座りこんだナルトが居た。それから、茶器と一緒に盛られている菓子に手を伸ばしているのが見える。

「お前、絶対に最初に菓子だよな?」

 くすっと笑うと、ナルトの頬が赤くなる。

「じゃ、じゃあ!なんだってばよ」

 ようやく自分を見てくれた存在に、心がほっとする。座卓を挟む様に座ったシカマルは置かれた簡易ポットの湯が沸いていることを確かめて肩をすくめた。

「まずは、茶だろ?一服ってやつだ」

「……あっそう」

「最近は俺よりもお前の方が淹れるの上手くなってんだけどな。めんどくせーけど、俺が淹れてやるよ」

 菓子のパッケージをぴりりと破きながらナルトが小さな声で「サンキュ」と答える。

「お前は、色々忘れてるかもしれねえけど……」

 湯呑に新緑色の液体を注ぐ。

「お前の手に入れた中途半端な情報じゃ、お前は何一つ真実を掴む事はできない」

 ことりと湯呑をナルトの前に置くと、神妙な顔つきなナルトがいた。

「……どうせ、オレはなんも分かってねえってばよ」

「それで、お前は、いいか?」

「正直、わかんねえってばよ……」

「どうして?」

「え?」

 顔を上げたナルトの瞳が真っ直ぐにシカマルを捕える。シカマルもまたナルトを見つめていた。

「わからないままでいいのか、違うのか……それがちっとも、分かんねえんだってばよ」

 真剣な顔付きでいたシカマルに嘘をつく事が出来ない。それに、彼は自分の全てに答えてくれると言ったのだ。弱音を吐けばいいし、疑問を口にすればいいと言ってくれた。

「悪りぃ…タバコ吸わせてくれよ?」

 窓際に移動したシカマルは、いつものように窓をガラリと開ける。ちらりと落ち込んだようなナルトを伺うと、湯呑に口を付けながら次の菓子へ手を伸ばそうとして居た。

「全部、食ってもかわまねーぞ」

 ナルトはふっとシカマルを見てから、こくりと頷くことで応える。シカマルがゆったりと紫煙を吐き出している間、ナルトは一言も話さない。と言うか、彼からは何も口にしないのだ。シカマルが水を向ける事でようやく会話へと成立する。それは、ナルトがいじけている時によく見せる素振り。分かりやすいその態度にシカマルの口元に笑みが浮かぶ。ナルトの記憶がなくなってしまっていても、やはり彼は彼である。彼の見せる行動のひとつひとつが、懐かしい雰囲気を醸し出す。だから、不安そうな驚愕している顔を見て思わず抱きしめてしまったのだ。

 あの夜、本当ならばナルトが何と言おうとも向き合えば良かった。

 後悔先に立たず……とは先人の教えで、それはよく言ったものだとも思う。そう、あの夜…ナルトの事を確かめたくてキスしたのも本当だ。ナルトの記憶がどこまで確かなのかを自分で知りたかった。それと共にあった感情は、素直に恋人に触れたいと言うエゴでしかない。

「なのに……」

「え?」

 思わず心の内を口にしていたシカマルは、ナルトのきょとんとした視線を向けられてハッとする。

「あ、シカマルがいいって言うから、全部食っちまったってばよ」

 座卓の上には、菓子が包まれていた和紙が散乱しているだけ。

「別に構わねえって…俺、あんま食わねえから」

「…… そ、そっか」

 ナルトは何を思って里に戻って来て、何を感じて里を去ったのだろうか。自分の中に九尾がいて人柱力であると言う事は、信じがたい現実だったのだろうか。

彼がこの世に生を受けた時から背負わされた枷。

「なぁ、ナルト…」

 考えても袋小路に迷い込みそうな時は直接本人に確かめるに限るだろう。

「どうして、お前は里に戻って来たのにすぐに出て行ったんだ?」

「それは……」

「俺の所為か?」

 記憶がないというリスクを冒してまで里に戻ったナルト。何らかの理由があったに違いない。だけれどすぐに姿を消してしまった。

「俺がお前を問い詰めようとしたから……」

 言葉ではこんな事を言いながらも、あの時にそうしていればという気持ちがある。何度もナルトを失くす事を考えれば。もう二度と、彼とはぐれたくない。

「かもしんねえ……シカマルは、なんて言うか――――― ダイレクトで怖かった」

「こわ、い…?」

「上手く言えねえんだけど、サクラとかキバとか……きっと友達ってやつで、大切にしてたんだと思う。オレの知らねえオレを……すごく大切に思っててくれて。  あっ!」

 ナルトは思わず口に手を当てて、上目遣いでシカマルを見上げた。

「あの…だからって、シカマルがそうじゃねえとかんじゃねえから!!」

「分かってる」

 友達なんてひとくくりにされてしまう関係ではないのだ。だからナルトの失言と取れる言葉も軽く流す事が出来る。

「皆、オレのこと“なんか違う”って感じてたと思うけど、それを口にする事なかった…でも」

 シカマルは違った。鋭い視線で、まるで心の中を見透かすような眼差しで真っ直ぐにナルトを見つめてきた。後ろめたい自分は、そんな彼の視線から逃げ出したかった。

「オレは、素直に何者であるのか………知りたかったんだと、思う」

 ポツリと呟いて、ぼうっと前だけを見つめるナルト。肘をついた手の上に顎を乗せながらくすりと笑った。

「何一つ分かっちゃいねーのに、お前は、逃げ出したって訳だ。この俺から」

 きゅっと唇を噛みしめるナルトは辛そうに顔を歪める。

「違う」

 否定している言葉とは裏腹に、その表情はシカマルの言葉を肯定していた。

「オレの中には九尾ってゆーバケモノが居て、そうゆう奴の事人柱力って言うんだろ?」

「ああ」

 確かに、有り触れてしまった表現で言えば正にそうとしか言えない。

「イルカ先生から聞いたんだな?」

「シカマルは、ホントなんでも知ってんだって」

 ふふっと笑ったナルトは少し諦めたような顔で、力なく笑ったように見える。

「だけど、それだけだろ?人柱力がなんだってんだ。それがどうしたって言うんだ?それだけで、お前の生きてきた時間が全て分かるのか?知る事ができたのか?それは確かなものなのか?」

「わかんねーってばよっ!!」

 再会して初めて大声を出したナルトを見た様な気がする。

「何が、どうして、こんなに、引っ掛かって……痛くて、空っぽで、だけどそれが何かなんて……全然分かんねえよ」

 震えた唇に零れた雫が伝う。それを見たシカマルはふっと息を吐いた。こんな風に、追い詰める見たいに彼を責めたい訳ではないのに。結果的にはそうなってしまった。

「考えると、すげー辛いから。痛いから、もう忘れたままでいいって思うのは狡りぃことかよ?」

 すんと鼻をすすったナルトは肩を震わせて嗚咽を我慢している。シカマルと二人の空間であるこの部屋はナルトにとってはアウェイなのだろう。だけれど、シカマルはそれこそが間違っていると言いたい。ここは、自分たちにとってホームなのだ。お互いの、たった一つの、譲れない感情。

 ナルトの中の痛みが、自分ならいいと思った。どれほどの慢心だと思われても構わない。自分の中でナルトが失われた時間が、とてつもなく暗く辛い時間なように、ナルトも同じように感じてくれたら……それが痛みでも自分が報われるような気がした。

 狡いのはナルトではない。自分なのだと思い知らされ、それでもナルトの存在を手放すつもりは毛頭ない。支配できないお互いの感情を持て余すような時間が流れる。

 誤魔化しなんて効かない、それでいて単純でない問題が残っている。

「構わねえ。忘れたい事があるなら全部忘れても――――――― 」

 それをナルトが望むなら、それでも構わない。

「でも、忘れるな」

 シカマルは燃え尽きたフィルターを灰皿の上で押しつぶした。

「―――――――― 俺の事は忘れるな…」

 シカマルは窓をぴしゃりと閉めると、つかつかとナルトの元までやって来る。そして、驚愕したようなナルトの顔を見つめて抱きしめた。

「俺の事は……一欠けらだって、忘れる事は許さねえ」

 ぎゅっと抱きしめた腕の中でぴくりと反応する身体。

 懐かしい匂いは幸福な感情を思い出させる。それが、胸を苦しくさせる。優しい感情だけが溢れればいいのに、どこかで妬心みたいなものがムクリと頭を擡げる。精一杯に、愛情を伝えあっていたはずだ。どのくらいの時間を過ごしたかのではなく、どのくらい密度を共有したかに意味がある。

 身勝手だと思われてもいい。それでも、みっともない姿を晒してでも、握りしめているこの思いを逃がす事は出来ない。サラサラと音を立てて指の隙間から零れ落ちて行きそうな繊細な感情。

「シカマ……」

 全てをなかった事にできるくらいなら、こんなに求めたりなんかしない。

「シカ、マル?」

「どうして、お前にキスしたのか……お前は俺に聞かないのか?」

 抱きしめた身体が折れてしまいそうなくらい、ぎゅっとナルトを抱く。不安そうに名前を呼ぶナルトの唇を、シカマルは勢いのまま塞いでいた。

 

 

 

 

  

 

 

このままシカナルムードのまま次回へ続く。

いや、強気なんだけど寂しかったよって言うシカさんが書きたかったのと、

まだまだ表に出てないナルトの感情とか、

本当はイロイロと掘り下げたったのですが(^^

とりあえずクリアできたのは、シカマルの「俺を忘れるな」かな?

あともう少しだけ、お付き合いください!