家事代行 ハロゲンランプ

 

 

 

LOST WORLD 2

 

 

 冷たい川の水で顔を洗うと、寝起きのぼうっとした感覚がしゃっきりとする。柔らかい手拭いで顔の雫を拭いとって、両手を上げ背伸びをした。

「ん〜〜〜っ…いい朝だってばよ!」

 きらきらと光る太陽が水面に反射している。山深い場所であるここの上流の水は澄んでおり、目を凝らさなくても小さな川魚たちが泳ぐ姿を見る事が出来た。

 カラリと古くなっている戸を開けて中へ入ると、自分の為に朝食の用意をしてくれている老婆の姿が目に入った。

「おやおや、ナルトちゃん。今日は随分と顔色がいいねえ。どうだい?体調の方は…怪我はよくなっているのかい?」

「ああ、ウメばあちゃんの薬のおかげだってばよ。オレ、日に日に良くなってるみてえ」

 ニカっと笑ったナルトは、もう定位置になっている座布団の上に腰を下ろした。茶碗にご飯をよそってくれるのに、手を合わせて感謝の礼をする。

「いただきますだってばよ」

「…ナルトちゃん、それで…どうだい?昔の事は思い出せそうかい?」

 ナルトは手にした箸を下ろすと、力なく首を振った。半月程前に当たる嵐の翌朝、ナルトは川岸に倒れている所をウメに助けられたのだ。人里離れた庵で暮らす彼女は、ナルトの意識が戻るまで必死に介抱してくれたらしい。ナルトの意識が戻った時、彼に以前の記憶はなかった。ナルトが所持していた財布からその名前が判明しただけである。

「な〜んも思い出せねえんだってばよ……ばあちゃんには迷惑かけてすまねえって思ってるけど」

「迷惑だなんて、思っちゃいないよ。こんな婆と山奥に居てもつまらないだけだろうに……」

「オレ、すげー楽しいって!嘘じゃねえってば。ばあちゃんと一緒に薬草採りに行って、色々覚えられたし。ばあちゃんにはオレの方が世話になってるばっかだし」

 倒れている自分を助けてくれたのも、素性の知れない自分を一緒に住まわせてくれるのもウメなのだ。温かい彼女の人柄に触れて、不安だったナルトもようやく笑顔を浮かべられるまでになってきた。

「ナルトちゃんがいいならねぇ、いつまでだってここに居て構わないんだよ?辺鄙な場所だけど、月に数回は里から孫たちも遊びに来る」

「ふ〜ん…そっか。ばあちゃんは里には住まねえのか?」

「息子たちにも再三言われちゃいるが、足腰も弱くなってきて薬草を採りにくるにも大変だろ?いっその事、ここで暮らす方が婆には合ってるのさ」

 穏やかに流れる時間、それに長閑でいい所だとナルトは思う。里には便利な暮らしが待っているかもしれないが、ウメの気持ちも分かる様な気がした。せわしない喧騒に紛れない時間。空も空気も水も澄んでいる。それは、ナルトの心の中にぽっかりと空いた穴を少しずつ埋めて居てくれる様な気がしていた。

「ばあちゃん!」

「なんだい?」

「おかわり…いい?」

 空の茶碗を見たウメは、顔に刻まれたシワを深くしながらにっこりと笑ったのだった。

 

 

■■■

 

 

 無線が届く範囲での探索任務。

 キバは、ナルトの間抜け顔の移った写真を店員に見せる。

「見た事ないっすか?」

 落胆して肩を落とすと、店員に頭を下げる。キバの隣で赤丸が主人の気持ちを代弁するかのように、小さく鳴いた。

「…ったく、あのバカ野郎なにやってんだよ」

 バカはバカでも大バカ者だ。あのナルトである。理由もなく連絡してこないとは考え辛い。連絡してこられない理由があると言う事だ。任務の前にカカシから言われた言葉が虚しく、繰り返し頭の中を回る。

 

―――― ナルトはただの忍…というだけではない。その中に九尾もいる。

 

 キバは深い溜息をついた。

 誰かに拘束された線も疑える。まずは地道に行方不明の方向で探索しているが、それが本当の原因なのかは誰もわからないのだ。鼻のいいキバにも赤丸にも、この商店街でナルトの匂いを察する事はできなかった。ナルトの居なくなった日が雨だと言う事もあり、気配が消えてしまっている事も推測できるが、やはりここには彼は立ち寄った形跡はないのではないかと思えてしまうのだ。だから、カカシの危惧するように九尾を狙う者によって拉致されたようにも思えてしまう。

「少し、休憩にするか。赤丸…」

 ワンっと応えた相棒の頭を一撫ぜすると、近くの茶屋に腰を落ちつけた。団子を口に頬張りながらも、ナルトの事が気にかかってしょうがない。もし、もしもの話……ナルトが故意的に里を抜けたのだとすれば、彼は抜け忍となる。暗部の追い忍部隊がナルトの消息を追う事になるだろう。だが、すぐにそんな考えを頭の隅に追いやった。小さな頃から「火影になるのが夢」と憚らないナルトが里を捨てるとは思えないのだ。それに、彼がどんな思いで忍になったのかも知っている。

「…心配、させやがって」

 キバは里を出る時に会った旧友の事を思い出した。キバ的には何も知らされていない事に驚いてしまったのだが……。冷静な彼が私情を挟むはずはない。それに、同期として心配するのは普通だろう。トップシークレットではあるが、参謀的な立場で綱手から信頼されているシカマルに、何も知らされていない事に違和感を覚える。

 ナルトが宿に帰って来ない事で、ヤマトが中心になってかなり広い範囲での探索をした事は聞いていた。今回はヤマトたちが探索した地域ではなく、そこから随分と離れた場所が今回の探索地域になっているが、どうしてもそれが無駄足になっているように感じてしまうのだ。キバの動物的勘と言えばいいのか、的外れな事をしているような気がしている。それに、聞きこみなんて地味な作業がこの任務が暗雲に乗り上げている感もしてしまう原因かもしれない。

「ちょっと、お兄さん」

 団子をもぐもぐと咀嚼して居るところで声がかかる。もちろんキバの周りには誰もおらず、自分に声が掛けられている事がすぐに分かった。

「ちょっと、……麻ちゃん!」

 声をかけてきた少女の後ろには、瓜二つの顔が自分を伺っていた。

「なんだ?」

 キバは首を傾げる。

「なんだじゃなくって、腕を怪我してるんじゃないの?」

 キバは指差された腕に視線を移した。血が滲んでいるが、深い傷ではなかった。

「こんなの、舐めときゃ治るっての」

「最近の忍者さんは、傷薬も持ってないの?」

「はあっ?」

「これ、よく効くのよ?お試しで分けてあげるわ。気に入ってくれたら、買いに来てくれればいいから」

 気の強そうな顔が笑顔で柔らかい印象になる。小さなケースの蓋を開けると、キバが何も言わない内に傷に薬を塗ってしまった。

「お、おいっ!」

 満足したのか、彼女はキバに傷薬を手渡すと背中を向けてしまう。その後ろを、双子であろう少女が追いかけていくのだ。

「…なんだ、ありゃ?」

 キバの座る椅子の上に、コトリと新しい湯呑が置かれる。

「今、アンタさんに薬をくれた子が麻ちゃん。後ろに居たのが、妹の絹ちゃんだよ。ほら、商店街に大きな薬屋があっただろ?あそこの娘さんたち」

「……押し売りだろ、あれ」

 お盆を抱えた茶店の主人がくすくすと笑う。

「いやいや、本当にあそこの薬はよく効くんだよ?人が良いって言うのかねぇ。怪我をした動物とかも見捨てておけないような性格をしていて、小さな頃は叱られていたっけね」

「怪我をした……動物?」

 キバは複雑な思いを感じてしまう。年の頃も自分と同じくらいだと見受けられる少女に、放っておけないと思われてしまった事が少しだけ情けなくも感じた。思わず頭を抱えてしまうと、自分を見上げている赤丸と目が合った。

「なんだ…?赤丸」

 赤丸は少し考えたようにした後、ワンと鳴く。

「……ナルトの匂いがした?あの女からか?」

 キバは全く感じなかった。着物に香が焚いてあったらしく、その匂いの方が鼻をついたのだ。それと、薬草特有の匂い。

「けど、赤丸……あの商店街には、ナルトの匂いはしなかったよな?」

 クゥンと困ったようにないた赤丸は、少女たちが消えてしまった先をじっと見つめたのであった。

 

 

 カカシも、ヒナタもキバもこれといった情報はつかめないままで合流する事になった。ヒナタの白眼でもナルトらしきチャクラを感じる事はできなかったらしい。

 キバは夕方に赤丸が感じた気配をカカシに話すがどうか迷う。赤丸の鼻は信用している。自分が気がつかなかっただけで、微かなナルトの匂いをかぎ分けたのだとしたら、前の見えないこの状況を打破するきっかけになるかもしれない。

「…そっか、みんな手掛かりナシ?」

「カカシ先生、これからどうするんっすか…」

「一度、里へ戻る」

「ナルトは見つかってないのに?」

 ぽそりと呟いたシノの言葉にヒナタもキバも頷く。

「俺たちがこんだけ派手に動いたんだから、もしナルトを拘束した奴らが居るとしても“動かざる得ない“と俺は推測する。ま、これはデモンストレーション?」

 木の葉の忍がナルトを探索して居る事を、知らせるのも任務の一つなのだ。

「先生、最初から……」

「まあね……もちろん今回の任務でナルトが見つかればラッキーだし。もしかしたらの線も考えなきゃいけないでしょ」

「先生、俺はナルトが自分から里を抜けたなんて考えられねえ……考えられるとしたら、あいつが動けない状況にある事だけだって……」

 カカシは重い息を吐いた。

「ウン、俺もキバの意見に賛同するね〜…あいつのことだから、もし怪我でもして動けない状況にあるとしても連絡するって事が頭から抜けてるかもしれないしねぇ」

「……そんな、ナルトくんが、」

「ヒナタ、ナルトは殺しても死なない」

「シノくんまで、縁起の悪い事言わないで…」

「いやぁ…ヒナタ?今のはシノなりに、慰めの言葉っちゅーか…」

 第八班の面々を見たカカシは、幼い日のナルトを思い出した。必死に上を目指していた小さな忍はこうして成長している。いつも頭痛の種をくれる可愛くない教え子に溜息をつくしかないのだが……

 夕日が山の端にかかる頃、探索班は木の葉の里への帰路についたのであった。

 

 

■■■

 

 

 部屋の中に火が入ると、温かくなる。

 山の空気は里とは違いまだ随分と冷え込むのだ。一通りの仕事を終えたナルトは、ウメにすすめられて先に風呂を借りて居た。ぼうっと湯船に浸かっていると、ウメ一人だとは思えない気配を感じる。複数人の気配。耳を澄まして聞こえてくる話声は、争っている形跡もない。だけれど、ここは山の奥深く。ナルトは慌てて着物を着こむと、部屋の中に飛び込んだのだった。

「おやおや、ナルトちゃん。そんなに慌ててどうしたんだい?」

「……って…、あの、ばあちゃん?」

 ウメとは違う二対の瞳がナルトを見上げた。その顔は瓜二つで、年の頃もナルトと変わらない風貌である。

「これが、噂のナルトちゃん?」

「へえ、きれいな髪の色ねぇ…」

 珍しい物を見る様な遠慮のない視線にナルトは居心地の悪さを感じて腰を落ちつけた。

「わしの孫じゃよ、里に住んでおると言っただろう?」

 今朝の話を思い出したナルトは、なるほどと頷く。そのナルトを見て、二人の娘はくすくすと笑った。

「あ〜…オレってば、うずまきナルト!よろしくだってばよ」

「私は麻、この子は妹の絹よ。…それよりも、記憶がないって聞いてるんだけど?」

「ああ…名前はオレが持ってた財布に―――――」

「知ってるわよ。あの台風みたいな嵐の次の日に、おばあちゃんが心配で山に来たらあなたが寝ていたんだもの」

「…え?」

 麻と絹はくすくす笑いを続けたままだ。もちろん彼女たちが意識の戻ったナルトと対面するのは初めての事。

「なんか、おかしいかよ?」

「別に…ねえ、絹ちゃん」

「うん、そうだねぇ。麻ちゃんの言う通り悪い人じゃないみたい」

「からかったのか?」

 眉を潜めたナルトに、ウメの楽しそうな笑い声が重なった。

 いつもは昼の内に滞在するだけで、麻も絹も山を下りるそうだが、時間が時間な為に一晩を山の庵で過ごす事になった。ウメと二人きりの生活に慣れて居たナルトも、普段とは違う賑やかな雰囲気を楽しんだ。それに、ウメの本当に嬉しそうな顔を見るのも嬉しいのだ。

 夜になって静寂が訪れ、それでも何故かナルトは寝付けなかった。何度も寝がえりを繰り返し、なにか大切な事を忘れているかもしれないという焦燥感を初めて感じている。

 意識が戻った時、確かに大怪我を負っていた。記憶がない事にも混乱したが、先に身体を治す事に専念した。そして、身体の自由がきく頃には、ウメとの生活が心地よいものになっていたのだ。

後ろを振り返っても真っ暗の闇の中には何も見えなかった。何も思いだせないし、そうするとツキンと頭と胸の奥が痛くなったのだ。それから逃げるように、毎日忙しく働く事に決めた。夜は疲れて悩む暇がないほどに。

「……だめだ」

 がばりと起き上がると、そっと襖を開けて庵の外に出る。夜風は冷たい。だけれど、夜の空に瞬く星はとても奇麗だった。ぞっとするくらいに静かな空気が、自分が一人ぼっちなんだという孤独感を増す。こんな事をずっと昔にも感じた事がある。記憶がなくても、この胸の痛みも恐れも本当のものだから今までに自分が感じてきた痛みなのだろう。

 溜息をつきながら岩の上に座ると、頬を撫ぜる風に瞼を閉じる。そして、ここに来て初めて自分と向き合おうとしていた。どれだけそうしていただろうか。ナルトは咄嗟に暗闇に手元の小石を投げてしまう。

「危ないわね!」

 暗闇から現れたのは、ウメの孫の一人である。ナルトには見分けはつかないのだけれど……あてずっぽうで名前を呼んでみる。

「えっと、麻?」

「違うわよ」

「そっか…絹か。ハズレだな、オレ……」

「それにしても、記憶はなくして居ても身体は覚えているって事かな?」

「何の事だ?」

 灯りのないこの場所では絹の表情は読み取れない。

「あなた、忍者ってやつよ。私、知ってる」

「忍者って、オレが?!」

 絹はくすりと笑う。

「そうじゃない。気配を感じたり、石を投げるナルトの姿は普通の人と違ってた。だから、確信した。麻ちゃんはナルトと楽しそうにしてるおばあちゃんの事を見て、ナルトには何も言わないって決めたみたいだけど…私は違うと思う。だって、知りたくないの…本当の自分」

「本当の、オレ?」

 絹はナルトにそっと手にしているモノを渡した。ナルトはそれを受け取って、見た目より重たいものを見つめる。

「これって……」

「麻ちゃんが言うには、額当てって言うんだって。この金具の所にマークがあるでしょ?これは、火の国の木の葉隠れの忍って事なんだ。ナルトがこの岸に流れついてた時に手にしてたみたい。火の国に帰れば、ナルトの里に帰れる……ってこと」

 鈍く光る額当てには無数の傷。それをそっと指先でなぞった。

「オレが……忍?」

「その手掛かりになる。それに、それと同じものをした人が里に来てた。多分、ナルトを探してたんじゃないのかな」

「探す…?オレを?」

 ナルトはじっと額当てを見つめると、それを絹に返した。

「ナルト?」

「悪りぃ……色々ありがと。でも、なんか頭ん中ぐちゃぐちゃで……オレ…」

「私こそ、混乱させてごめん!」

 絹は踵を返し、庵に戻っていく。ナルトは呆然とその背中を見つめるしかない。記憶の手掛かりになることを教えてもらえた。本来ならば、絹の言う通り木の葉隠れの里へ戻るのが一番なのだろう。なのに、よくわからない不安だけがナルトの胸に湧き上がる。先程、感じていた孤独が一気に押し寄せてきた。昔の事を思いだそうとすると、襲いかかる黒い恐れの感情。本当に、記憶を思い出す事が自分にとって言い事なのか分からない。

 一歩踏み出そうとする度に感じるのは、根拠のない寒々とした感情。深い記憶の中にある情景。

暗い闇の中で見つめてくる瞳が冷たくてナルトは動けない。それは、批難なのか蔑みなのか。そんな視線を受けて泣きながら逃げる夢を何度も見た。

「……オレは…どうしたいんだってばよ」

 ナルトはきゅっと唇を噛みしめながら、じっと水面を見つめた。

 

 

 

 

  

 

 

あるシーンまで入れようかと迷ったのですが、やめました。

結果論でいいかなと。

それと途中探索班の事を入れるかも迷い〜

ぐるぐる〜ってやつです。

ナルトの迷ってるとこだけ書きたかったんですが…うまくいかねえや!

オリキャラは仕方なく投入。これも迷って女の子にしてみました。

RUIにはシカナルオンリーワンなので()

ナルトに誰かが絡むとかは絶対ないです!!(強調〜)

そして、名前もいつも通りいい加減。次回もっと展開してほしいorz