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LOST WORLD
シカマルは目の前の扉をノックするのを一瞬躊躇った。 扉の奥から聞こえた声は綱手の機嫌が悪そうな声。それに、ぽそりと話しているもう一人の存在も感じる事が出来る。 「…こりゃ、出直すか」 報告書の提出。ただ、それだけの事なのだ。手にあるものを提出すれば任務は完全に完了。だけれど、厄介事に巻き込まれるのは御免だ。いつもより少し長い任務を終えて帰還し、ようやくめんどくさい報告書も完成させた。長期などと贅沢は言わないが多少の休息が欲しいのも本音である。 それに、自ら厄介だと思われる事に首を突っ込む必要もない。資料の紙の束をぷらぷらさせて回れ右をする。数歩歩いた所で、鈍い音を立てて開いて欲しくない扉の開く音が聞こえた。舌打ちしたいのを我慢しながら、足早に廊下を進んだ。だが、やはりそれはすぐに止められてしまう。 「やあ、任務明けかな?」 出来れば会いたくない相手。飄々としたスタイルを貫く彼は掴みどころがなく苦手だと感じる事がたまにある。それに、頭脳明晰な上忍は人の気持ちを見抜くのが上手だ。まるで心の中を覗かれているような気分になってしまう。人生経験、忍びとしての経験、どれをとっても彼に敵うはずもないのだけれど。 「ども。…カカシ先生も、任務の報告っすか?」 軽く頭を下げると、カカシはふっと笑う。 「やだねぇ、シカマルなに緊張してんの?」 「してませんよ……あの、そうゆうのめんどくせーんで」 「全く、君は分かりやすいね〜。うまく隠してるつもりかもしれないけど、そうゆうとこはナルトと一緒ってやつだな、ウン」 「はあ?!」 ナルトをバカにする訳ではないが、あまり同一視された事はない。というか、初めてかもしれない。 「俺と綱手様の話は終わったから、行ってきなさいな。執務室」 「はあ……」 声をかけた事に他意はなかったらしい。シカマルは胡乱な眼差しをカカシに向けた。 「――――――― なんか、ヤバイ事でもあったんすか?」 聞かなければいいのに、思わず聞いてしまう。聞いてしまったら首を突っ込まない訳も行かなくなる。それが分かっているのにそうしてしまうのは、目の前のカカシの所為だと思えた。 「扉の前の気配はやっぱシカマルって訳か…」 「立ち聞きとかしてませんよ、俺は――― … 」 「面倒だから?」 言葉の続きを奪われたシカマルは自分のペースを乱される事に溜息をついてしまう。頼りなるけれど難解な男なのだ。はたけカカシは。 「……まあ、正直なトコそうっすけど」 「正直なのは良い事だって! 立ち聞きしてないんならオーケイ〜。じゃ、ね。シカマル」 あっけない結末。ひらひらと手を振りながらシカマルを追い越したカカシの背中を見つめてしまう。綱手の用が終わったのなら、さっさと報告書を提出しない手はない。シカマルは少し考えた後、もう一度回れ右したのだ。 「失礼します」 ノックに応える声があって部屋に入ると、渋い顔をした綱手の姿がある。肩肘をつき顎を乗せ空中を睨みつけていると言った所だろうか。 「シカマルか…」 「火影様、報告書の提出に」 「ああ、置いておいてくれ」 機嫌の悪い原因はカカシとの話の内容かもしれない。カカシへのストレートな質問はスル―された。自分がカカシに必要とされているならば、先程なにかしらの情報を与えてくれたはずだ。即ち、カカシの中でそれは必要でないと振り分けられたと言う事になる。そして、カカシは重要な事を見誤るような人間ではない。きっと、今抱えている問題には自分は適任ではない。そう判断されたのだと推測する。 退室する為に会釈して背中を向けた所で名前を呼ばれた。 「はい?」 綱手の渋い顔つきは変わっていない。 「シカマル、カカシから話は聞いたか?」 「いいえ、立ち聞きもしてませんし、カカシ先生からも特には」 シカマルの中に何か嫌な予感が走った。ここまで問いただされるのには、なにかしらの理由があるに違いない。カカシと綱手の中での密談であり、外部に漏れる事を良しとしない内容なのだろう。 「本当っすよ、聞いたなら正直に言いますって」 「ああ……別に、お前を疑っている訳じゃないんだけどな」 少し疲れて見える綱手の表情に、やはり疑問符が浮かび上がる。 「あの…綱手様?」 「すまない。長期任務、御苦労だった。数日は身体を休めろ。時期任務については、シズネからおって連絡がある」 「……はい」 やはり何か様子が可笑しい。その空気を感じて気分が悪くなった。 静かに綱手の元を去ると、両手を上げて身体を伸ばした。強硬なスケジュールだった任務の所為で疲れて居る事は確かだ。欠伸を噛み殺しながら、手慣れた様に煙草を口にする。ふうっと煙を吐き出した所で、旧友の姿を見つけた。 「よう!」 相棒の赤丸を連れたキバはシカマルの姿を見て足を止める。ベンチに座ったシカマルはキバを見上げる形になった。 「……シカマル、任務明けか」 「まあな。お前は、これから?」 「ああ」 歯切れの悪い返事に、先程感じた違和感をまた感じる。 「なんだよ、おめぇらしくねえじゃん」 携帯灰皿に煙草の先を押し付けると、それを仕舞う。俯いているキバの複雑な表情はシカマルから丸見えだ。 「…ンだよ? 言いてえことありそうな顔してるな」 「お前、いつ帰還したんだ?」 「は?午前中かな…それから報告書やってたんだって」 「そっか、今日…戻ったのか」 「だから、なんだよ?」 煮え切らない会話にさすがのシカマルも痺れを切らす。 「悪りぃ…極秘任務ってやつなんだわ。俺、行く」 シカマルから視線を外す様にしたキバの肩を思わず掴んでしまった。咄嗟の行動にシカマルも意味を見いだせない。だけれど、何故か本能がそうさせたのだ。明らかにいつもと様子の違うキバの態度に、喉元に引っ掛かった何かが生まれた。 「おい、極秘って……」 聞いてはいけないだろう。同じ忍びとして任務をしているのだから、それくらいの常識は在るつもりだった。だが、奥歯に物がはさまったようなキバの科白に心の中に斜がかかる。 「任務内容を、それも極秘事項を聞くなんて反則だってのは分かってるけどよ……」 「ああ……」 「でも、お前は何かを俺に言おうとした」 確信なんてない。只のカマかけだ。シカマルの言葉にキバの重い息が重なる。 「本当に知らないのか?お前…綱手様のトコ行ってたんだろ?」 「知らないって……」 故意に知らされていないの間違いの様に感じる。 「なら、これはオフレコで。知らないふりしてくれよ? 俺一個人としての独り言をお前は“たまたま耳にした”って事で」 「ああ、分かってる」 十分にルール違反。任務の内容を、それも極秘任務を漏らす事は許されていい事ではないのはシカマルも承知して居る。 「これから、カカシ先生を隊長としシノ、ヒナタと探索任務に出る」 探索のエキスパートが揃った第八班。今は産休の紅に変わり、カカシが指揮を取るのだろう。 「……目的は、ナルトの探索」 「ナルト…?」 意外な名前を聞いて、シカマルの中で何かが繋がり始める。ナルト関係の事だから、シカマルには詳細は知らされなかったということだろうか。シカマルとしては、公私混同するつもりは任務については毛頭ない。 「どうゆう事だよ? ナルトの探索って……」 「オフレコだぜ?」 「ああ…それは分かってる。独り言だろ?」 「ナルトが任務先で消息が途絶えた。お前が任務に当たってる期間も含めて、半月。あいつの足取りがぱったりと消えたんだ。言わなくてもお前は分かってると思うが、俺たち第八班と隊長のカカシ先生、探索のエキスパートだ」 シカマルは眉間にシワを寄せる。 「…半月?」 「何かしらに巻き込まれた事も、その……九尾の事もある。ナルトが拉致られるタマじゃねえって事は、俺たちが一番知ってんだろ? あいつが里に戻らない理由は今ンとこ考えられねえ。なら、戻れない理由があるっつーことだ…。生きてんなら、あいつは這いつくばってでも里に帰ってくるだろ?それが半月。まったく消息がつかめてねえ……」 口の中に苦々しい何かがたまる感覚。 「それで…?」 「もちろん、最後までナルトと一緒だったサクラやサイ、ヤマト隊長も出来るだけの捜索はしたって話だぜ?埒が明かなくて、とうとう特別班で探索って話に至ったって訳だよ」 言葉を切ったキバは、集合時間があるとシカマルに背中を向けて去って行ってしまう。 「だからかよ……」 ナルト絡みだから、自分はカカシにも綱手にも適任でないと結果付けられたのだと予想がつく。 「舐められたもんだぜ」 動揺はしている。しているが、全貌が掴めていない今は、自分が派手に動く事は得策ではない。 そして、綱手もカカシもそれを良しとしなかったのだ。 シカマルは力任せに壁に拳をぶつける。 「あのバカ……なにやってんだよ」 きっと、茫然としている時間はないのだ。表舞台で自分が動く事は出来なくても、出来る事は在るはずである。それを模索しながら、シカマルは再び銜えたフィルターを噛みつぶした。
「任務終了だってばよ!」 ぴっと親指を立てたナルトを見て、サクラとサイが苦笑を浮かべる。いつも何を考えているか分からないけれど、最後の最後には彼に頼ってしまう。カカシに意外性だけはナンバーワンと言わせたナルトは現在進行形で健在だ。 「もうっ!任務が終われば全てヨシとか思わないでよね?アンタの所為で、ハラハラの倍増で寿命が縮むわよ…」 「……ま、それがナルトらしいと言えばそうなんだけどね」 無茶苦茶なやり方はずっと変わらない、長所であり短所。サクラもサイもそれを認めているし、そんなナルトの事も好きだ。だから、心配してついついお小言も口をつく。それを当の本人も分かっているようで一応はすまなさそうにするだが、舌の根も乾かぬうち……とは上手く言ったもので、ナルトに常識は通用しない。 ニシシと笑うナルトの前で、くすくすと笑うサクラと肩を竦めているサイ。それを遠目で見て居たヤマトは、最初に彼らとあたった任務を思い出す。それと比べると雲泥の差で、カカシ班は良いチームになったと言える。 「ま、爆弾抱えてるようなもんなんだけどね」 カカシの代役を務める事が増えたヤマトは、仕舞ってある財布の中身を思い浮かべながら可愛くない後輩の元へ影を落としたのだった。
「やったー!温泉!!」 「やったってばよ〜!刺身、テンプラ、あとあと……肉〜!」 両手を上げて喜ぶサクラとナルトは、ハイタッチしながらヤマトを振り返る。 「ヤマト隊長、もっちろん隊長の奢りですよね?」 「それは当たり前の事だってばよ、サクラちゃ〜ん。ヤマト隊長がカカシ先生みたくケチな訳ねえって!」 「あのねぇ……君たち」 頭痛を覚えたヤマトが溜息をつくと、サイと視線が合う。彼はにっこり笑って「ごちそうになります」と会釈をしたのだ。 「はああ…もう、あのね」 「わかってるってばよ、ヤマト隊長。あの西にかかる雲は雨雲!帰り道、可愛いオレたちが雨に濡れねえようにって配慮なんだろ?それくらいの事分からねえ、俺じゃねえってば。隊長、ゴチっす!」 敬礼したナルトはそそくさと暖簾の奥へ消える。 「ヤマト隊長、ありがとうございます」 極上の笑みを口元に浮かべたサクラもナルトの背中を追って旅館の中に入ってしまった。少し居心地の悪いような顔付きでいるヤマトを尻目にサイもその後を続いたのだった。 一泊して行こうと言いだしたのはヤマトだし、もちろんナルトたちの財布の中身を当てにしている訳ではないが、最近は上手く言い込められている気分になるのはどうしてなのだろうか。 両手放しで喜んだのはナルトとサクラは、温泉だ、美味しい料理だと浮かれまくっている。その隣ではサイが、最近ではトレードマークになっている文庫を手になにやら難しい顔をしていた。彼なりに仲間とコミュニケーションを取ろうとしている努力なので、ヤマトもそれを苦笑しながら見つめるのだ。 「夕飯までには時間あるから、美味しい料理の前に温泉でも堪能しておいで。みんな」 ヤマトの声にサイが顔を上げた。その視線はナルトを伺っている様だ。 「ナルト、露天風呂行く?」 「ん?」 ナルトは自分の荷物をごそごそやりながら、かえるのガマ口財布を取り出している。それとサイの顔を交互に見て唸った。 「う〜ん…風呂の前に買いてえもんあるから、行ってくるってばよ」 「お土産〜? 別にわたしたち、遊びに来たんじゃないじゃない」 誰に、と聞かなくても分かるからサクラはわざと意地悪を口にする。 「そ、それは…そうだけど……サクラちゃんってば、最近いのみてーだってばよ〜」 困ったように押し黙るナルトは、眉を潜めた。 「まぁまぁ、サクラ」 サクラが楽しんでいるのは十分に分かるのだが、任務も終わり自由時間である事も変わりはない。事を穏便に済ませたいヤマトは、いつもの延長である悪ふざけを止めるつもりで口を開こうとしてハッとした。 「あ、サクラ」 きっと木の葉随一の空気の読めない男ナンバーワンのサイの爽やかな声が聞こえる。 ナルトをからかうサクラはその声に振り返った。その声につられてナルトもサイに視線を移した。その瞬間に、ナルトも全てを察する。もちろん、同じ部屋にいるヤマトも同様である。 「サクラはお土産を買う相手がいるナルトに嫉妬してる…って言うんだよね、こういう場合」 「さ…サイ!」 ナルトは慌てながら、サイの口を塞ごうとするが時すでに遅しである。 「嫉妬って言うより、僻みってやつかな?」 「……サイ、君ね」 ヤマトは頭が痛くなるのを感じながらこめかみを押さえた。 「わ、悪かったわね!!アンタに言われたくないわよ!」 拳を震わせるサクラを見たナルトは早々に逃げ出す事に決めた。 「しゃーんなろ―――――っ!」 サクラを止めるヤマトは苦笑を浮かべながら、ナルトの背中を見送る。軽く手を上げたナルトは、申し訳なさそうにヤマトに目配せしながら襖を閉めたのだった。
そんな、いつもあるような日常のヒトコマ。 そして、その日を境にうずまきナルトの消息が途絶えたのである。
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キリ番30000HITゲットの沙紀さまよりのリクエストです。
アップ遅くなってゴメンナサイです〜
ナルトの記憶喪失モノってことで、またまた難題だぜぃ(笑)
思考錯誤を繰り返し、ガンバって更新するぞい!!