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Love of lonely 4

 

 

 シカマルがナルトのアパートを訪ねた時、彼は居なかった。なんだかホッとしてしまったシカマルは、そんな自分に失笑する。緊張してここまで来た自分自身が可笑しかった。部屋でじっと自分を待って居てくれるのではないかという、ナルトという存在を期待して居た。

 別れを決めて、勝手に彼を突き放したのに、自分を求めてくれるナルトを求めている。とても勝手だ。勝手すぎて、自分が惨めになる。サクラの言葉に少しだけ心がさわいだ。

 すぐにアパートのドアに背を向けたシカマルは逃げるように、階段を降りる。とぼとぼとあてもなく歩いた。自分の騒いだ気分が落ち着くまで土手に寝転んで雲を見上げるのもいいかもしれない。そんな風に思っていた耳に、もう懐かしく聞こえる声が響く。つい数日前まで彼の温もりを肌に感じていたというのに。

「大丈夫だってばよっ!」

 強気に聞こえる声。なぜかシカマルは路地に身をひそめた。彼に会いにきたのだから、隠れる必要はないのになぜかそうしてしまったのだ。

「何が大丈夫だ!強がりを言うな…と言うか、こんなんじゃ先が思いやられるな…」

 シカマルの耳に届いたのはナルトの声だけではない。ナルトの介添えにいるのは…

「ネジ…?」

 サクラの拳は誰かの助けが必要なくらいナルトを打ちのめしたのか?ふと不思議に思ってチラリとナルトとネジを伺う。

「もうっ!ネジはさっきから同じ事しか言わねえし…」

 思ったより元気そうなナルトの声。

「同じ事しか言わせないお前に問題がある」

「うるせえってばっ!」

「近い未来の火影がこんな様子では困ると言っているんだ」

「うっ……悪りぃってばよ」

 シカマルの目にしたナルトは目の辺りにぐるりと包帯を巻いていた。思わず開いた口が塞がらない。さすがのサクラもここまでするのだろうか。ナルトは視界が遮られている為に一人で歩けないようだ。ネジに手を取られて、恐る恐ると言う様に歩いている。それでも口調はダメージを感じさせない程、元気なものである事も確かだ。

「ネジ…オレ、寄りてえ場所があんだけど」

「買い物か?一楽とか言わないだろうな?俺にラーメンを食わせろとか言うんじゃないだろうな!」

 ネジの科白はナルトのツボにはまったようだ。ぷっと吹き出した彼は、堪らないと言う様に大爆笑し始めた。その姿を見てシカマルはツキンと胸に痛みを感じる。隣に居るのが自分でなくても、ナルトは笑っているのだ。自分と言う存在がとてもちっぽけなものに感じてしまう。そう在る事を望んだのは己だというのに、反比例する気持ちは目も当てられないほど情けないもので。シカマルは唇を噛みしめた。

 本当に自分勝手で独りよがりで……そんな自分が惨めでしかない。ナルトが落ち込んで、自分だけを待っている姿を想像していた。そんな思い上がりを打ちのめされた気分になる。自分はこんなに傲慢で自尊心の塊だったのだろうか。シカマルは無意識の内に溜息をついていた。見て居られないはナルトではなく、今の自分だ。出直そうと思って、ナルトとネジから隠れるように背中を向けた所で頬を何かが掠める。熱い痛みが走った頬を指先で触れるとぬるりとする感覚。指についた鮮血をみて舌打ちすると、壁に刺さったクナイを確認する。もちろん、これを放った人物は一人しかいない。彼の白眼に見えない物はないだろう。クナイを抜き取ると、振り返る。シカマルの居る路地から、表通りにいるネジの姿が目視できた。

「物騒だな…」

 皮肉を込めてクナイを投げ返す。それを見ないで受け取ったネジは冷たい眼差しをシカマルに向けていた。

「こそこそ隠れているから、どんなネズミがいると思ったらお前だったのか。シカマル」

「…悪かったな。別に、隠れちゃいねえよ」

「ならば、出て来い。手間が省けて助かるからな」

 シカマルは意味が分からないまま表通りまで歩いて行く。ふっと視線を彷徨わせると、ナルトが尻もちをついて座っていた。ナルトとネジを交互に見たシカマルは口の中に広がる苦いものに眉をひそめる。

「ナルト!」

 ネジの呼びかけに顔を上げたナルトがきょろきょろして、手を差し出した。それはネジに向けられた手なのだろう。ネジはシカマルを尻目にその手をそっと取った。口調とは裏腹に優しく見えるその仕草に、シカマルはやっぱり胸が痛い。

「いきなり放りだすなって!」

「お前が、シカマルに会いたいと言うからだろ?」

「へ?それって…どうゆうこと?」

「お前の目の前に居るぞ、奈良シカマル」

 ネジの言葉にナルトが緊張したのが雰囲気で分かった。

「それってば…嘘じゃねえの?」

 確かめる様なナルトの声に、ネジの視線がシカマルに向けられる。

「本当だ、ナルト…」

「シカマル!?」

 その声は少し緊張しているのに、喜びを露わしている様な声色だった。それに何故か心が解される。

「ネジ!サンキュ〜。もう、シカマルが居るから帰っていいってばよ」

 ネジの手をそっと外したナルトがにっこりと笑う。だが、すぐにネジがそれを否定した。サクラに頼まれた以上ナルトを放り出して帰る事が出来ないと言うのが彼の意見だ。

「オレは、シカマルと話がしてえの!」

「俺には構わず話せばいいだろう。気にするな」

「オレが気にするっ!」

 慌てたナルトは困ったように唸る。シカマルはそれを宥める様に口を開いた。

「別に俺も構わねえから、話せよ…ナルト。それが終わったら、俺もお前に話したい事もあるし」

 シカマルはナルトと二人きりになるよりも、第三者が居てくれた方が精神的な歯止めになるような気がする。ネジはナルトとの関係を知っているし、何を聞いても誰それと触れまわる様な無粋な男でもない。ただ呆れられるだろうが、それも関係ない。彼とは、火影の補佐として共に仕事をしていかなければならないのだし、はっきりさせた方が何かといいと判断したためだ。

「……じゃ、オレから」

 ネジは壁に凭れて腕を組んで居る。その視線は何を捕えているのだろう。

「オレは諦めねえ。シカマルがオレんこと要らないって思っても…それでも、ぜってーにシカマルにもっかい認めてもらえるようになるから、だから覚悟しとくってばよ!シカマル」

 シカマルはじっとナルトを見つめた。何を言われるのか予想は付かなかったが、予想外の物だった事だけは明確だ。

「ナル…ト?」

「シカマルに振られて、めちゃ落ち込んだし凹んだし…もう頭ン中ぐっちゃぐちゃだし……でも、やっぱりさ。どんなに考えてもオレにシカマルは必要なんだってばよ。シカマルが…好きなんだってば。自分に嘘つけねえもん。オレ、バカだし…シカマルに呆れられてもしょうがねえし、でも、この気持ちだけは本気だから…その、なんて言えばいいのか分かんねえけど」

「別に、呆れたとか振ったとかそんな気はねえんだけどな」

 ぽつりと口から出た本音にシカマルは嘲笑する。

「お前にそこまで言ってもらえるような奴じゃねえって事だけは、確かだな」

「あの時、シカマルは話を聞けって言ったけど…オレができなかったからさ」

 別れを告げた夜の事を言っているのだろう。だが、その時の自分が的確な事を言えたのかどうかシカマルも自信がない。

「シカマルに嫌われてないなら、オレ…また好きになってもらえるチャンスあるんだって気が付いたってばよ」

「どうして、お前は…」

 サクラは“ナルトは前に進めない”と言ったが、ちゃんと自分の足で立って歩いている。シカマルにはそう見えた。いつも彼の背中を見てきたのだ。だからこそシカマルには分かる。いつでも、ナルトには不思議な力があって、その隣に居たいと思わせられるのだ。

「お前に俺は相応しくないんだよ」

「相応しく…ない?」

「ああ。火影としてのお前にも…ただのうずまきナルトにも俺は相応しくない。邪魔をするばかりだ」

「それが…シカマルの話?」

「ああ…」

 相槌をうったシカマルにナルトは黙ってしまう。二人の間に流れた沈黙は重たい雰囲気のものではない。

「邪魔なんかじゃ…ねえってばよ。オレにはシカマルが必要なんだから」

 ぽつりと小さな声で呟いたナルトがすっと手を出す。シカマルはその手を取っていいのかどうか正直迷う。つい数日前まで、彼を突き放す事になっても後々の為になるとナルトを傷つけたのに、舌の根の乾かぬうちにそれを撤回する事になっていいのかどうなのか、シカマルにも分からないのだ。純粋に自分だけに向けられる気持ちをナルトから捧げられ、狡い自分が後ろめたい気持ちもあった。

「ナルト…」

「今は頼りねえけど…シカマルに迷惑かけねえように、オレ…頑張るから。だから……」

「ナルト」

 ナルトの心に負担をかけているのは自分だというのに。優しい言葉を向けてくれるナルトが愛しい。意地らしいくらいの純愛を見せつけられている気分になった。

「オレのこと…やっぱ嫌いになった?」

「違う」

 好きだから、誰よりも大切だから。この手を取る事に迷うのだ。

「でも、好きでもねえんだよな」

 寂しそうに肩を落としたナルトを抱きしめたい衝動にかられながら、ぐっと両手を握りしめた。どうしてナルトはいつも一番自分の欲しい言葉をくれるのだろうか。それに比べ、自分は彼の事を傷つけてばかりだと言うのに。

「答えがでないのなら……」

 シカマルとナルトの間にネジが口を挟んだ。干渉するネジと言うのも珍しい。

「帰るぞ、ナルト」

「ネジ!」

 宙ぶらりんになっていたナルトの手をネジが取る。

「それに、お前たちの付き合いがどうなろうとも何も変わらないだろ。全てが結果論に過ぎない。そんな無駄な話の為に時間を割く必要も感じない」

「結果論って…」

 ナルトは不満そうだ。シカマルはナルトの手を取ったネジを責める事も出来ない。自分からナルトに相応しくないと邪魔になると、彼を傷つけたのだから。その全てをナルトが受け止める覚悟であろうとも、シカマルにはまだ迷いがある。どこかで躊躇している自分が居る。

「それに、現段階でシカマルに答えを求めるのは愚の骨頂に過ぎんからな」

 射抜く様な視線にシカマルは言葉を返せない。揺れているのはナルトでなくシカマルのだから、ネジの言う事は的を得ている。

「それよりもナルト。お前はその目を治す事が第一だ。今のままでは普段の任務にも差し支えるんだぞ?火影就任どころじゃない」

 その科白にシカマルが顔を上げる。訝しげな表情をネジに向けた。

「目って、サクラの…」

「春野サクラは少し痣を作った程度だ。それよりも問題なのは、ナルトの視力が低下していることにある」

「視力の…低下?」

 確かめるようにネジの言葉を反芻したシカマルは、はっとナルトを見た。

「あ!し…心配することねえってば。今は、検査で瞳孔を開いてるから、包帯してるだけで……」

 取り繕うようなナルトの言葉に、ネジのわざとらしい溜息が重なる。

「よく言うな、ナルト。原因が分からないんだから、悠長な事は言って居られないんだぞ?」

 ネジの口調にはナルトを労わる雰囲気が交っていた。シカマルはただナルトを見つめるしか出来ない。

「なんか久し振りに頭つかったから、ヒステリー起こしてんだってばよ」

 明るく言うナルトを痛々しく見つめたシカマルは「原因不明」という部分に引っ掛かりながらも、ネジからナルトの手を奪い取る。

「ネジ、ナルトは俺が責任を持って送り届ける」

「……シカマルが?」

「ああ、約束する」

 ふうっと息を吐いたネジは「損な役回りだ…」とぼやいて、肩を竦めた。

「明日の午前中に、木の葉病院で再検査がある。それも任せて良いと、そう言うことか?」

「俺は明日任務が入ってないから、それも大丈夫だ」

「それならいい。シカマル、一応経過報告は待っているからな」

 頷いたシカマルを確認したネジは、ナルトの肩にぽんと手を置く。

「医者の言う事には、心身疾患だと言う診断をされた。シカマル…そう言う事だ」

 全部お前の所為だと断言されて、シカマルは苦笑する。

「わかった」

 ネジが背中を向けたのを見送り、シカマルはナルトの手を握る手に力を込める。

「ナルト…二人で、ゆっくり話をしようぜ」

 全てが結果論。ネジの言う事は尤もで反論もできなかったけれど、一番近くでナルトを見ていたという自信はある。指先に絡まる温もりにナルトは微笑んだ。

「…シカマル、ありがとだってばよ」

 礼を言われる事なんて何一つしてない。

「また、シカマルと話せるの…すっげぇ嬉しいから……」

 ナルトの言葉が終わらない内に、シカマルはナルトを抱きしめていた。数日離れていただけなのに、ナルトの身体が一回り小さく感じるのは勘違いでないはずだ。何度も何度も、この身体を抱きしめてきたのだから、ほんの些細な変化にも気付く事が出来る。

「ナルト……」

「シカ?」

 ぎゅうと抱き締められて、ナルトはそろそろとシカマルの背中に手を回す。

「ごめんな、お前の気持ち…無視するような事して」

「ンなこと!シカマルはオレの事思って…!」

「ちげぇよ。俺は自分の事ばっか考えて、勝手な理屈でお前を追いこんだにしか過ぎねえ。そんな馬鹿野郎だ」

「シカマル…」

 こつんとシカマルの胸に額を寄せたナルトは、目尻にたまる熱いものの存在を感じる。

「あったかいってばよ…シカマル」

 シカマルは本能的な感情を止める術も知らない無意識の内にナルトを抱きしめていた。

 

 

 

 

  

 

 

次回こそはエンドマークです。

このままラストへ行ってしまうのは投げやりな感じがして、

ここで切りました。

残ってるのは、お互いの気持ちを吐露するとことラブラブハッピー??

…のはずです。

波乱万丈だなぁ。この二人は。

ネジを書いてると、無性にテンションあがるのはどうしてなんだろう()