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Love of lonely 3
突然、別れを切り出してきた恋人は、じっと自分の事を見つめている。ナルトはその視線を感じながらも、俯いたままで居た。 今まで、シカマルと別れようなんて思った事は一度もない。ナルトにとっては唯一無二の存在であり、人生の中で必要不可欠な存在が奈良シカマルだからだ。辛い事があっても耐えて来られたのは、自分が火影になって忍の世界を変えるという目標と共に、いつもシカマルが一緒に居てくれたからである。 「ちょ…意味、わかんねえ」 「ナルト…」 シカマルのベストを握るナルトの指が真っ白くなっていく。それにシカマルの指がかけられた。カタカタと震えるナルトが、決してシカマルを見ない理由を知っている。シカマルに嘘や冗談の表情が見えない事は長い付き合いでナルトも分かっているのだ。だから、現実を逃避する為にシカマルの顔を見ないようにしているのだ。 「ナルト、俺の話を聞けよ」 「聞きたくねえよ。いきなり、別れるとか言われて……ンなの、……そんなのってねえじゃん」 温かいシカマルの手をナルトは無意識の内に払う。シカマルは、やっと顔を上げたナルトを見て胸が締め付けられた。真っ赤になった瞳は今にも涙が零れてしまいそうなくらいである。必死になってそれを我慢しているのが、手に取る様に分かってしまう。瞬きひとつで、頬に流れるだろう雫。 「ナルト…」 「オレのどこが気に入らねえの?オレの事、嫌いになったとかじゃねえよな?」 「……違う」 「なら、なんで…別れようとか言うんだよっ!」 昼間から様子が可笑しかった。火影へ打診をされた話をした時から、シカマルの様子が可笑しかった。なにがどうとか、はっきりした事は分からなくても拭えない何かが不安だった事を思い出す。 「オレが、火影になるから…?」 それしか、思い当たる節がない。シカマルの変化は、ソコから始まったのだから。 「お前は、俺がお前と別れると言ったら火影の補佐として俺を必要としないか?」 シカマルの言葉に、返す言葉が見つからない。どうしてそうなってしまうのだろうか?どうしてこんな風になってしまったのか。ナルトには思い当たる事は全くと言って良い程見つけられないのだ。 「じゃあ、オレが火影になるのやめるって言ったら、シカマルはオレと別れるとか言わねえの?」 必死になって我慢していた涙が、瞬きをした瞬間に零れおちた。シカマルはナルトの言葉を否定する意味で首を振った。 「俺の気持ちは固まってる。お前が、火影にならないと言っても…―――――― 」 「聞きたくねえっ!」 ドンっとナルトの拳がシカマルの胸にぶつけられる。 「勝手に決めるなんて、ずりぃってばよ。二人の事なのに、なんでシカマルは勝手に自分だけで決めちまうんだってば?嫌いでもねえのに、オレの事嫌いになったんじゃねえのに……オレはシカマルと別れなくちゃいけねえの?」 ずるずると崩れ落ちたナルトが畳の上に蹲る。震えた肩に触れようとした瞬間、シカマルは躊躇してその手を仕舞った。 「嫌いだって言われた方が、まだマシだってばよ…」 涙声が吸い込まれていく。 それでも、シカマルはナルトが嗚咽を上げるのを見ているしかできなかった。 これは、自分で選んだ結果なのだ。ナルトを泣かせる事になると、分かっていた結果だ。自分の心は今でもナルトに向いていて、そしてナルトの気持ちも真っ直ぐにシカマルに向けられている。 「も…シカマルは、オレの事……――――――― 好きでも嫌いでもねえの?」 シカマルの胸に、ナルトの言葉が突き刺さる。そうだと言えば、いいのだろうか?そう言えばナルトは納得するのだろうか。何も言葉を返せないままでいたシカマルに、ナルトはむくりと起き上がる。真っ赤に腫れた瞼も瞳も、痛々しくてしょうがない。それでも、自分の意志を貫き通す為にはナルトを突き放す必要があるのだ。シカマルにはそう思えてならなかった。 「シカマル…」 ぐずりと鼻をすすったナルトが、必死に笑みを作る。 「ナルト?」 ナルトはシカマルのベストを掴むと、ぐいっと彼の身体を引き寄せる。そして、その唇に自分のそれを当てた。それでも、シカマルは微動だにしない。触れ合う唇はこんなに熱いと言うのに、全てを拒絶しようとするシカマルのオーラが、二人を隔てた。唇を合わせるという神聖な行為の間も、シカマルはナルトに厳しい視線を送っている。 ゆっくりとシカマルから離れたナルトは、新しい涙をぽろりと零した。 「ずりぃよ…シカマル」 「こんな酷い男なんて、忘れちまえよ。ナルト…」 ナルトは頭を振る。そして、掌をシカマルの頬に当てた。 「オレ…バカだから、そんな風に割り切れねえ。だって、シカマルの事、すげえ好きだもん」 ナルトが見せた笑顔は、悲壮感に満ちていてそれでも奇麗に見える。真っ直ぐに自分だけに向けられる好意に酔ってしまいたい自分も居る。それでも、シカマルは首を横に振った。 「俺の気持ちは、変わらねえ」 「……それでも、オレはシカマルの事好きだから。絶対に、納得できねえから」 シカマルはナルトの静かな呟きを聞き終わると、すっと立ち上がる。背中に感じるナルトの視線を振り切ると、襖を開けてその場から去る。 ぱたりと締めた襖の奥で、再びナルトの嗚咽が聞こえた。切り裂かれるような心の中で、それでもこれだけは譲れない信念がシカマルの中にあり、ナルトの声を振り切る様に冷たい廊下を歩いた。 「最低だな」 それは、最初から結果の見えていたこの状況の事を言うのか、自分の中に渦巻く感情の事を言うのか。シカマルにも理解不能な感情が、理性によって抑えつけられる。ギリっと噛みしめた唇から滲んだ赤い体液が顎を伝う。 一時の痛みは、きっと、永遠にも続く痛みで。それを背負って行く事を決めたシカマルには後戻りはできないのだ。どれだけナルトを傷つける事になっても、何年か先にはこの選択が正しかったと……そう思えるように。今は、ナルトへの気持ちに蓋をする。自分以上に繊細な心を持っているナルトに消えない傷を付けてしまった免罪符がある。だけれど、もう後戻りはできないのだ。 シカマルが空を見上げると、細い月が視界に入る。触れれば切れてしまいそうな細い月。 切り裂かれてボロボロになるのはナルトでなく、自分だけでいいのに…そんな風に感じたシカマルは、自分の選択肢に間違いはないと、そう信じたかっただけなのかもしれなった。
ナルトは逃げ出す様に奈良邸を後にした。 ナルトの表情を見たシカクやヨシノは驚いた事を隠す事なく、ナルトに接してくれたのだが、それに応えるだけの余裕がナルトの中にはなく、本当に逃げ出す様に出て行ってしまったのだ。それから、どうやって自分のアパートに戻ったのか記憶が曖昧である。 アパートに戻っても、部屋の電気を点ける気にもならない。窓辺のベッドに座りこみながら、思いだしたくないシカマルの言葉を思い出す。 自分と抱き合うだけで唇を合わせるだけけで、安心すると言ったシカマルの事が忘れられない。つい半日前の出来事だ。鮮明にシカマルの与えてくれる温もりを思いだして身震いをする。 彼との別離を考えた事など一度もない。そんな態度も微塵とも見せてはいなかったはずだ。それでも、シカマルはナルトが火影にならないと言っても、自分の意志を変えないとはっきりと口にした。彼はその場の感情に流されるような男でなはない。ナルトにはそれが分かっている。彼の信念は、曲がる事はないのだ。一方的に別離を宣告された形になっているものの、認めていないのはナルトだけで、シカマルの気持ちは固まっているのだろう。 闇が深くなる。どんどんと真っ暗になってナルトを飲み込む。 光が見えない。 シカマルと言う存在を失くした事を考えると、精神的に可笑しくなりそうだった。シカマルは自分の言葉を聞き入れてはくれない。彼の心の中に、入り込む隙間もない。 火影になる話を受けようとも断ろうとも、シカマルの気持ちは変わらないのだ。変えられるだけの魅力が自分にはないのだろうか。昼間、垣間見たシカマルの暗い表情が頭の隅をよぎる。 彼は、ナルトの事を祝福してくれてない訳ではない。それは、シカクとの話の内容でも分かる様に、ナルトが火影としてやっていくための事を真剣に考えてくれていた。 「でも、分かんねえ…」 それと、シカマルと別れると言う事がどう関係しているのだろうか?ナルトは一睡もできないまま、朝を迎える事となる。窓から入ってくる太陽の光で、ナルトは呆然としていた事を思い知った。 何も考えることなく過ぎて行った時間。何をどう理解して、現在の状況に結びつければいいのかわからなかったのだ。そうやってぼうっとしている内に朝がやって来た。 どんな状況下でも、こうやって太陽は昇る。 今日、明日、明後日…遠い未来、近い未来。シカマルとの別離を決めても、こうやって太陽は昇るのだろうか。ナルトの瞳には何も映らない。朝日に照らされる木の葉の里が好きだった。新しい今日と言う一日が始まる瞬間が大好きだ。 でも、ナルトの隣にシカマルはいない。冷たいシーツに手を合わせたナルトの頬を新しい涙が零れる。もう何もかも忘れて、眠ってしまおうか。ナルトは思考する事をやめて、ぱたりとベッドに倒れる様にして蹲った。目が覚めて、全てが夢だったと……そうならばどれだけいいだろう。 寝ぼけた自分を優しい瞳をしたシカマルが呆れたように起こしに来てくれる。そして、幸福を与えてくれる口付けを。 ナルトは遠くなる意識の中で、シカマルの笑顔を浮かべた。 「シカ…」 呟いた声は掠れている。この声は、彼に届くだろうか。届いて欲しい……そして、シカマルの考えている事の全てを知りたい。ナルトは疲労から遠のく意識の中で、柔らかく自分を呼ぶ声を聞いた様な気がした。
シカマルは任務帰りだった。いつもならば、任務明けにナルトの家に寄っていたのが、真っ直ぐに家に帰るというように変わった。ナルトに別れ話をしてから数日。 心の中に靄が掛かった状態は晴れる事はない。苦々しく思って煙草を銜えた所で、見知った顔が視界に入る。彼女の表情を見ただけで、良い話でない事だけは分かる。シカマルは煙草の先に火を点けると紫煙を吐きだした。 「ちょっと、いい?」 「ああ…」 別段と断る理由もなければ、いつかは通る道のひとつなのだから避けてもしょうがない。 「なんだよ、サクラ。忙しいんじゃねえのか?」 「忙しいわよ。でも、私ブチ切れてんのよ」 察する所、ナルトから話を聞いたのだろう。そう予測したシカマルは、眉間にシワを寄せながら壁に凭れかかった。 「ナルトか?」 「勘違いしないで。ナルトが私に泣きついてきたんじゃない。反対に、私が言わせたの。今はベッドの上で顔に痣作りながら寝てるんじゃないの?」 「…マジかよ」 サクラならば自分の拳にモノを言わせる……ぐらいの事をするかもしれない。暫しの間、サクラとの間に沈黙が流れる。だが、先に話を持ち出したのはサクラだった。 「どうゆうつもりよ…」 「なにが」 「しらばっくれないで!分かってるんでしょ」 「ナルトと別れるって事か?」 しれっと答えたシカマルにサクラの怒りが頂点に達するのが見ていて分かる。ギロリと睨みつけられたシカマルは煙草の火を消す。 「ナルトの気持ち、一番に分かってるのはシカマルじゃないの?」 「……どうだろうな」 「真面目に話してるんだけど?」 「俺だって、真面目に話してないつもりはねえぜ?」 「してないっ!核心から話がそれてる。どうしてナルトと別れようと思ったのか、ちゃんとナルトに話をしてないでしょ。別にそれを私にしろとか言ってんじゃないわよ!なにもかも宙ぶらりんで…そんなんで前に進めるはずもない。それに、ナルトにはあんたが必要なのよ…シカマル」 最後は悔しそうに声を飲み込む様な呟きだった。シカマルは苦しそうに瞳を閉じたサクラをじっと見つめる。こんなにも真剣にナルトの事を考えてくれる人間は自分以外にも居て。これが、現実だ。 「別に隠すつもりはねえよ。ナルトの将来には俺は邪魔な存在だと感じた…だから、別れようと考えた」 シカマルの言葉が終わらない内に、凭れた壁にドゴンと爆音が響いた。それはシカマルの丁度顔の横辺りで、サクラの拳が壁にめり込んでいる。 「やっぱり…ふざけてるわよ」 「サクラ…」 「そんな事、誰が決めるのよ!ナルトの将来の心配勝手にするくらいならね…将来的にあんたの事が必要じゃないっていうナルトに振られてやる覚悟してナルトと付き合いなさいよっ!それが出来ないなら、最初からナルトと付き合う事、やめれば良かったじゃない?ナルトの夢は火影になる事、ずっと変わんない。それをシカマルだって知ってるでしょ。それを、何を今更……今更、遅いわよ。ナルトはシカマルがいないと前に進めない」 シカマルはぐっと唇を噛みしめる。 「それが、一番の問題だろうが。俺が居ないとナルトが前に進めねえって…どうすんだよ。そんなで火影になれるのか?そんな危うい状態であいつを火影にすんのかよ?必要とされてる?!裏を返せば…俺はあいつにとって邪魔な存在になるんじゃねえのか?危惧する存在になるんじゃねえのかよ!」 思わず吐露した心の内。シカマルははっとして口を噤む。バツが悪そうにサクラから顔を背けると、最近では珍しくない溜息をついた。 「それが、シカマルの本心……?」 ナルトの為を思って自ら身を引く覚悟をした彼の決心。痛いくらいにナルトの事を思っている事が分かる言葉だった。 「…シカマル。あんた、忘れてるわよ…ナルトはね。案外、打たれ強いのよ?」 壁から拳を抜いたサクラはその手にふうっと息を吹きかける。 「それだけの覚悟がシカマルにあるなら、私は大丈夫だと思う。ねえ、ナルトを助けてあげてよ。あいつ…シカマルに嫌われたと思って、今までにないくらい落ち込んでるのよ。ちゃんと、話をしてあげてよ…それで、二人で決める事じゃない?あなたたちの気持ち、一方通行じゃないんだから、独りよがりにあなただけで結論を急がないで」 それだけ言うとサクラはシカマルに背中を向ける。 独りよがり……――――――― 胸にズキンときた言葉だ。この気持ちは、独りよがりでしかないのだろうか。想定できるいくつものパターンを考慮して出した答えだと言うのに、それは自分が勝手に決めてしまったことに過ぎないのか。確かに、この気持ちにナルトの気持ちは考慮されていない。 …そう言えるだろう。 シカマルは、サクラの言葉を思い出し、自分が思わず口にしてしまった事も頭に巡らせる。
――――――― ナルトを助けてあげてよ。
自分でなくとも、ナルトを助ける手はいくつもあるのではないか。その一人がサクラであり……しかし、彼女の言うように、ナルトとしっかりと話をしなくてはいけないのは本当の事だ。 シカマルは自宅へとは反対方向に向かう事に決めると、煙草を取り出して火を点けた。
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やっぱり、また続いてしまってゴメンナサイです。
すれ違いなシカナル…と言う事でしたので、すれ違いです(笑)
次回、ハッピーエンドにできるといいなぁ。
ナルトはシカマルの突然の別れに「?」しかないでしょう。
シカマルの考えは次回に。