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Love of lonely 2
土手に寝転びながら、空を見上げる。正しくは、流れる雲を見つめているのだが。 シカマルはふうっと溜息をついた。瞼を閉じると、先程別れたナルトの顔が浮かんでくる。大好きな青い瞳が曇っていた。大きく見開かれたそれが、信じられない者を見る様に自分を捕えた事がなんだか悔しい。 ナルトが火影になる。 それはナルトの小さい頃からの夢であり、目標として居る事でもあった。それが、今まさに叶おうとしている。それを喜んでいない訳ではない。 なのだが…… 「火影の補佐なんて……」 自分の器ではない。そうナルトに告げたのも嘘ではない。本当にそう思ったからである。ナルトは自分が補佐になる事を望んで居た。贔屓目なしの判断だと言っていた。そうであろう。彼はいい意味で打算も計算もない。難しい事を考える事は苦手だと言えるが、それ以上に誰しもが持っている直感力は優れている。 なのに、頷けなかった。シカマルの中に湧いて出た「迷い」がそれを止めたのだ。今のお前なんかに火影の補佐が出来るのかと、自分の中でもう一人の自分が問いかける。答えは曖昧で、だからこそ、ナルトを前にして逃げ出してきてしまったのだ。 それ以上でもそれ以下でもない理由。理由なんて必要ない。シカマルは、久々に混乱している事に気が付いた。物事の本質が見えない。自分がどうしたいのかも分からない。 「…なんだかなぁ」 流れる雲に独り言を呟いて、ふっと嘲笑の笑みを浮かべた。
シカマルならば、二つ返事…くらいに考えていた。 ナルトの頭の中でシカマルの言葉が反芻している。悪い、と言った彼。それは、自分の誘いを受けられないという返事。それだけなのなのだろうか? 「シカマル…」 夜は一緒に一楽のラーメンを食べようと約束したのに。隣にその姿はない。シカマルが火影になる自分を祝福してくれていないのではないと言う事は分かる。分かっている。 なのに、ずっと感じている違和感は不快感となって胸のなかで渦巻いていた。ナルトは落ち込みながら歩いて、一つの建物の前で止まる。見慣れたそれの中に入り、静かに教室の扉を開けた。自分の存在に気が付いたサクラが、時計を指差しながらジェスチャーでもう少し待つように伝える。ナルトは頷いて、外へ出た。廊下の窓から外を眺める。サクラを待つ時間はあっという間に流れ、聞きなれたチャイムが耳に届く頃彼女の姿が現れる。サクラはアカデミーで特別授業を担当しているのだ。もちろん、臨時講師という形で。彼女の高い医療忍術は誰からも認められており、任務の合間に次世代の教育係という役目もこなしている。 「サクラちゃん、タフだってばよ」 「あんたに言われたくないっての!それより、どうしたの?珍しいじゃないの…こんなとこまでやってくるなんて」 少し長くなった髪をかきあげたサクラは、俯くナルトの顔を覗きこむように首を傾げた。 「ちょっと、話ってか…相談があって」 「そう。立ち話もなんだわね…この教室空いてるから…中で座って話さない?」 「あ、うん。サンキュだってばよ」 少し辛そうな笑みを浮かべたナルトを見てサクラは溜息をつく。教室に生徒の姿はなくシンとしていた。適当に椅子に腰かけたサクラの前にナルトも座る。 「懐かしいってばよ…」 ナルトの言葉を聞いたサクラはくすりと笑った。 「そうね。私たちも、この席に座って一緒に学んでた。忍になる事を夢見てた」 遠い昔のように感じてしまうが、まだこの間のことのように感じてしまう。悪戯をしてイルカに廊下に立たされるなんて日常茶飯事で。とにかく、毎日が楽しくてしょうがなかった。アカデミーでナルトはかけがえのない友を得た。それは、忍になってからもだけれど。 「あのさ、サクラちゃん。カカシ先生から呼び出し受けてさ…」 「七代目から?」 「オレ、火影になれんだって…」 ナルトの言葉を聞いたサクラは大きく目を見開く。そして、ちょっと潤んだ大きな瞳がくしゃりと歪んだ。 「おめでとう!ナルト。夢…叶ってよかったじゃない」 「うん、サンキュだってばよ」 照れ隠しのために笑ったナルトの態度にサクラは首を傾げる。いつものナルトらしくない。 「なによ、嬉しくないの?」 「ンな訳ねえってばよ!火影はオレの夢だってば…嬉しくない訳、…ねえってばよ」 語尾が小さくなるナルトは項垂れた。その金色の旋毛を見つめたサクラは溜息をつく。 「じゃあ、なんで落ち込んでるのよ。意味わかんない」 やはり、サクラの目からみても落ち込んでいるように見えるのだ。ナルトは認識してまた落ち込んでしまう。 「それは、シカマルに振られたから…」 「はぁ?!」 思わず立ち上がったサクラの驚愕の顔を見たナルトは慌てて付け加える。「火影の補佐」を彼に頼んで断られたと言う事を。サクラはシカマルとナルトが付きあっている事を知っている数少ない友人の一人だ。彼女に淡い恋心を抱いていたのは、この学び舎に居た頃だと言う事を思い出す。今に至っても、ナルトにとってサクラは高根の花であり、憧れる存在である事も変わりない。 「シカマル、断ったの?……私から見ても彼は適任だと思う」 サクラの科白を聞いて、ナルトは自分の選択は間違っていなかったと確信した。 「オレも…そう思ったんだけどさ。シカマルは違うって感じたみてえ」 サクラはナルトの言葉を聞いて、むっと顔を顰める。 「サクラちゃん、オレ…サクラちゃんにも頼みてえって…」 サクラはナルトの言葉を遮る様に首を横に振る。 「私こそ、器じゃないわ…なんて言いたいんだけど、私が今力を入れている事…知ってるわよね?医療忍術はチャクラコントロールも難しくて、育成するのも難しい。毎年、忍になるアカデミー生は何人も居るわ。でも、現実は…医療忍者を育てるのはとても大変な状況は変わってないの。私はそれに全力で向かいたい。ナルト…あんたを応援する気持ちはあるけれど、二足のわらじは無理だって分かってるのよ」 サクラの答えは最初から予想できた。近年、彼女が何に重点を置いて生活して居るか十分に知っているからだ。サクラには断られても、傷つく事はなかった。予想で来ていたからではなく、シカマルの時のような裏切られた感覚はなかったのだ。 「ねぇ、ナルト。あんたらしくないわよ?」 「サクラちゃん?」 「諦めないのド根性が、あんたの忍道なんでしょ?一回くらいシカマルに断られたからって、諦めるの?そんなんで凹んじゃうの?」 サクラの言葉に、ナルトは首を振る。 「火影になって、オレから正式にシカマルに任命して…それをシカマルが断らないのは分かってんだって。でも、そうゆうんじゃなくってさ……なんか、隣に居てくれるのが当たり前だと思ってたから、ショックだったんだてばよ。これでも」 「あ〜あ…ノロケないでよ。それで、諦めるの?シカマルの事」 「諦めない」 にまっと笑ったナルトの拳にサクラは拳を合わせる。サクラとの関係は、変わってしまったようで同じだ。ずっと、一緒に前を見ている同士である。 「ナルトが火影ね…私も負けてらんないわね」 「オレだって、サクラちゃんには負けねえってばよ!」 顔を見合わせて笑った二人は、もう一度拳を合わせたのである。
「あら、久し振り。いらっしゃい」 いつもと同じ笑顔で迎えてくれるヨシノにナルトはぺこりと頭を下げる。 「ナルトくん?」 「あの、シカマル…帰ってきて…」 「ええ、さっきね。あの子に用事なの?」 「大事な話があるんだってばよ!」 必死なナルトの形相を見たヨシノは面喰いながらも、ナルトを中に通す。ダイニングにはシカクが茶をすすりながら腰を落ちつけていた。 「よう、ナルト」 「久し振りだってばよ、おっちゃん」 「ゆっくりしてけよ」 「おっちゃん、しばらく厄介になるってばよ!」 ナルトの言葉に、ヨシノとシカクが顔を見合わせた事は言うまでもない。そこへ、運が良いのか悪いのかシカマルがひょこっと顔を出した。 「ナルト?」 ナルトはぎゅうっとシカマルの腕を掴む。 「離さねえってばよっ!」 「お、おい…何のつもりだ?」 「首を縦に振るまで、離さねえって言ってんだってばよ!」 ナルトの言葉の意味を理解したシカマルは、短い息を吐いた。そして、驚いたように自分たちを見るヨシノとシカクを見て、もう一度溜息をついたのだ。 シカマルがナルトの誘いを断ったと聞いたシカマルの両親は苦虫をつぶしたような顔つきである。まさか、自宅にまでやってくると思っていなかったシカマルは内心驚いているのだ。しかも、シカクからは白い目で見られている。 「話はするから、離れねえか?」 「逃げる」 「逃げねえ!」 「なんだ、シカマル…ナルトの前から逃げ出してきたのか?」 シカクは面白そうにクククッと笑う。シカマルは舌打ちしながら、ナルトを宥めるような瞳で見つめた。 「逃げてねえし、逃げねえし……」 「ホントに?」 「俺が嘘ついた事、あるか?」 シカマルの言葉にすっとナルトは腕を離す。 「おっちゃんにも聞いて欲しいんだってばよ。オレの考え」 「ん?そうか。分かった。とりあえずは、腹ごしらえだな、母ちゃん?」 ヨシノはふふっと笑うと「そうね」と答えた。 食事を終えた後、シカクはシカマルとナルトを伴って和室に移動する。ナルトは緊張しているのか、カチンコチンに固まっていた。 「緊張するこたねえぞ?ナル坊」 シカクの言葉にきごちなく頷いたナルトを見てシカマルはくすっと笑う。緊張しまくりではないか…そうツッコミたい気持ちを抑える。 「それで?シカマル、お前はナルトの気持ちにどう答えようってんだ?」 シカマルは向かい合った父親の瞳をじっと見つめる。 「俺はナルトの話を受けようと思う」 「へ?」 シカマルの隣に居たナルトは間抜けな声を出してしまう。頑なに否定されると思っていた自分の考えをすんなりと認めるシカマルは、昼間とは別人のようで。 「そうか…」 シカクはにんまりとした笑みを唇に乗せる。 「但し…」 話を続けるシカマルに、シカクは首を傾げた。 「ナルトも俺も若すぎる。七代目の言う世代交代という意味は分かるが、ナルトにしても俺にしても例を見ない若年層であることは、歴代の火影を見ても分かる。俺一人で、ナルトを補佐するには無理があると思うのも本当だ。だから、親父に早々引退されるのは困ってのが俺の考えてる全部だよ」 シカマルの話を最後まで聞いたシカクは唸ると、チラリと息子を伺う。 「それは、時期上忍班長をナルトの補佐に…と言う事か?」 「そうだ」 ナルトはシカマルとシカクの間のやり取りの意味がちっとも分からない。 「シカマル…意味、分かんねえんだけど?」 袖口を引っ張ると、シカマルはふっと笑う。 「俺は、日向ネジもナルトの補佐にと考えてんだってこと」 「ネジ?」 ナルトは一期上の上忍の顔を思い浮かべる。 「…ったくよ。カカシは早々と火影になっちまって、上忍班長を下りる機会がなくなったと思えば今回もそのパターンかよ。老体にどんだけ鞭打ちゃいいんだ…全くよう」 独り言のように愚痴ったシカクが腰を上げる。 「おっちゃんっ!」 振り向いたシカクは「しょうがねえ…」と答えて、部屋を後にした。二人きりになって、ナルトはがばりとシカマルに抱きつく。 「シカマル!サンキュだってばよ。オレ、なんも考えてなくて…すげ考えてくれてるシカマルが嬉しいってば」 シカマルは抱きついてくるナルトの背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。そして、ふうっと息を吐く。 「ナルト、俺たち…別れようぜ」 ナルトは耳元でしたシカマルの声に、ぴたりと動きを止める。 「今、なんて…」 「別れよう、ナルト」 「シカマル…?」 ナルトはシカマルから離れると、じっと彼を見上げる。 「なに…冗談言って……」 真剣なシカマルの顔を見れば、それは冗談でない事はすぐにわかる。分かったが、ナルトは冗談にしたかったのだ。聞かないふりをしたかった。 「俺は、冗談なんかでそんな事言わねえよ」 ナルトはシカマルのベストをぎゅと握る。その手が震えている事に気が付かないままで。
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やっぱり、また続いてしまってゴメンナサイです。
すれ違いなシカナル…と言う事でしたので、すれ違いです(笑)
次回、ハッピーエンドにできるといいなぁ。
ナルトはシカマルの突然の別れに「?」しかないでしょう。
シカマルの考えは次回に。