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KOIGOKORO 3

 

 

「お〜、誰かと思えばシカマルじゃん」

 屋上でぼけっとしていたシカマルの視界に飛び込んできたのは、幼馴染(悪戯仲間と言うやつかもしれない)の一人である、犬塚キバだ。

「…ンだよ、お前もサボり?」

 午後の授業が始まるチャイムを聞いたのは随分前だったような気がする。それは知っていたが、眠気が先に来て起き上がるのが面倒になってそのまま寝転んでいた。

「違げーよ、ウチは自習」

 どかりとシカマルの隣に腰を下ろしたキバがにししと笑う。自習は自由行動していい時間ではないのだが、キバにとっては大した違いはないのだろう。

「そっか…」

 特に話がしたい訳ではない。それよりは、一人で何も考えずに空を仰ぐのが好きなのだ。

「シカマル〜そういや、ナルトから何か聞いてるか?」

 シカマルはキバに心の中を盗み見られているのではないかと、ドキリとする。空と同じ色の瞳を持ったナルト。キスを盗みとった晩から、余計に彼の事を意識してしまう毎日で……今も、なんとなしにナルトの事を考えていた。

「なんかって、ナニ?」

「何って……この前さ、あいつと一緒に帰ったんだけど。そん時、他校の奴から告られてたぜ?」

「……―――――― へぇ、知らねえ」

 少しだけ痛いような気がする胸の奥。平気なフリで平然と答えてみたけれど、本当は平常心なんてどこかへ行ってしまいそうなくらい驚愕している。

「ナルトって、見た目はいいじゃん。中身バカだけど。金髪碧眼でさ…」

「お前がそんな風に思ってたなんて、驚きだな」

 素直に口にすると、キバが眉をひそめるのが見えた。

「……あんな、シカマル。言っとくが俺は一般論ちゅーのを口にしただけで、俺がそう思ってるのとかはぜってーに違げーしっ!」

 物珍しさ…という事をキバは強調したいらしい。確かに、日本人の風貌から離れているナルトはいい意味でも悪い意味でも目立ってしまう存在だ。子供っぽい顔に騙されると、反対に返り討ちに会う事は必須だったりもする。それは、小さな頃からシカマル、キバを筆頭に逞しい毎日を過ごしたからだと言えよう。それに、同じ学校に通う者にはナルトの中身もきっちりバレている。おちゃらけた性格をしているし、一対一で付き合うよりも、仲間として友達として付き合った方が楽しい。女子からは男としてあまり認識されていないのかもしれない。女子の中で一緒に菓子をぽりぽりしてまったりしているのが妙に似合っているのだ。だからといって、女々しいとかナヨナヨしているのとも違った。

「てかてか、シカマルさん。俺は知ってんぜ〜?先週も下級生から告られたらしいじゃん?ナルトはどっちかって言うと年上受けいいけど、シカマルとは正反対だよな」

「…勘違いしてんだよ」

「そうかもな?お前が惚れる女ってのも興味あるけど」

 男に惚れてる。しかも、幼馴染の同居人に骨抜きだと知ったら、キバはどうするだろうか?

「それで、ナルトはどうしたんだ?」

 そっちの方が気になってしまう。下級生に告白されたのは本当だが、すぐに返事はした。物珍しさで付き合う気にはなれないし、同じ学校の下級生なんて以ての外だ。

「赤面しながら、アッパーくらわせてたぜ?つか、俺も心は広いけど駅のホームでいきなりで、さすがのナルトも驚いたんじゃねえの?」

「駅のホームで告白しただけで、アッパー?あいつ、……アッパーって、相手は大丈夫なのかよ」

「ナルトより10センチは上背ある野郎だから、大丈夫じゃね?」

 シカマルは言葉を失う。キバなんと言っただろうか……聞き間違いではないのだが、確認したい。

「野郎って……男か?」

「かわいい女の子には見えなかったな。俺には」

 さすがに…というのは、その事に関してキバは言いたかったらしい。確かに、いきなり男に公衆の面前で告白されれば、“さすがの”ナルトも怒り爆発だろう。ヒクとかそう言うレベルから逸脱している。

「そりゃ…そうだわな。相手が男なら、ナルトも……付き合うとか、そーゆう方向にはいかねえよな」

「まあ、普通そうじゃねえの?そっか、あいつ恥ずかしいからシカマルには言わなかったって訳か」

「……そうじゃねえの?」

 キバが何かを話始めた。それが、右から左に流れていく。曖昧に返事をしながら、頭の中ではナルトの事を考えていた。

 男からの告白。

 シカマルだって考えられない。好きな相手からの告白は別だろうが。それは、きっと無理な話である。同性であると言うだけで、恋愛の範囲が括られているようで気が滅入った。当たり前の現実を突きつけられてしまったようである。

「…分かってたけど」

 絶望的ってやつだな…と心の中で付けたした。

 

 

 

 ホームルームが終わったと同時くらいに、教室の扉が派手に開く。終わるのを待っていたのかもしれない。

「おいー、ナルト。騒がしすぎ」

 担任のアスマの言葉に、クラスの連中がくすくす笑いを始めた。そんな事にもナルトはお構いなしのようだ。シカマルを手招きして呼んでいる。シカマルと言えば、少しだけ見えた現実に辟易しながら帰り支度を進めていた。それに業を煮やしたのか、机の前までナルトがやってくる。

「シカマルってば、呼んでんじゃん!」

「わーってるけど帰る準備してんだから、待てっての」

「シカマルに先に帰られたら、オレってば困るんだってばよ」

「は?」

 真剣な顔つきのナルトは顔の前で両手をパチンを合わせた。

「お願いだから、一緒に帰ってほしいんだって!」

「……意味わかんねえ」

 時間が合えばナルトと一緒に帰宅することもあるが、それは約束してるとか決められたとかの話ではない。たまたま帰宅時間が合えば、という程度。そのナルトがシカマルをわざわざ訪ねてきたのには訳があるのだろう。

「今日さ、キバがサッカーやってくとかで……オレ、一人だから」

 シカマルは内心むっとする。キバの身代わりだという事に。

「……ふーん」

「シカマル、だめ?」

 こんな風にかわいくおねだりされたら、ノーなんて言えないのが惚れた弱み。

「お願いだってばよ!一生のお願いっ」

「お前にはどんだけ一生が存在してんだ?」

「意地悪言うなって。オレ、めっちゃマジで困ってんの!」

「困る?」

 帰りの時間帯は電車もすいている。いつしかの朝のようなラッシュアワーからは少しだけずれているので、十分に座れるし乗客にもみくちゃにされる心配もないだろう。

「ま、今日は特に用もねえし……まっすぐ帰る予定だから構わねえけどよ。ちゃんと理由は話すんだろうな?」

 ナルトは眉間にシワを寄せる。話したくないのか、きゅっと唇を噛んで、うーんと首を傾げた。

「話すより状況を見てもらった方が早いってか……あんま、言いたくない」

 シカマルはふうっと息を吐いた。お願いモードになっているナルトは可愛い(そう見えてしまうのだから、末期なのかもしれない)無理難題でなければ、大抵のお願いは渋々のふりをして頷いてしまうのだ。面倒くさいが口癖だけれど、それはナルトに対しては当てはまらない。そんな態度を取ったりするのも、ナルトへの恋心に気が付かれないようにする為のデモンストレーションのようなもの。

「しゃーねえな。お前のおごりでなんか食いてーな」

 腹が特別に空いている訳ではない。本当に頂きたいのはナルト自身なのだけれど、レイプまがいな事はご法度だ。口も聞いてもらえなくなるのは正直辛い。

「うん!シカマルの好きなもん、なんでもおごるってばよ〜。サーンキュ」

 ほっとしたように笑みを見せる顔が、やっぱり可愛い。こうゆう表情が、彼を年よりも若く見せる要素の一つなのかもしれない。

「んじゃ、帰るか」

「おう!」

 ほっとしたような顔でまたにっこりとされて、シカマルはこの下心が何時か成就されないかと心底願ってしまう。それは自分に都合のいい話で、ナルトからしてみたら青天の霹靂なのかもしれないが……

 他愛のない話をしながら、駅までの道をゆったりと歩く。だが、駅に近づくにつれて、ナルトの口数が極端に減った。不思議なくらい彼が緊張しているのが見て分かる。そして、改札をくぐりぬけるときには、どうしてかシカマルのブレザーの袖をちょんと握ってくるナルトの姿がある。

 おかしい…明らかに、妙だ。

「おーい、ナルト?」

「……ん?あ、な…なに?」

「なんかお前、変じゃねえの?」

「そんな事、ないと…思うけど」

 そうだろうか。見事に挙動不審だ。きょろきょろと辺りを警戒しているようにも見える。珍しく脅えたように見えるナルトの隣でシカマルは首を捻るばかりだ。

 そして、そんな二人の前に影ができたのは数分後の事。

「で、出たっ!!」

「はぁ?!」

 シカマルは自分の前に立つ男の姿を見上げる。自分よりも少しだけ背の高いガタイのいい男。

 しかも、他校の制服を着ている。

 この駅に他校の生徒が居ることは、あまり考えられない。

 そして、ぴーんときてしまったのだ。昼間、キバからされた話を思い出して。

「あ」

 ナルトに告ったと言う、他校の男子生徒。見事、ナルトからアッパーをくらい退散させられたと聞いたのに、もしかして……もしかしなくても、これは立派なストーカーさんというやつかもしれない。キバが昼間自分に話したかったのは、もしかしなくてもこの事なのだろう。きっと、告白されたという日から続いているだろうストーカー行為。キバがわざとナルトと帰らなかった理由が想像できた。これは、ナルトごと問題を丸投げされたのだ。心底、やられた…と思う。

「渦巻ナルトくん!今日こそ、いい返事を……――――――」

「いい返事なんて、天と地がひっくり返っても、ぜってーないからっ!」

 シカマルのうしろに隠れながらも、必死に応戦するナルトは正直腰が引けている様に見えた。素直に、恐怖心を抱いているのかもしれない。ナルトの指先が、シカマルの袖口をぎゅっと握りなおしたのを感じてシカマルは溜息を付きたくなった。告白されて、しっかりと断ったはずの男から執拗に迫られている事に恐怖心を抱いているのだろう。ここまで来ると、確かに異常なような気もしてくる。

「ナルト、電車来るし…行こうぜ?」

 こういった輩は完全無視に限る。かかわる事すら、時間の無駄だ。相手にしなければ、いつしか彼もナルトの気持ちを認めざる得ないだろう。

「君の正直な気持ちを聞かせてほしいんだ!いきなり男の俺に告白されて動揺しているのは分かる!」

 いや、動揺っつーか……その域を超えてるぜ?

 シカマルは心の中で呆れ果てた。

「ちゃんとした理由が分からなければ、君を諦めることはできないっ!」

 理由って……同性ですよ?常識的に考えても、理由云々より先にソノコト気が付こうぜ?

 自己中もここまでくると迷惑だ。

「ナルト、行くぞ」

 ナルトは複雑そうな顔をしながら、シカマルの後ろで頷いた。そして、男を無視しようとした所で、腕を掴まれる。

「わわっ!!やめろってばよ!」

「今日こそ、納得する理由を……」

「おいおい、やりすぎじゃねえの?」

 仲裁に入ろうとしたシカマルを見つめたナルトは真っ赤になりながら、一気にまくしたてた。

「オレには、好きな奴がいるから!悪りぃけど、付き合うとかそーゆうの考えられねえってばよ!」

 ナルトの科白に茫然とした男が、その腕を離す。

「す、好きな……人?」

「だから、ノーセンキュだってばよっっ!無理無理無理!」

 蒼白していく、勘違い野郎の横でシカマルも何故か頭が真っ白になるのを感じた。

 

 これは、失恋とか言う前に「嫉妬」の嵐だ。ナルトに好きな奴がいるなんて初耳で。

 置き去りにされた告白男を尻目に、シカマルも絶望的な現実を一日に二度も突きつけられた気分になる。

 

 

冷たい風が、シカマルの心までしみこんで蹲りたい気持ちを必死に堪えたのだった。

 

 

 

 

  

 

 

勝手設定第三弾!(笑)

なんか、青春している……シカマル。

片思いって可愛いなぁ。