中学受験 レーシック

 

 

 

 

Do Me More 3

 

 

 シカマルはそっと抱きしめた腕を解くと、見上げてくるナルトの頭を撫ぜた。今まで、何度もそうしてきたように。

「今日は、疲れてんだろ?早めに寝ろ…」

「あ、うん」

 ナルトは素直に頷いた。

「俺はお前の事が好きだし…そりゃ、忘れられてちょっとは傷ついたけどな。昼間は大人気ない事したってこれでも反省してる。悪かったな、ナルト。お前は、火影である前にうずまきナルトで居てえって言う火影らしくねえ火影かもしんねえけど、それがお前らしくて俺はいいって思ってた。まぁ、当面の事はネジと相談して、どうにかフォローするつもりでいるからよ。安心して…寝ろよ」

 くしゃりと金髪を掻きまわして、シカマルは腕を上げる。落としてしまった本を拾い上げて渡すと、優しい笑みを向けられた。

「お…おやすみだってばよ!!」

「おう」

 パタンと閉まった扉を見つめて、ナルトはふうっと息を吐く。それから、部屋の中にあるベッドの上に座った。

「オレってば…少しはシカマルと仲良くできそうかな…」

 ぽつりと呟いた自分の科白に違和感を覚えた。目が覚めて、彼の記憶がない事に気が付き、なんとなくシカマルの事を誤解して今に至る。シカマル自身の気持ちも聞けたし、彼の自分に対しての態度が柔和なものに変わった。きっと、それはシカマルが自分を火影ではなく、うずまきナルトとして見ていてくれるからだと思った。

 なのに、胸の中がこんなにざわつくのは何故なのだろう。

 もっと、大切な事を忘れているような気がする。それが喉元に引っ掛かった魚の骨みたいに、ちくりちくりと小さな痛みをもたらす。

 ナルトはぎゅっと手を握り締めた。

「ちくしょ…なんだってんだってばっ!」

 ふと、風が頬を撫ぜる。部屋の窓が開いていたのだ。ナルトはそれを閉める為に立ち上がる。カチャリと鍵をかけて、また溜息をついてしまった。顔を上げると鏡がある。それは小さな頃から部屋に置いていた姿見だ。

「あ…」

 じっと鏡に映った自分を見つめる。記憶にある自分の姿より、随分と大人びていた。子供っぽさが抜けた顔つき。なのに、鏡の中に映った自分の顔には見覚えがある。いつも、この表情を見てきた。

 とても、不安そうな顔。

 鏡の中の自分にそっと触れる。自信がなくて、虚勢を張って、毎日必死になって突っ張って居た。

「オレってば、火影になってんだってばっ!なんて顔してんだよっ」

 鏡の中の自分に思わず怒鳴ってしまった。どうしようもない空虚感が襲われ、その場に蹲ってしまう。自分の両手で自分を抱く様にぎゅっと二の腕を掴んだ。

 もう、一人でないはずなのに。仲間も、この里の人間も自分を認めてくれる「火影」としての存在の自分が居るはずなのに。どうして、一人で立って居られないのだろう。

 ツキンと頭の奥が痛くなる。

 

『大丈夫なんて、言うなよ。誰でもそうじゃねえ時はあんだって…』

 

 ナルトは、はっと顔を上げた。誰かの声が頭の奥の方で聞こえる。聞き覚えのある声のはずなのに、誰なのかは思い出せない。

 

『ほら、笑ってろ。お前は、笑ってる方が似合うぜ?』

 

 そして、ふわりと背中から抱きしめられる感触。温かくて嬉しくて、心の中に広がる安堵感。鏡の中に映る自分は、確かに誰かに抱きしめられて居て嬉しそうな笑みを浮かべている。

 なのに、今の自分は一人きりだ。ナルトは自分の目を疑う。一瞬、息を止めて見つめると、鏡の中に映るのはやっぱり、不安そうな自分の顔で。

「今の…なんだってば……オレの、記憶?」

 混乱する気持ちが心を不安にさせる。ナルトはさっさとベッドの中に潜り込む事に決めた。冷たいシーツの感触に、また寂しい気持ちに襲われる。

「無駄に広すぎんだってばよ…このベッド!」

 悪態をついてみて、ぽろりと零れた意味のない涙に視界が狭くなって行く。その涙を拭う事もしないまま、ナルトはぎゅっと目を閉じて布団の中に包まった。

 

 

 

 

 静かな廊下を歩くシカマルの視界の中に、壁に凭れて立っているネジの姿が確認できた。

「どうしたんだ?ネジ」

 彼は、無愛想なまま顔を上げるとじっと窓側に視線を移す。

「火影様の護衛だ。一応、気が付かれないようにな……」

 ナルトがネジの家に行っていた事は知っている。シカマルは興味なさそうに、ただ頷いた。切れ者だと言われる自分とは違う意味で、目の前の彼も只者ではないのだ。感覚が鋭く冷静かつ俊敏。

「ンで?六代目はもう寝たぜ?」

 ネジの前を通り過ぎようとしたシカマルに、彼は嘲笑を浮かべる。手元の書物を見て呆れたような顔をされた。その顔になんとなくシカマルは気分が悪くなる。

「だから、…なんだよ」

「お前…ナルトになんで本当の事を告げようとしない。苦しんでおられる火影様の姿を見て、何とも思わない…とは言わないだろうな?最初は、お前の事も気の毒だと思ったが――――― 」

 ネジはそこで言葉を切ると、ようやくシカマル自身に視線を向けた。

「今は、そう思えないがな」

 ネジの言葉にシカマルは反論しない。歩みを止めて、じっと黙っているだけだ。ネジには背中を向けたままだが、彼が自分に対して鋭い視線を送っている事は肌で感じられた。

 だから、ようやく重い口を開く。

「昼間はお前の言う通り、拗ねてたんだよ」

「だろうな…見苦しいくらいだった」

 ふっと笑ったネジの言葉にシカマルは唇を噛みしめた。だが、すぐに思考を回転させる。

「けどな、半日考えた。俺はナルトの事はよく知ってんからな。だから、どうすればあいつが平常心で居られるかも分かる。俺一人の記憶なんてどうでもいいだろ?そう結論付けたら、急に楽になったんだ。あいつが火影としての立場を俺は補佐する……その気持ちは変わらねえし。補佐役はお前だっている。気を張る必要もねえ…ってな」

 ナルトは否定したけれど、これからの自分たちの関係を築いていけばいい…そう思ったのは本当だ。彼が必死になって自分との関係を修復したいと、自分との思い出を否定したくないと言われた事に心が揺れた。だから、思わず震える体を抱き寄せてしまった。強張った身体から力が抜けて、自分にその身を委ねる様に頬を寄せられた瞬間、胸の奥を切り裂くような痛みに襲われたのはつい先程の出来事。

「強がりを言うな。お前は自分自身の保身の為に、そう結論付けたに過ぎない。お前はナルトの事を考えているのではなく、自分の為に…そう決めたんだ」

「…なに?」

「違うと言い切れるか?本当は怖いんじゃないのか?ナルトに本当の事を告げて、それを否定される事がな。お前の頭で考える事なんてタカが知れてる。それくらいの思いで居たと言うのならば、いっその事六代目にはお前の事なんて忘れてもらった方がいいのかもしれないな」

「ネジ…喧嘩売ってんのか?」

 シカマルの声は地を這うように低い。

「はっ…喧嘩だと?俺は真実を述べているに過ぎない。図星だからこそ、お前も腹がたつのだろう?俺はお前に喧嘩を売る気も買う気もない。お前の様な腰抜けとな」

 シカマルの隣をネジは颯爽と歩いて行く。その背中をシカマルは苦々しく睨みつけるしかない。彼の言う事は的を得ていた。心の中に隠しておきたい卑怯な部分を暴かれ、ばっさりと切り捨てられた気分だ。

「ネジ!お前が…お前がもし俺と同じ立場なら…っ」

 ネジはくるりと振り返ると自信満々な顔でくすりと笑う。シカマルはそれを見てはっとしてしまった。

「…なんだ?俺に指南願いたいと言う事か」

 皮肉を込めたその言葉に、シカマルは顔を顰めた。

「俺なら、ヒナタを離す事はない。俺がヒナタを幸せにするのだからな……。俺にはその自信がある。そして、それは俺にしか出来ない事だ。俺は、だから、ヒナタと結婚し彼女の人生を自分のものにしたのだからな。お前にその気がないのなら、ナルトの事からは身を引くのも一つの選択肢になるだろう。シカマル、お前の手に余ると言うのなら…―――――――― 俺がナルトを引きうけようか?」

「てめぇ…」

 シカマルの手の中から落ちた書物が、バタバタという音を立てて床に落ちる。シカマルの手はネジの胸倉を掴んでいた。

「殴りたいなら、殴ったらどうだ?」

 震える拳は、ネジに向かっていた。なのに、全てを見透かす様な彼の視線にシカマルは腕の力を緩める。ネジはその手を振り払うと、項垂れるシカマルを一瞥した。

「一つ、忠告してやる。お前のナルトに対する気持ちはそれだけのモノなら……お前はナルトの補佐役から降りろ。都合よく六代目の近くに居られればいいなど、お前の自己中心的な考えにすぎん。お前の存在は六代目にとって、諸刃の剣だ。その存在で彼が精神的不安定な状態に陥ると言うのなら、已むを得んな。無様にナルトの前から逃げだせばいいだろう?それに…今のお前にはお似合いだよ、シカマル」

 再び背中を向けたネジに、シカマルは言葉を返す事も呼びとめる事も出来なかった。

 情けなくてしょうがない。彼に指摘されなくても十分分かっているのだ。自分の気持ちを誤魔化そうとしているのは、自分が傷つかない為の手段の一つだと。自分の事しか考えないで、自分を守っているだけだと。

 呼吸が乱れる。シカマルは、拳を壁にぶつけた。たらりと手の甲から流れた赤い血が壁を伝って床に落ちる。否定されるのが怖いのではない。そんな軽率な気持ちでナルトの近くに居たのではないのだから。ネジが言う様に、自分の存在がナルトにとって諸刃の剣ならば、ナルトとの関係を今までのように続けてはいけないのではないか…そう思えてならなかった。

 だが、そんな考えもネジから見れば「自己中心的」な「己の保身」でしかないのだ。今までも迷いがなかった訳ではない。だが、ナルトから向けられた他人に向ける様な視線に、心の奥底にある何かがざわめいた。

 そう、今の自分には「迷い」がある。

「腰抜け……か」

 今の自分にぴったりと当てはまる言葉に、額を壁に付けると感情を押さえつける様に息を吐く。こんな所でナルトへの気持ちを再確認させられるとは思ってもみなかった。シカマルにとってもナルトの存在は、諸刃の剣なのだ。それを思い知らされる。

 シカマルは背中を壁に預けると、窓から見える月をじっとみつめた。

 

 

 

 

  

 

 

 

ネジ兄さんを書くのが楽しい…

ネジ好きなんだもん〜(*^_^*)ネジのセリフはネジ兄さんの声で読んでください!!

シカマルもぼろぼろですが……ナルトもしゅんって感じですね。

初心忘れべからず、なシカナルなのです。

すれ違いな分、ラブラブになる予定()