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Innocent love 4
気分よく寝たナルトは、前日の睡眠不足をしっかりと解消した。全てが丸く収まった気はしていない。だけれど、シカマルと自分の中で何かしらの打開策がみつかるのではないか…そんな淡い期待があったのである。今朝は丸こげにならなかったトーストにかぶり付きながら、ホットミルクを飲む。ナルトはふと考える。自分がシカマルと同じく高校二年生だった頃、自分は大人が思うほど子供でないと思っていた。くすぐったくなる感覚なのだが、そんなものなのである。今の自分だって、親の世代から見たら駈け出しのひよっこである事は変わりないだろう。 「シカマルも、高校二年生…いつまでも子供っぽい事しねえよなぁ〜」 それに見た目は随分と大人びている。言動も。昨夜の事を思いだしてナルトはローボードの上に置いてある写真立てに視線を移した。友人たちと肩を並べた写真。中心には今も尊敬するイルカの姿がある。将来だとか未来だとか、そんなものに全く興味がなく毎日を楽しく過ごすためだけに学校に行っていたようなものだ。友人が居て、好きな人が居て、楽しい事も嫌な事も沢山あったけどそれなりに充実して居た高校生活。そこで海野イルカという教師に出会い、その出会いがナルトの人生を変えたと言っても過言ではない。 「オレってば、今日もファイト〜!頑張るってばよっ」 窓から見える太陽に拳を突きだしたナルトは、自分に喝を入れながらネクタイを締め直した。
ナルトは学校に着くなり、受け持ちのクラス担任猿飛アスマに呼び出しを受ける。朝からげっそりとした様子のアスマは、喫煙所のベンチに深々と腰を下ろし、その態勢と同じような溜息を何回も付く。火を点けた煙草が灰になるのをじいっと見つめたナルトは、話を切り出さないアスマに痺れを切らしたようにしかめっ面をしてみた。 「あのさ、ナルト…」 ようやくアスマがそう切り出したのは何本目の煙草を灰にした後だろう。 「人生って甘くねえよな」 「…アスマ先生、その暗〜い顔どうにかなんねえのかってばよ!」 「暗くもなるぜ、こりゃ…」 「はあ?」 キンコンと授業の始まるチャイムが鳴る。良いのか悪いのか、ナルトもアスマも1限目に授業が入っていない。授業前のホームルームは生徒たちに任せた形になっているのだが…アスマにしてみれば、それくらいは問題ない程の大問題が浮上したと言っていた。 「あなのなぁ…」 ガシガシと頭をかきむしりながらアスマが口にした話がナルトの耳をすり抜ける。本当は聞いた事を全てなかった事に、知らない事にしたかったのだ。
人生はそんなに甘くない…―――――。
アスマの言葉がズシンと重荷をナルトの上に乗せて行くような感覚。フィルターまでいった煙草を灰皿に押し付けたアスマは、ちろっとナルトを見上げた。ナルトはアスマの前に呆然とした様子で突っ立っている。 「聞いてんか〜?ナルト。昨日、最後までシカマルと一緒にいたのはお前なんだろ?イルカ先生から聞いたぞ?」 「あ…うん。その…オレ、転寝しちまって……生徒が帰った後、シカマルが起こして―――…くれて」 「そんで?」 「なんだってば…?」 「そんだけかって聞いてんだよ。あいつになんか可笑しな様子は見当たらなかったのか?」 ナルトは真実を述べる事ができない。 「そんなん…わかんねえ」 「ナルト!お前、一応教師だろ?生徒の些細な変化も見逃すな」 「見逃すなって…言われても、さ」 シカマルに告白されてキスされて、その上貞操まで奪われそうになりました…なんてアスマに言えるはずもない。それに、最後に見たシカマルは妙にさっぱりした顔をしていたのだ。 「いきなり、学校やめるなんて…信じらんねえってばよ」 「信じたくないのは俺も一緒だ!」 ガシガシと頭をかきむしったアスマは、再び深い溜息をつく。 「悪いな、大きな声を出して」 「別に…いいってば」 二人の間に重たい空気が流れた。アスマの話によると、シカマルが学校をやめると言いだしたらしい。そして、今日から彼は通学していないとのこと。詳しい事は彼もわからないらしい。丁度、奈良の家からの連絡の電話を取ったのがアスマだったのだ。母親からも詳しい事は聞き出せずにその電話も切れてしまったらしい。 「現在は…高校中退者というのは減少の傾向にある。だが、ゼロでない事も確かなんだがな…とにかく本人に話を聞いてみないと埒があかんな……」 「うん…」 アスマとはこの事を口外しない事を約束に別れた。とりあえず、放課後にシカマルの家に二人で訊ねると決まっただけである。ナルトはアスマの居なくなったベンチにずるりと座ると思わず頭を抱えた。 「ガッコやめんなんて…なんでだよ」 自分がシカマルの気持ちに応えなかったから?その問題ならば、昨夜解決したのではないだろうか。それはナルトが勝手にそう思っていただけで違うのだろうか。シカマルの爽やかな笑顔を思いだして、気分が曇るのを感じた。 「はあ…マジ、人生甘くないってばよ」 ナルトは呟いて、もう一度溜息をついた。それでも、自分の仕事の時間はやってくる。それをとりあえずこなす必要があるのだ。本当はすごく気になってしょうがない。だからといって、上の空で授業をする事は他の生徒たちの妨げになる。それはきっとアスマも同じ気持ちだろう。アスマがひどくシカマルを気に入っている事は知っているから。 授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、教室の後ろの扉からアスマが顔を出して手招きをした。ナルトは手元の教科書と資料を慌ただしく仕舞うといそいそと教室を後にする。 「今日の文化祭の準備な。中止させる訳にもいかないから、代理を頼んできた。お前も一緒に来られるな?」 アスマはナルトの返事を聞かない内にその手首を取った。 「アスマ先生!オレが…一緒に行っても、いいのかって」 「当たり前の事聞くな、バカ。お前も俺も同じクラスを担任して居る事に変わりないんだ。それが副担任であったとしても。もし、シカマルが学校をやめたい理由が正当なものならば、俺には止める事はできんだろうがな…」 ナルトは思わず俯いた。その金色の旋毛をパシンと叩いたアスマが笑う。 「話の全貌が見えないのに落ち込むな」 「もうっ!痛えってばよっ!!」 「やっと、いつものお前らしくなってきたな」 はははっと笑うアスマの前でナルトはきょんとしてしまう。 「朝からちょっとキツイ話をしたからな。お前のことだから、盛大に凹んでるのかって心配してやったんだぞ?シカマルはお前の事が好きみたいだし、説得のためのお守りみたいに隣に据えとこうと思ったんだがなぁ…無理するな」 ナルトは驚いて瞳を大きくするが、アスマの言いたい事がいまいち飲み込めない。 「なんだよっ!アスマ先生が言ってる事ちぐはぐじゃねえか」 「それだけアスマがナルトに甘いって事デショ〜」 ナルトはがばっと後ろを振り返る。声の主はナルトが高校三年間、何故かお世話になってしまった教師である。ナルトはうんざりしながらその声の主を見上げた。 「カカシ先生…あのさ、なんだってばよ」 「ん?俺?アスマに頼まれちゃったからさ、しょうがなくね」 ナルトは口をぱくぱくさせながら、アスマとカカシを交互に見た。 「アスマ先生…代理って、カカシ先生?」 「なに、ナルト。なんか文句でもある訳?」 「べ…別にねえけど。なんかカカシ先生に貸し作ると…」 「ツケはアスマに付けてるから、安心しなさいな」 「や…やっぱり」 「アスマ〜。いい経験になるんだから、ナルトも家庭訪問に連れて行ったら?こいつは学生気分が抜け切れてない甘ちゃんな訳よ。いい後輩を育てるためにはね、たまには崖の上から突き落とさないと、ねぇ?」 ナルトはカカシの楽しそうな顔付きを見てげっそりしてしまう。出会った頃から突き落とされまくりだと思うのはナルトの勘違いだろうか。ナルトは苦笑いしているアスマの袖をちょいちょい引っ張る。 「行くってばよ。シカマルの事は気になるし…」 アスマは頷いた後、準備をして駐車場に来るように告げると早々と背中を向けてしまう。ナルトはカカシと二人きりになって、なんとなく気まずいムードを感じた。 「懐かしいねぇ。学校やめてやるってばよ〜なんて、バカなナルトしか言わないと思ってたんだけど…あの頭脳明晰な奈良シカマルも同じ事言うなんて驚きだよ。先生、なんか懐かしい気持ちになっちゃった」 痛い所を突かれて、ナルトは言葉に詰まる。本当の事なので、言い返す言葉もないのだ。思いだしたくない自分の恥ずかしい話のストックをいくつも持っているはずのカカシには弱い。この学校に赴任が決まって挨拶に来た時には「おかえり」とまで言われた。もう一度高校生をやり直すのかと思ったと真剣に言われたのだ。 「カカシ先生〜…オレだって、もう先生なんだからさ」 「うんうん。教員免許取れるなんて先生も驚きだから!」 「カカシ先生っ!」 「でもねぇ、ナルト。勉強を教えてもらうだけが学校じゃないよねぇ。俺は今も思う訳よ。生徒が居て俺たちは成長させられてるってさ。教師と生徒って言っても結局は人間同士の付き合いには変わりないし…どう?お前は海野先生と出会って人生が変わったとか言ってたけど、目指してるものは海野先生じゃないんじゃない」 おどける所も、なのにたまに真面目な事を言う所もちっとも変わっていない。だから憎まれ口を叩かれてもからかわれても、カカシの事が嫌いになれないのだ。イルカとは違う温かさを持っている。大切にしていると言えばいいのだろうか。 「ンな事、分かってる。オレはイルカ先生みたく大きい器持ってねえし。カカシ先生が言うみたくさ…まだまだ甘ちゃんだし。アスマ先生に気を使われるくらいに……頼りねえんだって」 「あはは〜いいじゃない、すごく成長してる気がする」 ナルトはカカシとのお喋りを中断すると、壁にかかった時計を目にした。 「やべっ!アスマ先生待たせてるってばよ。じゃ、カカシ先生よろしく」 ばたばたと騒がしい所は、学生時代とちっとも変らない。それでも、良い意味で物事に変化を与える才能を持った少年は成長して居ると感じた。 「頑張れ、新米教師」 カカシは笑みを口元に乗せると、アスマとの約束の為に校舎へ向かったのである。
車が静かに駐車スペースに入る。車内ではアスマとあまり話をしなかった。ナルトなりに緊張して居たのだ。ふうっとアスマの溜息が聞こえて、ナルトはシートベルトを外した。そして、見上げたのは純和風な邸宅である。白塗りの壁に、大きな門。 「えっと、なんだろ。こうゆうのって、代官屋敷みてえって言えばいいのかな…なっ、先生」 「ん?…ああ、そうだな」 玄関と思われる所まで敷き詰められた白石が奇麗だ。ふと視線を右に移すと、庭園が広がっている。 「わ〜…先生!池があるってばよ。やっぱり鯉とかいるのかな」 「ナルト…あんまりはしゃぐな」 「だって、すごくね?シカマルってばいいな〜。こんな家にオレも住んでみたいってばよ」 「よく言うよ。お前の家だって十分に大邸宅だろうが!ま、スタイルは違うがな」 ナルトは無意識にネクタイを締め直す。玄関には普通にチャイムがあった。この重厚的な雰囲気に不似合いに見える。 アスマがチャイムを押すと、暫くして返事がある。それから、カラリと扉が開いたのである。 「まぁ、アスマ先生!いらっしゃるんでしたら、ご連絡頂ければよろしいのに」 「朝にお電話を頂いた時に、夕方訊ねると言いましたが…」 「すみません。慌ただしくしてましたもので…あら?」 そこで、シカマルの母親だと見てとれる女性はナルトに視線を向けた。ナルトは思わずガバリと腰を折る。 「こいつは副担任の渦巻ナルトです」 「どうも、はじめましてっ!」 「渦巻…?」 「はい、ナルトと…」 「お会いするのが初めてだと思えないわ」 「え?」 「シカマルの母でヨシノと申します。いつもシカマルがお世話になりまして」 反対に深々と頭を下げられたナルトはドキドキしてしまう。生徒の保護者と対面するのは初体験なのだ。 「あの、話を急かすようで申し訳ないのですが…その、シカマルは?」 アスマの言葉ににっこりと笑ったヨシノは、家内へ促す様に身体をずらした。アスマとナルトは顔を見合わせてそれに従う。通された和室は広く、一枚板で造られた座卓は古いが質の良い物だと見るだけで分かる。盆に茶を乗せたヨシノが部屋に入ってくると、ピリっとした空気が少し柔らかいものに変わった。 「あの、シカマルは…」 「アスマ先生、まずは一服かがですか?渦巻先生も」 「はぁ。では、ありがたく…」 ヨシノの笑顔に何か誤魔化されている様な気がする。それはアスマも同じなのだろうか。ちらりと視線を送られてナルトも湯呑に手を伸ばした。 「あの…」 玉露を一口飲んだナルトが口を開いた。 「はい?」 「シカマルと…いや、シカマルくんと会いたいんですけど。その、彼はどこに…」 「庭の蔵の中に」 「く…ら?」 ナルトは庭に視線を移した。そこには黒塗りの立派な蔵が鎮座して居る。お宝がいっぱい眠っていそうな蔵にナルトの視線が釘付けになった。 「そんな…もしかして、座敷牢?」 ナルトの言葉にヨシノはくすくすと笑い始めた。 「勘違いしないでくださいね。あの蔵は、あの子の部屋のひとつなんですよ?物好きって言うか、屋敷の方にも部屋を用意してますのに、なんだかあそこが気に入ってるようで」 「あ、すみません」 実の親がそんな酷い事をするはずもないのに。一瞬でもヨシノを疑った自分が恥ずかしい。恐縮した思いでヨシノを見ると、またにっこりと笑顔を向けられた。 「強ち渦巻先生の言葉も間違っていませんけど。何代か前までは、座敷牢みたいだったようですし」 さらりと怖い事を言ってのけるヨシノは終始笑顔を張りつけている。ナルトはどうしたらいいのか分からなくなった。アスマはゆっくりと茶をすすっているだけで、行動を起こす兆候は見当たらない。 「アスマ先生!」 必死になるナルトの様子を見たヨシノが初めて笑顔をなくし溜息をついた。 「こんないい先生がいらっしゃるって言うのに、あの子どうして急に学校をやめたいなんて言い出したのかしら?」 「家の方でもその理由は…」 ようやくアスマが口を開く。 「ええ、やめるの一点張りでお父さんと大喧嘩。その理由を話す気はないみたいで…話さない内は承諾書にハンコを押さないって話になってしまって」 「ちょ、ちょっと待ってください!」 ヨシノの言葉に違和感を覚えたナルトは思わず口を開いていた。 「やめたい理由が明確なら、シカマルの退学を認めるって事に聞こえるんですけど…」 「はい。そのつもりですが?」 ナルトは心の中で、叫んでいた。
…信じらんねえ ―――――――――――― っ!!
息子のドロップアウトに反対はないが、その理由がはっきりしない事に拘っている。ナルトにはそう聞こえる。と言うか、そのままなのだろう。 「そんなんっ…そんなんだめだってばよ。シカマルは頭いいけど…そりゃ、シカマルくらいの頭脳があれば大検取って好きな大学に行く事もできるかもしんねえけど……高校生活は勉強だけじゃないんだってばっ!」 大きな声を出してしまったナルトは、その口調も生徒の親に対するものでなくなっている事に気が付く。あっと口を押さえたナルトは、眉をひそめながらアスマを見上げた。彼は肩を震わせながら吹きだすのを必死に我慢して居る。 「興奮して……すみません」 ぺこりと頭を下げると、ヨシノに茶菓子をすすめられた。 「渦巻先生、気にしないでください。こんなに息子の事を思っていただいて、とても嬉しいんですよ?」 「オレ、新米教師で右も左も…すみません。でも、シカマルと話したいんです…だから、彼と会わせてください」 ナルトは座布団の上から下りると、畳に額が付くくらいに頭を下げた。 「先生?!」 「お願いします」 「先生、頭を上げてもらえませんか?別にシカマルに会わせないとは言ってませんし」 「え?」 少し困ったようなヨシノの声にナルトは慌てて顔を上げる。ヨシノはナルトを見て頷いた。ナルトは軽く会釈すると、縁側を下りて蔵の方へ向かって行く。その背中を見送ったヨシノがアスマに向かって頭を下げた。 「どうも、すみません。あいつ早とちりして…」 「いい先生ですね。今時珍しいって言うか、あれは母親譲りの性格なのかしら?」 ナルトからすれば、反対に学校側の責任問題を問われるくらいに思っていたのだろう。 「去年も先生にはお世話になりましたわね」 「年に一回くらい、学校をやめたくなるんですかね…シカマルは」 「中学までが義務教育だからなんて、生意気な事言ってましたわね〜あの子」 アスマとヨシノは顔を見合わせて、くすりと笑う。その声に庭のししおどしが風流な音をたて重なった。
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シカマル出てないっ!
説明ばかりでゴメンナサイです。進んでいるようで進んでない?
いつもの悪いパターンに(汗)
それにしても、現代版は書きにくいですね…力不足で(/_;)
次回は、シカマルとナルトの話になりそうです!