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Innocent love 5
ナルトはそっと蔵の扉に手を掛ける。不思議と鍵などはかかっていなかった。籠城してる訳ではないらしい。少しホッとして開けた扉がギィっと古びた音を立てた。明かり取りの小さな窓らしきものが、建物の上の方にある。見上げて確認するが、それ以外に光源はない。太陽光が入らない為か人工灯が設置されていた。 中は意外と整頓されていて、埃臭さもない。ナルトはどうしようか迷いながら、ここまで来たのだからと勇気を振り絞った。 「お〜い…シカマル?」 小さな声で呼んでみる。シンと静まり返った空間にナルトの声が響く。 「シカマル!居るんだろ?」 「…センセ?」 慌てた様なシカマルの声が聞こえて、そちらに視線を向けると驚いたような顔のシカマルが居た。蔵の二階部分から顔を出したのを見て、安堵の息を吐く。 「あ〜…いねえのかと思っ…シカマル?!」 薄暗い空間に目が慣れてシカマルの姿を捕える事ができた。そして、驚きの声を上げてしまう。シカマルの目の辺りに痣が見受けられる。 「なに驚いて…あ、コレか」 シカマルは自分の顔を指差した。ナルトは眉を潜める。 「どうしたんだってばよ…」 「親父と…ケンカ」 バツが悪そうに笑ったシカマルは見た目より案外平気そうな感じだ。それよりもナルトの方がショックを受けている。実を言うとナルトは父親と殴り合いのケンカなどした事がない。 「それより、どうしたんだよ。先生の方こそ」 のんびりと訊ねられてナルトは当初の目的を思いだした。はっとしてシカマルの居る場所にはどうやって行けばいいのか迷う。階段らしきものが見当たらないのだ。 「そこまで行きたいんだけど…階段とかねえの?」 「暗くて見えにくいけど、ソコ」 シカマルが指をさした方を目を凝らして見てみる。確かに彼の言うように階段らしきものが確認できる。それは梯子に近い物だが。 「上がってもいいのか?」 「嫌だったら、上がってくる方法教えないって」 すぐに返って来た言葉に安心してその梯子を登ると、ナルトの視界に見えたのは特別にどうではない普通の部屋だった。場所が蔵の中と言うだけで。 「お邪魔様だってばよ」 「先生、ジュースでも飲む?」 「や…別にお構いなく…って!そーゆう話しにきたんじゃなくて!」 思わず力の入ってしまったナルトの前に缶ジュースが置かれた。ちらっとシカマルを伺って見る。彼はノートパソコンを閉じて、すぐにナルトに向き直った。 「用は…一つだよな?」 分かっていると言う様に呟いたシカマルにこくりと頷く。シカマルはふうっと溜息をついた。 「お前、ダダこねて自分の部屋に閉じこもってんのか?」 「は?違うし…俺はガッコ行こうかと思ったんだけど、親父がうるさくってさ。この顔だし」 「…でも、学校やめたいって、聞いた」 「ああ、それもホント」 しれっと言われ、ナルトはむっとした。言っている意味がちっとも理解できない。 「でも、お母さんからもめてるって聞いたってばよ」 「……もめてる、か。ま、そうだけど。親父的には理由がはっきりしねえのが問題なだけで、俺が学校を中退しようが続けようが、そんな事には興味がないぜ?」 ナルトが一番拘りたい部分はそこだ。どうして、両親までもがそうなんだろう。ナルトの常識からは逸脱したその思考にどこかついていけない。 「俺は、文化祭の事とか中途半端にするとか…そーゆうのもめんどくせえし、それが終わるまでは学校にも行くつもりだったんだけどよ。親父からすれば、楽しい事だけやりてえってのが我儘に聞こえたって感じかな。別に文化祭イコール楽しいとか、俺は思わないんだけど…」 一番肝心な部分がシカマルの口から聞けていない。どうして、いきなり学校をやめようと思ったのか…そこが重要だ。 「シカマル…どうして学校やめるとか言うんだってばよ」 ナルトの真摯な声を聞いたシカマルは、少し迷ったようにナルトの前に一枚の紙を置く。無言で差し出されたそれを目にしたナルトは大きな瞳をもっと大きくさせる。シカマルがナルトに見せたのは退学届の用紙である。そこには本人の著名も、保護者の著名捺印もされている。 「……なんで、だって…親父さん認めてないって……」 「あ〜…ここ、よく見てみろって」 シカマルの指が日付の部分を指差す。 「俺が欲しいのは、日付の訂正印」 愕然とした。その日付の年号は去年のものなのである。シカマルは去年、つまり一年生のうちに高校をやめる事を考え、それを保護者も了承したという事だ。 「……あの……よく、わかんねえんだけど……」 ナルトはじいっと退学届の申請用紙を見つめる。 「去年は、なんでやめようと思ったんだてっば」 分からないのだから、一から聞いて行くしかない。 「別に行く意味が見つけられなかったから。俺には時間の無駄に思えたから。それで、親父も納得した」 それでも、ナルトは今年木の葉学園に赴任し目の前の彼と会った。 「…でも、シカマルやめてねえよな?」 割と素直にナルトの質問に応えていたシカマルの口が重たくなった。言えない訳でもあるのだろうか。ゆっくりと目線をシカマルの方へ向けた。その瞳にシカマルは浅い息を吐く。 「アスマに…アスマ先生にさ。言われたんだよ……意味を、見つければいいってさ」 「意味?」 「ああ。勉強をするとか、ま…それが前提な学校な訳なんだけど、それだけじゃない意味を見つけてみねーかってさ。学校をやめるなんていつでもできるんだから………もしかしたら、このまま高校生を続ける事で、何か違うものが見つかるかもしれねえ。その、もしかしたらを信じてみる気はないかって」 「じゃあ、どうして―――――」 ナルトもアスマの言葉に共感を覚える。学校で学べるのは勉学だけではない。かけがえのない友を得る事も、そこでしか体験できない事も沢山ある。小さな学校という社会の輪の中でかき集める物語は、一人一人違うものだ。誰もが同じでないモノを得る事が出来る。それは、たった三年間されど三年間でしか得られないモノ。 「なら、オレもお前を止める。シカマルが勉強したくねえならしなくてもいい。でも、学校にきてダチと下らない事で笑ったり泣いたりするのって、今しかできねえことなんだってばよ。それを自分から捨てるなんてバカげてる!だから、シカマル…やめるなんて言うなってば」 ナルトの手の中で握りしめられた紙きれがくしゃりと音を立てる。その指からシカマルは用紙を奪った。ちょっと苛立ったような態度にナルトは首を傾げるばかりだ。アスマには説得できても、自分ではシカマルの心を動かす事はできないのだろうか。 「シカマル…?」 「先生は、俺がどうして学校をやめるかってもう聞かないのか?」 そう問われて、鈍いナルトでもぴんとくるものがある。 「シカマルが…学校をやめたい理由って………オレ?」 かなり動揺したナルトの頬にシカマルの手の平が当てられる。 「そうだけど…違う、かな?俺の方の問題」 シカマルの浮かべている笑みが、彼を少しだけ大人っぽく見せる。こんな顔もできるのだとナルトはシカマルを見つめた。この数日間で、色々なシカマルの表情を知った様な気がする。それなりに分かりあえていると思っていたのは自分だけなのだろうか。急にナルトは不安な気持ちに襲われた。 「別に…俺が高校をやめても、俺と先生の年齢差が埋まる訳じゃねえしな。先生の中では、いつもダダこねてるガキでしかねえのかもしれねえ…」 「オレは年の差とか…そうゆうんじゃなくって!」 何故か必死になって否定してしまう。確かに、一人の生徒としてシカマルを見てきた。依怙贔屓はダメだと分かっているが、自分だって人間だ。心の中では特別視してしまう者の一人や二人はいるのだと思う。それが不自然に見えないのは、ナルトが生徒一人ずつをそれぞれに好きだからと言えるだろう。矛盾した感情の中で焦っている自分が居る事を感じ、ナルトの不安はまた大きくなる。 「俺、一人の人間として先生に見て欲しい。生徒の一人じゃなくってさ…奈良シカマルとしての俺を、見て欲しいんだよ。昨日の事もあって、俺は先生と同じ舞台に立つ資格がないことに気が付いた…」 「資格?」 「そーだよ………俺が先生の生徒じゃなきゃ、渦巻ナルトは俺にとって、ただ一人の人間になる。それは逆も然りで、先生は教師って言う立場じゃなく俺と接することが出来るって事だろ?」 「ちょっと…待て。それってば………」 自分の気持ちよりもナルトの立場 ―教師である― を重んじての事だと言う事だ。ナルトは唇を噛みしめると俯いた。 「お前が学校をやめて、オレの生徒じゃなくなって……それでも、お前の言う様な気持ちになるなんて保証どこにあるんだってばよ?」 どこにもないではないか。確証も保証もないのに、シカマルは自分の人生を変えてまでナルトとの関係に変化を持ちたいと望んでいる。 「シカマルって、頭いいって聞いてたけど…ほんとは馬鹿なんじゃねえのか?」 「構わねえし。馬鹿でも」 「馬鹿じゃすまねえっ!大バカ者だってばよっ!」 ナルトが大きな声を出した事にシカマルの方が驚く。そして、顔を上げたナルトの瞳からぽろりと涙が零れるのを見て、また驚いた。 「泣かせたくねえんだけどな…」 頬に触れたままだったシカマルの指が、その雫を指の腹で拭う。 「昨日と言ってる事、違うってば……」 ぐずりと鼻をすすったナルトは、シカマルの手が自分の頬を撫ぜるのをさせるままにしている。別に嫌悪もない。不思議と肌が触れる温もりが心地よいとも感じてしまう。 「あのさ、分かってんのか?先生の目の前に居るのは、強姦魔だぜ?こうやって先生の隙を狙ってまた悪だくみしてるかもしんねーのに、……すげえ抜けてるよ、センセ」 「未遂…だから。それに、その事は昨日の時点でオレは許したじゃん」 「全く、どこまでお人好しなんだか……」 呆れるくらいだ。これで自分より年上だなんて到底思えない。許す許さないの範疇ではないと思うのだが、ナルトはそれで納得しているらしい。 「き、教師が生徒に手を出すなんて…」 「いや、手ぇ出してんの生徒の方だぜ?」 「教師が依怙贔屓なんかしちゃダメなんだってばよ」 「だから、生徒やめるっつう話になったんだろ?それに元々、先生がそんな性格じゃねえ事も知ってるし」 いちいち揚げ足を取るシカマルの態度にナルトはムッとする。 「オレはシカマルが好きだと思う。その…シカマルがオレの事好きって言うのとはちょっと違うけど……でも、上手く言えないけど、学校はやめちゃだめだってばよ。学校では先生だけど、……それ以外は譲歩するから。だから、絶対にやめんなっ!」 一気にまくし立てたナルトは真剣な眼差しでシカマルを見つめる。 「先生…俺に、こうされて気持ち悪くないのか?」 「………………ない」 「先生は、気持ちがつながるまでは、その先はダメなんだよな?」 こくりと頷いたナルトの身体を、シカマルは抱き寄せる。腕の中にすっぽりと収まるナルトは小柄な方なのだろう。 「…これは?」 「わかんないけど、…やじゃねえと、思う」 耳の近くでしたナルトの声は消え入りそうなくらい小さなものだったけれどハッキリと聞こえた。 「前に言った様に、俺は邪な気持ちでこうしてる」 一瞬だけナルトの身体が硬直した様に感じる。 「同じ男に性的な意味で好意を寄せられて、気持ち悪くないのかって…聞いてんだよ」 「そんなん、今まで経験ないからわかんねえもん」 少し普通とは違う答えだ。経験がなくとも、世間一般の常識から外れている事は明確なのに。ナルトのこういった柔軟な思考がシカマルを惹きつけてやまない点なのだが本人は無自覚だろう。 「先生は嫌でも、俺はこうしたい。この先もしたい。そんな関係になりたくて……それが可能不可能の問題じゃなく、俺は先生を見つけたから離したくねえんだ」 素直な気持ちを言葉にする。好きな相手だから触れたいと思い、愛しいと思うから肌を重ねたいとも思う。好きなのだからそれがとても自然な欲求のような気がするのだ。昨夜は、それを一方的なもので済ませようとしてしまった。だが、そうでない事を思い知らされたのだ。どれだけ、ナルトと言う人間を好きなのか再度自覚させられた。ガキの我儘だと言われても、泣いて喚いて騒いで、それで問題が解決するなら恥ずかしいとも卑怯だとも思わない。 「譲歩するって…マジ?」 「そ、それは…努力するってことだってばよ」 少しは望みを抱いてもいいのだろうか。自惚れても良いのだろうか。まだ自分と同じ目線で好きだとは言われなくても、自分の方を向いてくれたと思ってもいいのだろうか。そんな思い違いをしてしまってもいいのだろうか。 「……去年、学校やめなくて良かったって本気で思ってんだ。先生に会えたからな」 ぎゅっとナルトを抱く腕に力を入れる。抵抗されないでこうするのは初めてだ。こんなに心が穏やかになれるなんて知らなかった。好きな教師の一人から、たった一人の好きな人に変わった瞬間から。伝えるだけで良いなんて、思っているだけで良いなんて、ただ自己防衛本能が働いているだけなのだとキレイゴトなのだとシカマルは思っていた。 「センセ…ここは俺の部屋だから、教師モードじゃねえよな?」 説得しにきた相手に言う言葉ではないが、少し卑怯な言い方をしてみる。舌の根も乾かぬうちにナルトが自分の意見を変えるとは思えない。彼は自分と違って卑怯な手は使わない…使えない。 「それが、譲歩ってコトだろ?」 ナルトはシカマルに囁かれて、正直頭を捻る。簡潔なようで捻った言葉の言い回しは、シカマル特有のものである事は確かだ。物事を深く考えない所が自分の長所だと自負しているナルトは軽く頷いた。くすりと笑う雰囲気が伝わってくる。シカマルはどうしたいのだろうか。どうしようとしているのだろうか。疎いナルトにはちっとも理解する事が出来なくて、シカマルの名前を呼ぶ。 「シカマル…?」 少し身体を抱きしめていた腕の力が弱まって、ナルトはシカマルの顔を見上げる事ができた。目と鼻の先という表現がぴったりなくらいに間近にある顔が笑みを浮かべている。 「学校、やめるなんて言わねえよな?」 確認してくるようなナルトは、まだ真剣な顔つきだ。 「じゃ、退学届…先生が好きにすればいいから、その代わりキスしていい?」 「…えっ……………えええっ!!!代わりって、そんな…っっ」 ひどく動揺したナルトの唇をシカマルは奪った。今までの様に無理やりではないくらいの強引さで、唇を重ねる。抱きしめる事に成功したから調子に乗って言葉にしたのだが、ナルトが抵抗する事はなかった。都合のいいシカマルの要求に理不尽さは感じて居ないのだろうか。シカマルは幸運がやってきたのだと勝手に解釈して、ナルトの咥内に舌を侵入させる。 「ン…っ」 びくりとしたナルトが震えた手でシカマルのシャツを握った。応える訳でもないが逃げられない事に、酔ってしまいそうになる。 「は…あ…っ、ん…」 不慣れな行為に戸惑う様な様子は見せるが、拒絶される事はないその態度にシカマルは自分の中の熱が煮えたって行くのを感じる。力の抜けてくるナルトの身体を抱きしめながらゆっくりと寝かせる。唇を解放すると少し純血した瞳がシカマルを捕えた。 「ちょ…し、のんなって……」 昨日の今日なのに、二人の間の何が変わったと言うのだろうか。シカマルは不思議に思う。自分の中でナルトへの気持ちに変化はない。それならば、ナルトの中で何かが変わったのだろうか。それはシカマルにとって好都合な事である。このまま勢いに任せてナルトへ手を伸ばそうとした所で、強い力が自分の動作を止めた。 「…センセ?」 シカマルは信じられないと言うように呟いてしまった。何故だかシカマルはナルトに抱き寄せられたのだ。頭を抱えるようにナルトの腕が回っている。 「も、……びっくり箱みたいな事してオレの事驚かすの、やめろってば」 声が少し震えている。また、泣いているのだろうか。 「オレ…すごい落ち込んで、どうすればいいか分かんねえし…」 気持ちが通じなければ、抱き合う事も、もちろんその先も考えられないと言っていたはずのナルトが自分を抱いてくれている。 「シカマル…」 ナルトの言葉に隠れた意味があるのだろうか。そうなのだと解釈してしまいたい。 「俺の事で落ち込んでくれたんだ…」 「当たり前だろ!」 「それは、俺が先生の教え子だから…?」 「ほんと、お前は馬鹿野郎だってばよ。シカマルだからに決まってんだろ?」 シカマル的には告白されているような気分になるのだが、ナルトの中に深い意味はないのだと思う。それでも、少しでも期待してもいいならば、ナルトの言葉に意味を与えてみたい。 「先生、エッチさせて?」 シカマルが口にすると、ばしっと勢いよく後頭部を叩かれる。 「だから、調子に乗るなっての!」 ナルトはシカマルを離すと慌てて起き上がった。それから、すぐに退学届を半分に破いてしまう。その素早い行動にシカマルは堪え切れないというように吹き出した。 「わ、笑うなっ!」 「だってよ…先生、超おもしれー…」 「またやめるとか言ったら、オレは心配もしないし許さないから覚えとけってばよ」 突き放すような事を言いながら、許さないと言う。そのチグハグな言葉の意味にナルトは気が付いていないのだろう。そこがまた可笑しい。 「オレはアスマ先生にも報告しなくちゃいけないから、もう…行く!」 「ん?アスマ来てんの…?」 梯子を降りようとするナルトに訊ねると、アッカンベーをされる。その子供っぽい仕草にシカマルはまた笑ってしまった。 「そんで、どーしたらナルト先生はエッチさせてくれんだよ?」 意地悪く聞くと、ナルトの顔が真っ赤になった。眉をひそめながら本気で困っているのだ。そんな要求を飲む義理は全くないというのに。 二人の関係は、まだ恋人ではないのだから。 「明日から、ちゃんと学校来いってばよ!」 「へ〜…スル―しようってか」 「それは…!」 もごもごと言葉を濁しながらナルトは下へ行ってしまった。からかうだけでも楽しいと思っていたシカマル耳に、意外な答えが返ってくる。 「マジで言ってんの?」 確認する意味で下を覗きこんだシカマルの視界の中には、顔を真っ赤にさせたままのナルトが映った。 「だから…文化祭終わってからの中間で、学年トップになったら考えてやるって言ってんだってばよ」 「俺にマジで言ってんのって聞いてるだろ?」 「考えてやるって言ってるだけで、スルなんて言ってねえもん!!」 「へ〜…そっか、へ〜。じゃ、覚えとくわ」 にんまりと笑ったシカマルがナルトにひらひらと手を振った。ナルトは脹れっ面をしながら、シカマルに背中を向けた。外へ出ると太陽が眩しい。蔵の中とは違う明るさに少しだけ視界がチラチラした。 最初に通された和室に近づくと、ヨシノの笑い声とアスマの話声が聞こえてくる。縁側に辿りつくとアスマがナルトに気が付いたように眉を上げた。だからナルトは真っ二つにした紙きれをアスマに掲げる。アスマはホッとしたような表情でナルトに向かってにやっと笑った。ヨシノが振り返って、ナルトの手にしているものをみて驚いている。とりあえず、シカマルの退学の話を白紙に戻した事をヨシノに伝えた。彼女はくすくすと笑いながら「お世話になります」と頭を下げる。もちろん恐縮したナルトはカチコチに固まってしまうのだったが……
奈良家の帰り道。行きのような重苦しい雰囲気はなく、アスマは鼻歌など歌っている。余程機嫌がいいのだろう。信号が赤に変わって、ゆっくりと車が止まった。 「ところで、ナルト。お前どんな魔法を使ったんだ?」 興味深そうに聞いて来るアスマにナルトはどう説明していいのか迷う。 「どんなって……アスマ先生の二番煎じだってばよ。先生がシカマルに言った事、オレもシカマルに言っただけってか……ま、その他色々あるけど」 「その、色々が気になるんだろうが。あいつは掴みどころがないからなぁ…骨を折らされるって言うか、言う事も芯が通ってる事が多くて手を焼いてんだ」 アスマの言う事は尤もである。そう言われれば当てはまる部分がいくつも思い当たった。自分の中で物事の方程式が出来あがっているような感じなのだ。その公式にそって行われる彼の言動は筋が通っている分、思わず肯定してしまう。 「シカマルには、意味が見つかったんだな」 感慨深く呟いたアスマの顔に浮かんだ笑みを見て、ナルトも嬉しくなる。その“意味”というのが自分だと言うのが大問題だが、ナルト自身もまだピンときていないのだ。確かにキスはされてしまい容認してしまったけれど、だからと言ってシカマルの全てを受け止めるような「好き」の意味がナルトには分からない。 「意味かどうか分かんねえけど、あいつにはやりたい事って言うか目標?…みたいなのがあって、それを目指してんだってばよ」 「お前の言う事はいつも感覚的で要領がはっきりしないのが難点だ。よくそれで、現国の教免とれたな〜。反対に感心するぞ」 褒められているのかけなされているのか微妙な所だが、ナルトは適当に笑って誤魔化す。あまり深く突っ込まれると、シカマルとの事を話す必要があるので曖昧に受け取って貰える方が都合が良かったりもするのだ。 「それで、ナルト先生はどうご教授したんだか…」 「ん?とりあえずハードルは高い方がいいじゃん?だから、次の中間で学年トップ取れって言っといた」 それを聞いたアスマはふふっと含み笑いをする。それが妙に気になったナルトは首を傾げてしまった。 「ナルト、そりゃ…あいつにとってはハードル低すぎるだろ」 「はあっ?アスマ先生、シカマルの成績知ってんだろ?良くも悪くもなく、中の中じゃん!」 「在学中に下の下だったお前に言われたくないセリフだな、そりゃ」 「オレの事はいいんだってばよ!それよりも、シカマルにとってハードル低いってどういう意味なんだってばよ?」 アスマは少し自慢気に笑う。 「なんだ、聞いてないのか?あいつの事、知らなすぎるぞ。まだまだ、甘いな〜ナルトは。だからカカシにもあんな風に言われるんだぞ」 アスマの呆れたような口調にナルトは、ぱちぱちと瞬きをした。 「先生、青」 信号を指差すとアスマはゆっくりとアクセルを踏む。スムーズに走りだした車内の中が一瞬だけ静かになった。その静寂を破ったのはナルトである。 「あのさ…アスマ先生。オレ、イルカ先生からはシカマルはIQとか高くて有望株って事しか聞いたことねえんだけど。オレの知ってる限りのあいつの成績、普通だよな?」 ナルトの頭の中にフラッシュバックするシカマルの余裕のある笑み。 なぜか背筋にさーっと寒いモノが走る。 「あいつはな、テストの時に鉛筆動かすのも面倒がるくらいのめんどくさがり屋なんだ。だから、とりあえず単位を落とす事ない程度にこなしてるだけの話で…そうだなぁ。お前に分かりやすいように言うんならサクラやサスケよりも上をいく程の秀才って事だな」 ナルトは軽い眩暈を覚えた。アスマの口から出てきた二人はナルトの同級生で、常に学年のトップクラスに入る様な部類の人間だった。その口の悪い友人と初恋の人のお陰で大学の受験もなんとかなったとも言える。 「サクラちゃんやサスケより上って……天才って事じゃねえの?」 「ま、そーゆう事だ」 きっぱりとそう告げたアスマは鼻歌を再開させる。ナルトの耳にはもうアスマの鼻歌も雑音でしかない。それよりも重大な事をアスマに告げられてしまったのである。 「……いや、スルって言ってねえし。オレは、考えるって言っただけだし……」 ぶつぶつと独り言を言うナルトの不審な様子も目に入らないくらいに、アスマは軽快に車を走らせていった。
今日と言う日が運命の分かれ道になったのだと気が付くのは、お祭り騒ぎが終わった後であった。 中間テストの順位が張り出された掲示板の前で呆然とナルトが立ちつくしたのは言うまでもない。
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終わりました〜…
一応、「第一部、完」です(笑)
とりあえず、書きたい所までは書く事が出来ました。
シカマルがナルトに対する気持ちと、ナルトが恋愛に対して抱いている気持ちがこの話のタイトルなんです。
そして、この時点でナルトに自覚はなくとも「相思相愛」になってるのですよ(*^_^*)
この話はプチ設定がいくつか存在します。
それをチラリと出してみたつもりなんですが…
第二部が無事に書けたら、赤文字設定になりますよ!ってか書く気はまんまんです!