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Innocent loveU-3

 

 

 シカマルが去ってどれくらいの時間が過ぎただろう。座っている石の床が冷たいと感じて、よろよろと立ちあがった。キーを差し込んで、マンションの中へ入る自動ドアが開く。エレベーターに乗り込み、ボタンを押してふと自分の頬が濡れている事に気がついた。

「バカみてー…」

 すんっと鼻をすすったナルトは上着の袖でごしごしと瞼を擦った。擦ったせいもあり、目元が赤くなる。この落ち込んだ気分をどう浮上させればいいのか、その方法がわからない。落ち込んだ原因と向き合う必要があるので、あまり考えたくないと言うのが本心だ。

 部屋に入ると付けっ放しになっていたエアコンのお陰で室内が温かい。勤務を終えて帰宅した時と同様にコートをダイニングテーブルの上に置いて、ふと目に止まった携帯電話。携帯しなければ携帯電話の意味がないと言われた事を思い出した。便利になってしまった生活を一瞬恨めしくも思う。

 それでも、電源のスイッチを入れる。起動する画面をじっと見つめてから、ぱちんと折りたたんで仕舞った。ソファに座って背もたれに身体を預けると、緊張して居た四肢の力がすうっと抜ける様な気がする。風呂でも入って身体を温めた方がいいだろう。冷え切っている指先がジンとして居た。

 冷たい雨に振られた彼は、どうなのだろう。寒くはないだろうか。冷たかった手に、冷たかった唇。そこまで思い出してナルトはハッとした。関係ないと、シカマルを突き放したのは自分だと言うのに……責められた事についさっきまで怒っていたのに。

「なんだよ…全く」

 何かが変わっている。認めたくない心境の変化。それが何かが分からない。分かりたくないのかもしれない。ナルトが無意識の溜息をついた瞬間、けたたましく携帯電話が鳴り始めた。びくっとして、それでもゆっくりとそれに手を伸ばす。きゅっと唇を噛みしめて液晶画面に浮かんだ名前を見てホッとしてしまった。通話ボタンを押すと、いつものまったりとした声が聞こえる。

「…もしもし?」

『アスマとのメシはうまかったか〜?』

「カカシ先生、なんの用だってばよ」

 今は誰とも話したくない。それでも、誰かの声が聞けた事を嬉しく思っている自分もいる。一人きりだと感じる空間に息が止まりそうなくらい緊張していたのだと気がついた。

『……教育方針書。メールしろって言われたデショ』

「あ…」

 アスマの言葉を思い出してナルトは肩を落とす。すっかり忘れて機嫌の悪い態度を取ってしまった事に後悔した。

「ごめん、今すぐ…」

『明日でいいよ。残業もさすがに疲れたわ』

 あははと笑うカカシにナルトも口元に笑みを浮かべた。それから、やっぱり涙が止まって居ない事に気が付く。カカシの声を聞いて安心してしまったのかもしれない。

気は抜けないが気を許せる相手の一人であることは確かなのだ。

「……ごめん、先生」

『ナルト…?』

 少し訝しげなカカシの声色の変化。それに気が付ける余裕はナルトにはなかった。

『なんかあったか〜?』

「オレ、全然…先生らしくなんねーし…なんか色々落ち込んで……」

 カカシに弱音を吐くのは教師になって初めてかもしれない。強気な態度で突っ張ってみた事は何度もあるが、挫けてしまったと自覚したら自分が立ち上がれなくなるのでないかと怖くて、誰にもそんな姿を見せたくなかった。

「やっぱ、オレには……無理なのかなって……」

 ふうっと息を吐いた気配。ナルトも無自覚に鼻をすする。

「失敗ばっかだし、やらなくちゃいけねえ事も忘れてるし。こんなで……オレ」

『ナルトらしくないねぇ』

「オレなんて、最初からこんなもんなんだってばよ」

『そうか?この程度でお前が凹むなんてらしくないって言ってんのよ。人間だからね、教師も。完璧でなければいけないと言う事はないでしょ。俺もお前もまだまだ成長過程だろ?きっとね…どこにもゴールなんてない職業なんじゃない?教師ってシゴトはね』

 静かなカカシの声。こんな風に励まされるのは久し振りだ。

『人生と同じだよ。きっと、死に際にまぁまぁな人生だったらオッケーくらいで十分だってコト。それとも、また辞めるって言うのか?』

 ナルトの心にずしんと重しが乗っかる衝撃がある。逃げる事は簡単だと、それに立ち向かう事が素晴らしいのであって勝ち負けや損得は関係ないと教えてくれた人が居たから、ナルトも彼と同じ職業につきたいと思った事を思い出した。

「逃げ…ないってば」

『そうか…教師辞めるって言ったら、きっとミナトさん喜ぶよ?ナルトが手元から居なくなって寂しいみたいだからねぇ』

 父親の名前を出されてナルトの眉間にシワがよった。

「オレ、負けねーもんっ!」

 思わず口にして携帯を握りしめている。吹き出すカカシの声が聞こえて、ナルトは涙が止まっている事に気が付く。

『じゃ、明日は頼むよ、教育方針書。明日も残業だったらミナトさんに言いつけるからねぇ』

「あ…それは!絶対になしだからっ!」

『はいはい。おやすみ』

 ぷちっと切れた通話にナルトはじっと携帯電話を見つめた。向き合わなければいけないのは、きっと自分の心の奥にある感情。認めるとか認めないとかじゃない。真実は何なのかを知らなければ、きっとナルトは胸の奥で渦巻く感情に名前を付ける事もできないのだ。頭の中を整理したいのだが、何から手を付ければいいのかさっぱり分からない。

「風呂…入ろっ」

 まずはリラックスする事が大切だ。とにかく、明日やるべき事を頭の中で一つ一つ整理しなければいけない。元々、いくつもの事を一度に処理する能力は自分にはないのだ。だから、努力するしかない。まずは、教師としての仕事を片付けること。それから、自分の事を考えよう。

 シカマルに抱きしめられた感触がまだ身体に残っている。その冷たさを払拭する為にナルトはバスルームへの扉を開けた。

 

 

 

 

 ぽたり…と髪から落ちる雫。生ぬるい湯に浸かりながら、一日の疲れを癒す。その間中、頭に浮かぶのはシカマルの事ばかりだ。

 きっと、自分はシカマルに求めすぎなのだと思う。自分の事はそっちのけで、彼ばかりに何かを求めている。シカマルに押し切られているから、彼を受け入れたのではない………認めたくないが、それが本当の所なのだ。シカマルにはっきり言った様に、気持ちがない人間と性的関係を結ぶような常識はナルトの中には存在しない。とどのつまり……ナルトの中で、どこかでシカマルの存在を認めて受け入れている部分がある。

 では、それは恋愛感情なのだろうか。行きつくトコはいつもそこだ。そして、行き止まりのような疑問に自分の中で答えを見いだせないでいる。

「オレとシカマルは…………」

 心が繋がっている?否、すれ違っている。お互いの見ている部分が違うのだろうか?否、それも違う。シカマルは自分を真正面から見ている。

 それでは、ナルト自身はどうなのだろう。キスされて、それに応えて。シカマルにイカされて、彼に縋りついて。身体の関係(最後までいってないとナルトは考えている)は、中途半端に持っている。だけれど、ナルトのキャパシティはいっぱいいっぱいなのだ。

 甘えているのだと思う。シカマルに好きだと言われる度に、胸に湧き上がる感情は優越感。そのシュペリオリティーコンプレックスに良い気になっている。狡いのは自分だ。きっと、彼なりのぎりぎりの部分でナルトを求めてくれている事に、悦に入っている。

「どんだけ、高飛車なんだよ…オレ」

 明らかにシカマルに向いている感情を理解しようとせずに、自分のエゴを彼に押し付けている。まだ、子供だと言えるシカマルに甘えている。

 ヒナタの顔が脳裏に浮かんだ。付き合っているのではないかというキバの憶測に心が揺れた。動揺した。シカマルが好きなのは自分だと何度も言われているのに、ヒナタとお似合いだというシカマルに勝手に裏切られた気分でいた。高慢なのだ、自分が。

 シカマルの感情に揺さぶりをかけるような言葉を無意識に口にしていた。それは、一番認めたくなかった感情。それでも、ナルトの事が好きだと言うシカマルに歓喜した。ひどい人間だと思う。シカマルを傷つけているのに、その姿を見て、自分への気持ちを再確認してほっとしている。狡い、……卑怯だ。シカマルに応えていないのに、答えを濁しているのに、彼の意識が自分に向かっている事を嬉しいと感じてしまった。

 その中で、渦巻いたどす黒い感情。

「嫉妬…?」

 口にしてカッと身体が熱くなる。シカマルに告白されて、困惑していた自分はどこに行ってしまったのだろう。ヒナタと親密な関係だと聞いた時、それ以上の事を聞きたくなくて逃げ出した。

 真っ直ぐ過ぎて、怖い。シカマルの気持ちが怖い。それを受け入れてしまう事が怖い。倫理の問題ではなく、自分の中の変化が怖い。

 シカマルはきっと大切な気持ちをナルトに吐露してぶつかって来た。それを受け止める準備ができていないナルトは、濁す事と逃げ道を作る事でシカマルに背中を向けた。

 苦しい。こんな感情は初めてで、変化を起こす自分が怖い。認めてしまうのが、怖い。どんなに酷い言葉をぶつけても、ナルトが好きだと憚らない真っ直ぐなシカマルを受け入れる事が怖い。

 シカマルからの連絡がない事に腹立たしい気持ちになって、ヒナタに対して嫉妬したのだ。ナルトはぶるりと震える。どう考えても、年上で同性の自分より同年代の女の子に意識が向くのは当然の事なのに、蔑ろにされた気分になって、勝手に膨れて居た。自分だけがシカマルを待っていると言うことが辛くて、なんだか寂しくて………心配してナルトのマンションまで足を運んでくれたシカマルに、酷い事を言ってしまった。

「でも、しょうがねえもん………どうすればいいか、分かんねえんだもん」

 独り言が湯気の中に交って消える。自分だけを見つめてくれなくては、嫌なのだ、最上級の我儘。全てをシカマルに決定権を与えているようなふりをして、シカマルの本当の心に向き合う事に怖気づいている。

 ヒナタの事を平気で口にする辺り、後ろめたい感情はシカマルにはないのだろう。

 きっと、もの凄く大切な事をナルトは見失っている。

「あ〜〜〜〜っ、分かんねえっ!」

 ばしゃばしゃと顔を洗ってぎゅっと目を瞑った。

 

 

 

 

 朝の挨拶。気軽にかけられる声にナルトも普段とかわりなく答えた。今日は昨日から続いた雨が、断続的に振っている。色とりどりの傘の花を潜りながら、職員入り口に辿りついたナルトは溜息をつきそうになって、パチンと両頬を叩く。

「オレってば〜ファイト!!」

 口にして気合を入れる。それを後ろで見ていたカカシがくすくすと笑っている事に気が付いて、ナルトは赤面しながら振り返った。

「元気だね〜…ナルト」

「おはようだってばよ〜センセ!ちゃんと、方針書も提出するし、大丈夫だってば!」

 カカシは肩をすくめて、質のいい革靴を靴箱に仕舞うと思いだしたというような素振りでナルトを振り返る。

「あのさ〜ナルト」

 ナルトはカカシの声色に、何かしらの意図を感じてしまう。

「その企んだような声が怪しい…」

 思わず本音を口にする。カカシはにっこりと笑うと、ぽんぽんとナルトの肩を叩いた。

「いやー…相談ってか決定ってか、お願いってかね〜」

「カカシ先生、お願いの前に決定って言ったじゃん!!もう、決めてるって事じゃねえの?」

「ん?…まーそう言いなさんな。来季の生徒会の担当、引き受けて欲しいんだよね。ナルトは一応、生徒会経験者だろ?」

 ナルトは眉間にシワをよせる。確かに、在学中に生徒会という組織に所属はしていた……大した事をした覚えはないが。

「あ…あれは、サクラちゃんやサスケのオマケってか。オレは別に何もしてねーもん。オレが、担当とかあんま考えられねえ…」

 本心を口にする。いつも生徒会室でだべっていた記憶しかない。テキパキと仕事をこなす幼馴染の雑用係だった記憶しかない。それも、今は楽しい思い出でしかない。

「ああ、いいのいいの。優秀な生徒が沢山いるから、お前はオマケで十分なのよ」

 現生徒会長は三年生であるにも関わらず、その執務をこなしている敏腕な生徒だった。後期に入る前の生徒会選挙で引退だったはずなのだが、後任が見つからなかった事もあり、席は生徒会会長の肩書を持ったままなのだ。異例の事に焦ったのは教師陣である。センター試験が迫っている今、彼は二足のわらじを履くには厳しい状況だと言えるだろう。

「うん、だからね…年明けには名ばかりの選挙はするけど、信任投票で落ち着きそうなんだよね?」

「ふ〜ん……でも、オレ自身ない」

 ナルトの言葉を聞いたカカシはくすりと笑う。

「その自信を付けるためにも、挑戦してきなさいな。お前も分かってると思うけど、二年から三年は持ちあがりだから、お前はアスマの担任するクラスの副担任である事も変わらないしねぇ…。そこに生徒会の活動が増えても負担ないでしょ?放課後のティータイムが少し減るくらいか?」

 少し厭味が込められた科白にナルトは膨れた。

「…って言うか、先生がオレにそれを言うって事は、もう決定してんだろ?オレに選択の余地はねえじゃん!」

「はは…ま、そーゆう事。年明けから頼むね〜ナルト先生?」

 へらりと笑ったカカシは、むすりとしたナルトを置き去りにして背中を向けてしまった。確かに現在担当して居る授業数から考えると余裕がある。社会人になって二年目…いい経験といえばそうなのかもしれない。ぼうっと考えながら歩いていると、曲がり角から現れた影に気が付かなかった。

「きゃっ…!」

 どすんとぶつかって驚いたような声を上げた顔には見覚えがある。

「な、ナルト先生…」

 緊張すると赤面してしまうのが彼女の特徴。

「おはよ…ヒナタ」

「はい、おはようございますっ!」

 腰を折って大袈裟に頭を下げたヒナタの姿にナルトは面喰ってしまった。真黒な髪は美しいストレート。色素の薄い瞳が印象的で、可憐な雰囲気が全体を纏う。今時珍しいような清純派と言うのだろうか。思わずじっと見つめてしまうと、彼女は頬を赤らめて俯いてしまった。

「ごめんな。考え事してて…」

「あの…私も同じなんで…大丈夫です」

 はにかむような笑顔を見て、やっぱり可愛いなぁと思ってしまう。控え目で楚々とした雰囲気が彼女にはある。良家のお嬢様と表するのがぴったりな容姿。

 そのまま黙ってしまったヒナタにナルトは少し困惑する。どうしたものかと考えて居た所で、その静寂を破る声が聞こえた。

「おい、ヒナタ…」

 その声を聞いてナルトは一気に気が張り詰めてしまった。朝から会いたくなった人物。彼、シカマルはナルトの存在に気が付いて軽く会釈をする。

「お、おはよ…シカマル」

「ども」

 シカマルの受け答えは短い。その彼の右手に巻かれた白い包帯に視線が止まってしまった。

「ヒナタ、話の途中だろ?いいか…?」

「あ、うん。ごめんね…シカマルくん」

 二人してナルトの隣を通り越して行ってしまう。足音が聞こえなくなってから、ナルトはぎゅっと唇を噛んだ。昨日の今日……しかもヒナタと一緒にいるシカマルに遭遇してしまうなんてなんてバッドタイミング。出来るなら、二人一緒の姿なんて見たくもなかった。

「………なんだよ」

 シカマルの傷ついた右手を見て、心が痛かった。無視されるでもなく、彼らしい接し方であったのだと思う。なのに、心がざわついた。

「さいて…い」

 見ぬふりをする事をやめようと思った矢先にこれだ。

 シカマルはきっとまだ怒っているのだ。マイナス要素が重なって地を這う様な気分になりながら、ナルトは職員室の扉を開けた。

「すみません…」

 思わずぶつかりかけそうになった、自分より長身の生徒を見上げたナルトは「こっちこそ、ごめん」とにっこり笑った。彼は、現生徒会長の日向ネジ。頭脳明晰な彼は、持って生まれた彼の手腕でこの学園をまとめてきた人物だ。

「カカシ先生から伺いましたが、来季の生徒会担当が渦巻先生になるらしいですね?」

「あ…?へ…えっと、予定…だってばよ」

 やっぱり決定事項でないか!ナルトは心の中で憤慨する。

「カカシ先生の口調ですと、ほぼ内定と言う事でしたので…安心しました」

「え…?」

「餌は多いに越した事はないので」

 意味の分からない言葉を発したネジは、会釈をしてナルトの脇をすり抜ける。

「え…エサ?」

 意味の分からない科白を聞いたナルトは首を傾げながら、朝のホームルームに向かうための準備を始めたのだった。

 

 

 

 

  

 

 

ナルトがようやく自分の気持ちに向き合う覚悟を決めた所です。

今度の話は、シカマルとナルトの話かな?

ヒナタ贔屓はRUIの趣味なのでしょうがない!!