整体学校

 

 

 

Innocent love 2

 

 

 カーテンの隙間から太陽の光が差し込む。

 ナルトはむくりと起き上がった。

「朝……」

 目覚まし時計が鳴る前に起きてしまった。いつもなら、部屋に並べたいくつもの目覚まし時計と格闘しながらしょうがなく起き上がると言うのに。

 ベッドの上で腕を組んだナルトは、ふうっと息を吐く。昨夜、眠りにつこうとして夕方の出来事を思い出してしまった。忘れようと努力したのに、それは無駄な行為に終わってしまったのだ。そして、顔を洗う為に洗面台の前に立ち自分の顔を見て、また溜息をついてしまう。目の下にはクッキリとくまなんかできている。少し瞼も腫れぼったい。

「…む」

 蛇口の取っ手を上げると冷たい水が勢いよく出てくる。じゃばじゃばと顔を洗ってから、歯ブラシに歯磨き粉をたっぷりつける。がしがしと歯を磨いて口をゆすいだ。

 

 教え子に告白されて、いきなりキスされた。

 

「わ ―――――――― っ!!!!」

 思いだすな、自分。暗示をかけるようにぎゅっと目を瞑った。唇に触れてきた柔らかいモノの感触とか、口の中で動き回った熱い舌の感覚。その行為事態に、不思議と悪寒を感じる程の嫌悪がない。

 それよりも、自分の教師生活と言うものにピリオドが打たれるかもしれない…という現実の方が重く暗い問題だったりするのだ。ナルトは無意識に自分の唇に指先で触れる。

「男なんて、ファーストキッスにゃカウントしねえのっ!」

 それに、人生という道に迷っている彼の軌道修正をしなければいけない。ただの悪戯、悪い冗談。好きの意味なんて無限大だ。教師が生徒に好かれるなんて光栄極まりない事ではないか…と、自己暗示をかけることに決めたのだ。昨夜の夕飯のカップラーメンをすすりながら。

「…………―――――― ヨコシマってなんだよ。クソガキ!」

 ナルトはトースターに入れたパンの存在を思いだして、キッチンにダッシュする。もちろん、食パンは丸こげで救出に失敗したことは言うまでもない。

 

 

 

 

 後頭部にふわりとした感触。それはまるでそよ風のよう……なんて詩的な表現が頭の中にふっと浮かんだ。

「おはよ、センセ」

 ナルトは隣に並んだ生徒…シカマルを見上げる。

「お、おはようだってばよ…」

 律儀に応えてしまうのはナルトの性格で。その顔を覗きこんだシカマルが、一瞬驚いた顔をしてからにっこりと笑った。

「なんだよ!なんか、おかしいのか?」

「ん?…ああ、だって派手な寝ぐせつけてるからよ」

「大きなお世話」

 ナルトはむっとして返した。普段と変わりなく接してくるシカマルに軽い怒りを覚えた。自分だけが気にしている事に少しだけむっとしたのだ。貴重な睡眠時間まで影響する様な「一大事」をシカマルはなんとも思っていないのであろうか。それでも、ナルト自身の過剰反応なのではないかと不安が少しだけ軽くなった。

「先生、寝てねえの?」

 ふいに顔を覗きこまれて、ナルトの心臓が跳ねる。近くでシカマルの存在を感じて、否応なしに思いだしてしまうのだ。キスされた事を。

「かかか…顔近すぎっ!」

「瞼、腫れてんぜ?」

 指の腹で目尻を掠められて、思わずぎゅっと目を瞑る。

「ンな事、ねえ!超快眠だってばっ」

「ふ〜ん、そっか。俺なんて、興奮しすぎて眠れなかったな」

「コウフン…?」

 きょとんとしたナルトにシカマルがにやりと笑った。その不敵な笑みをナルトは知っている。昨日の夕方見たシカマルの表情と同じだ。

「先生とキス……興奮してあたりまえじゃねえ?」

「……………」

 固まったナルトに軽く手を振ったシカマルは颯爽と背中を向けてしまう。ナルトは硬直したままその背中を見つめた。通り過ぎて行く生徒たちがナルトに挨拶をしていくのだが、まともに応えるのにも疲れてしまっている。朝からどっと背中に重しを乗せて行ったシカマルをむっとしながら睨みつけてしまった。完全にからかわれている、ナルトはそう感じた。もちろん、こんな事を誰かに相談する事も無理だ。話の内容が突拍子なさすぎる。まだ、女子生徒に告白された…の方が可愛いだろう。同性のしかも教え子に告白どころか唇まで奪われてしまったなんて恥ずかしくて口にできない。

「チクショ…」

 呟いたナルトは職員入り口にとぼとぼと歩きだした。木の葉学園はナルトの出身校でもある。もちろん同僚の教師は恩師でもあるのだ。在学中にお世話になったと言う方が正しいのかもしれない。

校風は自由だが、それは遊びは遊び勉学は勉学ときっちりとしたボーダーラインが引かれている。お祭りも勉強も全力で。遊びも勉学も真剣に取り組む事により、そのバランスが均等を保っているともいえる。もうすぐ、年に一度のお祭り…文化祭がやってくる。その準備の為に、校内に遅くまで生徒が残る事もあり各クラスの担任と副担任が交代で作業に付き合う事になっている。今日がナルトの当番の日だ。

「う…すげえ、ヤダ」

 なるべくなら、シカマルと顔を合わせたくない。今日は授業が入っていないから、特別な用事がない限り顔を合わせる事はないのに。運が悪いとしか言えない。

「はあああ〜…」

「大きな溜息だな、渦巻」

 後ろからいきなりした声にナルトはびくりと直立する。それからゆっくりと振り返った。

「アスマ先生〜…だから、ここ禁煙だってばよ」

「うるせえ、俺は機嫌がいいんだ。水差すな」

 猿飛アスマ。ナルトが副担任を務めるクラスの担任教師だ。にかっと笑った男臭い笑みを見て、なぜかうんざりしてしまう。

「先生、機嫌いいついでにさ…今日の当番代わってくれってばよ」

「やだね」

 即答されてナルトは黙る。だが、それは一瞬の事で必死に食い下がってみた。

「どうしても…?」

「絶対に、やだね」

「なんでだよっ!」

「昨日、俺はちゃんと役割を果たしたぞ?あのなぁ…お前がこの学園の生徒だった時の事を思い出せ。今は作業最終時刻が9時までだと決まってるからいいが、お前の頃は夜中まで付き合わされたんだぞ?それに比べりゃマシだろうが。俺は今日早く帰るって決めてんの。譲れないからな」

 アスマは夏に結婚したばかりで、新婚生活を謳歌しているのだ。用事がないと本当にさっさと帰ってしまう。だが、文化祭の準備が始まってしまった為に彼も教師の役目を果たすため、最近は帰宅が遅くなっているのだ。

「先生。機嫌のいい理由教えてくれってば」

「そんなの、今日は定時で帰れるからに決まってるだろ?バカ」

「そんなことだと思った!」

 ナルトはぷいっと顔を背けるとアスマにも背を向ける。この、ざわざわしたような落ち付かない気持ちがおさまらない。でも、いつまでも逃げられる問題でもないことも分かっている。

「ちゃんとあいつに言わないとな…」

 悪戯にも程があるって……

 ナルトはむすりとしたまま、職員室の扉を開けた。

 

 

 

 

 教室の片隅で椅子に座る。

 生徒が文化祭の準備をしているのに付き合っているだけでいい。別にその作業を手伝う必要はない。だけれど、いつもナルトは率先してその作業を手伝っていた。まだ学生気分が抜けてないなどとアスマからは笑われたが、やはり一つの目標に向かって何かをするのはナルトにとって楽しい事なのだ。だけれど、今日はそんな気分になれなかった。視界の中にはシカマルが居る。机の上に座って図面を見つめながら、的確に指示を出している。

 巨大迷路を作る。もちろん、その迷路はシカマルが考えたらしいのだ。彼の頭脳を持てばそれは簡単なものだったのだろう。それだけではつまらないと、行き止まりを作るのではなく所々にトラップもしかけるという大掛かりなものになっていた。その迷路の図面を見せてもらったが、かなり精巧に作られている為にすぐにゴールが見つからなくて、じっとそれを眺めていた事を覚えている。それはまだ数日前の出来事であるのに、すごく昔の様な気がするから不思議だ。

「先生、どう思う?」

 そう言って、自慢気に図面を見せてきた彼。難関なパズルの様な図面にナルトはすぐに頭を抱えてしまったのだが。これが立体的になったらさぞ面白いだろうとワクワクした。

 ぼうっとしていたナルトは時計に目をやると、ぱんぱんと手を叩いた。

「7時になったから、女子は帰宅〜!」

「ええ〜っ!いいじゃん、ナルト先生。キリつくとこまでやらせてよ。お願い〜」

 様々なトラップを作る事が担当となっている女生徒たちは不満そうに眉を潜める。

「ダメダメ〜。女の子は暗くなったら危ないってばよ?キリなんてつく訳ないんだから、帰る事!」

 これはアスマと一緒に決めたルール。女子生徒は7時に帰宅させる事。校内に残っていいのは9時までだが、それでは帰宅時間が遅くなってしまう。迷路のパネルを作っているのは男子生徒たち。彼らはナルトと女子の毎回のやり取りを見つめたまま作業を黙々とこなしている。

「始まったばっかなんだし、間に合わないって事ないんだから…焦ってもしょうがねえってば」

 ぷうっと膨れた彼女たちは顔を見合わせてから、しょうがなく帰り支度を始める。

「予定通りに進んでんじゃん。今日はこれで充分だろ?」

「奈良!でも、今日すごくいい感じで作業進んだからまだ続けたかったんだよ〜」

 シカマルの前で腕を組む女生徒は不機嫌そうに答えた。シカマルは作業日程表を見つめながら、問題ないと返す。

「ま、そっちの作業終わったら嫌でもこっち手伝ってもらうしよ。そん時は頼むわ」

「…分かってるけど」

 食い下がるような瞳でナルトを振り返った女生徒にナルトは両手の人差指をクロスさせてバッテンマークを作る。

「アスマ先生との約束。守らねえと、出し物変更って言われただろ?」

「分かったわよ〜!もうっ」

 シカマルがふっとナルトに視線を移した。バッテンマークを作ったままのナルトは、バッチリ視線が合ってそらせない。緊張して喉も乾いてきた。

「だ…男子も、8時半には片づけ始めんだってばよ!」

 だから、頭に浮かんだ事だけ口にした。

「分かってるって!9時には校門くぐれ…だろ?俺たちは今日のノルマ切りあげたらさっさと帰るから、遅くなりませんって」

「あ…うん」

 元からなのかその才能が開花されたのか、シカマルはしっかりと作業日程表を作りその通りに作業を進めている。だから、無駄がないのだ。その日のノルマが終われば帰り支度を始める。それが早い時や遅い時様々だが、学園で決められている時間を破る様な事は絶対になかった。

 もう暗くなってしまった空。ナルトは窓枠に肘を乗せて暮れた空を眺めていた。生徒たちの雑談する声も作業の物音も耳を通り抜けて、遠くに感じていた。そこに不意に訪れた睡魔。昨夜、あまり眠れなかったツケが回って来たのだ。瞼を閉じてはいけない。そう思うのに誘惑に勝てないのも人間の性である。ナルトはぱちぱちと瞬きを繰り返した後、ゆっくりと瞼を閉じてしまった。

 

 

 温かくて気持ち良くて、何か楽しい夢を見ているようなきがする。なんの夢だろう?自問自答した所でナルトの意識がぼんやりと覚醒し始めた。

「先生、起きた?」

「…ん?ああ…」

 自分はやっぱり寝てしまったのだ。

「すげえ器用に寝るんだな、センセーは」

「人間、ひとつくれえ特技あるんだってばよ…」

 どこでも眠れてしまう。ナルトっぽいと、初恋の人に笑われた事を思い出す。

「あれ…?」

 ひどく近くに聞こえる声。その声の主は…

「シカ、マル?」

「なんすか?」

「ぎゃあっ!なにしてだってばよっ!!!」

 完全に意識を取り戻したナルトは自分の置かれている状況に驚愕する。何故かシカマルに後ろからしっかりと抱きしめられているのだ。

「みみみ…みんな…」

「帰ったって」

「へ?も、9時…?」

 耳元でくすりと笑った気配。

「まだ、8時半っすよ。今日のノルマが終わったから帰ったって訳」

「そっか…」

 納得した所で、「そんな話じゃないっ!」と心の中で自分にツッコミを入れる。

「なにしてんだって言ってんじゃん!」

「先生の事、抱きしめてますけど?」

 しれっと返されて、ナルトはむっとしてしまった。

「なんで、オレが抱きしめられきゃいけねえんだってば!」

「それは俺が先生を抱きしめたいからです」

 何かの台詞を読み上げる様に応えたシカマルの手の甲をぎゅっとつねった。胸の辺りで交差された腕はしっかりとナルトを抱きしめている。ナルトは溜息をつくと、次はぱちぱちと軽くその腕を叩いた。

「ンなの、理由になんねえの!」

「理由?昨日言ったじゃないっすか……先生が好きだって。好きな人を抱きしめたいって普通思いませんか?」

「あのさ、はっきり言っとくけど…こんな冗談は嫌いだってばよ。悪戯にしても度を越してる…それって嫌がらせだろ?」

 ナルトを抱きしめていた腕がすっと解かれる。自分を包んで居た温もりがなくなった事で、急に寒くなったように感じてしまった。

「分かってんのか?…シカマル」

 拘束が解かれた事で自由になった身体を捻って後ろを振り向く。そこには間近にシカマルの顔が合った。今の今まで抱きしめられていたのだから、この距離感は予想がつくといえばつく。

「あの…シカマル?」

 シカマルが機嫌悪そうにむすりとしている。ぎろりと彼らしくない瞳で睨みつけられてナルトは口を噤んだ。

「冗談だとか、悪戯だとか…そんな風に思ってたんすか?」

 不機嫌を纏った声色は低くて暗い。

「俺が嫌がらせしたいって?」

 ナルトはごくりと唾を飲み込む。冗談だと悪戯だと片づけてしまいたいのはナルトだ。好きだと言われた事は嬉しいが、それは教師としてである。

「俺は好きでもない相手にキスなんかしねえ」

「シカマル…あの…」

「冗談とか、嫌がらせとかそんな理由でキスなんかするかよ」

「それは……」

「俺は一人の人間として、先生が好きなんだよ。それが恋愛感情でなんか文句あるのかよ」

「あるに決まってんだろーがっ!」

 ナルトは親しい友人と喧嘩するような調子で思わず応えてしまう。そして、はっと口元を指先で押さえた。

「あのさ、怒鳴ったりして悪かったってばよ。でも…」

「でも、なに?」

「シカマルがどこをどうでオレの事好きなんだか分かんねえんだけど、なんてんだ?そう!思春期特有のナントカってやつで、別にオレの事が好きだと思ってるだけでそれは、……恋してるような気分になってるだけで、冷静になって考えたら ―――――― 」

 ナルトは自分が何を言いたいのか何を言っているのか訳が分からなくなってくる。完全にパニくっていたのだ。後々から考えればそうだったのだと説明がつく。

 あまりにも真剣な瞳で見つめられてしまって、ナルトは言葉を切った。シカマルは制服のルーズに締めたネクタイに手を掛ける。そして、にやりと笑われて完全に言葉を失う。

「思春期特有のナントカっての試してみる?先生」

「は…?」

 ナルトは噛みつくように唇を奪ってきたシカマルに微動だもできなかった。

 

 

 

 

  

 

 

進んでいる様な、進んでいない様な…

なんだろ〜。生徒のシカマル書くの難しい()

ってか、ナルト先生らしくない()

 

いつ終わるんだ!ちょい不安になってきました…