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始まりの朝 9
久しぶりにチョウジと他愛のない話をして、シカマルは最近の自分を思い返す。 サスケのことしか考えられないナルトと、ナルトのことしか考えられない自分は似ている。きっと、似た者同士だから、ナルトは自分の手を振り解けないのだ。 サスケに自分と同じ孤独を感じ、惹かれたナルトだから、きっと。 「俺、焦ってんだろうな」 「そんな弱気になるなんて、シカマルらしくないよ。シカマルはシカマルでいいんじゃないの?」 「俺らしい、か…」 「うん…そうだよ」 自分の気持ちを確かめる為に言葉にしたのだが、やっぱりシカマルはナルトの事が好きだと思った。サスケに嫉妬を感じる気持ちも捨てきれない。だけど、サスケより今は自分の方がナルトの近くにいるのではないか、そう思いたい自分もいる。 「ボク、帰るね。ナルトにも会いたいからまた来るけど」 「おう。ナルトも喜ぶぜ」 「病院じゃ、毎日会ってたよ」 屈託なく笑うチョウジに、ナルトの姿が重なる。そう言えば、こんな風に笑うナルトの姿を最近見ていない。そんな風にさせている原因はサスケではなく、自分ではなかろうか。 「なんか…お前と話せて、良かった」 素直に礼を述べると、チョウジが驚いたような顔をしてからにっこりと笑う。 「ボクも」 じゃあ、と手を振ったチョウジの背中を見送る。そして、深いため息を着いた。ナルトの事しか見えていなくて、逆に彼を追い詰める事しか出来ていなかった自分。今までの言動はなにか間違っているのではないかという不安も湧き上がってくる。廊下の壁に凭れながら、鬱塞した気分でいると自分を呼ぶ声が後から聞こえた。 「なんだ、チョウジか帰っちまったのか?」 「親父か……なんかナルトの様子見に来たみてえだ」 「あいつは人気者だな」 「悪かったな、人気者じゃなくてよ」 悪びれた風もなく言い返すと、シカクは口元に笑みを乗せたまま顎をしゃくる。 「なんだよ?」 「人気者じゃねぇお前に話があんだよ」 シカマルは断るのも面倒くさく感じたので、素直に父親の背中を追う事に決めた。和室に通されて、二人きりになる。胡坐をかいたまま腕を組んでいるシカクは、シカマルの座るのを見て話を切り出した。 「ナルトから聞いたらしいな?」 「何の事だよ」 「九尾の妖狐のことさ」 シカクの声は少しだけ沈んでいるように感じた。シカマルは隠す必要もないので頷く事で返事をする。 「それが…どうかしたのかよ」 「いや、どうもしねぇが…お前はどう思ってんのか聞いておこうと思ってな」 シカマルは不機嫌を顔に表した。 「どうもこうも思っちゃいねぇよ。ナルトはナルトだ」 それだけはハッキリと言う事が出来る。ナルトの中にどんなバケモノが封印されていたとしても、それを聞いて自分の中でナルトが別人に見えた事は無かったし、彼への気持ちも変わらない。 「そりゃ、お前は九尾を本の中の生き物だと思ってるから言えるんだろ?実際、あいつを見て戦って…死んでいった奴も五万といる。あの禍々しいチャクラは、俺でも震え上がったぜ?」 シカクの言いたい事が分からなかった。どうして、今になって自分に「九尾の妖狐」について話をするのか。シカマルにはそれを誰それと吹聴するつもりはないし、その重大性も理解しているつもりだ。 「あれが封印されてから、その事を口にすることに厳戒令がしかれ…赤ん坊だったお前にも知らねぇ話になったって訳だ」 「それが…どうしたってんだよ。俺は誰にも喋るつもりはねぇし…ナルトに対しても変わらねぇ」 それだけは断言する事が出来る。それ以上の事は言えないけれど。シカマルがむっつり黙ってしまうと、堪えきれないというようにシカクが笑った。そんな父親に不快な気持ちを感じて、シカマルは剣呑な表情を隠そうともしない。それがまたシカクには面白いのか、大きな声で笑い出す。 「なんだよ…親父」 「悪りぃな。ちょいと確認してみたかったもんでよ。ナルトの言った事は本当だってな。お前が、自分を認めてくれたことにあいつは本気で喜んでた。お前の気持ちはどうなのか、腹探っときたかったんだよ」 「…鎌かけかよ」 呆れた父親だ。実の息子であると言うのに、信用する前に疑われるなんて思ってもみなかった。 「話はそれだけかよ」 「シカマル。九尾はバケモノだ…」 笑いを止めたシカクの言葉は急に重たくなる。シカマルは眉を顰めた。 「ナルトはあんないい奴だってのに、九尾が腹ん中に居るってだけで、里の者に蔑まれられる原因を作った。九尾の妖狐もバケモンだが、人間も同じかもしれねぇ」 「……でも、ナルトの心を救ったのだって、同じ人間じゃねぇのかよ」 仲間、師匠、友達。ナルトを疎んじるのも人間ならば、彼を救ったのもその繋がりだ。 「嫌な事ばっかりじゃなかったんだろうよ。きっと…」 自分とサスケの繋がりというものにあれだけ拘るのだから。そう考えるとシカマルの気持ちも暗くなる。シカクは両腿にぱちんと手を合わせ、勢いを付けて立ち上がった。 「シカマル。お前もナルトを救える人間でいろや」 シカマルはどきりとする。シカクには何もかもお見通しなのではないか、そんな疑心が生まれた。シカクに自分の気持ちが露見する事は構わない。だが、それでナルトの立場が危うくなってしまうのではないかという不安も生まれる。 「俺の息子だからな。お前は」 静かに襖が閉まって、シカマルは畳の上に足を崩した。シカマルがナルトを家で預かりたいと両親に告げた時、シカクもヨシノも知っていたのだ。ナルトの中に九尾の妖狐が封印されている事を。それを承知で、シカマルの願いを承諾した。 「まだ、かなわねぇな」 口うるさい両親は自分よりずっと大人で、分別のついている尊敬できる人間だった。自分がナルトにしてやれる事は少ないかもしれない。それでも、やっぱり自分の気持ちにウソが付けない自分は子供なのだ。それを思い知らされているみたいでなんだか悔しい気持ちになる。シカマルはきつく唇をかみ締めると、自分がまだぬるま湯に浸かっている子供だと改めて感じ、暗い気分になった。
最悪な気分で眠った次の日の朝は、目覚めも最悪だ。 「なんだ、母ちゃん…」 シカマルは覚醒しきった頭をフル回転させてヨシノの言葉を待つ。 「早く起きなさい。いつまで寝てるつもりなの?お父さん、もう行っちゃったわよ」 行ったと言うのは修行の為に家を出たと言う事だろう。 「…そんな時間かよ」 普段、目覚ましなんて必要としないシカマルは部屋にある時計を確認する。自分が起きる予定だった時間よりも随分と遅い。意外だった。 「あんたが寝坊するなんて珍しいけどね。早くご飯食べちゃいなさい」 ヨシノはシカマルの額を人差し指で弾く。 「イテ…」 欠伸をしながら、大きく伸びをする。寝間着から普段着に着替えると、髪を素早くまとめる。そんな単調動作を毎朝繰り返す身体は、無意識の内に支度を済ませた。 顔を洗ってダイニングへ行くと、席に着いて先に食事を始めているナルトの後姿が目に入る。シカマルは一瞬、自分がまだ寝ぼけているのかと思った。冷たい水で洗顔を済ませたというのに、願望が見せる幻だろうか。そんな非現実的な事を考えていたら、元気な声が耳に飛び込んでくる。 「おばちゃん、お代わりするってばよ!」 お碗を受け取ったヨシノは嬉しそうに笑った後、呆けた顔をしているシカマルに視線を向けた。 「シカマルも早く食べちゃいなさい」 「あ!おはようだってばよ〜シカマルッ」 片手を軽く上げたナルトは、明るい笑みをシカマルに見せる。 「お…おう」 間抜けな返事しか出来なかった。ナルトの隣に腰掛けながら、ちらりと横を伺う。 「……ナルト」 「なんだってばよ。シカマル、迎えに来るって言っといて、来なかったじゃん」 「悪りぃ…寝坊した」 「嘘だってば。オレ、自分で来るって言ったし…」 ナルトはぺろりと舌を出す。 「オレ、自分で来たかったんだってば」 ナルトの真意が測れない。何を思っているのか、全く分からなかった。シカマルは自分の碗に口を付ける。 「おばちゃんから聞いたんだけど、昨日チョウジが来たって」 「見舞いだと。ナルトが俺んち来てるの知ってるからな」 「見舞い?チョウジだって怪我してたじゃん」 「…口実だろ。理由なんて特にねぇんじゃねえの?」 「そっか」 「また来るって、言ってたぜ」 「そっか…」 ナルトはそれ以上の事を言わないで、食事を再開した。 シカマルもそれ以上の事を言わないで、箸を取る。 「シカマル…今日は任務入ってるってば?」 「いや、今日は……ねぇな。親父と修行はするけどよ」 箸先で鮭の身をほぐす。今日も味噌汁の具が多い。ヨシノがナルトの事を考えて、苦手な野菜をたんまりと入れているのだ。ヨシノの思惑通り、ナルトはうまそうに味噌汁をすすっている。だが、シカマルはナルトの話の続きが気になってしょうがない。 「あのさ…修行終わったら、オレに付き合って欲しいってばよ」 ぽつりと呟くナルトは、シカマルの方を見なかった。 「どうした?」 「シカマルが任務入って無いって事は、チョウジも休みだろ?チョウジとも会いてえし…」 「あ、ああ。そうだな…」 理由が分かってシカマルは何故かほっとした。ほっとしてしまう理由も分からないまま、ぼんやりと食事を続け、視線に入った時計で時間を確認すると毎日の修行の時間を随分と過ぎている。焦ったシカマルは食事のペースを早めると、かきこむようにして済ませた。 「俺、時間やべえから行くわ」 ゆっくり食事を続けていたナルトはシカマルの焦り様に笑ってしまう。 「わかったってばよ。オレは、シカマルの部屋で待ってるから」 「ああ、悪りぃな」 それだけ告げると、シカマルはふとナルトに視線を移す。そして、ナルトと目が合って眉を顰めた。ナルト目が純血している。それは彼の睡眠が十分でない事をシカマルに物語っていた。どうしてだろうか、シカマルにはそれが自分の所為であるように思えてならない。そして、そこまでナルトを追い詰めている自分が、憎らしい。じっと見つめられて困ったように笑ったナルトは、シカマルの背を押す。 「早く行かないと、おっちゃん怒るってばよ」 「そうだな…」 そう答えることしかできないシカマルは、湧き上がる悔しい気持ちをため息にしてナルトに背を向けた。
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シカマルが弱音を吐ける相手が欲しかったんです。
なんか、それがチョウジになっちゃいましたが。
幼馴染なんでいいでしょう!
話自体は、あんま進んで無いですね(……)
次はもっと前に進めたいです(^_^;)