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始まりの朝 8

 

 

 ナルトは、どうしてだろう…と思った。唇に触れている温もりはあたたかい。そして、不快な気持ちは少しもない。

 どうして、それを振り切ることは出来ないのだろうか。シカマルを拒否しても、きっと彼の態度は変わらない。変わらず、自分の友達として居てくれるはずだ。手首を掴んでいたシカマルの手の力が緩められる。そのままナルトの掌に重ねるようにシカマルの掌がすべる。そして、そっと指が絡められた。

 音も無く離れる唇。

「わかったかよ。俺が狡い奴だって…」

 ナルトはじっとシカマルを見上げる。シカマルの真剣な瞳を確かめて、素直に言葉が出てきた。

「全然、ずるくないってば…」

 シカマルは口元に笑みを貼り付けた。それは嘲笑しているように見える。誰に対しての笑みなのかはナルトには分からない。

「どうして…笑ってんだってばよ?」

「そりゃ、お前の馬鹿さ加減とそれを利用してる自分の馬鹿さにだろ」

「難しいことばっか言って…オレってば分かんないってばよ」

 ナルトはぎゅっと絡められた掌を握る。その手が震えていることを、シカマルには気が付かれたくない。

「サスケはオレにとって、ライバルで同じ班でずっとやってきて…助けられたり、協力したり…あいつに認められたいって思ったり、でもあいつの中にあるオレと同じ孤独を感じちまったから。なんか離れられなくなったんだってばよ。きっと、オレもあいつも、どっかで寂しかったんだってば。やっと出来た繋がりを、オレは離したくないって…それを、サスケが断ち切ろうとしてんの認めたくないんだってば…」

 一気に言って、ナルトはぎゅっと目を瞑る。

「オレは、サスケを止められなかった…あいつにとってオレがどんな存在なのかとかって考えたくなくって、今は…それを見失いたくなくってサスケを取り戻したいんだってば」

「サスケを……好きなんだな」

「好きって…どうゆう意味でだよ。分かんねぇってば…サスケが大切かって聞かれたらそうだってばよ」

 シカマルは静かにナルトの手を握り返した。こんな風にナルトの本心を聞き出したかったわけではないのに、現実、そうなっている。きっとナルトにとって、こんな押し問答みたいな会話は苦手なはずだ。人の腹を探ったり、駆け引きみたいに話をする事も。素直で真っ直ぐな心の持ち主だから、きっと辛いはずだ。こんな思いをさせたいなんて思っていなかったはずなのに、自分の存在が言葉が、ナルトを苦しめている。

「やっぱ、最低なのは俺の方だな…悪りぃ、ナルト」

 それでも、こんなに他人の事を愛しいと思ったのは初めてだから、シカマルは止められなかった。自分の気持ちを。

「サスケの事、忘れなくても諦めなくてもいい。―――― 俺にしとけよ」

 シカマルはナルトの身体を抱き締める。そうせずには居られない。

「俺はお前の前から消えたりもしねぇ、なるべく寂しくないようにもする。だから、俺にしとけ」

「なっ…何言ってんだってば!」

「一応、考えた。考えた結果がこんなお粗末なもんで悪りぃけどよ」

「オレの心にぽっかり穴が空いてんだってばよ…それは、サスケの存在なんだ」

 ナルトは振り絞るように自分の気持ちを言葉にする。シカマルに差し出された手を、振り払っていると言う事は承知の上だ。それは、彼の優しさを利用した自分への罰。

「ナルト、心ってどこにあると思う?」

 急なシカマルの質問にナルトは顔を上げた。しっかりと目を開けて、シカマルを見る。ナルトは自分の手で胸の辺りを示す。

「ここらへん…?」

「心の中には、いくつもの窓やドアがあんだよ」

「……何の話だってば?」

 急な話の展開にナルトは唖然としてしまう。だが、じっとシカマルの言葉に耳を傾ける。

「それが、サスケだったりサクラだったり。イルカや俺やチョウジやキバ、一人一人違った名前がついた扉があって、もちろんそれを開ける鍵も違う訳だ。だから、俺がどんなに頑張ってサスケっちゅードアをこじ開けようとしてもフェイクはねぇって訳。無理やり壊そうとしたりしても無駄なんだ。それはサスケにしか開けられないドアなんだよ。サスケだけが持ってる鍵なんだよ。変わりにはなれねぇ。だから、俺はダチって一括りにされてる俺の存在を個人として認めて欲しいんだ…」

 ナルトはシカマルの言った事を頭の中でイメージしてみる。分からないと言ったナルトを考慮してか、随分と噛みくだれた話の内容になっているように思える。

「してるってばよ…?シカマルは、ただのダチじゃねぇもん」

「俺が求めてんのは、ダチ以上の関係だぜ?わかってんのかよ。それも含めて、俺にしとけって言ってんだ」

「それは、きっと滅茶苦茶ずりぃってば…」

「図々しくも、サスケが開けた穴を俺が埋めたいんだ。偽者じゃなくて、お前に認められて」

 ナルトは胸の鼓動がどくどくいっているのを感じる。シカマルに言われた言葉の一つ一つをしっかりと考える。

「オレってば…サスケの事諦めるつもり、ねぇんだって。サクラちゃんとも約束したんだってば」

「いいんじゃねーか。サスケを木の葉に連れ戻すんだろ?俺たちの任務はまだ、終わっちゃいねえってことだしな」

「シカマル…」

 どうして、彼はこう前向きなんだろうか。ずっと自分は後ろを振り返ることしかできない。サスケを取り戻すことしか考えられなかった。守りたかったのは、自分自身なのかもしれない。

「オレ、シカマルに抱き締められたりキスされんの……やじゃないんだってば。それって、おかしいよな。言ってることとやってる事、ちぐはぐでオレもよく分かんねぇんだってば」

 ナルトは心の不安を吐露する。サスケを諦めなくてもいいと言ってくれた寛大な男は、くすりと笑った。

「一応、俺の事嫌いじゃねえんじゃねぇの?」

「……オレは、シカマルのこと」

 言葉の続きが上手く出てこない。歯痒い感情に苛立ちすら覚える。黙ってしまったナルトに何を思ったのか、シカマルは身体を起こした。

ナルトはベッドに横たわったまま、じっと天井を見つめていた。

「ナルト…」

 シカマルは腕を伸ばして、くしゃりと金色の髪を撫ぜる。

「俺、帰るわ。明日の朝、迎えにきてやるからよ。母ちゃんがうるせぇだろうし」

 ナルトはシカマルに視線を移して、軽く首を振る。

「いいってば……オレ、ちゃんと行くから。大丈夫だってばよ」

 無理して笑っている事は確かで、そのアンバランスな表情にシカマルの心も痛い。なのに、そうさせているのは自分だと言う優越感と、そんな自分を低劣だと感じる二つの感情が入り混じった。

 いつまでもナルトと一緒に居たい気持ちを抑え、立ち上がる。ここに着いた時とは違う雰囲気が二人の間を流れる。シカマルは何も言わないで、静かにドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 シカマルがぼちぼちと家に帰ると、チョウジが来ているとヨシノに告げられる。

「ナルト君は?」

「あ〜やっぱ疲れてるみたいでさ。寝ちまったから、起こすのもなんだし…とりあえず、置いてきた」

 最初から決まっていた言い訳に、ヨシノの表情も渋くなる。

「やっぱり。明日にすれば良かったじゃない…」

 もちろんそう言われる事は承知の上だ。

「朝になったら迎えに行って見る」

 とりあえずそれだけ告げると、自室の扉を開けた。中にはのんびりと菓子を食す、幼馴染の姿がある。

「よう。チョウジ、どうしたんだ?」

「シカマル、おかえり。あれ?ナルトは…?」

 シカマルの後ろにナルトの姿が無いことを不思議に思ったチョウジは首を傾げる。シカマルはぽりぽりと鼻の頭を掻いた。

「あいつ、寝ちまったんだ」

「おばさんからナルトのアパートに着替え取りに行ってるって聞いたけど、ナルト寝ちゃったのか」

「それよりなんだよ。お前からこんな時間に珍しいじゃねえか」

 シカマルはチョウジの前に腰を下ろすと、背中をベッドに預けた。

「うん。ナルトが退院して、シカマルんとこ居るって聞いたから、ちょっと来てみたんだけど」

 チョウジは随分と前に退院している。その姿を目にするのが久しぶりだと感じるのはどうしてだろうか。

「ナルト、元気?」

チョウジの科白に含みを感じるのは、きっと自分が後ろめたいからだ。

「……体力は回復してんじゃねえのか?」

 問題がないから退院を許可されたのだ。シカマルが言うと、チョウジは口元に笑みをのせる。

「って言うかさ…やっぱ、サスケの事があるから落ち込んでるかな、とか思ったんだよね」

 のんびりとした口調はチョウジの優しい性格をよく表している。だか、物腰が柔らかいからこそ、時々ドキリとする一言を言われたりもした。彼の言うことは的を得ている。

「今回の任務失敗しちゃって、シカマルも落ち込んでるかぁとかも思ったし。ゆっくり、そうゆうこと話す時もなかったし」

 チョウジは今回の任務で命を落としかけた。彼だけはない。ネジもキバも、同じような状態である。シカマルにとっては任務が失敗したことよりも、仲間を死の淵を彷徨わせた自分の方が許せない。

「お前は、大丈夫なのかよ」

「シカマルに心配されることないくらい回復してる」

「そっか…」

「ネジが言ってたんだよ。身体の怪我はふさがっちゃえば治るけど、心はそうはいかないって。ボク、あんまそうゆう事考えた事無かったんだけど、言われてみればそうかなって」

 シカマルとナルトの事を心配していると、チョウジは言いたいのだろう。その優しさにシカマルは嬉しくもあり、そうさせてしまった自分自身に情けなくもなる。

「ネジとそんな話したんだな…」

「たまたま病院でね。検査の時に一緒になったんだよ。ボクもネジとああやって話をしたのは初めてだったけど、あいつっていい奴だよね。シカマルと一緒だ」

 笑顔を向けられて、シカマルはすうっと心が冷めていくのを感じた。自分はチョウジが言うように「いい人」ではない。友達の弱みに付け込んで、あわよくば自分の手に入れようとしている狡猾な人間だ。

「俺は、いい奴なんかじゃねぇって」

 その疚しい気持ちから、チョウジの言葉を即否定した。

「シカマルはどう思ってるか知らないけど、別にいろんな人にいい顔する奴が一般的な良い人じゃないってボクは思う。ボクにしてみれば、シカマルはいい奴だよ」

 そんな言葉がシカマルの心を少しだけ救ってくれたような気がした。確かに気に食わない人間にまで、いい人を装うつもりはない。有りのままの自分を受け入れてくれた人間が、自分の周りに残っているだけだ。

「チョウジ、俺ナルトが好きなんだよな」

 だから、ぽつりと呟いてしまった。

「知ってるよ」

 暢気に答えるチョウジの返事を否定するようにシカマルが続ける。

「お前が思ってるみたいじゃくさ…」

「うん、なんとなく分かってたって言うか…」

 シカマルは目を丸くする。本当に驚いたのだ。ナルトへの気持ちを認識したのは、つい最近の話だというのにチョウジは自分の何を知っていると言うのだろうか。

「…って、どうゆうことだよ」

「あ、シカマル驚いてる」

「驚くだろ、普通。驚かねぇのか、お前は」

「なんとなくナルトは特別なんだろうなぁって思ってたんだよ。シカマルは、ボクの事よくわかってくれるじゃない。それと同じでボクもシカマルの事分かるって言うか」

「特、別…って?ナルトとは普通にダチだったぜ?」

 チョウジは考えるようにしてから、テーブルの上のジュースを口にする。シカマルはじっとチョウジの言葉を待った。

「シカマルがさ、ボクとかナルトとかキバとか好きだなって思ってて、それが特別に変わるのも普通かなって思うんだけど…?シカマルは、実は好きなものって意外と少ないと思ってる。興味を惹かれるものって言うのかな?嫌いなものも少ないと思うし」

「おかしいとか、思わねーのかよ」

「別に?」

 見事にきっぱり言い切られてしまって、シカマルは唖然としてしまった。思わず口元を押さえる。こういう場合はどうすればいいのか、シカマルの辞書には存在しない。いきなり幼馴染が男友達に好意を抱いても普通にしていられるチョウジが、とてつもなくすごい奴に見えてくる。

「…なんつーか、砕けてんな。お前」

「シカマルはボクの理解者だから、ボクもそうなりたいとか思ったんだけどね」

「言葉がみつからねえ」

「シカマルもナルトも、突然の事だからビックリしてんじゃない?」

 チョウジの言葉はとても素直で正直だ。ナルトと似ていて、嘘をつくのが苦手な幼馴染は少しだけ照れたように笑った。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

シカマルとナルトの気持ちがすっごい不安定…

書き表せなくて、更新が遅くなりました(自分的に)

個人的にチョウジが好きです。シカマルの幼馴染ってゆう位置関係が。

ようやく本題に入ってきた感なんで、勢いあるうちに先に進みたい。

これも毎回、思う事です。