アクセスカウンター

 

 

 

始まりの朝 7

 

 

 身体を揺すられている。最初は遠慮気味だったそれが、だんだんと激しくなる。

「起きろって!メシだぞ、ナルトっ」

 耳元で大きな声がして、ナルトはぱっと目を覚ました。目の中に飛び込んできた光景は、自分の寝室のものではなく一瞬何がなんだか分からなくなる。

 がばりと起き上がったナルトは部屋をぐるりと見渡し、最後にシカマルに視線を止めた。

「…オレ、寝てたってば……?」

「爆睡だろ。…ちっとも起きやしねえから」

「悪りぃ…」

 ナルトは不機嫌そうなシカマルを見上げる。どうして彼はこんなに不機嫌そうなんだろうか。皆目見当が付かない。すると、シカマルは自分の肩に引っ掛けていたバスタオルをナルトの頭に被せた。

「お前なぁ…乾かせっつただろ?頭、ぐしゃぐしゃだぞ」

 ナルトは自分の髪を触ってみる。確かに所々に寝癖らしきものが確認できる。それから、はっと枕元を見ると、ぐしゃぐしゃになったタオルが草臥れていた。それにシーツも湿っぽい。

「あ、シカマル悪りぃってば。ベッドも濡れてる」

「ンなこたぁいいけどよ…」

 シカマルはふうっとため息をついた。

「全く、しょうがねぇなぁ」

 その声は存外、優しく聞こえる。呆れているといった風だろうか。

「とにかくメシだってよ、メシ」

「あ…うん。わかったってば」

 ナルトは眠ってしまう前に、何か重要な事を考えていた事だけは思い出せるのが、それが何だったのか思い出せない。それが顔に出ていたのか、シカマルが訝しげな顔つきで見つめてくる。

「どうした?ナルト」

「…なんでもないってば」

 ナルトは取り繕うような笑顔を浮かべた。シカマルは特に追求もしないで、ナルトに背中を向けた。

「行くぞ〜」

 暢気な声はいつものシカマルの口調で、ナルトはほっとしてしまう。とりあえず、シカマルに従うことに決めたナルトは、よっとベッドから飛び降りた。

 

 

 

 

 ナルトは顔を赤くしながら、皿うどんを口に入れる。揚げた麺の上には、魚介や野菜のたっぷり乗ったあんがかけられていた。ヨシノがたまにくすくすと笑っている気配を感じる。もちろん、ナルトの寝癖を見て。シカクとヨシノは寝ぼけ眼で現れたナルトを見るやいなや大爆笑したのだ。頭を枕に押し付けるようにして寝ていたナルトの左側の髪の毛が、元気よく跳ねていた。

「おっちゃんもおばちゃんも、しつこいってばよ〜」

 ナルトはじっとと向いに座る二人に視線を向ける。

「おい、ナルト。笑ってんのは母ちゃんだ」

「あなただって笑ったじゃないの」

「今の話だろ、今の」

 夫婦漫才を続ける二人をシカマルはずっと無視している。興味もないといった様子だ。半分ほど食事を終えたシカマルが、いかにも今思い出したと言う様に「そう言えば…」と口を開いた。息子の声に両親がシカマルに視線を向けた。

「どうしたの?」

「こいつ、荷物とか取りに帰りたいんだってよ。着替えとか、足りねぇじゃん」

「ああ、そうね。確かに」

 ナルトが驚いたようにシカマルを見ると、彼はにやりと笑う。

「メシ終わったら、行って来るわ」

「へぇ、そう……え?!今から?」

 ヨシノが驚いた声を上げる。

「なんかおかしいかよ、母ちゃん」

 シカマルはしれっと答えた。

「もう夜じゃない。明日でいいんじゃないの?」

「夜って…俺ら別にか弱い女じゃあるまいし、しかも忍だぜ?」

 シカマルの言うことは尤もで、ヨシノは返答に困った様子でシカクに視線を向けた。シカクは無言のまま食事を続けている。

「ちょっと、お父さん!」

 少しだけ責めるようなヨシノの声に、シカクも眉を顰めた。

「ま、母ちゃん。シカマルの言うことは間違っちゃいねぇし」

「ナルトくん、疲れてるじゃない」

「ま…まあ、そうだな。明日にしたらどうだ?ナルト」

 三人の視線を一気に受けたナルトは、一瞬回答に困る。自分はシカマルほど頭の回転もよくない。シカマルから何の話もされていないナルトにとって、この話は寝耳に水なのである。

「あ〜えっと、…心配することないってばよ!ほんとに!」

 そう答えるのが精一杯だ。シカマルがくすりと笑った気配を感じる。

「母ちゃんが心配なら、俺も付いてくし」

「そう!そうだってばっ」

 ナルトも力強く肯定してみた。ヨシノは納得してはいないが、しないわけにもいかずため息をつく。

「母ちゃん、ナルトに対して過保護過ぎんだよ」

「何言ってるの。シカマルもナルトくんもまだ子供でしょう」

「ってか、母ちゃんから見たら一生子供だろうが」

「全く…人の揚げ足を取るのはやめなさい」

 とりあえずシカマルの言うことに非はないので、ヨシノは仕様がなく承諾する。シカマルは母親を抑えておけば後は大丈夫だと言う気になる。この家の鬼門はヨシノなのだ。間違った事をすれば必ず叱られる事になるし、先に母親に知らせておけば何の問題もない。シカクは関わらないほうが賢明だと、無関心を装っている。

「ま、でも…あんま遅くなるようなら、ナルトんちに泊まってくるわ。母ちゃんも心配だろうしな」

 ヨシノはぎろりと息子を睨みつけた。シカマルは机の下で親指を立てる。それに気が付いたナルトは悪戯をしている気分になって口元に笑みを作る。打開策を練ると言った彼の言葉は本当だった。まさかアパートに戻れると思っていなかったナルとはなんだか嬉しくなる。久々に味わう開放感に期待も高まった。ヨシノが作ってくれる食事はどれもおいしい。野菜嫌いのナルトを考慮して、あの手この手を尽くしてくれている。それには十二分に感謝していた。加えて、さり気無く気を使ってくれるシカクにも。でも、それとこれは別問題だ。ナルトはシカマルにも感謝しながら、おいしく食事を続けたのだった。

 食事を終え、ゆっくりと茶を啜った後でナルトは腰を上げる。シカマルもその後ろに付いてきた。玄関でサンダルを履くと、少し心配そうな顔つきなヨシノが見送ってくれる。

「おばちゃん、心配しすぎだってばよ」

「心配はし過ぎて悪いものじゃないでしょ」

「へへへ…」

 そんな言葉の一つ一つは嬉しいものである。この二日間でヨシノやシカクに対する見解も随分と変わった気がする。否、大人に対してと言ったほうが正しいのかもしれない。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 シカマルは白けた眼差しでヨシノを仰ぎ見た。完全に呆れているといった風である。何に気をつけるのか一つずつ聞きたい気分だ。確かに大蛇丸が仕掛けてきた木の葉崩しにより、この里は多大な損害を受けた。だが、それだけで木の葉は終わらない。過去の経験を生かしたセキュリティチェックはより強固なものになったと言える。忍の人員不足は補えてはいないが、新しい火影も就任し安定して来ていると言えるだろう。大きなため息を付きたいのを堪えながら、玄関を潜る。

 二人で歩く夜の空には、ぽっかりと浮かぶ白い月。ナルトのはしゃぎ様はシカマルから見ても相当なもので思わず苦笑してしまった。

「そんなに嬉しいか?」

 声をかけると、今にもスッキプしそうなナルトがひらりと振り返った。シカマルに顔を向けながら、後ろ向きに歩く。

「嬉しいってばよ!」

「おい、転ぶぞ〜」

 シカマルが注意するように言うのと、小石に躓いたナルトが尻餅をつくのはほぼ同時であった。

「イテテ…」

 尻に痛みを感じて顔を顰めると、ナルトの前に差し出されるシカマルの手。

「言わんこっちゃない…」

 ナルトは気まずいような顔をしながら、その手を取る。

「お前が怪我でもして帰ってみろよ。母ちゃん、今度から付いてくるとか言うぞ?」

 半分脅しをかけるように言うと、ナルトはしゅんと肩を落とした。

「悪りぃってば…」

「気ぃつけろや。言ってる端からこれじゃ、先が思いやられるぜ」

 シカマルはぐいっとナルトを引き上げる。ナルトは顔の前で両手を合わせた。

「気をつけるってばよ。マジで」

「ゲンキンな奴だなぁ…」

 シカマルはくすりと笑うと、寝癖がついたナルトの髪を指で弾く。

「ホントだってば〜」

 ニシシと笑ったナルトは、寝癖を気にしながらもシカマルにさっさと背中を向けてしまった。だらだらと歩きながらの道のりはそんなに長いものではない。シカマルにはそう思えてしまう。アカデミーを卒業して下忍となり、各班に振り分けられた自分たちは、個々の任務に追われて個人的な時間を共に過ごすというのが格段と減った。担当上忍を元に構成されたスリーマンセルでの行動が多く、非番が合わなければ会うことも余り無い。それに、アカデミー時代に馬鹿をやっていた仲間は散らばっており、そんなに都合よくタイミングが合うことも少ないのだ。

「なんか、こうゆうのって久しぶりだってばよ。シカマル、アイス買ってかね?」

「おう、別にいいけどよ…まだ食うのか?」

「食後のデザートだってばよ」

 途中コンビニにより、ナルトが買ったアイスは真ん中でぱきんと割って分けるサイダー味のアイス。ナルトからそれを受け取り、懐かしい味を楽しみながら口にする。本当にこんな事は久し振りなのだ。アイスを食べ終わる頃には、ナルトのアパートに到着していた。

 がちゃりと鍵を開けたナルトは嬉しそうに中に入っていく。

「おい、ナルト。俺はここで帰るからよ」

 シカマルの科白にナルトは驚いたように振り向いた。

「え…?よってかねぇの?」

「母ちゃんにはお前は寝ちまったからって適当に話つけといてやるよ。お前、一人になりたいんだろ?」

「えっと…汚くしてるけど」

 ナルトは口を濁したようにぼそぼそと話す。

「…寄ってっけってばよ」

 シカマルはナルトの真意を測り損ねていた。少し気弱そうに見えるナルトは、シカマルが頷くのを待っている。ふうっとシカマルは息をついた。

「…なら、ちょっとだけ上がるわ」

 シカマルの言葉にナルトは嬉しそうな表情になる。部屋の中に散らばったものをかき集めたナルトは、シカマルに唯一ある椅子を勧めた。

「ちょっと座って待っててくれってばよ。も少し片付けるから」

「気にすんなよ。いつもの事だろ?」

「まぁ…そうだけどさ」

 膨れっ面になったナルトは指摘された事は間違ってないので、言い返す事は出来ない。

「シカマルと一緒にいんのは、オレ…やじゃないってばよ」

 ナルトの素直な言葉にシカマルは苦笑してしまう。

「お前、ちょっとは警戒とかしないのかよ」

「警戒?」

 洗濯物と見える衣服を抱えたナルトは意味が分からないと顔に出ている。椅子から立ち上がったシカマルはすたすたとナルトの前まで移動すると、じっとナルトを見つめた。不思議そうにしている表情は変わらない。だから、シカマルは行動で示すことにした。目の前のナルトをぎゅっと腕の中に抱き込む。硬直したナルトの手からバサバサと洗濯物が落ちた。

「こうゆう警戒」

 態と耳元で囁いてやると、ナルトが緊張したのが手に取るように分かる。

「あの…シカマル?」

 ナルトは眠りに入る間際に考えたことを不意に思い出した。自分はシカマルの優しさを利用している。そんな自分の行動がとても最低なものに思えて、とても後悔した。でも、こうやってシカマルの優しさを感じるのは本当に嫌ではないのだ。抱き締められて、シカマルの体重が自分に圧し掛かってくる事を感じた瞬間には、ベッドの上に組み敷かれている。

 シカマルの両手は、ナルトの両手をベッドのスプリングに押し付けている。下半身にシカマルの体重がかけられているので、動くことも出来ない。

 ナルトは妙に鼓動が激しくなるのを感じた。

「シカマル!オレ…最低なやつなんだってばよ!シカマルが優しくしてくれんのに甘えてんだってば…」

「馬鹿だな…お前」

 口元に笑みを作ったシカマルの顔は苦しそうだ。

「違うだろ。誰でも気弱になってる時には、何かに縋りたくなるもんだろ?俺はサスケがいなくなって落ち込んでるお前の隙をついてんだぜ?俺の方が、狡い人間だって言ったはずだ」

「でも…!」

「弱ってるナルトの気持ちに付込んで、その気持ちを利用してんのは俺の方だ……そう言ってる意味、分かるか?俺のほうが最低なんだよ」

「オレは今でもサスケの事考えてて……なのに、シカマルが優しくしてくれんの嬉しくて」

 シカマルはため息をついた。悪者は自分だけで良いのに、どうしてナルトは自分自身を責めるのだろう。全部を自分の所為にしてしまえば、もっと楽に成れると言うのに。

「こんなお前だから、俺は好きなんだと思う」

 至極真剣な声だった。ナルトはじっとシカマルを見上げる。

「お前、俺が告った時――― 何て言ったか覚えてるか?」

 ナルトは首を横に振る。

「お前、俺にありがとうって言ったんだよ。迷惑だとも、ゴメンだともいわなかった。あん時否定されてたら……なんて、俺の勝手な解釈だけどよ。俺はサスケの事を諦めろとか忘れろとか、そうゆうめんどくさいことは言わねーって言ったろ?俺には打算があった訳だよ。――― 狡い狡い人間だからさ、俺は」

 ナルトは目を見開いた。シカマルの顔がゆっくりと近づいてくると、唇が重なる。触れるだけの口付けに、ナルトはそっと瞼を閉じた。

 

 

 

  

 

 

ちょっと、シカナルっぽく!

いや、目指してるのはいるもシカナルですが…

すごくかわいいフリー素材をDLしてきましたので

少しずつ他のページに変えてきたいと思っています。

次回は、またまた急展開?…の予定。