|
始まりの朝 6
シカクは森の奥にある、奈良家の研究所に用があるらしかった。その間、待つように言われナルトはそれに従う。すぐに用事は済んでしまったのか、とんぼ返りのような状況で帰路につくこととなったのだが、病室にいるばかりの生活だったナルトにしてみれば、随分と気分転換になった。シカクがそう言う意図でナルトを連れ出してくれたと気づいた頃には、もう木の葉の奈良家に到着してまう。 「おっちゃん、今日は楽しかったってばよ」 素直に礼を述べると、シカクは鼻の頭をちょいと掻く。そんな姿がまたシカマルと重なった。彼は照れているのだろうか。玄関を潜りシカクが「母ちゃん、帰ったぞ」と声をかけると、家の中からヨシノが顔を出した。 「あら。早かったのね」 彼女も笑顔を浮かべている。シカクから弁当の包みを受け取ると、軽くなったそれに嬉しそうな表情になった。 「おばちゃんの弁当もサイコーだったってばよ!」 「ありがとう。お風呂沸いてるから、二人とも済ませてきたらどう?」 ヨシノの勧めに、シカクは上着を脱ぎ始める。 「行くぞ、ナルト」 「え?いいってば…オレ、一人で入れるし」 「なに色気づいてんだ?男同士だろ、気にするこたぁねーだろ」 シカクの言葉にヨシノが吹き出した。ナルトは気恥ずかしい気持ちになる。金色の頭をぐりぐりと撫ぜられて、その気持ちがより一層大きくなった。 「オレ、一人で風呂入れねぇ子供じゃないってば!」 「風呂は子供とか大人とか関係ねぇよ」 シカクの言うことは尤もでナルトは返す言葉に困る。 「お父さんも、そんなにナルトくんをからかわなで。ホラ、着替えは用意しておくから、早く行きなさい」 ヨシノに背中を押されたナルトは、仕様がなくシカクの後ろに付いていく。ナルトのアパートに比べものにならないくらい大きな風呂には、シカクとナルトが二人で入っても問題ない。ナルトはシカクに無理やり頭を洗われた。自分が、子供でないと言うことへの嫌がらせなのだろうか。最初は騒いでいたナルトが大人しくシカクに従うと、彼は大きな声で笑う。浴槽に響くその声に、ナルトはぷうっと頬を膨らませた。 「まだ子供でいろや、ナルト」 それがシカクの本心なのかもしれない。ぽつりと呟いた声も、よく響く。ナルトはなんと答えたらいいのか迷ってしまう。それでも、自分は早く大人になりたい。そう思うことが子供だという事にナルトは気づいていない。 シカクと一緒に湯船に浸かっていたナルトは、先に根をあげて風呂場から退散する。用意されていた着替えは、自分の物ではなかった。ナルトの衣服はすでに洗濯物へとまわってしまったのか、そこにはない。シカマルのものだと見て取れるTシャツに腕を通すと、少しだけだぼつく。 「…シカマル、オレと同い年じゃん」 少し身長では負けるが、シカマルとそんなに体型も変わらないと思っていたナルトは内心ショックを受ける。 「なんか悔しいってばよ…」 シカマルは着痩せするタイプなのだろう。そう思えば思うほど悔しく感じる。バスタオルを頭から被り台所を横切ると、ヨシノの声が聞こえた。 「ナルトくん」 その声に反応して顔を上げると、牛乳の入ったグラスを渡される。 「風呂上りは牛乳なんでしょ?」 「あ…嬉しいってばよ…でも…」 なんだろうか。ヨシノやシカクの自分に対する態度に違和感を感じる。嬉しいのだけれど、素直にそう感じられないうようななにか。 「ありがとうってばよ、おばちゃん。オレってば、これ部屋で飲むし…」 グラスを受け取るとナルトはそそくさとヨシノに背を向ける。部屋と言っても自分のアパートに居るわけではないので、シカマルの部屋でと言うことになる。今更、シカマルと違う部屋がいいとヨシノやシカクに言えば、心配をかけてしまうかもしれない。ナルトは少しだけ落ち込んだ気持ちで、部屋の扉を開ける。 「あ…」 そして、部屋の中にはこの空間の主が居た。一瞬動きを止めたナルトは、不自然に思われないようにシカマルの対角に座る。牛乳の入ったグラスをテーブルの上に置くと、まだ濡れている髪の毛をごしごしと擦った。 「いつ帰ってきたんだってば?」 「ん?さっき」 「綱手のばあちゃんとこ行ってたって聞いたんだけど…」 「まぁ、用事」 「ふ〜ん。そっか…」 ナルトはグラスに手を伸ばすと、一気に牛乳を煽る。冷たい液体が喉を通る感覚が、なんだか気持ちいい。 「お前は親父と研究所に行ったんだってな」 「…うん」 シカマルの口調が少しだけ冷たいような気がして、ナルトは彼の顔をちらりと盗み見た。ちらりと見ただけなのに、ばっちりシカマルと視線が合う。 「シカマルも一緒に行きたかったってば?」 「親父と?…絶対ねぇ」 本当に嫌そうに顔を顰めたシカマルをみてほっとする。いつも通りのシカマルだ。そして無意識のうちにため息をついていた。 「どうしたんだ?ナルト」 「正直に言うと、ちょっと疲れてるってばよ」 ナルトの言葉をそのまま受け取ったシカマルは、ため息の理由を聞き安心したような顔つきになる。 「どうせ、はしゃいだんだろ。お前の事だから」 「…はしゃいだけど、疲れてるってのはそーゆう意味じゃなくて…」 一旦言葉を切ったナルトは、言うべきかどうか悩んだ。黙ってしまったナルトをシカマルはじっと見つめる。その無言の圧力にナルトは口を開いた。 「オレってば…こうゆうの慣れてないんだってば。だから、どうしていいか分からなくて疲れてるって言うか、一人になりたいって言うか…」 ナルトは自分の気持ちを言葉に上手く変えることができない。シカマルには感謝している。それにシカマルの両親にも。だけれど、優しくされたり構われたりすることに不慣れなナルトは、どうしたらいいのか皆目検討がつかない。素直に甘えるのにも限度があると思うのだ。感謝の気持ちをどうやって返せばいいのか正直悩んでいた。 「成る程、そう言う事か」 「え!シカマル、分かるってば?」 自分の心もとない説明で、シカマルは本当に分かったのかどうか不安であった。 「母ちゃんも親父もはしゃぎ過ぎだかんな。そりゃ、疲れるわ」 「あ…あのさ、おっちゃんにもおばちゃんにも感謝してるってばよ!ホントにホントで」 「構われすぎて、しっくりきてねぇって事だろ?」 「嬉しいんだけど…よく分かんなくなっちまって。やっぱ、大人から見たらオレ、めちゃガキだし。しょうがないのかもしれないけど…」 言葉尻が小さくなったナルトは、もう一度ため息をついた。 「慣れないことは誰でも疲れるだろ。悪かったな、わかってやれなくて」 「シカマルは悪くねえってば…悪いのはオレで!」 「ま、俺がナルトみたいに素直で可愛くない性格だから、大人は勝手にはしゃいでんだろ?」 シカクやヨシノにしてみれば、ナルトの態度や言動が新鮮に見えていると言いたいのだ。 「それってば…オレがシカマルよりガキだって言いたいのかよ」 むすっとしたナルトはじっととシカマルを睨め付ける。 「関係ねーって」 「なんか誤魔化されたような気がするってばよ」 少しだけいつもの調子を取り戻したナルトにシカマルは口元を緩める。本当は機嫌が悪かった。それはナルトの所為ではない。シカクやヨシノがナルトを構い倒して、自分の付け入る隙がない事に勝手に腹を立てていた。綱手の所へナルトの報告へ行き、家に戻れば父親とナルトが出かけたと言う。それも、奈良家の研究所だと言うから驚きも倍だ。それほどにシカクがナルトの事を気に入ったということが手に取るように分かった。いつもは口うるさい母親が、ナルトの嗜好についてしつこく聞いてくるのも正直面倒だった。牛乳が好きだと言ったシカマルに、買いに行くようにとお使いを押し付けられ、それでもしょうがないと牛乳を手にして帰宅したら、シカクとナルトが二人で風呂に入っていた。シカマルからしたら、ちょっと過保護に構いすぎだろうといった見解だったのだ。 「親父は長湯だから、付き合ってるとぶっ倒れるぞ」 「……おっちゃんはシカマルと入りてえんじゃねーのかな?」 ぽつりと呟くナルトの科白を即行で否定する。 「ありえねえ…」 というか考えたくない。 「ま、打開策は俺が練ってやるから、お前は心配すんなよ」 「シカマル。でも、おっちゃんとおばっちゃんが、気ぃ悪くするような事はしたくないってばよ」 「抜かりはねぇ」 ニヤリと笑ったシカマルの顔は策士の表情である。シカマルが何を考えているのか、ナルトにはイマイチ分からない。すっと立ち上がったシカマルは、まだ濡れているナルトの頭を撫ぜる。 「ちゃんと乾かせよ」 どうしてなのか分からないが、シカマルに頭を撫ぜられるのは嫌いでなかった。子供扱いするでなく、彼の優しさの一片を見ているようでなんだかくすぐったい気持ちなった。 「シカマル、どこ行くってばよ?」 「風呂。ちょうどいいだろ?お前は一人になりてぇんだし…」 「なんかそれじゃ、オレがシカマルを邪魔者扱いしたみたいだってばよ!」 「はぁ?誤解すんなって。めんどくせーから…俺だって風呂くらい入る」 シカマルの口癖を耳にして、ナルトは安堵の笑みを見せた。 「わかったってばよ。シカマルも風呂上りに牛乳一気飲みしてみろってば!すっげえ、オレのおすすめ」 「……ふ〜ん。ま、いいか」 それだけ言うとシカマルは部屋から出て行ってしまう。何がいいのか悪いのか。シカマルは時々言葉足らずだ。ナルトからしてみれば、逐一言葉にして説明してほしい。妙に自分の中で白黒つけてしまうシカマルの思考回路は、理解不可能だ。ナルトは、ふうっと息を吐くとゴロリと横になった。シカマルのベッドの隣にはナルト用に用意された布団があるが、わざわざそれを敷く気力がない。もそりと起き上がったナルトは、シカマルのベッドに倒れこむ。久々に遠出をしたことと、湯船に浸かってリラックスした身体は、本日の疲労を回復させたいと思っているようだ。 自然と瞼が下りてくる。それに逆らう気力がないナルトは、くったりと全身の力を抜いた。大きく深呼吸した所で、パチっと目が開く。吸い込んで感じた、シカマルの匂い。最近、彼に抱き締められる事が多かったナルトには馴染みになってしまった、シカマルの気配の一つ。何故か、顔が紅潮するのを感じた。抱き締められて、キスされて。それを、全て受け入れている自分がいる。 「ちょっと待っててば、オレ!」 すごく恥ずかしいではないか。シカクやヨシノに甘えるよりも、恥ずかしいことを普通に受け入れてしまった。シカマルを容認し始めている自分が居る。それに、今まで気が付かなかった自分も相当間抜けだ。それに、彼は自分に好意があるとはっきりと口にしている。曖昧な感情を口にするほど、シカマルは馬鹿な男ではないはずで。 「オレってば……どうしたいんだってばよ」 持て余してしまうのは、ナルトにとって初めての感情である。 「もしかして、最低?」 サスケを見ながら、近くにいるシカマルに甘えている。それも、当たり前のように。ぐるぐると頭の中を回るのは、ナルトにとっては解読不可能な暗号のような羅列だ。 「………――― 頭がパンクするってばよ〜」 とりあえず、答えの出ない問題には目を瞑ることにする。全ての疑問をシャットアウトしたナルトは、ぎゅっと目を閉じて、布団に包まった。
|
次回、シカマル行動にでます!!
シカクやヨシノが、ナルトを可愛がるのは……
私の趣味かも。
それに動揺してしまうナルトの心情は当たり前かと。
なんとなく、それが気に食わないシカマルは、まだまだ子供です。
ちょっとずつ、ナルトがシカマルの事を考えるようになってきました〜
シカナル!!←目指すもの。