|
始まりの朝 5
シカクはナルトが何度も「秘密の場所」について尋ねるのだが、曖昧に答えを濁してしまう。ヨシノの作ってくれた弁当を手に、山の奥深くに入っていく。 「おっちゃん、いい加減教えてくれってばよ〜」 「なんだ、ナルト。もう息が上がったのか?」 「そんなんじゃないってば!」 随分と身長の高いシカクの事は、否応がなしに見上げる形になってしまう。まだ、子供なのだから大人のシカクと比べても仕様がないことなのだが、ナルトにはなんだかそれが悔しい。 「早く大人になりたいってばよ…」 無意識の内にナルトが呟いた。早く大人になりたいと、小さい頃から思ってきた。物心がついた時から、一人で生活してきたが、やはり周りの大人たちから見たら、自分は唯のガキでしかない。 「大人になっちまったら、子供にはもどれないんだぜ?ナルト…」 シカクは真っ直ぐに前を向いたままである。まるで傍白のような言葉。ナルトはじっとシカクを見つめた。 「それでも、オレは早く大人になりたいってば」 「大人ってやつはめんどくせぇ事だらけだ。子供のまんまの方が気楽でいいじゃねえか」 「……よくわかんないってばよ」 拗ねたようなナルトの科白にシカクは口元を緩めた。 「わかんねえって事が、子供ってことだ。何もかも分かるようにならなきゃいけねぇのが大人だ。泣いても喚いても変わらねぇ現実を、苦渋を飲み込まなきゃいけねー事も沢山ある」 シカクの言うことは少し難しい。ナルトはなんとなく話の雰囲気が分かるのだが、それを素直に受け止められない自分も居た。 暫くすると、シカクの歩みが止まる。 「おっちゃん…?」 振り向いたシカクはにやりと悪戯小僧のような顔で笑った。こんな雰囲気は、親子とあってシカマルとよく似ている。 「こっからが、秘密の場所だ」 随分と森の深くまでやってきたが、木々の生い茂るそこが、なぜ秘密の場所なのかは分からない。それが顔に出たのか、シカクはくすりと笑う。 「この先は、火の国でも特別な場所だ。奈良一族のみに、ここに入る特権がある。先祖より受け継がれてきた神聖な場所だ」 「え?!」 シカクの言葉にナルトは驚いてしまう。 「だって、オレってば…奈良一族じゃないってばよ?」 「そうだな。お前一人でここに入るのは、ちと危険だな」 「…き、キケン?」 ナルトは素っ頓狂な声をあげた。 「ああ。この森には俺たち一族の守り神みたいなもんが居てな。そいつにボコボコにされるぞ?」 シカクの声も顔もとても真剣なもので、ナルトは思わず顔を顰める。 「オ、オレってば…そうゆうのはエンリョするってばよ」 素直に怖がるナルトを見て、シカクが笑った。 「安心しろ。俺が一緒にいるだろう?お前がボコられるこたぁねえよ」 「本当に…?それって嘘じゃないってば?」 「ああ、本当だ。安心しろ、ナルト。そのかわり、一人でうろちょろするなよ?」 「わかったってばよ」 真面目な顔で答えるナルトの頭をぐりぐり撫ぜる。素直に真っ直ぐに人の話を聞けるナルトは、いい意味で子供だ。その純真さが失われていない。下手に話を屈曲せずに真正面から受け止める気性は、シカクの眼から見ても好ましいものだった。 「さて、ぼちぼち母ちゃんの弁当でも食うか?」 嬉しそうに笑顔になったナルトは、シカクから包みを受け取る。森の道を少し入った所に、開けた場所があった。ごつごつとした岩肌には清水が流れている。竹の筒に入ったお茶を一口飲んだナルトは、胸一杯に森の空気を吸い込む。むせ返るような緑と土の匂い。それがナルトは嫌いではない。 「いい場所だってばよ」 木々の間から見える青空が、より一層きれいに見える。ナルトは、出汁巻き卵を口にして昨夜の事を思い出した。ナルトはシカマルに、自分に九尾の妖狐が封印されている事を言ってしまった。三代目火影が厳戒令を出して秘密にしてきた、ナルトの陰事である。ナルト自身の問題だけでなく、きっと木の葉の里にとっても重大な秘密だったに違いない。 ナルトは暫く考えてから口を開く。 「おっちゃん…あのさ」 「なんだ?」 急に大人しくなったナルトにシカクは首を傾げた。 「おっちゃんは……知ってるってばよ。オレの中に九尾がいること」 シカクは驚愕の表情でナルトを見つめる。 「ナルト…お前、知ってんのか?」 その声は非常に驚倒した様子であった。ナルトは無言で頷くと、箸を休める。 「オレが里のみんなから嫌われてる理由がそれだって…知ってるってばよ」 訳も分からずに疎まれるよりも、その理由が分かってナルトは内心ほっとしたのだ。自分を良く見ない大人たちが、何を恐れて疎んじてきたのか…はっきりした今の方が自分を納得させられる。それでも、自分を一人の人間として見てくれる者たちも居たし、忍としてこの里の頂点に立ちたい、認められたいという気持ちは以前に増して強くなった。 「オレってば、おっちゃんに謝らなくっちゃいけないことがあるってばよ。オレ…九尾のこと、シカマルにいっちまったから……火影のじいちゃんが秘密にするようにってしてたこと、オレ…シカマルにいっちまったから」 「そうか…」 シカクも箸を置く。その声は落ち着いていて、静かだった。 「シカマルは何て言ってんだ?」 「……おっちゃん、怒ってるってば?」 「いや、怒っっちゃいねえ。あいつがなんて言ったのか聞きてぇだけだ」 ナルトは口元に笑みを乗せる。 「シカマルは、オレはバケモノじゃなくてオレだって言ってくれたってばよ!九尾が腹ん中に居るオレのこと、うずまきナルトだって言ってくれたんだってば」 シカクはほうっとため息をつく。その意味は分からないが、この話はシカクの気分を害するものではなかったらしい。 「おっちゃん?」 「お前の事をバケモノだなんて言ったら、シカマルに一発食らわせるとこだったな」 シカクは薄っすらと笑みを浮かべる。 「表層しか見ねぇ奴は高が知れてる。あいつも一端の口利くようになったじゃねえか…」 ナルトはまるで自分が褒められているような不思議な気分になる。照れ隠しに、へへへと笑うと箸を手にした。そして、ふと綱手の言葉を思い出す。
『サスケの事を考えて焦る気持ちも分かる。……だが、ナルト。お前の周りもちゃんと見ろ。見舞いに来てくれる友達もお前の仲間だ』
『お前が仲間だって、大切にしたいって思ってるのはサスケだけなのか。違うだろ?ちゃんと、自分の足元も見てないと、忍道だとか大きな口叩ける立場じゃない』
大蛇丸の所へ行ったサスケの事ばかり考えて、親身になってくれる仲間を蔑ろにしていると綱手は言いたかったのだろう。ナルトにしてみれば、無論そんな心算はなかった。だけれど、他人の目にはそう映っていたと言うことだ。そう考えるとナルトの気分は急降下していく。自分の事しか考えられない人間が、火影になるなどと、里の長になるなどと言えるのだろうか。 「ナルト?」 急にしゅんとしてしまったナルトを心配して、シカクが声をかける。その声に焦ったように顔を上げたナルトは、取って付けたような笑みを貼り付けた。 「…どうかしたのか?」 もちろんすぐにその笑みは消え、ナルトは俯いてしまう。 「綱手のばあちゃんに、自分の足元を見ろって言われたってばよ。オレ、今回の任務が失敗して…焦ってばっかで、大事なもん忘れるとこだったってば」 「足元を見ろ、か。綱手様らしいな…」 シカクは中断した食事を再開する。それに倣って、ナルトも弁当を平らげていく。殆どナルトの食事が終わりかけた所で、シカクが「お?」と声を上げた。彼はナルトよりも先に食事を終わらせて寛いでおり、その視線を森の奥へ向けていたのだ。 「おいでなすったか…?」 「おっちゃん?」 ナルトはシカクの視線の先を見つめる。茂みの中に、無数の動物の気配を感じた。思わずホルスターに手をかけたナルトをシカクが止める。 「ここは奈良一族の秘密の場所だって言っただろうが」 笑いを含んだ声で言われてナルトは納得したように、その気配を見つめる。葉のすれる音が聞こえたと思ったら、ナルトの前に自分の倍の大きさであろう雄鹿が悠々と現れる。 「でっけ〜!めちゃくちゃ大きいってばよ、この鹿!」 「角も素晴らしいだろう。あれはいい薬になる。それに、こいつは唯の鹿じゃねぇ。神鹿だ」 「えっと…それってば、一番偉い鹿ってこと?」 「正確に言えば、この土地に住む鹿の事を言うんだがな」 シカクは腰を上げると、ゆっくりと神鹿に近づく。シカクを奈良家の家長だと認めているのからか、鹿はじっとシカクを見つめるだけで荒ぶることはない。しっかりとした体躯をひと撫ですると、シカクはナルトに目線を向ける。 「怖がっていねぇで、来てみろ」 「オレが触ってもいいんだってば?」 「多分、いいんじゃねぇか?」 多分と言う言葉に多少の不安を覚えたが、ナルトは恐る恐る近づく。近づいてみて、気が付いた。この鹿は本当にただの鹿ではない。ナルトが見上げてしまうくらいの大きさだ。 「正直、怖いってば…」 ナルトは素直な感想を述べる。すると、ナルトの顔の近くまで神鹿の頭が降りてきた。そっと手を差し出してみるが、なかなか触ることができない。思わず唸ると、神鹿自身からナルトの手に鼻をこすりつけてくる。 「わっ!」 柔らかい毛の感触。温かくて、それが作り物でない生き物だと言うことを実感する。 「坊主、よかったな。蹴り倒されなくて」 「…おっちゃん」 シカクの言った「多分」は、おそらくと言う意味で、肯定でも否定でもないことに気づかされる。 「蹴られたら、また病院送りだってばよ…」 恨めしそうなナルトの声に、シカクは笑い返した。 「そりゃ、綱手様にお叱りを受けるとこだったな」 ちっとも悪びれた様子もなく笑うシカクは、何故か嬉しそうだ。ナルトも笑顔を見せると、もうひと撫で神鹿の頭を撫ぜた。
|
シカナル関係ないですね…
全然、関係ないですよね(涙)
でも、シカク好きなんです。
これでも、少しず〜つナルトの気持ちがシカマルに…
という感じなんですが、ちっとも表現できません。