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始まりの朝 3

 

 

 久々に食べた一楽のラーメンにご満悦のナルトは、始終笑顔を貼り付けていた。それを見て、シカマルが内心ほっとしていることは気が付いていないだろう。

 一楽の暖簾をくぐったところで、シカマルがナルトの手荷物を取り上げる。

「シカマル…なんだってばよ?」

「人質ならぬモノ質てやつだ」

 ナルトはシカマルの言いたいことが分からない。じっとシカマルを見て、う〜んと唸る。

「…なんか、隠してるってば?」

「隠してるつもりはねーな」

 シカマルは、それだけ言うとナルトに背を向け歩き始めた。そして、自分の後ろにあるナルトの気配を感じ歩くペースを少しだけ緩める。

ナルトはシカマルの背中を不思議な気持ちで見つめていた。本当は一人になって、色々と考えたいのだ。今朝、綱手に言われた事やその他諸々。数日の間に激変してしまった、自分の置かれている環境を整理したい。一人で居ることに慣れているナルトにとって、孤独は疎ましい現実であり、受け入れてきた現実でもある。てくてくとシカマルの後ろを付いて歩いた。シカマルに何かを強要されている訳ではないが、彼が自分の荷物を持っているのだから、付いていくしかないといった所だろう。ただ、シカマルの向かう方向は、明らかに自分のアパートとは違うと言う事だけはハッキリしていた。

「なぁ、シカマル〜」

 ナルトはなんだか不安になってしまった。シカマルは何も答えることなく、ずんずんと歩いていく。

「オレ…家に帰りてえんだけど…」

 シカマルの言った「モノ質」の意味の意味をようやく理解する。確かに荷物を返してもらわなければ、アパートに帰ることもできない。ナルトにはシカマルの真意を測り損ねていた。

「シカマル〜っ!」

 ぴたりとシカマルが足を止める。やっと、自分の声に反応したシカマルにほっとした。

「あのさ…」

「着いたぞ」

 ナルトの言葉を遮るように言ったシカマルは、一つの扉を指差す。

「へ?」

 ナルトはまぬけな顔付きでシカマルを見上げた。

「あの…さ、何言ってんだってばよ。オレのアパートじゃねえし…」

「当たり前だ。ここは俺んちだからな」

「シカマルの言いてぇこと…分かんないってばよ」

 弱気なナルトの声に、シカマルがにやりと笑った。

「お前の退院条件。自分んちに戻ったお前の食生活は、三食ラーメンが目に見えてるからな。体調管理なんて言葉、ないに等しい」

 ナルトは返す言葉に詰まる。シカマルの言うことを否定できない。尤も過ぎて否定出来ない。

「そこでだ。綱手様は、ナルトの食生活を管理できる事を条件に、退院を許可したって事」

 ナルトは、ようやくそこで綱手とシカマルの会話を思い出した。

「俺、言っただろ?お前の退院は条件付きだってな」

 言われたような、そうでないような…ナルトの記憶はあやふやでしかない。けれど、シカマルがこんな事で嘘をつくとは考えにくい。

「……ちょっと、待ってくれってばよ。だからって、シカマルんちにオレが世話になるのは……」

 戸惑ったようなナルトの声に、シカマルが困ったような、なのに挑戦的に見える笑みを作った。

「じゃあ、病院に戻るか?」

「オレ、ちゃんと自炊するし…大丈夫だってばよ!」

「無理だろ、絶対」

「人間、切羽詰ったら何でもできるってば」

「きっとお前は一人になって、切羽詰った…なんて思わないだろうな」

「う……」

 全てを見透かされたようなシカマルの科白に、ナルトが黙る。二人の間に沈黙が訪れた。しかし、それは短いものでしかない。なぜならば、二人の前にある扉がいきなり開いたからだ。

「シカマル、なに玄関先で騒いでるの?」

 扉の向こうから怪訝な顔を見せたのは、シカマルの母親・ヨシノである。シカマルを見てから、ナルトの存在を確認してにっこりと笑った。

「話は家の中でもできるでしょう?」

「あ…こんにちは」

 ぺこりと頭を下げたナルトに、ヨシノはくすりと笑った。

「ナルト君、こうゆう場合はお世話になりますって言うのよ?」

「え?あの…今、シカマルとも話してたんだけど…」

「さあ、早く入りなさい。折角、退院できたのに体調を崩してたら、どうしようもないでしょう?」

 ナルトが知っている大人の殆どが、自分の中の「九尾」を忌み嫌っている。そして、遠慮ない嫌悪の視線を受けてきた。だけれど、ヨシノがナルトに向ける笑みからはそういったものは感じられない。

「ナルト君は病み上がりなんだから」

「母ちゃん、こいつは病気じゃなくて怪我で入院してたんだぜ?ま、めんどくせーからどうでもいいけどよ」

 シカマルは有無を言わせない態度で、サンダルを脱いで玄関をくぐって中に入ってしまう。

「ちょ…おい!シカマル!!」

 扉のノブを持ちながら、ヨシノが身体をずらした。

「ナルト君も、入りなさい」

 ナルトは迷う。だが、ここで押し問答を繰り返してもシカマルが引く気がない事は目に見えている。これからの身の振り方は、しっかりとシカマルと話をしなくてはいけないだろう。綱手が関わっているという点では、自分が不利な立場に居ることは変えようがない実情だ。大人しくヨシノの言葉に従うことに決めたナルトは、もう一度軽く頭を下げると、奈良家の玄関を潜ったのである。

 

 

 

 

 ナルトは落ち着かない様子で、シカマルの部屋をきょろきょろ眺めていた。そんな自分とは対極にシカマルは毅然たる態度を崩す気がないらしい。

「シカマル…オレ、やっぱりさ」

「何度も同じこと言わせるなよ。めんどくせーな」

 こんなやり取りを何回交わしただろう。ナルトは不安な気持ちで一杯になる。こんな事になるならば、数日入院が伸びたほうがマシだと思えた。気の知れたシカマルと二人で居ると言うのに、奈良家に居ると思うと気が気でない。

「安心しろ。母ちゃんは、主婦業に関しては上忍レベルだぞ。変なもんは食わせねえし。口うるさいのは難だけどな」

「そうゆう問題じゃないんだってばよ」

「じゃあ、どうゆう問題なんだ?」

「それは…」

 シカマルはナルトの中に封印された九尾の事は知らないのだろう。その所為で、ナルトが虐げられて来た事も。けれども、シカマルの両親はナルトが何者であるか知っている。

「シカマルの母ちゃんも父ちゃんも…迷惑だってばよ。綱手のばあちゃんに頼まれたから、しょうがなく…」

「ナルト」

 シカマルの声はいつになく厳しい。知らずと俯いていたナルトは、シカマルの声に反応して顔をあげた。ナルトの目に映ったシカマルは、とても不機嫌そうな顔をしている。

「迷惑だなんて、思っちゃいねーよ。それだけはハッキリと言っとく」

「シカマ…」

「大人はみんな縦社会に弱いと思ってるのか?」

 火影に頼まれたから、ナルトの事を承諾した訳ではない。シカマルはそう言いたかったのだ。

「シカマルの母ちゃんや父ちゃんの事…悪く思ってる訳じゃないってばよ………迷惑、かけたくないんだってば」

「だから、迷惑だなんて思っちゃいねぇって言ってんだよ。お前は俺のダチだし、仲間だ。今回の任務のことも知ってる」

 シカマルに本当の事を言ったら、彼は自分をどう思うだろう。九尾の妖狐については、避けては通れないのかもしれない。ナルトはじっとシカマルを見つめた。もしかしたら、友達を一人失うことになるかもしれない。なのに、不思議なほど自然と言葉が出てきた。

「オレってば…バケモノなんだってばよ」

 最初は胡乱な顔つきでナルトの話を聞いていたシカマルは、その表情を真剣なものに変える。横槍を入れる訳でもなく、じっとナルトの話を聞き入っていた。ナルトは、木の葉を襲った九尾の妖狐が自分に封印されていること、その事で自分がどんな風に見られていたのか。どんな酷遇を受けてきたのか。まるで、知らない人のことを話すように、すらすらと言葉が出てくる。被害者意識がなかったわけでもない。でも、それよりもシカマルに自分の事を伝えたかった。

「…だから、オレみたいなバケモノが一緒に居たら、シカマルの父ちゃんや母ちゃんに迷惑がかかるって…そう、思ったんだってばよ。すげえ、嬉しいけど…嬉しいから迷惑かけたくねーんだってば」

 ナルトが言葉を切って黙るのと、シカマルが腕を伸ばしてきたのは殆ど同時だった。シカマルの両腕が、ナルトの身体を抱き締める。

「シカマル…?」

 ナルトは困惑してしまう。こうやってシカマルに抱き締められるのは、二度目だ。

「お前、人間の汚ねぇとこ…沢山見てきたんだな」

「その分、いいトコもいっぱい知ってるってば」

「……だから、お前は声も上げずに泣く癖があるのか?」

 ナルトは、シカマルの言葉で、初めて自分が泣いている事に気が付く。

「俺ら…まだガキだからさ。我侭言って、ぎゃーぎゃー騒いで、嗚咽もらして泣きゃいいのによ。お前は、本当に悲しいとき声も立てずに泣くんだな。そんな奴、ほっとける訳…ねえだろ」

 シカマルは自然とナルトを抱き締めていた。虚ろな眼差しで自分の事について語るナルトの目から、静かに涙が流れるのを見て、どうしようもない愁傷の念にかられた。同情するなどというレベルの話ではなかった。

「シカマルは…シカマルだけじゃねえ。チョウジもキバも、オレと普通に接してくれた友達だってばよ」

 ナルトはアカデミーでの毎日を思い出す。それから、へへへと笑った。シカマルはおのずとナルトを抱く腕に力が入るのが分かる。

「じゃあ、今も甘えればいいじゃねぇか」

「それは…」

 人と人が触れ合う温もり。シカマルに抱き締められて伝わってくる優しさが、なんだか少しだけ苦しい。自分の事を好きだと言ってくれるシカマルに頼るのは、彼を利用しているようで後ろめたい。なのに、それに縋りたい気持ちもあって、ナルトは悲しくなる。

「オレてっば…きっとずるい奴なんだってばよ」

「そんな事ねえよ」

「シカマルは知らねーんだ。オレは、ズルイ奴だって」

 シカマルがくすりと笑った。

「気にすんなよ。俺も狡い人間だから。人間なんて、狡猾な生き物なんだ」

 打算が生まれる、計算が生まれる、その先にある自分の利益を考える。シカマルは思う。きっと、自分はナルトの言う「狡い人間」だ。ナルトの方が、自分よりも素直で正直な性格なのだろう。それを彼は分かっていない。

「お前よりも俺の方が何倍も狡い人間だからよ。ナルトは、そんな奴のこと気にかけることもねえ」

「シカマル…」

「――――だから、お前は…俺の打算に騙されてろよ」

「なんだよ、それ。意味分かんねーってば」

 分からなくてもいい。そう思うけれど、心のどこかでは分かって欲しい気持ちもある。ナルトに断言したように、自分はきっと狡い。自分の狡滑い罠にナルトがはまってくれればいいのに…そんな風に考えている。シカマルは、自分が思っていた以上にナルトの事を知らない事に胸中穏やかではなかった。

 

 

 

  

 

 

シカナル…か?

シカナルなのです…きっと。

次回更新は、ちょっと早まる予定です。

次こそは、もっとシカナルっぽく!

って、毎回言ってるような(汗)