ボイストレーニング まつ毛エクステンション 青山

 

 

 

始まりの朝 2

 

 

 抱き締めた温もりは思ったよりも、細い。抵抗の色もなくシカマルの腕の中に納まったナルトは、何も言わずに黙っている。シカマルは、腕に入れた力を緩めた。

「わり…痛かっただろ」

「こんなん、かすり傷だってばよ…」

 応える声は小さくていつものナルトらしさがない。きっとナルトは身体の傷ではなく、見えない心に付いた傷に苦しんでいる。それをシカマルは十分に分かっているはずなのに、蒸し返すような事を言ってしまった。だけれど、これからナルトとどんな付き合いをしようとも、二人の間に「サスケ」という存在がなくなるはずはない。と言う事は、シカマルが無意識に感じた憤りも消えることがないのだろう。

「サスケがオレの事どう思ってたかなんて…今となっちゃ、わかんねぇってばよ。オレだけが、勝手にサスケを連れ戻そうって思ってるのも、分かってるてば……でも」

 シカマルは黙ってナルトの話を聞く。ナルトの気持ちを確かめたくない気持ちはあるが、知っておかなければいけないような気がした。

「…オレとサスケのつながり、……なくなったとか思いたくねぇんだ」

「――――― そうか」

 シカマルは答えると、ナルトから離れる。やっぱり目じりには涙が溜まっていた。

「泣くんじゃねぇって言っただろ?」

「なんだってばよ、…腹立つからか?」

 ナルトが自嘲めいた笑みを見せると、透明な雫がつっと頬に流れる。シカマルはそれを、先刻と同じように指の腹で拭った。

「ああ。腹立つ。別の奴の事で、泣いてる姿なんか見たくもねーな」

「オレ…シカマルの言いたいこと、ちっとも分かんねぇってば」

「お前、鈍感そうだもんな?」

「鈍感って…ひどいってばよ!オレはシカマルみてーに頭よくねぇの!」

 ナルトが不満そうな眼差しで、シカマルを睨みつける。やっと、自分が知っているナルトを見た気がしてシカマルは少しだけ嬉しい。

「俺はサスケを諦めろとか、忘れろとか…そーゆうめんどくせぇ事は言わねぇよ」

「うん、さっきも聞いたってば…」

「めんどくせーけど、しょうがねぇんだ。俺はお前の事が好きだからな。好きな奴が、他の野郎の事思って泣いてんの黙って見てるほどのお人よしにもなれそうにねぇ」

 一気にまくし立てるように言ったシカマルの言葉に、ナルトはポカンと口を開けてその驚きを表現している。

「ばかっぽい面してんじゃねーよ」

「いや…あの…なんてーか……――― その」

「俺はサスケの代わりになるつもりもねーから」

 今のナルトを見ていれば分かる。誰もサスケの代わりにはなれない。それくらいはっきりと突きつけられた現実だが、シカマルはそれに逆らうのもまた一興なのではないかと思った。

「シカマルはシカマルだってばよ…」

「俺なんかがサスケのライバルに立候補したなんて言ったら、サクラやいのがうるさそうだな」

「………マジ、で言ってんのか…?」

 シカマルはズボンのポケットに両手を突っ込むと、ふっと笑う。

「冗談で男に告る程、俺はボケてねーよ」

 ナルトはシカマルの言葉を聞いて困惑したような視線を向けてくる。少し頬が赤いのは照れているからだろうか。ナルトは人からの好意を受け取るのが下手だ。シカマルはそれを分かっている。自分の存在が、今よりもナルトを追い詰めることになるかもしれない。ナルトの中での自分の存在は、友達以外ありえないだろう。だが、それはサスケも同じだったはずだ。現在のナルトとサスケの関係がどうやって成り立ったなんて、興味もなかった。目下の目的は、ナルトと新しい絆を無理やり作ると言う事ではない。今の関係を少しだけ進行形に変えるだけのこと。

「わかったかよ」

 シカマルの問いにナルトは答えない。答えられないと言うのが本当の所だろう。シカマルは、それでもいいと思えた。急がば回れ、である。焦ってもしょうがないし、サスケが木の葉を抜けてから数日しか経っていないのだ。項を奏するには、焦りは禁物だ。

「じゃあな」

 軽く手を振ってナルトに背を向けると、小さな声で「ありがとう」だけ聞こえる。シカマルは扉に手をかけると、振り返らないまま病室を後にした。

 

 

 

 

「ほう、元気そうじゃないか」

 見舞いに現れた綱手は、ニヤリと笑うとナルトの頭をぱしっと叩く。

「痛てえってばよ、綱手のばあちゃん!」

 ナルトは食べかけのリンゴを皿に戻すと、頭をさする。

「悪い悪い。お前の頭を見てると、一発叩きたくなるんだ」

「え〜?それってば、虐待だってばよ」

 ナルトは綱手の後ろにシカマルの姿を見て、不思議そうに見つめた。綱手はシズネをお供にやってくることは間々あるのだが、シカマルというのは珍しい。

「元気っしょ?こいつ」

 シカマルはナルトを指差して笑みを作った。

「そうだな。病人食を嫌がって病室を抜け出し、一楽にいく元気があれば回復したってところか?」

 ナルトは悪戯がばれた子供のようにしゅんとしてしまう。

「あれは…どうしても一楽のラーメンが食いたかったんだってばよ」

「そんな我侭を言って、シズネを困らせるな。お前の回復力が人一倍なのは知っているが、他人を煩わせてもいい理由にはならないぞ?ナルト」

「それは…悪かったって思ってるってばよ」

 歯切れの悪いナルトの口調に、綱手はしょうがないと言う様に息をついた。

「まぁ、シカマル。お前の提案もなかなかのものかも知れんな」

「ナルトは動けるようになったら、じっとしてられないタイプっすから」

「話は分かった。―――頼むぞ、シカマル。シカクやヨシノにも、よろしく伝えておいてくれ」

「話は付いていますから」

 ナルトは綱手とシカマルの間で取り交わされる会話の意味が分からない。きっと、二人がここに来たと言うことは、自分が関係している話なのだろうということは察しできるのだが、いまいち内容が飲み込めなかった。

「なんのことだってばよ?」

「お前が今日で、退院って事。ま、条件つきだけどな」

「へ?マジマジ〜!!」

 ナルトは、退院という言葉にすぐさま反応して両手を上げて喜ぶ。シカマルの「条件付き」という科白はすっかり頭から抜け落ちているらしい。

「まぁ待て。退院前には、簡単な検査だけは受けてもらうぞ。早くても昼ってとこだろう」

 ナルトは途中だった朝食を慌てて食べようとする。さっさと検査でもなんでも終わらせて、早いとこ病院からサヨナラしたい。その様子を見て、シカマルがくすりと笑った。シカマルは、ナルトの所になるべく寄るようにしていた。もちろん、同期の仲間もよく見舞いに来ており、二人きりになることは多くはなかったのだが。それに、木の葉病院にはキバやチョウジ、ネジも入院している。ある意味、退屈ではあるが、一人きりになって落ち込む暇も少なかっただろう。

「おい、ナルト。昼くらいに、迎えにきてやるよ」

「…え、なんで?オレ、別に一人でも帰れるってばよ。っつうかピンピンしてるってば」

「ばか、約束忘れたのか?退院したら、ラーメン奢ってやるって言っただろうが…」

 ナルトは合点がいったのか、納得したような顔をして笑顔になる。

「そう言えば、そうだったっけな?」

「ああ」

 シカマルが危惧したことは、ナルトが孤独になることだ。傷ついて入院していた仲間には家族がおり、帰っても待っている人が居る。だが、小さな頃から一人で暮らしているナルトは、自宅に帰れば一人きりになってしまう。だから、綱手にあることを提案した。最初は特に何も思っていなかった五代目も、なんとなくシカマルの言いたいことを察してくれたらしい。

 綱手に挨拶をして、シカマルは退室してしまう。その背中を見て、ナルトは朝食の残りを口にした。

「お前には、いい友達がたくさんいるな」

「急に、なんだってばよ?」

「思ったまでを言ったまでだ。サスケの事を考えて焦る気持ちも分かる。……だが、ナルト。お前の周りもちゃんと見ろ。見舞いに来てくれる友達もお前の仲間だ」

「それは、分かってるってば。エロ仙人にも言ったけど、オレはオレの忍道を曲げるつもりは…」

「あ〜あ…あんたは。……私の言葉をちゃんと聞きな。諦めるとか諦めないとかの話じゃないんだよ。お前が仲間だって、大切にしたいって思ってるのはサスケだけなのか。違うだろ?ちゃんと、自分の足元も見てないと、忍道だとか大きな口叩ける立場じゃない」

「それは…」

「分かってないから、私がこうやって言ってやってるんだ。お前が私の言ってる事が理解できたら、もっと強くなれるさ」

 綱手の言葉をどう思っているのか、食事をするナルトの手が止まる。

「サクラは、変わろうとして自分を変えようとして、私の所に弟子入りした。お前も、立ち止まって後ろを振り返るばかりじゃなく、前を見て歩きださなきゃいけないだろ?」

「サクラちゃんが…」

「ああ、そうだ」

 サクラの名前を聞いて、ナルトが何かを考えるように押し黙る。綱手は、少しきつい物言いをしたと感じたが、今のナルトにはきついくらいでちょうどいいだろうとも思えた。

「自来也から、修行の旅に出ることは聞いている。まぁ、出立までは時間はあるだろうから、私の言ったことをよく考えてみろ」

「分かったってばよ…」

 綱手は、項垂れる金色の頭を撫ぜる。火影になると、自分の前に立ちはだかった少年は、きっとこの小さな身体に収まりきらないほどの迷いを感じているのだろう。

「お前は、火影になるんだろ?落ち込んでるじゃないよ」

 数回ナルトの頭をかき回した綱手は、俯いたまま何かを考え込んでいる顔を見つめる。時間が解決する問題ならば、放っておいたかもしれない。かつての恋人や弟の姿をナルトに重ね、つい干渉気味になってしまうのだが、綱手なりの愛情表現なのである。

「ちゃんと、……考えるってばよ」

 それは小さな声ではあるが、綱手には十分にナルトの気持ちが伝わってくる。

「ああ、お前の忍道を貫きな。男に二言はないんだからね」

 綱手の言葉に笑みを見せたナルトは、静かに頷いた。

 

 

 

 

 

  

 

 

なかなかアップ出来なくて…

しかも、シカナルなのかナルト成長物語なのか

訳が分からなくなってきました(>_<)

綱手様はとても好きです。

次はもっとシカナルっぽい、はず…