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始まりの朝 19
記憶に残っているのは、優しく扱われたことだけ。疲労した身体は休息を求めているのに、眠りは虚ろで深い夢に誘ってくれる事はない。ナルトはうとうとしながらも、意識がどこかで覚めているような錯覚に陥っていた。それでも、シカマルの腕が自分の身体をしっかりと抱きとめてくれている。なんだか、それが心地よく本当は眠りたくなかったのかもしれない。今、感じる温もりを自分の中に刻みつけておきたかった。 お互いの思いを告白していたのに、どこか平行線でいた距離感がぐっと縮まったような気がしているのだ。身体を重ねた事だけが、理由ではない。全てを委ねているが、それは自分の意志であり流された訳でもなかった。そう思える事が不思議なのだ。シカマルの事を好きだと自分の中で認識してから、どこかで迷いがあった。その迷いは、交差する異なる思いがジレンマとして現れたものだったのだと、シカマルと肌を重ねて初めて知ったのだ。 唇を重ねる度に、抱きしめられる度に、心のどこかで感じていた違和感。近くに居るのに、シカマルがとても遠い存在のような気がして。その手を取ってしまったら、自分が自分でなくなってしまうのではないかという不安。それを払拭してくれたのは、誰でもないシカマルで。 ナルトはぼんやりする意識の中、シカマルに身を寄せる。身体を動かしただけで、シカマルを受け入れた秘所がツキリと痛んだ。その痛みすらが、自分という存在を確かめさせてくれる甘い快感に変わる。身じろいだナルトに、シカマルの瞼がゆっくりと開いた。 「…眠れねぇのか?」 少し心配そうな声色。ナルトはくすりと笑うと、首を振る。ぐいっとシカマルに抱き寄せられて一瞬眉をひそめる。 「…った」 口にしてしまった科白にシカマルががばりと起き上がる。 「悪りぃ…辛いよな。身体…」 「ちょっとだけ…その、…痛いかも」 「そっか…悪りぃ」 心配そうに覗きこんでくるシカマルの頬をぎゅっと抓った。 「謝んのはズルイってばよ?全然、悪くねえし……シカマルにそんな顔されんの、やだってば」 ナルトは「それに…」と続ける。シカマルの肩にくっきりと浮かぶ鬱血痕。それはナルトが思いきり歯を立ててしまったことが原因だ。 「シカマルも、痛いってば…ゴメンってばよ」 しゅんとしてしまったナルトを心配するように、優しい眼差しが向けられる。 「こんなん、痛くも痒くもねぇつうの。それに、俺が無理やり…」 「無理やりとかじゃないってばよ!オレが…望んだ事なんだからシカマルは全然悪くねえってば」 必死になっているナルトを見て、シカマルが安堵の笑みを浮かべた。 「好きだ…ナルト」 何度そう言われただろう。朦朧とする意識の中、現実の世界に繋ぎ止めてくれたのはシカマルの労わりの言葉だ。 「オレはシカマルに止めて欲しくなんかなかったってば……すんごい近くでシカマルを感じられて、その嬉しいつうか…上手く言えねぇけど」 「そうか?」 シカマルの口元に笑みが浮かぶ。いつも纏められている髪が下ろされたままになっている。 「シカマルの髪の毛おろしたとことか、あんまお目にかかれねぇじゃん?それってば、オレの特権?」 「かもな…・」 窓から朝日が差し込む。眩しさに目を細めたナルトは、じっとそれを見つめた。 「なんか、朝日が空に溶けてるみたいだってばよ?」 「お前にしちゃ、詩的な表現だな」 「シテキ…?」 「…別に意味分かんねーならいいって」 普段、朝日が昇る頃はまだ夢の中だ。太陽の光が、木の葉の里全体を照らし出していく様を言葉もなく二人で見つめる。 この里を、修行の為に出ていく。それは自分が望んだ事であり、その考えは変わっていない。ナルトは目に焼き付けるように、朝日が昇るのをじっと見つめた。この風景をシカマルと一緒に見た事を忘れない。 「キレイだってばよ…」 無意識に呟くと、シカマルにくしゃりと髪を撫ぜられる。ゆっくりと身体を起こしてみるが、やはり動く度に身体がぎしぎしと痛かった。 「大丈夫かよ」 それが顔に出ていたのかもしれない。シカマルの心配そうな声色にナルトはにこりと笑った。 「ほんとにシカマルは心配性だな〜。オレが大丈夫っつったら大丈夫なんだってば!」 ナルトはむうとふくれっ面になった。 「…それに、痛い方がましだってばよ」 「マシ?」 シカマルに聞き返されて、ナルトの頬が赤くなる。真っ直ぐに見つめられて、ふいっと視線を外した。 「ナルト…マシってどうゆうことだ?」 「あの…それは、さ」 ナルトは墓穴を掘った事に気がついた。 「だから、痛いのとかは我慢できるけど……あの、シカマルに色々されると我慢できねぇもん」 シカマルは頭を抱えたくなった。ナルトに痛い思いだけさせただけではない事はいいが、あまりいい傾向ではないのではないだろうか。 「気持ちいいのはダメなのかよ」 「ダメとかじゃなくって……我慢できないんだって……」 ナルトの返事は歯切れが悪い。シカマルから見てもナルトは快感に対して敏感で弱い身体だと言えるだろう。だけれど、ずっと痛いままがいいと言われるのは心外である。 「あんなぁ…お前はそれでいいのかよ。痛い方がいいなんて…俺的にはそんなつもりはねぇんだけど?」 「え?」 「これからも、その方がいいとか言われると…できねぇじゃねえか。いつもお前が辛いなんてよ」 シカマルの科白を聞いたナルトはかあっと赤くなった。両手を前でぶんぶん振ると、口をぱくぱくさせている。 「いや、だからオレは平気だし!」 「俺が平気じゃねえし。それとも、もう二度としないとか言うのか?」 「そ、そんな事、…言ってないってば」 ナルトは困ったようにシカマルを見上げる。 「……上手く言えないってばよ」 唸ったナルトはシカマルの指をぎゅっと握った。 「それに、オレ……もうすぐ、修行の旅に出るし。その事、聞いてほしいってば」 今ならば、素直に自分の気持ちを伝えられそうな気がするのだ。ただ、シカマルとの一時的な別れに訳もなく物怖じしていた気持ちも、今はなくなっている。 「なんか誤魔化された気もするけどよ…」 「そんなんじゃないって」 「じゃ、そっちの話も後々ってことだなぁ」 「シカマル〜っ!」 困ったように情けない声を出すナルトにぷっと吹き出してしまう。それでも、ナルトの話を聞く気があるのでぎゅっと手を握り返した。起き上がってベッドボードに背を預けるシカマルに寄りかかるようにナルトが身体を寄せてくる。そんな仕草が可愛く見えて、シカマルもナルトの好きなようにさせる。 ナルトの口から聞かされる、暁という組織の存在。大蛇丸の目的。そして、サスケが求めたもの。ナルトの話を横槍もいれずにじっと耳を傾ける。 「エロ仙人は、暁の動きとかの事も考えて、オレと修行するって言ってたから……二年から三年は木の葉に帰って来ねえと思う」 「いつ出立するか……決まってんのか?」 言葉を切って黙ってしまったナルトに、一番聞きたい事を尋ねた。ナルトは首を振る。 「分かんねぇ…エロ仙人の口ぶりからすると、そんなに遠くない話なんだってことしか」 「そっか…」 「オレ、シカマルに自分で言いたかったけど、どうやって言えばいいのか分かんなかったんだってばよ」 ナルトは口元に笑みを見せるが、シカマルから見ればそれは寂しそうに見える。 「どうしてか、聞いてもいいか?」 「それは…」 ナルトは何か言おうとして口を噤んだ。 「ナルト…」 促すような声にナルトが顔を上げた。 「オレの気持ちがダメだったんだってば…シカマルの事、好きだって思って…その気持ちやっと分かった時に、修行の旅に出る事思い出しちまって。なんか、寂しくなったんだってば。どうしていいか分かんなくってさ。オレが望んで、強くなりてえって思って修行すんのに、すげえ寂しかったんだってば。心ん中に違う気持ちが一緒にあって、苦しかったんだってばよ。それを、どうやってシカマルに伝えればいいのかも分かんなかった…」 シカマルはナルトの涙を思い出した。きっと、こんな事で悩むのはナルトは苦手なはずだ。そんな器用な性格をしていない。それに、自分を騙すなんて事も出来ないだろう。必死に自分の前で笑顔で居たのかと思うと、シカマルも苦しくなる。 「でも、一つ分かったんだってば……オレがシカマルの事好きだって気持ちは本当だから、それが大事だって。オレがどう思ってるのかが、問題なんだってばよ」 「バ〜カ。俺がお前の事好きだって事も忘れんな」 「へへへ…忘れないってばよ」 呟いたナルトは先程とは違う笑みを見せてくれる。 「心ん中がずっと曇り空で、なんかやっと晴れた気分だってば!」 シカマルが好きなナルトの笑顔。それは太陽のような髪の色と同じで少し眩しい。 「ナルト…好きだぜ」 「なんか照れるってばよ」 彼を好きになった理由も、求めた理由も、明確なものは一つもないけれど。それでも、口にして言える事はナルトの事を好きだという事。シカマルはナルトの指に自分のそれを絡める。お互いの思いが一方通行でようやく向き合えた。多分、いや絶対に今日の朝日を忘れない。ナルトと一緒に見た、木の葉の里を忘れない。 「気休めかもしれねぇけど、俺らの長い人生の中で二〜三年なんてあっと言う間だぜ?お前の事、ただ待ってるだけじゃねえ。俺も強くなりてぇからな」 「楽しみにしてるってばよ!」 ナルトは近づいてくるシカマルにそっと目を閉じる。触れ合った唇も、しっかり握った指先も温かい。きっとこの温もりが、相手を思う気持ちの一つなのだろう。 離れてしまう寂しさはあるけれど、悲しみや苦しみはもう感じない。見失っていたのは自分自身で、この気持ちではない。 今は、そう信じられる気がしていた。
ナルトは遠い昔を思い出すように、太陽を見上げる。目に入ってきたのは歴代の火影の顔岩だ。そっと空に右手をかざす。 「見ててくれよ…」 誰かの為に何かをしたいと思い、自分の為に何かをしたいと思える。自分がこの里で生きてきて、与えられたのは憎しみや悲しみだけではない。自分の周りに居る人から、代わりない大切な気持ちをもらった。 だから、強くなろうと強くなりたいと思えるのだ。 ナルトは思う。その気持ちを忘れたくないと。疲れたら寄りかかる背中はある。だから、大切な人が疲れた時には自分がヤドリギのような存在になりたい。 与えて合った温もりは、忘れたくないから。 「ナルト!」 自来也が呼ぶ声が聞こえる。ナルトは思わず呟く。 「行ってくるってばよ…!」 この声が、大切な人に届いている事を信じて。
End
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■ATOGAKI■
長々とお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
サイトを開設してから、ずっと書いてきた話なので(*^_^*)
思い入れもありますが、大変でした。
しかも、シカマルもナルトもまだ子供だし。
でも、自分が彼らと同じ年の頃って、大人が思うより子供じゃなかったような気がするんですよね。
この、ラストページを目指していましたので、今はちょっと満足です!(そう、自己満足)
サスナル前提って事だけで、全然サスケは関係ないし……今更ですが。
とにかくシカマルがナルトを好きだ好きだと何回言ったのだろうか…って感じです。
それに、こんなに長くなるとはRUI本人も驚きでした。
でも、やっぱりシカナル大好きってことで。ま、いっかって感じですかね〜
これからも、シカナル頑張るぞ〜と思っていますので、よろしくお願いします<(_ _)>
RUI 2009/03/15