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始まりの朝 16
こんなに優しい気持ちになれる事を初めて知った。
ただ、寄り添って座っているだけなのに、伝わってくる身体の温もりがとても優しい。
キスをして抱き絞め合って、涙が枯れるまでずっと近くにお互いの熱を感じていた。
日が暮れて、部屋の中に光源がなくなる。ナルトは思い出したように窓の方を見た。 「洗濯物…干しっぱなしだってばよ」 「もう、明日まで干しとけよ」 笑いを含んだシカマルの科白にナルトがむうっと膨れる。そっと、シカマルの左腕がナルトの肩を抱き寄せた。また近くなる二人の距離。些細な事が理由なく嬉しい。 「ヒトゴトだと思って、ひどいってばよ〜」 「離すなっつったの、お前だろ」 「それは…そうだけど…」 ナルトはシカマルの肩に頭を預けた。それから目を閉じて、息を大きく吸い込む。今は気持ちが落ち着いている。数時間前はどうしようもないくらいに、悲壮感しか感じなかった思いが、溶かされたように今は軽くなっている。背負っていた荷物を降ろしたように、心が軽い。それに、触れている指先が絡んだり離れたりするのを、なんだかくすぐったい思いで見つめている。 「シカマルと同じだってばよ。シカマルはオレの全部を変えたんだってばよ…いっぱい色んなモノもらった気がする」 「大袈裟だな。例えば…なんだ?」 ナルトはう〜んと考える。言葉にするのは難しい感情の変化だったりするのだ。 「うまく言えないってばよ…難しいもん」 「お前は何も変わっちゃいねぇ…ずっと俺の知ってるナルトのまんまだよ」 「そんな事ねえってばよ!」 ナルトはむすりとした顔つきでシカマルを見上げた。だらしなく座って壁に背中を預けている。二人で寄りかかって見る部屋の景色はずっと変わらない。変わったといえば、太陽が沈むにつれて、だんだんと暗くなる部屋の雰囲気だけ。 「変えてぇとか思ったり、変えたくねぇとか思ったり…俺も忙しい感じだわ」 「なんだよ、それってば。全然、意味フメーだっつうの!」 「意味なんて分からなくてもいいって事だよ」 シカマルの顔が近づく。ナルトの瞼にキスした唇が、頬を辿って唇まで行きついた。ナルトはシカマルの指が、自分の髪を撫ぜている感覚に目を閉じる。 「ん…」 躊躇いもなくシカマルの舌が口内に侵入して来た。当たり前のように彼の行為を受け入れたナルトは、必死になってそれに応える。 「シカマ…」 息を着きながら名前を呼ぶと、その声すらもシカマルの口付けの中に飲み込まれていった。抱き締めてくる腕の感触や体重のかかる感覚が心地よく、ナルトは初めて自分の体制に気が付く。キスしている内に、ナルトの身体は、床に縫いとめられていた。向き合って唇を合わせていただけのはずなのに、何時の間にそうゆうことになったのか、分からなかった。 ナルトはぼうっとしながら、シカマルの顔を見つめる。ふっと湧き上がる既視感。このシチュエーションは、何度も経験した事があるではないか。そう思うと頬が赤くなるのを感じた。両手首は、シカマルによって顔の横で固定されている。 「あ…の…シカマル?」 シカマルはナルトの声に答えずに、そのまま唇を首筋に移動した。ナルトの身体がぴくりと震える。 「まだ、嫌だって言うか?」 ナルトはくっと言葉を飲み込んだ。シカマルの言う「まだ」にナルトは顔を横に向ける。先程も同じ質問をされた。ナルトは嫌だとは答えなかったはずだ。心の準備が出来ておらず、慌ててしまいシカマルの失笑を買っただけ。そんな自分の事を優しく抱き起こしてくれたのはシカマルの腕だった。 「あの…オレ腹減ったってばよ…」 ナルトは逃げるつもりはないが、本当の事を口にする。そっとシカマルを盗み見ると、しょうがないといった顔をしている。 「シカマル…メシ食わねぇ?」 「そだな…って、言ってもお前んちでマトモなものが食えるとは思えないし…」 「カップラーメンならあるけど?」 「……どこか、食いに行くか?」 ナルトはどちらでもいいと答える。カップラーメンはナルトにとっては、シカマルの意に副わなくてもまともな食事の一つだから、本当にどちらでもいいのだ。 「ラーメン食いたいなら、一楽だろ?」 「当たり前だってばよ!オレは浮気できないってばよ」 ナルトの必死な反論にシカマルがくすりと笑う。 「シカマル〜…ばかにしてんだろ?」 シカマルはナルトの腕を取る。 「してねえよ。一楽のラーメンは上手いし」 その言葉はとても真面目なものだったのでナルトもほっとした。決まってしまえば、すぐに腰を上げたいのがナルトである。ベストを羽織ろうとしているシカマルの手を取りながら、玄関を目指したのであった。
久々に二人で一楽の暖簾を潜った。ナルトは、シカマルと二人で一楽へ来るのは退院した以来だったと言う事に気が付いた。他の仲間とは何度か一楽に来た事があったが、シカマルと二人となると本当に久しぶりなのである。 湯気のでるスープを口にしながら、以前に二人でラーメンを食べたときと、今ラーメンを食べている二人の関係は随分と変わったと言う事に気が付く。ナルトにとっては、変化した今の二人の関係も嫌いではない。軽口を叩きながら、食事を進める。共通の友達の話題や、任務の事など、他愛もない会話をしながらする食事が好きだ。シカマルは、面倒くさがりやだけれど、会話まで面倒がらない。反対に人と会話をするのが上手だと思う。思わずそう口にすると、シカマルが眉を顰める。 「ん、ま…なんつーか…情報収集する癖は抜けねぇけどな」 「へえ、メシ食いながらそんな難しい事考えてんだってば?」 「ナルトにとっては難しいことでも、俺にとっちゃ至極普通つうか…ガキん頃からそんな風だからな。だから可愛げない子供なんじゃねえのか?」 ナルトは首を傾げながらグラスの水に口を付ける。 「シカマルの事、可愛いとか可愛くないとか……あんま思った事ないってばよ?」 「別にナルトに可愛いとか思われたくねぇよ!だから、一般的に大人から見たら、可愛げねえってこと。反対にお前なんかは、可愛がられるタイプだからな」 「そんなことないってばよ〜」 ナルトが口をへの字に曲げる。「ガキ臭い」と言われているようで、むっとしてしまう。シカマルはそんなナルトの仕草に笑みを零した。 「親父や母ちゃん見てりゃ分かるだろ?ついつい構いたくなるつうか…庇護欲そそるんじゃねえの?」 「だから、難しい言葉使うなってばよ。ヒゴ…なんとかって」 シカマルは説明しようかどうか迷う。きっと目をむいて怒る筈である。親世代のヨシノやシカクが庇護欲をかきたてられても当たり前なのかもしれない。大人から見れば、まだまだ子供であることが現実なのだ。守りたい、庇いたい…親から見てそういうポジションにいるのが、子供という立場なのだから。それを、同じ年である自分がナルトに対して感じたなどとは口が裂けても言っては行けないだろう。本当の事なのだが、それはナルトを傷つけるような気がした。負けん気だけは人一倍強いナルトが、悔しがる姿は見たくない。それに同じ男なのだから、護りたいと思っているなんて事も、そう思われていると知っただけでプライドを傷つけてしまうかも知れない。 「早く、食えよ。冷めちまうぞ?」 「ん…ああ、そうだけど。なんか誤魔化された気分だってば…」 「だから、お前は俺の打算の中に居ろってハナシ」 「やっぱ難しいじゃん」 納得いかないといった顔をしながらも、ナルトは食事を再開する。シカマルはその横顔をじっと見つめた。あと、何回こうやって一緒に食事をする事ができるだろう。ナルトから修行の旅については詳しい事を聞いて居ない。聞けば話してくれるかもしれないが、ナルトは自分から話したいと言ったのだ。だから、シカマルはじっとそれを待つ事しか出来ない。 「ごちそ〜さまだってばよ!」 スープまで飲み干したナルトはご満悦の表情で笑っている。 この笑顔をあと、何回見る事ができるのだろう。シカマルの箸が止まっている事に気が付いたナルトが訝しげにシカマルに視線を向ける。 「シカマルってば…半分も食ってないじゃん。どうしたってばよ?」 「お前が早食いなんだよ」 「……え、そうかな」 「好物だからしゃーねえか」 「気を付けるってばよ」 何かを考えるような顔になったナルトが、唇を尖らしている。何か不満なんだろうか。そんな表情が可愛いと思わせる一因なのだが、きっと本人はずっと気が付かないだろう。シカマルは退屈そうにしているナルトを横目に食事に手を付けた。 食事が終われば、また他愛もない話をしながら帰路に着くだけ。途中コンビニに寄って、バニラのアイスバーを購入する。デザートは別腹の科学的検証をした本を読んだ事があるシカマルは、その話をナルトにしてやる。ナルトは終始真剣にシカマルの話に耳を傾けていた。 「だからな…目の前に、食いたい物があるって脳が認識すんだよ。そしたら、電気信号が流れる訳だな。早く胃にあるものを消化しろって。そうする事で、消化活動が活発になって、食後のデザートを食べる余裕が胃の中にできる…って事。おい、聞いてんのか?」 ナルトはじいっとアイスバーを見つめている。 「そっかぁ…オレがアイス食いたいって思ったから、胃が頑張るってことだよな?」 「なんだよ。信じてねえのか?」 「すっげー信じてるってば!そうゆう研究とかも、シカマルんちでしてんの?」 「…してねえけど。お前、腹に余裕あんなら、俺の分も食えよ」 シカマルは食べかけのアイスバーをナルトの顔の前に突き出す。 「ラッキー!いいんだってば?」 「満腹すぎて食えねえんだよ。お前、腹が減ると機嫌悪くなるからな…一杯食っとけ」 「なんだっていいってばよ〜。サンキュ、シカマル」 両手にアイスを持ったナルトは嬉しそうな笑顔を作る。シカマルは、その笑顔を目にしてなぜか胸が苦しくなった。理由は食事の時から考えていたことだ。 ようやく近くに居る事が自然となったのに、離れなければいけないという現実。ナルトはその事にずっと悩んでいた。そんな事は露知らず、シカマルはこれからも続くだろう平凡な毎日に胡坐をかいていたことになる。一生の別れでないと、分かっていても。ナルトとの関係が変わらないと、分かっていても。心の中では彼を離したくないと思っている自分が居る。それを、ナルトに知られてはいけない事も分かっている。ナルトが何に対して不安になっていたのか……それはシカマルにとって嬉しい事実だった。苦しめている存在が自分だとしても、この手を離す事が出来ない。人間は強欲な生き物だと思う。 それでも、このままじゃいられない。タイムリミットが近づいてきて、シカマルはそれに焦っている。この笑顔を焼き付けたい。二人の気持ちが、これからに流されるんだとしても。決して変わらないものがあるものだ。それが何であるのか、シカマルもナルトも分かっていない。核心から目を逸らしている。 過ぎていく時の中で、変わり行くものと変わらないものと。その思いが強さに変えられるようになりたいのに、今は目の前のナルトという存在が自分の心を離さない。 そして、求めていることはとても簡単なものなのだ。きっと、それは勝手に付けた理由の一つで。ナルトが自分を受け入れてくれるならば……否、嫌がってもこの感情を押し付けてしまうかもしれない。 シカマルははしゃぐナルトの背中を見つめ、振り返った彼が笑顔であることがとても嬉しかった。
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もう、今回のお話はRUIの鬼門と言うか…
また、こんなトコで続くにしてしまってゴメンナサイ。
このワンクッションを入れて、次に行きたかったのです。
お互いの心情変化しか、書いてません。
次回もシカナル目指して、さくりと更新したい…