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始まりの朝 15

 

 

 ナルトは部屋を片付けていた。先日、自来也と話をした時に、出立の日が近いという話し振りだったからである。自来也との修行の旅が、どれくらいのものかはナルトにも分からない。サスケや暁の事を考えると、数日や数ヶ月でないと言うことはナルトにも分かってはいたが。

 未来を見据えた自分の見の振り方を、心に決めたはずなのに、ナルトの心に僅かな歪みが出来ていた。修行はしたい。強くなりたい。それは身体的にだけでなく精神的にもだった。自分が対峙する事となる宿命を受け入れた結果である。まだ弱い自分を感じる度に、サスケを遠く感じる。自分が強くなければ彼を取り戻す事なんて出来ない。ナルトはぎゅっと雑巾を握り絞めたまま、床に寝転ぶ。窓の向こうに見える洗濯物。それは、風にはためいていた。青い空と流れる雲を眺めて、無意識にシカマルの事を思い出す。

 数日前、偶然に任務に出るシカマルと会った。それから何日もしていないのに、彼の事が気になってしょうがない。一番ナルトを悩ませているのは、旅に出る事をシカマルに告げて居ない事だ。ナルトが気にし過ぎなのかもしれない。全部を素直に話せば、シカマルは笑って背中を押してくれるかもしれない。一つだけ分かる事は、彼はきっと自分を阻む事はしないと言う事。問題なのはナルト自身の気持ちなのだ。もやもやとして晴れない気持ちが、その原因が分からない。心が感情についていかない。追い付けなくて、ただ呆然と立ち尽くしている。そんな自分が嫌でしょうがないのに、自分の決めた道の真ん中に蹲っているような気分なのだ。

 気が乗らない掃除は進むはずもなく、ナルトは雑巾を放り投げると大の字になって天井を見つめる。もしかしたら、この瞬間にでも自来也と木の葉を出て行くかも知れない。そうなる前に、シカマルにその事を告げたい。なのに、タイミングが掴めないでいた。もちろん、すれ違いの生活をして居る事も理由の一つだと言えるが、どこかでナルトが告げる事を躊躇っていることも確かなのである。

 大きなため息を着くのと同時に、部屋の扉が派手に開く。ナルトは驚いて、そちらに顔を向ける。寝転がって見上げる姿は、会いたいと思いつつ会えなかったその人だった。

「…シカマル?」

 珍しく大きく肩で大きく息をしている彼は、ナルトの顔を見て安堵したような表情になる。ナルトはどうしてシカマルがそんな風なのか不思議に思いながら、起き上がった。

「どうしたってばよ?そんなに急いで…なんかあったってば?」

 息が切れたシカマルはサンダルを脱ぎ捨ててナルトの元までやってくると、ぎゅっとナルトを抱き締めた。

「どうしたって…」

「良かった」

 呟くような声。それから、ゆっくりとシカマルの身体が離れる。

「なにが…よかったんだってばよ?」

「お前が、居たから」

 ナルトは瞬きを忘れて、じっとシカマルの顔を見上げる。目が合った瞬間、シカマルがふっと笑う。いつも見せる不敵な笑みだった。

「なん、で…知ってんだってば……?」

「ンな事より、なんでお前こそ言わねえんだよ」

 シカマルの言葉にナルトは息を飲む。口調は責めていないのに、責められているような気分になった。

「いきなり居なくなるつもりだったのかよ」

 シカマルから視線を外したナルトは、俯くと彼のベストをぎゅっと握った。急に喉がからからに渇いた。乾いているのは喉だけ出なく、心の中まで。ささくれてひび割れた心に、シカマルの言葉が響いてくる。

「そんな…事、ない」

 それだけ言うのが精一杯だったナルトは、俯いたままじっとシカマルの言動を待つ。彼は軽くため息をついた後、ナルトの前に胡坐をかいて座った。

「誰から聞いたんだってばよ」

「…どうでもいいだろ」

「よくないってば!オレはまだ誰にも言ってないんだってばよ。シカマルにも、自分で言いたかったのに…オレから伝えたかったの…に」

「まぁ…聞かねぇふりできなかったんだから、勘弁しろよ」

「シカマルは平気なんだってば…?」

 うじうじと悩んでいる自分とは対照的に、シカマルの言葉はさっぱりとしているように聞こえた。瞬時にシカマルの顔が剣呑なものに変わる。ぐっと唇を噛み絞めた彼は、言葉を飲み込むようにしてため息をついた。俯いているナルトはシカマルの変化に気が付いて居ない。

「平気か…って聞かれりゃ、平気じゃねえよ。みっともなくお前んとこに走ってきた俺は、滅茶苦茶だせえよな」

 ベストを掴むナルトの指先が震える。

「別にお前から直接聞きたいとか、そんな事どうでもいいくらいパニ食ったんだよ。醜態晒して、ここまで来たんだよ。俺が言えるのは……それだけだ」

 ナルトはシカマルの胸元に額を押し付ける。シカマルの気持ちが嬉しいのと、優柔不断な自分の不甲斐なさに涙が出てきた。

「みっともねえのは……オレだってばよ」

「ナルト」

「うじうじ悩んで、なんも言えなくて…っ、どうやって話したいいかも分かんねえし、オレがどうしたらいいのかも分かんなくって………」

「馬鹿やろ…泣くなって」

 シカマルの掌がナルトの後頭部を撫ぜる。シカマルは金色の髪を指先ですきながら、どうしようもない気持ちに襲われる。身体は二つで、心も二つ。思いも、二つなのだろうか。決して重ならないものなのだろうか。物理的には無理でも、どうにかしたい自分が居る。

「お前泣かせてんの…俺だよな」

 ナルトは首を振る。シカマルが悪いのではない。シカマルの所為ではない。

「修行の旅に出たからって、一生会えなくなる訳じゃねえだろ?」

 それは、シカマルが自分自身に言い聞かせた言葉。自分を納得させるために、何度も頭の中で反芻した。

「強くなりてぇって…お前、言ってただろうが」

 もしかしたら、ナルトはもう木の葉に居ないかもしれない。そんな居ても立ってもいられない気持ちを無理やりに言い含めた、嘘の一つ。

「俺ら、背中合わせだな?」

 シカマルの言葉をどう取ったのか、ナルトがびくりと反応した。

「ナルトとサスケが向き合ってんなら、俺とナルトは背中合わせだ」

「サスケは関係ねえってばよ。あいつは、オレにも木の葉にも背中を向けたんだって!」

 顔を上げたナルトの目尻を指の腹ですくう。指に伝った雫が、温かかった。

「勘違いすんなよ。否定的な意味で言ったんじゃねえんだ……お前も俺も前を向いて歩いていかなきゃなんねぇ。それが、俺とお前が決めた道だからな。けどよ、しんどくなったら…背中を預けられる関係でいてえんだよ。これは俺の希望つうか願望みたいなもんだよ。理想かもしれねぇ…言葉にすんのは簡単だ。背中合わせでも、俺はお前と寄り添っていたい。お前の体温、感じててぇよ。お前の背中に縋って、お前の行く道を塞ぎたくねえ。サスケはお前の背中にお前の強さを見たんだ。それと同じに、お前はサスケの向こうに強さを感じてる。俺は、そう感じた」

 ナルトの青い瞳は涙で潤んでいる。その瞳を自分だけに向けられて、シカマルはそれだけで嬉しいと思えた。大好きなナルトのまっすぐな瞳。その先には大きな夢があり、その為に自分自身と戦い続けている。

「綱手様から…ナルトとサスケの話は聞いたんだ。一応、これでも俺はサスケ奪還の小隊長だったんだぜ?現状把握も任務の一つだろ。お前が…修行の旅に出る事も…」

「お喋りだってばよ、綱手のばあちゃん」

「それ以外は聞いてねぇ…つうか、すぐにここに来ちまったからな。話もそこで終わり」

「オレとシカマルは、背中合わせで……離れちまうのかな」

 不安そうな表情で見つめられて、シカマルは苦笑した。

「寄り添ってられるのか…」

「自信ねえのか?」

 反対に切り返されて、ナルトは言葉に詰まる。

「オレの気持ち、シカマルに伝いたいけど…伝え切れねぇんだてば。どうやっていいのか分かんねーんだってばよ。強くなりたくて、火影になりたくて、サスケを取り返したくて……全然、今のオレじゃ力足りねぇんだってば。それ分かってて、エロ仙人と修行する事に決めて……なのに、なんか決めてんのに。なんで、こんなに苦しくなるのか…全然分かんないってばっ!」

「まるで、悪戯されてるみたいだよな……俺だって、何で今のタイミングなんだって考えた。ナルトみたいに、なんでこんなに切ないのか分かんねぇ。でも、今のタイミングが最善なんだって事は分かる」

 ナルトが自分の気持ちを伝え切れないと言うならば、自分も同じだとシカマル思う。その先に見つけ出した答えだ。

「最善…?」

 シカマルは頷くと、ナルトの頬をに掌を滑らせる。

「俺はお前が、好きだ。その気持ちは変わらねぇ……その分、欲張りになった。俺はお前を包み込めるようなでけえ男になりてえよ。今のままじゃダメだってのは、ナルトと同じだ」

 ナルトは分からないと言うように、頭を振った。鼻先を掠めた金色の髪に、シカマルがそっと目を閉じる。

「お前は…俺の全てを変えたんだぜ?もっと、自信持てよ。もっと傲慢でいろよ。俺に何の遠慮もする事ねぇんだよ」

「違うってばっ!」

 ナルトはシカマルの首に抱き付く。その腕が震えていた。その震えを止めたくて、ぎゅうっとシカマルに縋りつく腕に力を入れる。

「遠慮なんかしてねえってば。オレよりもシカマルの方が、オレに遠慮してんだって……」

「ンな事…ねえよ」

「こんな気持ちになんの…シカマルの所為なんだから、ちゃんと責任取ってもらうってば」

 ナルトの涙声がシカマルの耳に届く。言葉の意味を考える余裕がなくなったシカマルは、ナルトの身体を抱き締め返した。

「責任って、なんだよ。俺はお前を受け止める、覚悟はできてる」

「オレだって、そんなん同じだってばよ。シカマルが、オレにしとけって言ったんだってば…忘れんなってばよ。オレ…ばかだから、色んなこといっぺんに考えられねえんだってばよ」

「ばかなんじゃねぇよ。お前は、少し人より不器用なだけだ」

「シカマル…」

 少し寂しげなナルトの声に、シカマルは眉を顰めた。

「今は…離れたくないってばよ」

 一つになれない二つの身体。解けあう事ができない、二つの心。互いに自覚してしまったからこそ、初めてそこに畏れを感じた。二人とも本当は、見えない何かが怖いのではなく、真実を見ようとしない自分が怖いのだ。

「シカマル…離さないでほしいってば」

「ナルト…」

 身体から響くナルトの声が聞こえた瞬間、何か大切なものが生まれた感じがした。シカマルは湧き上がる感情が、焦げ付くような恋情でなく、慈しむ愛情に変わるのを感じていた。それが、深く深くなるにつれ、引き返せない所まで自分が追いやられたような気分になる。

「離せねぇよ」

 シカマルはナルトの身体を床に寝かせる。腕を解いて、じっとナルトの顔を見つめた。涙により赤く腫れた瞼。そっと、唇を寄せた。

「離せるわけ…ねえだろうが」

 ナルトの瞳が瞼にかくれる。それが合図だったかのように、シカマルの唇がナルトのそれに重なった。

 

 

 

 

  

 

 

 

この話は、恋愛初心者の話ですから……

なんだか、すれ違いはあるし、自分見失うし…

シカマルとナルトも手探り状態。

子供のままでいられない自分に、ようやく気が付いた感じ?

大人になるって事は難しいけれど。