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始まりの朝 12

 

 

 ナルトは気が気でない。目の前を歩くシカマルは、一度も自分を振り返らなかった。チョウジの家を後にしてから、一言も口を聞いて居ない。なんとなくシカマルの機嫌が悪いような気がして、ナルトから話しかける事が出来なかった。

 きっとシカマルは誤解している。チョウジの前で、思わず涙してしまった理由を彼は知らない。本当ならば一番に話さなくてはいけないような気がしていたが、そんな雰囲気がないのだ。ナルトはこのままシカマルの後をついていっていいのか真剣に迷った。

「あの…シカマル!」

「なんだ?」

「あのさ」

「なんだよ?」

 シカマルにじっと見つめられて、ナルトは思わず俯いてしまった。ナルトはどうしたらいいのか本当に分からないのだ。いつもならば、軽口を叩くのも平気だと言うのに、今と言うこの時に黙ってしまう。じっと地面を見つめていると、頭の上に温かい感触が降りてきた。思わず顔を上げると、少し困った顔をしたシカマルの姿がある。くしゃりと髪を撫ぜられた。

「どうしたんだよ。お前らしくねーな?」

「……あのさ」

「うん?」

「シカマル…誤解してるってば?」

 何の話だか察しが付いたような彼は、曖昧に首を振った。

「別に」

「ウソだってば!してる、ぜってーしてるし!」

「何をだよ」

「それは……」

 きっとシカマルは分かっているはずなのに、分からない振りをしているように見えた。それが何故だかナルトには悔しい。

「オレ、家に帰る!」

 ナルトはシカマルに背を向けた。なんだか無性に腹が立って、このままシカマルの家に大人しく着いていく気分になれなかったのだ。

「おい、ナルト!」

 驚いたようなシカマルの声も無視する。ナルトは自分の事を癇癪を起こした子供のようだと思った。だけれど、そうさせているのは全てシカマルだと責任転換することで済ませてしまう。

 そして、振り返らなくても分かる。自分の後ろを着いてくるシカマルの気配。

「ついてくんなってばっ!」

「お前の怒ってる意味が分かんねぇよ」

「分かんなくてもいいってばよっ!」

「言わなくちゃ分かんねえだろ」

 肩にシカマルの手が掛かり、ナルトの歩みを止める。ナルトは無意識にため息をついた。

「痛くねぇ腹さぐられてるような気分だってば…」

「難しい言葉知ってんな」

「これからずっとそうなんだって思うと、オレ嫌なんだってばよ」

 言い終わるか終わらない内に、ナルトの手が強引に引かれた。はっと気が付くと、路地に連れ込まれている。向き合うようにしてシカマルの顔があり、どきりとする。片手はナルトの手首にかかり、もう一方は顔の横で固定されている。ヒステリックになっているナルトよりも、シカマルの表情の方が怖い。ナルトはシカマルから視線を外せなくなる。シカマルの目が真剣で瞬きも出来ない。

「悪かったな、嫉妬深いオトコでよ」

 地を這うようなシカマルの声が、ナルトを萎縮させていく。それが顔に出ていたのだろうか。シカマルが深い息を吐いた。それからゆっくりと肩口にシカマルの額が当てられる。

「チョウジにもサスケにも嫉妬する、めんどくせー奴だよ。俺は」

「ちが…違うってば、シカマル」

「訳分かんねぇ。自分の事なのか、お前の事なのか…頭ン中ぐちゃぐちゃだ。でも、お前の事…好きなんだ。…ナルト」

 名前を呼ばれて、びくんと身体が震えた。

「すげえ嫉妬するくらい、お前の事が好きだ」

 どうしてだろう。苦しそうに呟くシカマルの声を聞いて、嬉しいと思ってしまう。そんな自分自身をどうしたらいいのか分からなくなる。

「俺にとって、シカマルは……特別なんだってばよ。サスケの事は、……サスケの事を止められなかった自分がすごく弱くて情けなくって、後悔ばっかしてんだってんば。オレが弱いから、サスケを止めることできなかったから。そういう意味ではサスケの存在も、特別なんかもしれねぇけど………オレは、シカマルの事、特別な意味で好きなんだってばよ。それだけは信じて欲しいんだってばっ!サスケの変わりになんかしないから、シカマルはシカマルだから……オレの事、信じてほしいってば」

「ナル…ト?」

 シカマルは驚いた様に顔を上げた。ナルトはシカマルから視線を外さないように、じっと見つめる。

「シカマルに、誤解されんの…やなんだってば」

「お前、なんつった?」

「だから、誤解されたく…」

「その前だよ」

 ナルトは血液が沸騰するような気分になる。身体がかっかっと熱いような感覚を覚える。

「オレは…シカマルの事、――――――― 時別に、好きなんだってばっ…」

 ぎゅっと抱き締められた。そうされるのか何度目なのかナルトは忘れてしまう。最近、こうやってシカマルに抱き締められる事に慣れてしまっていたからかもしれない。彼の優しさに甘えて、ずっと狡いままの自分でシカマルの温もりに寄りかかっていた。だから、自分の気持ちを伝えたくて、その背中にしがみつくように抱き付く。

「クソ、滅茶苦茶嬉しいじゃねえか。不意打ちすぎんだよ、お前は」

「オレはシカマルみたく、フェイクとか使えねえってば」

「お前にフェイクなんか使えねえって。そんな余裕もねえ」

「シカマルらしくないってばよ」

 その言葉を聞いてシカマルがくすりと笑った。同じような事をチョウジにも言われた事を思い出す。

「悪りぃな、ナルト」

「なんで?悪くないってばよ」

 二人の間に殺伐とした雰囲気がなくなった事で、ナルトの気持ちも少し軽くなる。もっと伝えたい事は沢山あって、新しい発見もあって、それをどうやればシカマルに伝えられるのかが分からない。

「オレ、頭悪りぃし…うまくシカマルに伝えられないかもしんねーけど、いっぱい話したい事もあるってばよ」

 くだらない事も、小さな事でもシカマルに一つずつ話したい。

「さっきのシカマルは怖かったけど、嫉妬されんのてっば…くすぐったい感じがする」

「なんだよ。言ってる事、違わねぇか?」

「誤解は、やなんだってば」

「キスしていいか?」

 真剣な声で尋ねられて、ナルトは口元に笑みを浮かべる。それから、コクリと頷いた。ゆっくりとシカマルの顔が近づいてくるのが見え、そっと目を閉じる。

優しく重ねられる唇に、シカマルの優しさを感じて、ナルトは自分の心が溶けていく情感を覚えた。今ならば綱手の言っていた事も、理解できる。自分以外の物を見ようとする気持ちも、視野を広く物事を捉える事も大切なんだと言う事を。

自分自身すら見えて居なかった。こんなに近くに居るシカマルの存在すら、気づいて居なかった。偽りも見せかけもいらない。この温もりだけが、欲しいと心から思った。

 

 

 

 

結局、ナルトのアパートに二人で帰る。なんとなく、そうなってしまったのだ。なんだか、今はヨシノやシカクに会いたくかった。そう言ったのはナルトだ。

「オレってば…誤魔化すのとか嘘つくの苦手なんだってばよ」

「知ってる」

「なんか、おばちゃんとおっちゃんの顔見たら……どうしたらいいか分かんねぇってばよ」

「分かった分かった」

 ナルトの顔はずっと赤いままだ。照れているのだと言う事が見て取れる。そうさせているのが自分だと思うと、シカマルは内心では嬉しい。

「ま、父ちゃんは任務だからよ。母ちゃん、お前にメシ作るの楽しんでるみたいだから、付き合ってやってくれよ」

「夕飯までには……戻る」

 ナルトは鍵穴にキーを差し込んだ。

「なんだよ、今日は寄ってけとか言わねぇのかよ」

 ゆっくりとナルトが振り返ると、チラリと盗み見るような視線を送られる。シカマルは首を傾げた。

「なんだ?」

「ケーカイしてんだってばよっ!」

 警戒しろと言ったのは自分だか、昨日と今日でいきなり態度が変わるのはいかがなものか。シカマルは思わず笑ってしまった。

「じゃ、寄ってくか」

 意地悪く言うと、ナルトがじっとりと睨み付けてくる。

「…別に、いいってばよ!」

「警戒してるからか?」

 ナルトはシカマルの言葉を無視して、部屋の中に逃げ込んでしまった。全く、面白い。ナルトのやる事なす事全てが、シカマルを楽しくさせてくれる。

「邪魔するわ」

 それだけ告げると、シカマルはサンダルを脱いで部屋に上がり込んだ。

 

 

 

 

  

 

 

 

やっとナルトに「好きだ」と言わせることができました。

道のり長かったです…

でも、あと少し続きます(まだかよって感じですが…)

恋愛初心者な、シカマル&ナルトなんです。