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始まりの朝 11
ナルトはシカマルと共に、チョウジの家を尋ねた。もちろんたんまりと菓子を買い込んで。それを見てチョウジが満面の笑顔になった事は言うまでも無い。 「ナルト、昨日会いに行ったんだよ…ボク」 ナルトはポテトチップスを口にしながらチョウジに視線を向ける。シカマルがちょうどトイレに立っている時だった。 「あ、聞いたってばよ」 「ボクさ…ナルトがシカマルんとこに居るって聞いて、なんか安心したんだよね」 「安心…?」 「うん」 チョウジは彼特有の人のいい笑みを見せた。 「昨日、シカマルにも言ったけど……ナルト、サスケと仲良かったから落ち込んでんじゃないのかなって思って」 ナルトは思わず菓子を食べる手を止める。それから、俯いた。 「それは……落ち込んでる暇なんかねぇつうか…そんなんじゃいけねえって思ったつうか…」 呟くようにしか返せない。チョウジの科白が的を得ていた事もある。 「いのやシカマルが、もしサスケと同じ事をしたら、ボクはすごく落ち込むと思う」 チョウジの声ははっきりとしたものだった。その声にナルトが顔を上げると、真剣な顔をしたチョウジが居る。 「ボクはサスケが木の葉を抜けた理由なんて知らないけど…それを、いのやシカマルがしたら許せないかもしれないよ。二人の事、すごく好きだから」 「チョウジ…」 「だから、ナルトの事はすごいなぁって思うんだ」 「オレは全然すごくなんか…ないってばよ」 「すごいよ。ナルトはシカマルと同じじゃないか。ナルトは、サスケを信じてる。それってすごい事だよ?」 「シカマルと…同じ?」 ナルトの問うような声にチョウジが頷く。 「シカマルは、ボクの事をいつも信じてくれてて理解してくれてる。ボクの親友なんだ」 「そっか…」 「だからさ…」 チョウジの声のトーンが落ちる。 「どうしたんだってば?」 「ナルトの事を心配したのと同じに、シカマルの事も心配だったんだ」 手持ちぶたさでチョコレートの包みを触るチョウジは、彼らしくないため息をついた。 「チョウジ…?」 「シカマルにとっては中忍になって初めての小隊長だったし……結果的にサスケの奪還には失敗しちゃったし。シカマルは自分じゃなくて、仲間が傷ついた事にすごく苦しんでた。言わなくても、そうゆうのって分かっちゃうじゃない?」 ナルトは黙ってチョウジの話に耳を傾ける。正直、自分の事で手一杯だった自分は他人を気に掛ける余裕なんてなかった。仲間がそれぞれ死の淵を彷徨った事も頭から抜けていた。今、目の前にいるチョウジも綱手が居なければ、こうやって話を出来なかったかもしれないのに、それすらも気づいて居なかった。 「違う…違うってばよ。チョウジ…オレってばそんな大層な奴じゃないってば。サスケのことはオレが勝手に信じたいだけなんだってばよ。信じてるんじゃない…信じたいって思ってるだけなんだってば。それって、オレの為なんだって……やっと気が付いた。オレはオレの事しか考えられない…チョウジやシカマルみたく、仲間の事……思ってんじゃねえんだってばっ」 「ナルト…?」 チョウジは驚いたような顔でじっとナルトを見つめた。 「どうして、泣いてるの?」 「え…?」 ナルトは言われて初めて、自分が泣いている事に気が付いた。自分の頬に触れ、指先に触れた涙を確かめる。止めようと思えば思うほど、どんどん涙が溢れてくる。 「ナルト…ごめん。ボク、変な事言ったかな」 「ちが…チョウジの所為じゃないってば」 「えっと…でも、ナルト…」 ナルトはおろおろして、ごしごしと手の甲で涙を拭う。それなのに、溢れる涙は止まらない。 「おい、チョウジ!おばちゃんが飲み物足りてるかってよ」 後方からしたシカマルの声にびくりとナルトの体が反応する。チョウジは困った顔をしながら、シカマルを見上げた。その様子にシカマルの表情が訝しげに変わる。 「……どうしたんだ?」 「ボク、ナルトの事泣かせちゃったよ」 膝をついたシカマルが、ナルトの顔を覗き込む。ナルトは無意識にシカマルから顔を背けた。 「ナルト?」 心配そうなシカマルの声に、ナルトは首を振る。 「違うってば…チョウジは関係ねえんだって」 「……そうか」 ナルトははっと顔を上げると、シカマルを見つめる。 「違うってば!あの…サスケの事でも、ねえから……」 シカマルは一瞬驚いたような表情になり、ふっと笑った。 「ほんとだってばよ!」 「分かったよ。やっぱ、飲み物足りてねぇな?もらってくる」 シカマルが部屋から出ていった後も、じっとその扉をナルトは見つめる。それから困惑したような顔でチョウジに視線を移した。 「チョウジ、シカマル…絶対誤解したってばよ」 「え?何を?」 「だから、サスケの事でオレが泣いてたって…違うのに」 「サスケの事で泣いちゃだめなの?」 チョウジの疑問は当たり前の事で、ナルトは返答に困ってしまった。 「なんでそんなに焦ってるんだよ、ナルト?」 「それは…」 ナルトはどう説明していいのか分からない。だが、シカマルにサスケの事で泣いたと誤解されるのは嫌だった。咄嗟に口にしてしまったけれど、チョウジからすれば、それが不思議なのだろう。 「シカマルの前で、泣くの…嫌なの?」 「そ…それは…あの」 「シカマルがそう言ったの?」 「い、言わない」 「じゃあ、いいんじゃないの。ナルトが気にしなくても」 「よくないってばっ!」 強く否定した事でチョウジの目が点になる。ナルトはまた自分が空振りしてしまった事に気分が落ち込んだ。どちらかと言えば、自分は口が上手くない。話をするのも苦手だし、自分の気持ちを伝えるのも苦手だ。 「シカマルに誤解されたくないんだ…?」 ナルトは無言で頷いた。余計な事は言いたくない。ただ、チョウジの科白を肯定する為に頷いたのだ。 「それって…サスケの事で、シカマルに誤解されたくないって事?」 それもイエスだ。ナルトは首を縦に振る。 「サスケの事で、シカマルに嫌な思いさせるからとか?」 「わかんねぇってば…」 そして、首を傾げる。 「シカマルはそんなに度量の狭い男じゃないよ。サスケの事と、任務失敗の事は嫌でも結びつくし…いちいちそれをナルトが気にしててもしょうがないと思うけど?」 「そーゆうのとも…ちょっと違うってば」 任務がどうとかではない。ナルトの気持ちがサスケにだけ向いていると誤解されたくない。そう思って、ナルトは自分自身の気持ちに困惑してしまった。シカマルはナルトがサスケを木の葉に連れ戻そうとしている事を知っている。それを応援してくれると言っていたし、それでも構わないと言ってくれた。何故シカマルが自分にそれだけの事を言ってくれるのか、その理由は自分の事を好きだからだ。 「チョウジ…あのさ、昨日まで好きな奴が居たのに、いきなり次の日から他の奴とか好きになるのって変だよな」 「え?それって、普通じゃない?」 ナルトはびっくりしたように、口をポカンと開ける。チョウジの答えはナルトにしては意外なものだった。 「普通じゃねえってばよ?昨日まではサクラちゃんが好きだったのに、いきなり今日になったらいのの事好きになんのかよ。それってば…ちょっとおかしいってば」 チョウジは「う〜ん」と唸ると、考えるようにぽつりぽつりと話しだす。 「それってさ…好きの種類が違うんじゃないの?別にいのの事いきなり好きになっても、サクラの事嫌いになる訳でもないよね。どっちも好きなんでしょ。好きな人って、一人じゃないよ。ボクはシカマルもナルトの事も好きだし、いのも好きだし、アスマ先生も煩いけど好きだし…」 「オ、オレも!サスケの事も好きだし、サクラちゃんの事も好きだし、イルカ先生もカカシ先生も綱手のばあちゃんも…!!」 ナルトはじっと自分の両手を見つめる。とても大切な何かが見えた気がしたのだ。心の奥の方で生まれた、名前のない感情。それを知らないから、ナルトがどう呼んでいいのか分からない感情。 「なんかナルトの言いたい事、ちょっと分かった気がする」 「え!な、な…何だってば?」 チョウジはくすくすと笑うと、チョコレートを口の中に放り込む。 「人を好きになったり嫌いになったり、簡単なんじゃないのかなってボクは思う。でも、好きな気持ちが特別になるのって違うよね。それっていきなりだったりとかするし。ボクが、ただの友達だと思ってたシカマルを親友だって思ったのも、すごく些細なことがきっかけだったもん」 「そうなんだってば?」 「うん。ナルトは、そうゆう経験…ない?」 「オレ…?」 サスケの事をいけ好かない奴だと思って、気になれば気になるほど嫌いになって行った。それが、同じ班に配属されスリーマンセルで任務をこなす内に、彼への見解も違う物に変わって行き、助け合ったりライバルとして意識するようになり、何の関係もなかったサスケが大切な人に、大切な繋がりに変わっていったのだ。 そして、シカマルの存在。ただの友達だった彼が、大切な仲間に変わり、その感情がまた違うものに変化した。情けない自分を曝け出し、一緒にいる時間を心地よいと感じるようになった。そして、彼を無くしたくないとまで思うようになったのだ。 「出逢いも、別れも簡単だよ。でも、それを特別なものに変えるのって簡単な事じゃないんじゃないのかな。瞬間的なものだけど、人の感覚って一人一人違うから」 ナルトは顔が熱くなるのを感じる。チョウジの言葉が色んな手掛かりになり、曖昧な感情に名前を付けて行く。自分の求めているものがなんなのか、何となく分かったような気がした。 「チョウジ……オレってば、シカマルの事、好きなんだってばよ」 「知ってるよ」 チョウジは似たようなやり取りをした事を不意に思い出した。 「……チョウジが思ってるみたいにじゃなくっ!」 「うん。なんとなく分かった」 「ええっ!なんでだってばよ?いつから分かったんだってばよ」 「え……今?」 ナルトは目を見開いて言葉をなくした。 「あ、ナルト。驚いてる?」 ナルトは口をぱくぱくさせている。その顔がユデダコのように赤い。 「チョウジは、おかしいとか……」 「思わないよ、別にね」 チョウジがにっこり笑うのと、シカマルがジュースを手に戻ってくるのはほぼ同じタイミングだった。にこにこ笑うチョウジと、真っ赤な顔をして俯くナルトを交互に見たシカマルは首を傾げる。 「おい、お前ら対極すぎじゃねえか?」 「ナルト、きっとパニくってんだって」 「はあ?」 シカマルは意味が分からないと言うようにナルトを見る。目が合った途端、慌てて視線をそらされた。なんだかそれが面白くない。チョウジとナルトの間で、何かしらのやり取りが交わされた事は確かなのだが、自分は蚊帳の外のようだ。シカマルはむっとしながら、ナルトの前に牛乳の入ったグラスを置いた。
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すごい、チョウジ大活躍!
ってか、ナルトの気持ちはすごく不安定なので
今回の事で、ちょっとは自覚してくれるといいな…と。
シカマルの事を「特別」だって意識してくれると嬉しいです。
なんか、変なとこでうちのナルトは鈍感だ…