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A story of the first love 9

 

 

 シカマルは自然と惹かれるように、ナルトに口づけをしてしまった。最初驚いた様なナルトが、おどおどとした様子で自分に応えてくれた事も嬉しい。ナルトには告げていないが、カカシに会った事により彼の素性が少しだけ分かっている。それをナルトに言えないのは、口にしたらナルトが居なくなってしまうのではないか……という危惧からだ。

 今は一人きりで部屋の中に居る。初めて口づけを交わした時から、数日の時間が経っていた。シカマルの中で、自分を助けてくれたあの少女の面影が消えていた。それは、全てナルトに重なる。ナルトの事で頭が一杯になっている。彼自身から本当の事が聞きたい。ナルトが口をきく事が出来ないので、それは無理な話なのだが。それでも、行動の端々に自分の事を嫌いでない様子が伺えた。その事は内心シカマルを喜ばせているのだが、当のナルトは知らないだろう。

 照れたようにシカマルから視線をそらせるナルト。そんな姿を見ると、不意に抱きしめたくなってしまう。不思議だった。ナルトは自分と同性である。それなのに、どこかで彼に欲情している自分が居るのだ。時々渦まく黒い感情にシカマルは知らんぷりをして無視を決め込んだ。後、気になる事もある。シカクが突然やってきたあの日から、ナルトはとても寂しそうに月を見上げる事があるのだ。そのまま月の淡い光に溶けてしまいそうな心細さを覚える。今にもカカシがやってきて、ナルトを連れ去ってしまうのではないか。ナルトが一人で月を見上げて居た時、彼を繋ぎ止めておきたくて背中から抱きしめた。驚いたようなナルトも前で組んだ腕にそっと手をかけて、にっこりと笑ってくれた。そんな時に見せる笑顔は、昼間見る満面の笑みではなく、ほんの少しだけ寂しそうな笑みだ。儚げに見えるナルトの姿が、夢や幻のように消えてしまうのではないか…シカマルは舌打ちをしてごろりと横になった。

 眠れずに白けてしまった空は、太陽の光を受けて輝きを取り戻す。障子から差し込む光に、シカマルが目を細めるとチリンと鈴の音が聞こえる。それは、この家の周りに張られた結界内に余所者が侵入した事を知らせる鈴の音である。

「こんな朝っぱらから………もしかして、カカシか?」 

 がばりと起き上がったシカマルは、彼とした約束を思い出す。ナルトに危害は加えない、ナルトを守る。そうカカシと約束を交わした。ナルトがここに居る時間については特に話をしなかったのである。だから、カカシがいつ現れても可笑しい話ではない。それに、他の臣下の者が来たと言う事も考えられる。

 シカマルは慌てて、玄関先に立った。ドンドンと遠慮なく叩かれる木扉。シカマルは静かに錠を外すと、からりと扉を開けた。その隙間から見えたのはカカシではない。その事にほっとしていると、年頃は自分と同じくらいの青年が物騒な物をシカマルの鼻先に突きつけた。

「とっとと開けやがれ、低俗動物」

 冷たい声と暴言を吐かれた事に、シカマルがむっとする。

「人んちに勝手に入ってきといて、随分と横柄な態度なんだな?」

 黒い髪に濡れた様な漆黒の瞳。深い藍色の着物に身を包んだ青年が、シカマルを見ると嫌悪を露わにした視線を向けてくる。

「うるさい」

「おいおい、そりゃねえだろ?人に物を訪ねたいなら、脅すんじゃなく道理を考えろよ」

 シカマルの言葉に青年はちっと舌打ちして、きらりと光る剣を鞘の中に仕舞う。

「じゃあ、素直に答えろ」

「その前に名を名乗れ。ここは、族長か里長の許可がないと、入れねえとこだってのは知ってんだろうな?」

 シカマルの強気な態度に、その眼差しが鋭いものに変化した。漆黒の瞳が真っ赤に染まる。

「……サスケだ。正式な名は口にする事が禁じられているのでな、これで許せ」

 シカマルはカカシが姓を名乗らなかった事を思い出す。瞳の色が漆黒から深紅に変化した事から考えても、彼も人間ではないのだろう。ナルトを探しに来た臣下の者もナルトの姓を口にしなかった。シカマルには良く分からないが、妖の世界では「名」と言うものが大きな何かを意味するものだろうと推測できる。

「サスケ…ね。俺は奈良シカマル。ここら一帯を預かる一族だ。それで、サスケ……何の用があってここに来たんだ」

「聞きたいのは俺の方だよ。お前………ナルトの匂いがする」

 ナルトの名前が出た事でシカマルが真剣な表情に変わった。

「へえ…ナルトの事をやっぱり知ってるんだな?知ってるなら、居場所を教えろ」

 カカシも同様、シカマルからナルトの匂いがすると言っていた。それなのに、ナルトの居場所については、なんの確証も得られていない。今も同じ屋根の下に居ると言うのに、その気配すら感じ取る事ができないのだろう。

「知って、どうする?」

「連れて帰るだけだ。元々いるあいつの世界にな」

「本人がそれを望んじゃいねえとしたら…?」

「関係ない。あいつは小さい頃から、くだらねえ世界に憧れを抱いてた。それだけの事だ」

 サスケの凛とした声が狭くない空間に響く。サスケはナルトの望みなんて物は、最初からどうでもいいのだ。カカシとは異なる、サスケの意志。カカシはナルトの気持ちを考えシカマルに一時的にではあるが、ナルトを託す事を決断した。いきなりやって来てナルトを説得できないと踏んだからなのかもしれない。なのに、目の前の男はナルトの気持ちなどお構いなしなのである。

「何の特権があって、ナルトを連れて行こうとするんだ」

 サスケは憤りを感じながら、息を吐く。ぎろりとシカマルを睨みつけると口元に笑みを乗せる。

「あいつは俺の嫁なんだよ。ずっと昔から決まってるんだ。連れて帰って何が悪い?あいつは俺のもんだ」

 シカマルは頭に血が昇るのをくっと堪える。自信満々に言い放つサスケから、嘘や出まかせを言っているようなものは感じられない。

「ナルトが、お前のもの………?」

「嫁になるんだから、俺のものだろう。誰に恥じる事もない」

「…………ナルトの事は教えられねえ。それはカカシとも話が付いている」

 シカマルの口からカカシの名前が出た事で、サスケの顔色が変わる。サスケは銀髪の飄々としたナルトの教育係の顔を思い浮かべて居た。カカシはミナトの直属の部下である。彼が動いていて、この人間の男とも話がついていると言うのなら、ここで自分が出しゃばる訳にはいかない。

「カカシはなんて言ってるんだ?」

 シカマルはサスケを一瞥すると失笑した。

「ナルトに何かがあったら、嬲り殺しだとよ」

 サスケはふっと笑うと「当たり前だな…」と呟く。サスケの表情からも、シカマルは自分の存在が取るに足らないものだと感じる事が出来た。

「ナルトに何かあったら、俺にも知らせろ」

「やっぱり横暴な奴だな。俺はお前のことなんて、これっぽっちも知らねえよ!」

「お前、仮にも奈良の名を預かっているんだろう。情けないな…人間の中にも契約を忘れずに祈りを捧げる者も居れば、貴様のように体たらくも居る。お前の住む里には大きな社が二つある、そのうちの一つだ。そこで俺の名前を呼べ」

 サスケがすうっと右手を上げると、その腕に絡みつくように蛇の姿が見えた。真っ赤な瞳に七色の鱗。赤い舌をちろちろと出したそれが、シカマルの頬を掠めた。ツキンとした痛みを感じると頬から滴る赤い体液が顎を伝う。サスケはシカマルには興味もないと言うように背中を向けた。

「まさか、八岐…大蛇だと?」

 龍神として崇め祭られる社の一つを思い出す。大地に潤いと恵みを降らせる荒々しい神。それが、あのサスケだと言うのだろうか。シカマルはなんだか悔しい気持ちになった。小さな頃からナルトを知っており、自分の嫁にするのだと憚らないサスケ。それに比べて、自分は何もナルトを知らない。彼の今まで生きてきた道も、これから歩むだろう道も。

 からりと襖が開く。目を擦りながら歩いて来るナルトの姿が見えた。シカマルに気が付くと、彼はにっこりと笑う。そして、シカマルの頬から伝う血液に驚いたような顔になった。ナルトは立ちつくすシカマルに近づくと、その傷口に舌を這わせた。何度も何度も、ぺろりぺろりと舐めてくる。ちりちりと痛い傷口が疼いた。

「あったけえな…」

 ナルトはシカマルから離れると、心配そうな顔で見つめてくる。ナルトに妖の力はない。だから、舐めた傷口が塞がる事もなかった。ナルトは何があったのか分からないシカマルをただ見つめる事しか出来ないのだ。

「ナルト…」

 シカマルが掻き抱くように、ナルトを引き寄せる。強引に抱き寄せられた事でバランスを失ったナルトの身体は容易くシカマルの胸に抱かれた。

「夢じゃねえのか…?」

 ナルトはどきどきしながらシカマルの腕の中に居る。どうしたと言うのだろうか。シカマルの様子がおかしい。それに、頬に出来た傷はかなり深かった。鋭利なもので切られたかのように、きれいな傷口。

 ナルトはとんとんとシカマルの胸板を叩く。彼が自分を見た事で、首を傾げた。不安そうな青い瞳がシカマルを捉える。

「ナルト……サスケって知ってんだろ」

 ナルトの大きな瞳が見開かれる。シカマルの口から幼馴染の名前が出てきた事に驚いた。

「あいつだけじゃねえ…お前を探してる。お前は俺の腕ん中に居るのに……なんか霞みてえだ。俺の知らない奴みてえだよ」

 寂しそうなシカマルの口調にナルトが首を振る。自分はここに居る。シカマルが望んでくれるならば、離れたりはしない。この身体が朽ち果てようとも、ずっとシカマルを見守り続ける。陽となり、風となり、雨になり、花になり、大地に溶け込み……ずっとシカマルの傍に居たい。

 この思いを伝えたいのに、どうしても伝える事が出来ない。透明な雫が青い瞳から零れ落ちた。好きで堪らない。こんなに思っているのに、この思いはきっと叶わないものなのに、そうと知っていながらも止める事が出来ない。雨水が山に溜まり濾過されて神の恵みになるように、そんな自然な流れのようにシカマルの事が好きだ。彼を傷つけたくない。彼に惹かれる思いを止める事は出来ない。誰にも、自分を愛してくれる両親にも、大切な友達にも、大好きな教師にも、慈しんでくれた妖狐の里の全ての人も、この気持ちを止める事は出来ない。

「あいつは言ってたぜ?お前は自分の嫁だってな……」

 苦しそうなシカマルの言葉に、ナルトは首を振る。サスケはただの幼馴染だ。小さな頃から交友はあるが、それ以上でもそれ以下でもない。事あるごとに「俺の嫁になれ」と言われていたが、それを本気だとも思った事はないし、ナルトにはサスケに対して特別な感情は抱いていないのだ。まるで兄弟のような関係。

「なんで、隠すんだよ。別に…いいだろ?」

 ナルトはシカマルの着物の袂をぎゅっと握った。その指先は震えている。違うと何度首を振ってもシカマルは自分を見ようとはしない。視線をそらして、瞼を伏せているだけ。身体を揺する勢いでナルトが袂を引っ張ると、ようやくシカマルの視線がナルトに移される。何故か自分を見てくれた事に安堵して笑みを浮かべると、シカマルが苦笑する。

「どうしてだ?お前は…何者なんだ。どうして、俺は何も知らねえんだ」

 急に大きな声を出されて、ナルトの手がそろそろとシカマルから離れた。こんなにきつい視線を向けられるのは、シカマルと会って初めてだった。一歩、二歩とナルトが後ずさる。

「……俺が怖いか?」

 ナルトは何も答えられない。どうして、彼を怒らせて居るのか、その理由も分からない。シカマルの浮かべる嘲笑の意味も分からない。

「それとも、今更サスケに操立てかよ…?」

 何を言っているのか、シカマルの言葉が音として耳に入ってくるだけで、その意味が理解できない。ただ一つ言える事は、シカマルが自分に憎悪の視線を向けていると言う事だけ。

「……っ!」

 シカマルの名前を呼ぼうとして、喉が焼けるように痛みだした。シカマルの手が、ナルトの肩にかかる。食い込む指先にナルトが顔を顰めた。恐る恐るシカマルを見上げると、彼が泣いているように見える。どうしてだろうか。とても苦しそうな顔をしている。そうさせているのは、自分なのだろうか。

 ナルトは乱暴に部屋の中に引きずりこまれる。放り投げるようにされて、身体が畳の上に打ち付けられた。ぼんやりする視界の中で、シカマルがゆっくり近づいてくるのが見える。

 シカマルは無表情のまま、ナルトの着物の帯を解いた。そして、健康的な肌に掌を滑らせる。ナルトは驚愕してシカマルを見上げた。

「お前のこと…教えろよ」

 ぞっとするくらいの冷たい声色。シカマルの唇が首筋に当てられる。きゅっと吸われ、一瞬痛みが走った。そうして、ようやくナルトは自分の置かれた立場を理解したのだった。

 

 

 

 

  

 

 

 

サスケさん登場。

あ〜…えっと、シカマルですが、ただ嫉妬してんですよね。

それにサスケの挑発に乗ってしまったと言うか。

次回は、このままで突入してしまうので赤文字指定になります。

こんな事になるの…?って人は続きを読まないでくださいな。

でも、目指すはハッピーエンドです(*^_^*