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A story of the first love 8
ナルトは先に進む見知らぬ男の後を付いていく。途中まで一緒に、と言うはずだったのに何故か二人で歩いてしまっている。歩幅の違いなのか、男の方が歩くのが早いのだ。ナルトは必死になってその後を追った。そして、暫くすると男の歩みがぴたりと止まる。 「おい、坊主。お前がここに居るって事は、シカマルが知ってるって事だよな?」 男の口からシカマルの名前が出た事で、ナルトは驚いて顔を上げた。 「あ〜…だからな、別に俺はお前を取って食おうとか考えてねえぞ?俺はシカマルの父親でシカクって言うんだ。奈良シカク!」 シカクは人の良さそうな笑みを浮かべる。彼の面影が誰かと重なると思っていたが、緊張していた為にシカマルだと気が付かなかったのである。ナルトはぽかんと口を開いたままシカクを見上げた。 「きれいな青い目ん玉してんな…」 シカクは事あるごとにナルトの頭をぐりぐりと撫ぜてきた。どうしてそうされるのか、ナルトには分からない。
『人間はすっごく怖いんだ。ナルくんなんて、このクナイでぐっさり。それで、食べられちゃうよ?ナルくんみたいにきれいな金色の毛は皮ごと剥がれちゃう。きっとその青い目玉はくりぬかれて……』
ナルトの頭の中に、ミナトの言葉が浮かぶ。恐怖が顔に出ていたのか青ざめる顔色に、シカクは不思議顔でナルトの視線まで顔を近づけてきた。 「どうした?顔色が悪いぞ…」 シカマルと似ているが、やっぱり違う。ナルトは首を振った。どうしたらいいのか分からないのだ。手にした荷物を思わず落としてしまい、慌てて拾う。シカクも動揺しているナルトを見て驚いた様だ。必死になっているナルトの手伝いをしてくれた。 「ここいらはな、奈良の家が所有する土地なんだ。シカマルの許可がなけりゃ、坊主がここに来る事はねえとか思ったんだな。不思議なことじゃねえよ?別にお前がシカマルのダチなら別に構う必要もねえしな」 そっとナルトはシカクを盗み見る。確かにここはシカマルの住む別宅とは目と鼻の先だ。特別な結界があるとシカマルも言っていた。ここに入れるのは、一族の者だけだとも。彼がシカマルの父親である事は確かだろう。だけれど、ナルトがどうしてここに居るのかは、シカクにも説明できない。シカマルにすら弁解できない。 不安な顔で俯いて居ると、シカクが困ったように溜息をついた。二人の間にしばし沈黙が流れる。 「ナルト!」 ナルトは後方からする声に振り向く。そこには息を切らしたシカマルの姿があった。 「坊主の名前はナルトっつうのか。よろしくな」 シカクの言葉におずおずと頷く。シカマルはナルトに駆け寄ると、手にしている荷物を奪う。それから、不満そうな目つきでシカクを見た。 「何の用だよ、親父…」 「久々に会った親父にその態度かよ。シカマルよぅ…全くお前はナルトと違って可愛げがねえなぁ」 「別に親父に可愛いとか思われたくねーよ」 シカマルとシカクの間に火花が散る。ナルトは不安な面持ちで二人を交互に見た。シカマルはそんなナルトに気が付いたのか、口元に笑みを乗せる。 「口は悪いが、俺の親父。素性は怪しくねえし………大丈夫だ」 ナルトの事を変に詮索する事もしないし、ここまでやってきた理由もなんとなく想像が付く。 「おう、シカマル。茶の一杯くらい出るんだろうな?」 「……まあ、いい。こんなとこで立ち話もなんだし。ナルト、お前は奥に居ろよ」 ナルトはこくりと頷いた。シカクの目から見ても、ナルトはシカマルに随分と懐いているように見えた。いきなり山籠りをした息子を引きずってでも連れて帰るつもりで居たのだが、少しは息子にも話し合う余地があるらしい。そそくさと家の中に入って行くナルトの後ろ姿を見つめてから、剣呑な顔つきの息子を見て溜息をついたのだった。
シカマルは父親の前に湯呑を置く。 「ありがとよ」 シカクは美味そうに茶をすすった。むっつりとした顔のシカマルは置いておいて、どうもあのナルトと言う少年の事が気になる。 「お前、命の恩人を探し出すとか言って出てったかと思えば……随分と毛色の違うダチが出来たんだな」 ナルトの事を言われている事はシカマルにも分かった。だけれど、迂闊にナルトの素性について口にする事は出来ない。 「話はそれだけじゃねえんだろ?」 話を切り上げたいシカマルの前に湯呑はない。さっさと茶をすすって、シカクに帰って貰いたいのだ。 「分かってんなら、話は早いな」 「分かっちゃいねえけど?」 襖をコンコンと叩く音が聞こえる。そろりと開いた襖の間から、ナルトが顔を出した。手には盆を持っており、その上には草もちが置かれている。 「ナルト、別に親父は客じゃねえし…気ぃ使わなくてもいいからよ」 ナルトはそんなつもりはないと、にっこりと笑う。自分の持っていた荷物を肩代わりしてくれたのだし、何よりもシカマルの親なのだから。 「シカマル…いい加減に里に戻れ。命の恩人だがなんだか、お前の幻に過ぎん。お前にはちゃんとした婚約者もいるだろうが。夢みたいな事言ってねえで、早く祝言をあげろ」 シカクの言葉にナルトがぴくりと反応した。そして、じっとシカマルを見つめた。彼は渋い顔つきをして、ナルトから盆を受け取ってナルトと視線を合わせようとはしない。 「親父が帰ったら、メシだメシ。それまでは、奥で待っててくれ」 シカマルの声色は優しい。ナルトは頷くと、襖を閉めた。一人になった廊下でナルトは立ちつくす。 『祝言……って結婚するって事だってばよ?シカマルの父ちゃんは、シカマルに婚約者がいるって言ってた。それって………シカマルは山を降りたら誰かと結婚しちまうって事…?』 ナルトは心臓の鼓動がどくどく言うのを感じる。身体全体が心臓になったみたいに、鼓動がうるさい。ぐるぐると頭の中を回るシカクの言葉が、ナルトを現実に引き戻した。 ナルトの頬を、透明な雫が流れた。ナルトはそっと頬に指先を当てる。指についた液体を見て、初めて自分が泣いている事に気が付いた。 結婚とは、たった一人の大好きな人と、ずっと一緒にいる約束。クシナの言葉を思い出して、心が切り裂かれるみたいに痛い。与えられた奥の部屋に戻ると、ナルトはへなへなと座り込む。 こんなに苦しくなる程にシカマルの事が好きだ。彼に決まった相手が居るとしても、この気持ちは変わらない。それどころか、彼の違った一面を見る度に、彼に惹かれる。 クシナは言っていた。自然と心が惹かれてしまうと。ナルトはシカマルに惹かれて、ここに居る。だけれど、シカマルは違う。大蛇丸の言葉が、急に頭に響いてきた。シカマルの愛を得られない時は、ナルトの中の妖狐の力を貰うと言っていた。ナルトに与えられた僅かな時間の中で、知らない内に進んでいく大蛇丸のゲーム。ナルトは思う。シカマルに婚約者が居るという時点で、ゲームオーバーだ。 いつの間にか薄暗くなっていた部屋の格子から、細くなった月を見上げた。それでも、あの月がこの空から姿を消すまでは、シカマルと共に過ごす事が出来る。ナルトは涙を拭った。この身体が朽ち果てる事になったとしても、その残された僅かな時間を少しでもシカマルと一緒に居たい。 初めてナルトが自分の思いの重さに気が付いた瞬間であった。
「祝言とか…婚約者とか……酒の席でした賭けなんかに子供をダシに使うのはどうかと思うぜ?」 「別に、きっかけなんてどうでも良いって事だな。まだお前も十六だし、すぐに祝言を上げろとは言ってねえ。とにかく、結納だけでも済ませて…」 シカマルはその科白に鼻で笑う。バカバカしくて聞いているのも嫌になる。 「お前が見たお姫さんは見つかりそうにもねえみてえだしな?」 シカマルが僅かに反応した。シカクの科白にカカシの話を思い出す。自分を助けてくれた少女だと思っていた恩人が、ナルトだと言う事。ぎろりとシカクを睨みつけた。 「なんだ、おめえのその顔は……まさか、本当に見つけたって言うのか?あんな話、狐につままれたぐれえの話だろう。そんな事をお前が信じるなんて、こっちも驚きだ」 驚いているのはシカマルも同様だ。まだ心の整理もできていない。シカマルは力なく息を吐いた。これはシカクにも話す事は出来ない。シカマルにすら全貌は分かっていないのだ。 「親父……とにかく、近いうちに里には顔を出す」 「折角会った父親に帰れとは、やっぱりお前は可愛げねえなぁ」 シカクは声を出して笑う。 「俺には俺の考えがある……結婚とか、本気で考えられねえし。俺はやっぱ自分で決めた事しかできねえ性質なんだよ」 「全く…お前は小さい頃から雲みてえに掴みどころがなくて、のらりくらりとやる気があんだかねえんだかも分からねえ。親としてはお膳立てしてやらなきゃいけねえみたいな気分になる」 シカマルはむっと唇をしかめた。 「子供だって日々成長してんだよ!」 シカクは皿の上の草もちを口の中に放り込んだ。嫌な甘さもなくヨモギの香りが口の中に広がる。 「さ、うるせえ親父はさっさと退散するか!」 シカクが腰を上げると、シカマルはほっとしたような顔つきになった。それを見て、シカクはふっと笑う。最近はまともに会話をした事もなかった。手のかからない子供だったとシカクは記憶している。それが、意地みたいにこんな山奥に籠るにはそれなりの理由があるのだろう。シカマルが言っていたように、祝言だの婚約者などは口約束みたいなものでしかなく、シカマルを連れ戻す口上の一つだった。 煩い父親の背中を見つめたシカマルは、大人しく返ってくれた事に安堵した。そして、ナルトの事を思い出す。人目につかない方がいいと思い、部屋で待っているように言ったのだが。 ナルトに与えた部屋の襖をそっと開く。中は蝋燭も点けられていない。薄暗い空間の中で、切り取ったようにそこだけが月明かりに照らされたように見える。ナルトは格子に肘を付きながら、じっと天を見つめていた。その背中が少しだけ頼りなく見える。 「ナルト…?」 声をかけようかどうか迷って名前を呼ぶと、ナルトがゆっくりと振り返る。シカマルの事を確認すると、彼はにっこりと笑った。その笑顔はいつも見る太陽みたいな笑顔ではなく、どこか寂しげな笑みに見える。 「腹減っただろう?メシにしようぜ…メシ食ったら少し散歩にでも出ねえか?」 ナルトは自分の腹に手を当てると、うんと頷いた。シカマルの中にある少女の記憶は曖昧なものでしかない。それが、全てナルトに重なる。ナルトはどこか憎めない性格をしている。喜怒哀楽がはっきりしているので、その感情の起伏が分かりやすい。首を傾げる仕草や、太陽のような笑みを見せるナルト。 食事の間もシカマルは知らない内に視線でナルトを追っていた。ナルトは静かな食事の時間に少しだけ不思議な気持ちで居る。ナルトは一緒に居られる時間は全部楽しい気持ちで過ごしたいと思っている。それなのに、シカマルはたまに自分の顔を見て溜息をついたりするのだ。もしかしたら、シカクが訪ねてきたことにも原因があるのかもしれない。いつ山を降りるのだろう。いつ、里に帰ってしまうのだろう。考えるとナルトも箸が進まない。シカマルも何かを考え込んでいるのか、時々その動きが止まる。椀に盛られた物だけ腹の中に収めると、ナルトは手を合わせる。今日は食欲も余りない。 「ん…?ナルトもういいのか」 ナルトは首を縦に振る。すると、シカマルも箸を置いた。 「俺も、さっき草もち食っただろ?なんか、それで腹が膨れてるみてえだわ」 元気がなさそうに見えるシカマルの手を取る。そして、出口を指差した。ナルトは一緒に散歩に出かけようと言われた事を思い出したのだ。シカマルは合点が言った様に頷くと、提燈の用意をする。いくらシカマルが山道に詳しいと言っても、灯りなしでは心もとない。 ナルトは急に視界に飛び込んできた闇色に恐怖を覚えていた。そっとシカマルの着物の袖を掴む。妖であった時には夜目もきいていたので、暗闇が怖いと感じた事はなかった。ナルトにとって、視界のきかない空間を歩くと言うのは初めての体験である。暫く歩くと、少し開いた場所に出た。 ナルトは目を凝らしてその場所を見る。ここには見覚えがあった。初めてシカマルと出会った場所なのだ。シカマルが崖から落ちたのをナルトが助けた場所。 ナルトがシカマルから離れてそろそろと崖に近づく。 「ナルト、ここは谷からの風が強い…!そんなに近寄んな」 シカマルの声にナルトが振り向くのと、強い風が吹いたのは同時だった。ナルトの身体がぐらりと風に煽られる。ナルトの中に湧き上がる一瞬の既視感。思わずナルトは手を伸ばす。視界には驚いた様なシカマルも手を伸ばしてくれていた。ナルトは泣きたいくらいの気持ちになる。どうしてこんなに切ないのか理由は分からない。 「バカ!落ちるとこだったろうが……」 ナルトはシカマルの腕の中にいた。温かいその胸にナルトの心臓がどくどくと脈打つ。あの夜もこうやって彼の腕の中に居られる事が出来たなら、どんなに幸せだっただろうか。ぎゅっと抱きしめられて、呆然としてしまった。それから、シカマルの胸に額を寄せる。 やっぱり、シカマルの事が好きなのだ。考えると幸せすぎて涙が出てしまうくらいに切ない。そっと、シカマルがナルトから離れる。それから、ナルトの顔を覗きこんだ。 「ンだよ…泣くな」 ナルトはこくりと頷く。怖くて泣いているのではない。シカマルを思うと勝手に涙が溢れて来たのだ。彼の温もりを感じて、自分の心の中にある深い感情を改めて知った。ナルトが濡れた瞳でシカマルを見つめると、彼は優しい笑みを返してくれる。そして、ゆっくりとシカマルの顔が近付いてきた。 「おい、こうゆう時は……目、瞑るもんだぜ?」 ナルトの唇に重なる、温かい感触。それがシカマルの唇だと感じた時、驚き過ぎてナルトは目を見開いていた。唇の隙間から侵入する舌にナルトがびくりと反応する。シカマルの腕が再びナルトを抱き寄せた。ナルトはそこでそっと瞳を閉じる。 これが夢でも構わない。これが、シカマルの気まぐれでも構わない。初めての口づけにうっとりとしながら、ナルトもシカマルの背中に腕を回した。
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ナルトとシカマルは両想いなんだよな〜
でも、次回からの展開はちと痛いです(-“-)
予定ではサスケ登場の予定。
だから、展開が痛くなるんですが……(>_<)