|
A story of the first love 10
両手を頭の上で束ねられ、シカマルの片手で拘束された。ナルトはただただ驚いて、シカマルを見つめる。 『なんでだよ…?シカマル、訳わかんねえってば』 ナルトの心の声もシカマルに届く事はない。嫌々をするように暴れるナルトが、シカマルの加虐心を煽るだけだ。抵抗しようにもシカマルによって組み伏せされた身体はびくともしなかった。遠慮なく身体を這うシカマルの掌。ぎゅっと目を瞑ると、シカマルがふっと笑う気配を感じた。 「…見てなくていいのかよ?」 その声もやっぱり冷たい響きを持っていて、ナルトは心を切り裂かれるように悲しい気持ちになる。強引に足を割られ、あられもない格好をさせられて羞恥した。これから何をされるのか、疎いナルトにも分かる。それは愛し合う者同士の間で行われる行為。 だけれど、今のシカマルとナルトの間には存在していない感情だ。 ナルトはかたかたと震える。怖い、怖くて堪らない。シカマルにぶつけられる感情が、怖い。シカマルは行灯の中から油を掬うと自分の指に絡ませる。そして、ナルトの秘所に突き入れた。びくりと反応するナルトの身体が一瞬跳ねる。最初の一本目はすんなりと受け入れた。それを感じたシカマルは遠慮なく二本目も侵入させる。シカマルの侵入を拒否するかのようなナルトの内壁を犯すように指を進めた。 ナルトは虚ろな目でシカマルを見つめる。だが、視界が歪んではっきりと彼の表情を見る事は出来ない。自分の中に入ってきた指が、中を掻きまわすように動いた。それに微塵の優しさも愛情も感じられない。初めて口づけを交わした時のような気持ちはどこにもなかった。 『嫌だ、嫌だ…!助けて……嫌だ、こんなの絶対にやだってばよ』 ナルトの瞳からは止めどなく涙が溢れた。 『…父ちゃん、母ちゃんっ……エロ仙人、カカシ先生。なんでこんな風になっちまったんだってばよ?』 シカマルは、自分の事を教えろと言った。それがどんな意味を持つ言葉なのか分からない。ただ乱暴に身体をこじ開けられる恐怖に震えるしかない。 サスケが自分を探しているのだとシカマルは言った。ナルトが知らない内に、シカマルがサスケに会ったと言う事になる。サスケは口癖のようにナルトに「俺の嫁にしてやる」と言ってきたが、それを相手にした事はない。どうして、その事がシカマルを怒らせているのかも理解できなかった。 『バカサスケ!一勝恨んでやるってばっ』 シカマルの動きが止まる。ナルトははぁはぁと息を付きながら、瞬きを繰り返してから瞼を下ろす。 「あいつを……呼んでんのか?」 ナルトは驚いたようにシカマルを見た。自分の声はシカマルに届いているのだろうか。彼はまた嘲笑うかのような笑みを作った。 「俺にこんな事されながら、サスケの名前呼んでんのか…?」 『違う…シカマル。違うってばよ』 ナルトは否定する意味で首を振る。 「そんなに……あいつに対して遠慮してんのかよ」 呟く様な科白にナルトは必死に首を振る。サスケは関係ない。この部屋に居るのは二人だけだと言うのに、どうして関係ないサスケの名前が出てくるのか。ナルトは沈痛な思いでシカマルの言葉を否定する。シカマルは自分を見てはくれない。それが悲しくて堪らないのに、この気持ちが通じる事もなかった。シカマルは指を抜くと、自分の熱い下腹部をナルトの秘所にあてがう。 めりめりと肉を引き裂くように自分の中に入ってくる熱塊が与える激痛に、ナルトは身体の筋肉を硬直させた。今まで感じた事のない痛みが手の先から足の先まで、全てを埋め尽くす。シカマルの所作には、いつもの彼の優しさが感じられない。ひどく一方的でかつ暴力的だった。 身体を揺すられ、その度にどこからともなくやってくる苦痛がナルトを責める。ぽろぽろと溢れた涙が、冷たい畳に吸い込まれていった。
ナルトは意識を失い、あてがわれた部屋の布団の上で眠っていた。ふっと瞼を開けると、最近では見慣れた天井のしみが目に入る。少し動かした身体に、激痛が走った。シカマルとの行為が夢や幻でない事をナルトに教えてくれる。掛け布団を擦りあげると、ナルトは顔を覆って静かに涙を零した。 別にシカマルに抱かれた事が嫌なのではない。彼の気持ちが見えない事が悲しいのだ。こんなにシカマルの事を好きなのに、伝わらない思いが歯痒い。どうすれば、彼に自分の気持ちを伝える事ができるのだろう。どうすれば、彼の気持ちを理解する事が出来るのだろう。シカマルが悲しい思いをしているのなら、自分がそれを全て払拭してやりたい。辛い思いをしているのなら、自分が全て請け負ってやりたい。シカマルが幸せになれるのなら、自分は何だってできる。どんな苦痛にも耐える事が出来る。ナルトはやっぱりシカマルに惹かれて求めてしまうのだ。 薄暗い部屋の雰囲気から、夜が近い事を知らせてくれる。ナルトがぼうっとしていると、部屋の襖が開いてシカマルが入って来た。 「メシ……食えるか?」 シカマルの手に盆が持たれている事を見たナルトは、首を軽く左右に振る。食欲なんてわいてきそうにもないのである。シカマルは「そうか…」と呟いて、ナルトの近くに盆を置いた。 「食えるようになったら、食えよ」 ナルトはただ頷く事しか出来ない。今でも身体を動かそうとするときついのだ。弱々しいナルトを見て、シカマルが傷ついたような表情になる。ナルトの知っている優しい手が、頭に乗せられた。軽く一撫ぜされてじっとシカマルを見つめてしまう。言葉はなくてもシカマルの優しさが掌から伝わってくるような気がしていた。ナルトはそれが自分の勝手な思い込みでなければいいと心底思った。
シカマルはナルトの辛そうな表情を見た時、心が切り裂かれるようになる。優しくしたいと思うのに、反対にひどい行為でナルトを傷つけた。彼は一人で泣いていたのだ。自分にはその涙を拭う資格がないような気がして、後悔の念ばかりが残る。だが、その感情の奥底には、自分だけを見るナルトに優越感を感じてしまっている己が居た。弱者であるナルトを力だけで押さえつけた。乱暴に抱いた後、意識を失くしくったりとしたナルトを見て、冷たいものが背中を伝った事を思い出す。なぜか、行為に抵抗している事が自分を否定されているような気持ちになったのだ。暴力でしか自分の気持ちを表現できない事が腹立たしく思える。だけれど、それも今となっては言い訳でしかない。どす黒い感情が鎌首をもたげて、心をぎゅっと締めつけてくる。その度に溢れる感情は醜い嫉妬心である。シカマルは暗い廊下で、両手をじっと見つめた。 ナルトが自分を助けてくれた存在だと知り、嬉しかった。あの夜から、一目でもいいから再び会いたいと思った。谷底に落ちていくナルトが自分に対して笑った、その笑顔が忘れられなかったのだ。 「くそっ…」 拳を壁にぶつける。その痛みはナルトが受けた傷に比べられないものだろう。誰も頼る事のできない世界で、唯一頼みの綱であったはずの自分が、ナルトの気持ちを裏切ったのだ。凌辱という暴力で、精神的にも肉体的にも追い詰めナルトの声に耳を傾ける余地も心の中にはなかった。ただ、自分の気持ちを満足させる為に、ナルトを傷つけた。 それでも、サスケの言葉がシカマルの中に残る。ナルトは自分のものだと言った彼の挑戦的な瞳が忘れられない。シカマルは自分自身の気持ちすら分からなくなっていた。ナルトに対してどうしたいのか、自分がどうすればいいのか、全てを見失ってしまったのだ。きっとナルトはもう自分に対して笑ってくれない。あんなに酷い事をしておいて、それを彼に望むのは自分のエゴでしかない。それだけが自分でも分かるただ一つの事だ。もう、戻れないのだ。 一緒に笑ったあの日も、口づけを交わしたあの時間も、全てを壊した。自分の手で。 シカマルは鼻の頭が熱くなるのを感じる。溢れてくるものは、自責の念に駆られる心が傷ついて流す透明な血液だった。
朝日が差し込んで部屋がだんだん明るくなってくるのを、ナルトは布団の中からじっと見つめていた。身体が熱っぽいのと、意識が張り付めていた為眠れなかったのだ。布団の横にはシカマルの置いて行ってくれた盆があるが、手をつける気にもなれなかった。 『……どうしたら、いいんだってばよ?』 ナルトはぼうっとする頭でずっと考えていた。シカマルに自分の気持ちを伝えたい。どうしてシカマルに会いに来たのか、最初はただ会いたい一心だった。一緒に暮らす内に、シカマルの色々な一面を見て、どんどん彼に惹かれて行った。クシナが言っていたように、とても自然にシカマルという存在に惹かれたのである。理由はない。きっと、この思いに理由なんて最初から存在しないのだ。 ナルトはようやく訪れた眠気にそっと瞼を閉じる。次に目を開ける時には、シカマルがまた笑ってくれればいい。ナルトが望むのは、シカマルの幸せだけなのだから。 ナルトは夢を見ていた。誰かが自分を呼んでいる。それは母の声にも父の声にも聞こえる。優しい優しい声だ。誰かに抱きしめられている様な温かな感触が自分を包む。瞬間、それを引き裂くような音が聞こえる。地響きにも似て、ナルトの意識の中に侵食してくる。襲ってくるのは身体の感じる苦痛と、心が感じる悲しみ。
< あなたがその青年の愛を得る事が出来るのなら、あなたは完全な人間になれる。だけれど、その愛を得られなかった時は……あなたの中に眠っている妖狐の力を頂くわ >
ぞっとするような声に、ナルトは目を開ける。最初に視界に入ってきたのは暗闇。それに目が慣れるまで、浅い息を繰り返す。
< 賭けをしましょう……その人間があなたを選ぶのなら、私は二度とあなたに近づくことはしない。だけれど、あなたが彼の愛を得られなかった時は、その身体は朽ちてあなたの中に眠る力は私のもの…… >
< ―――― ゲームにはタイムリミットがないと楽しくないでしょう?時間は次の新月まで…… >
大蛇丸の声がナルトの頭に浮かんでくる。前に月を見た時、随分と欠けていた。今はどうなんだろうか。気が気でなく、ナルトは身体を起こそうとした。頭を鈍器で殴られたような痛みが響く。くっと唇を噛みしめて、ゆっくりと上体を両腕で支える。その時、額に乗せられていたであろう手拭いがパサリと落ちる。ナルトは不思議な気持ちでそれを見つめた。この家に居るのは、自分とシカマルだけ。濡れた手拭いを額に当ててくれたのはシカマルだと言う事になる。 『シカマル……?』 ナルトはその手拭いをぎゅっと握りしめる。自分が眠ってしまってから、彼はこの部屋にきてくれたのだろうか。その気持ちが素直に嬉しい。もう部屋は薄暗い。ナルトは身体を引きずるようにして、障子戸に近寄る。それをそっと開けて、格子の向こうの夜空を見つめた。 ナルトの見た月は、細い。右半分がほとんど欠けて、新月が近い事をナルトに教えてくれる。もう、月の光はここには届かない。ナルトは悲しい気分になった。 シカマルと分かりあえないまま、この身が朽ちる事だけが悔しい。命が無くなる事が悲しいのではない。シカマルに自分の気持ちを誤解されたまま離れてしまう事が悲しいのだ。俯いていると、庭先がぽうっと光るのが目に入る。ナルトは何かの見間違いなのかと首を傾げた。そうしていると、小石が格子にあたりカツンと鳴る。 『…誰か、いる?でも、シカマルは結界があるって言ってたのに……』 もう一度、コツンと小石が当たる。不思議な気持ちで、庭に通じる障子を開いた。まだ身体は怠いがなんとか動けそうだ。いつも履いている草履を引っかけて、よろよろとその光に近づいた。妖の頃と違い夜目がきかないので、その歩みは恐る恐るといった風だ。大きな木に近づいた所で、誰かに身体を引っ張られる。いきなりの事にナルトは、腰の痛みを感じ顔を歪めた。 「この……ウスラトンカチ!」 聞きなれた科白。抱きしめてくる腕は温かい。 『サスケ……?なんで?』 サスケはナルトの顔を覗きこむように身体を離す。 『話は全部聞いた。あの眼鏡野郎と、大蛇丸って奴にな…』 カブトと会話をした時と同様、サスケの声が直接頭に響いてきた。サスケの顔色が悪く見えるのはこの暗闇の所為だろうか。 『お前はなんでいつも後先考えないんだ?人間なんて低俗動物に……』 『……全部、聞いたのかよ?』 『聞いたから、ここに居るんだよ』 ナルトは瞼を伏せる。それから視線をサスケに移した。 『父ちゃんは……知ってるんだってば?』 『大蛇丸との約束で口外しないことになってる。いいか、お前は妖狐に戻るんだ。そして、里に連れて帰る』 ナルトは否定する意味で首を振る。新月までにシカマルの愛を得られなければ、自分の身は朽ち果てる。そして、妖狐の力を大蛇丸に差し出す事になっている。それは無理な話だ。 『戻りたくないのか?』 『…………分かんねえってばよ』 『ホントに、お前はどこまで行ってもウスラトンカチだな。大人しく俺の嫁になってりゃいいんだよ』 ナルトをぎゅっと抱きしめたサスケの身体から力が抜ける。倒れそうになったサスケを受け止めたのはカブトだった。 「やあ、調子は……あんまりいいとは言えないみたいだね?」 『カブトの兄ちゃん…?』 カブトはサスケの身体を抱えなおす。 「この子、君を助けたいんだってさ。こんな身体をしてまで、君に会いたいって聞かなかった。しょうがなく連れてきたんだけどね、僕にもあまりここに居る時間はないんだ」 カブトは懐から、和紙に包まれたものをナルトの目の前に差し出す。ナルトは何の気なしにそれを受け取った。ずっしりとした重みのある物。そっと包みを開けると、一本のクナイがあった。 「ナルトくん…妖狐に戻りたいなら、そのクナイであの少年の心臓を一突きすればいい。君はその血を浴びる事で、妖狐に戻る事ができる」 カブトの言葉を聞いたナルトは首を振って、クナイをカブトに差し出す。 「できないと…言うのかい?」 こくりと頷いた。カブトはくすくす笑うと、ナルトの着物の袂をすっと指で開いた。その肌に残る情交の痕跡を見て、驚いたように目を丸くした。 「なんだ。上手くいってないと思ったけど、やることはきっちりやっちゃってるんだ?でも、君が妖の力を手に入れていないと言う事は……身体だけの関係って事なのかな?それにしても、あの坊やは君の体に随分御執心と見える。こんなに痕を残すくらいなんだからね?」 ナルトは唇を噛みしめて、暗い地面を睨みつけた。 「大蛇丸様の言葉を覚えているかい?何かをするにはそれなりの代償が必要だと……彼がこのクナイを貰う条件は何だったと思う?」 カブトの言葉にナルトは顔を上げる。 「ほら、サスケくんをよく見てみなよ。これじゃ出血多量で死んでしまうかもしれないね?ゆっくり休む事をすすめたんだけどさ、僕は。 直接ナルトくんに会うって聞かないんだ。しょうがない子だよ」 ナルトは自分の着物を指でなぞる。指先には血液と思われる液体がべったりと付いた。サスケに抱きしめられた時についたものだろう。 「このクナイの代償は、八岐大蛇の七色の鱗。サスケくんは、痛いとも苦しいとも一言も言わなかった。一枚一枚その鱗を剥がされるというのに……分かるかい?生きているままで生皮を剥がされる様な激痛を伴う。彼は君を助ける為に、それに耐えたんだ。君が感じている重みは、サスケくんの愛情の重みなんだよ?僕としては、君が妖狐に戻り元の生活に戻る事に反対はしない。寧ろ……サスケくんを見ていると、そうあってほしいとすら思えてしまうよ」 カブトはそう言うと、ナルトの前から姿を消した。ナルトはクナイをじっと見つめる。サスケが命に代えても手に入れてくれた、一つの選択肢。 へたりとその場に座り込んだナルトの瞳から、新しい涙が一滴零れた。
|
どんだけ苦しいの!っていう状態のRUIです…
涙出そうになりました。話は進まないし。
シカマルとナルトの気持ちを交互に入れたので…
話として分かっていただけるか、心配です。
雰囲気で読んでいただけると嬉しいです。
ラスト近し!