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A story of the first love 5
身体中が痛い。どこからともなくやってくる何かに息苦しくなる。ナルトは思わず手を伸ばした。この苦しみから解放されたくて、理由もなく手を伸ばす。どうしてこんなにも痛くて苦しいのか、混乱した頭の中では考える事もできない。生まれて初めて体験する苦痛に、身体が震えた。 その伸ばした手を誰かに握られる。指先から伝わってくる温もりに心から安堵した。誰でもいいから、この苦しみから救ってほしい。そんな風に思っていると、額に冷たい何かが当てられる。その感触が気持ち良くてナルトは薄っすらと目を開けた。視界に入って来た天井に見覚えはない。 「大丈夫か…?」 心配するような声色に、ナルトは顔を上げた。 「どこか痛むなら言えよ?」 そして、視界に入ったその人物に瞳を大きくする。会いたいと願った青年が目の前にいる。ナルトは混乱して、きょろきょろと辺りを見渡す。それから、自分の手を握っていてくれたのは、目の前の青年だと言う事に気が付いた。 「……っ」 声を出そうとして、喉が焼けるような痛みを感じる。その時、初めてナルトは大蛇丸の事を思い出した。彼との賭けの話も思い出す。まず最初に奪われたのは声。ナルトは熱いものがこみ上げてくるのを感じた。どうしてか、悔しい。目尻からぽろりと零れた雫に、自分を覗きこんでいた青年の顔が曇る。 「おい…苦しいのか?どうした?」 ナルトは弱々しく首を振る。不思議と身体の痛みは消えている。声を出そうとすると喉が焼けるような感覚はあるが、耐えられないような鈍痛は身体からひいていた。 「お前、すげえ熱出して俺んちの前に倒れてたんだ。覚えてるか?」 ナルトの記憶があるのは、大蛇丸とカブトがいたあの洞窟までだ。ナルトが否定する意味で首を振ると、その青年は息をついた。 「……覚えて、ないのか?」 こくりと頷くと、彼は困ったように笑みを浮かべた。ナルトはそんな彼をじっと見つめる。もう一度会いたいと思っていた人が目の前に居る。それだけで、胸の鼓動が激しくなった。 「この辺りじゃ見ねえ顔だな…」 呟くような青年の科白にナルトはびくりとする。それに、ここがどこであるのかも分からない。話せないのだから、自分のおかれた状況を説明する事もできなかった。 どうしようかと迷っていると、青年の手がナルトの頭をくしゃりと撫ぜた。 「そんな困った顔すんじゃねえよ。お前がどんな理由で倒れてたのかは知らねえけどよ…別に追い出すつもりもねえから安心しろ。それに、ここは俺んちの山にある別宅みたいなもんだから、他に気を使う必要もねえよ。それに今は、俺以外誰も居ねえから…」 ナルトは瞬きを繰り返した後、もう一度頷いた。それを見ていた青年が訝しげな表情に変わる。 「お前……もしかして、口がきけねえのか?」 ナルトは瞼を伏せた。ここはまだ森の中らしい事は分かる。それならば、こんな場所に居る自分は随分と怪しい存在だ。しかも、口もきけない。言い訳すら出来ないのだ。不安が顔に出ていたのだろうか、青年がにっこりと笑った。 「だから、そんな顔すんなって!俺の名前は、奈良シカマル。怪しい奴じゃねえから、安心しろ」 ナルトは握っていた手にぎゅっと力を入れてしまう。そして、シカマルの笑みに、ナルトも自然と笑顔になる。その顔を見たシカマルは、はっとしたようにナルトの顔を覗きこんだ。 「…お前さ、姉ちゃんとか妹とか居るか?」 ナルトは首を傾げてから、首を左右に振る。自分は一人っ子で姉も妹もいない。ナルトの否定にシカマルは苦笑した。 「変な事聞いたな…悪りぃ」 申し訳なさそうな声に、ぶんぶんと首を振るとシカマルはぷっと吹き出した。笑われたナルトは、どうして彼が笑っているのか皆目見当もつかなかった。 「お前、なんか一生懸命つうか…憎めねえってゆうか。面白い奴だな?」 褒められているのかどうか謎な科白だが、悪くは見られていない事に素直にほっとしてしまう。分かりやすいナルトの表情にシカマルも一安心したようだ。一瞬、言葉が無くなった空間に鈴のような音が聞こえる。シカマルはすっと立ち上がると、眉をひそめた。その変化にナルトも緊張してしまう。あまりにもシカマルの顔が真剣なものだったからだ。シカマルはちっと舌を鳴らすと、ナルトに背中を向けた。
不思議な事は重なるものだと、シカマルは思う。夜中に物音がして、外を見れば知らない少年が倒れていた。それもかなりの高熱にうなされていたのである。慌てて家の中に入れ、薬を飲ませたが彼の熱は一晩引く事はなく、ずっと唸っていた。本来ならば、自分の家の前に彼が倒れていた事も不思議なのだ。ここ辺り一帯は奈良家の所有する土地であり、余所者は入ってくる事は皆無に近い。 「なんだってんだよ……」 先程の鈴の音は、建物の近くに侵入者が居る事を知らせるものだ。自分の家の者ならば、そんな簡単な結界術を見きれないはずはない。それに、迂闊に入れるような場所でもない。そう思いながら土間に立つと、扉を叩く音が聞こえた。シカマルは唾を飲み込むと、ガラリと扉を開ける。 「……誰だ」 扉の向こうには、二人の見かけない男の姿がある。きっちりとした身なりは、山賊や盗賊の類でないものをシカマルに知らせる情報となった。 「朝早くから申し訳ありません」 男は深々と頭を下げる。 「ンな事は関係ねえよ。それより、ここいら一帯が奈良家の土地だって分かってここに来てんのか?里長か、族長の許可がなけりゃ立ち入れない場所なんだよ」 男たちは顔を見合わせた。着物の袂から、書状を取り出すとシカマルに見せる。シカマルはそれを確認した。それは、訪問者の素性を知らせるもので確かに怪しい者ではないらしい。 「それで…一体、何の用なんすかね?」 「はい。昨夜、私共の主人のご子息が行方知れずになりまして……」 「探してるって事ですか?」 「はい」 シカマルは考えるように押し黙った。昨夜と言えば、奥に寝かせている少年が現れたのと一致する。 「行方知れず…?」 探るようなシカマルの声色に男たちの顔色が変わった。 「年の頃はあなた様と同じくらいで、金色の長い御髪と青い瞳でございます。心当たりはありませんか…?」 「…俺もついこの間からここに来てる。元々は、年に数回この屋敷に来るだけで人は立ち入らねえ場所なんすよね。余所者が来たなら、一発で分かりますよ」 シカマルの半ば呆れたような口調に、男の一人が溜息をついた。 「ご子息って……男って事っすか?」 「……? はぁ…ええ、そうです」 「心には留めておきますよ。俺も暫くはここに居るつもりなんで」 シカマルの言葉に、二人は頭を下げる。肩を落として背中を向けた男たちに、シカマルは思いついたかのように声をかけた。 「それで、名前はなんて言うんですかね?」 男たちは口を閉ざしたまま振り返り、それから互いに顔を見合わせた。そして、何か考えたようにして重い口を開いたのである。 「名は、ナルト様とおっしゃいます。性は……申し訳ありませんが」 どこぞの大名の子供なのだろうか。里長の印のついた書状を持っているのだから、それなりの階級の人間なのかもしれない。容易く性を口にしない事が、これが内密な捜査である事を示しているようだった。シカマルは、じっと去って行く男の背中を見つめる。門頭の松を抜け、その背中が視界から消えるまで見送ると、そっと扉を閉める。 深い溜息をつきながら奥へ通じる襖を開くと、暗い廊下に蹲る人影を見つけた。 「おい…お前、どうしたんだよ?まだ熱があるんだから、大人しくしてろ」 シカマルが声をかけると、少年がそっと顔を上げる。蒼白した顔色にシカマルが目を細めて彼を見つめた。 「お前の名前……ナルトって言うのか?」 彼は答えない。話す事が出来ないのだから、返事もできないのだろう。先程見た無邪気な顔つきはどこかに消えてしまって、不安そうな瞳で見つめてくる。その瞳は、空の色と同じ澄んだ青。 「ビンゴ…だな?」 ナルトはそっと頷いた。それから膝を抱いて、ぎゅっと縮こまる。シカマルはその金色の頭を撫ぜてやった。 「なんか訳があって、家を出たんだろ?俺はわざわざそれを詮索するような、めんどくせーことはしねえよ。お前を探してた男たちは、一応帰った。もちろん、お前の事も言ってねえから安心しろ。それなりの理由があってした事なんだろ?とりあえず、落ち着くまではここにいろよ。追い出したりしねえし」 驚いたように見開かれた青い瞳がシカマルを捉える。それは、シカマルに数日前の事を思い出させた。山に入って、急な雷雨に襲われた所を誰かに助けられたのだ。それが誰なのかシカマルは知らない。痛みの中で覚えているのは、長い金色の髪だけ。薄っすらとした記憶の中にある姿は、緋色の内掛けを来た少女の面影。もちろん、自分の周りの者は誰もそんな事を信じなかったのである。狐にでも化かされたのだろうと笑い話にされた。だけれど、シカマルはそんな事で納得できずこの屋敷にやって来たのだ。自分の願望が見せた幻覚なのか、それとも思い違いなのか。それすらも不確かである。傷ついたはずの身体の怪我はどこにもなかった。だけれど、着物についた血は確かに自分のものだったはずなのだ。 「帰りたくなったら、帰りゃいいしよ。……気にすんな。何するにも、健康第一ってことだよ。元気になってから、これからの事は考えりゃいいじゃねえか。な?…ナルト」 シカマルはナルトの腕をとって立たせる。ぐらりと傾いた身体を脇から抱きかかえた。昨夜も思った事なのだが、随分と細い。華奢な訳ではないのに、どこか庇護欲をかきたてられるのだ。シカマルの顔をじっと見つめたナルトが、頷く。きっと、それなりの理由があるのだ。シカマルは自分に言い聞かせる。それに、彼ならば自分が見たあの少女の事を知っているかもしれない、そんな望みもあった。シカマルはまだ熱い身体を支えながら、短く揃えられた金色の項を見つめた。
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とりあえず、自己紹介終わり!って感じです。
さくさくと続くと思いますが…
やっぱり、ナルトが口をきけないってのは大変ですね〜
次回は、ちょっと元気なナルトが書けるといいなぁ。