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A story of the first love 3
ナルトはぼうっとしながら膝を抱えて座っていた。それから何の気なしに、部屋の窓の格子に肘をついて、外を見つめる。成人の儀は、一応は終わったのである。多少のアクシデントもあったのだが、窮地をカカシに助けられて妖狐の里へ帰ってくる事も出来た。 はあっと重い溜息をつくと、格子の向こうから良く知った顔が現れる。 「ナ〜ルト!どうしたの?そんなに暗い顔しちゃって」 「カカシ先生…」 ナルトは久々に見る教育係の顔に、笑みを浮かべた。それから、申し訳なそうに瞼を伏せる。 「えっと、この前は…ありがとだってばよ。カカシ先生が居なかったら…オレ……」 力を使いはたして暗い谷底に吸い込まれるだけだっただろう。それを助けてくれたのは、このカカシだ。 「なに〜…まだ落ち込んでるの?それとも、四代目からきつくお叱りを受けた?」 ナルトは首を振る。意外な事に、ミナトから叱責されることはなかった。嵐が来た時に、すぐに帰って来なかった判断については叱られたのだが、彼はナルトがどうしてチャクラを使い切ったのかを知らなかったのだ。 「カカシ先生はずっとオレを見てたってばよ?」 「うん?…どうして?」 「だって…父ちゃんは、オレがチャクラを使い切った理由とか知らなかった。それって、カカシ先生が父ちゃんには言わなかったって事だってば」 カカシは少し困ったような笑みを唇に浮かべた。 「……そう言えば、この間の急な嵐の原因が分かったみたいなんだよね。ナルトは知ってる?」 話の矛先を変えたくて、カカシは思いついたように口にする。顔を上げたナルトは首を傾げた。 「原因って…なんかあったんだってば?」 「あのねぇ…あの日は晴れのはずだったんだよ。それが、いきなりの雨雲…可笑しいと思うでしょ?その原因は八岐大蛇の兄弟喧嘩らしいんだよ。今日は、兄弟そろって四代目に謝罪に来るらしいけどね〜」 壁に背中を預けたカカシは肩をすくめながら、庭の風景を見つめた。八岐大蛇とは妖狐とも肩を並べる妖の種族で、現在では友好関係を築いている種族の一つだ。 「兄弟喧嘩って事は、サスケとイタチの兄ちゃん?」 「あそこの兄弟喧嘩は壮絶だから。奇しくもナルトの成人の儀と重なるなんて、運がないんだねぇ」 ナルトは黙ってしまう。あの嵐がなければ、ナルトがあの青年と会う事はなかった。会えば憎まれ口を叩く間柄のサスケに少し感謝したい気持ちになる。もちろん、こんな事が他の人にばれたら大事になることは予測できてしまうので、ナルトは口にしないでいた。 「さて、と……ナルトも塞ぎこんでばかりで退屈してるって顔だし、先生と一緒に外にでも遊びにいくか?」 カカシの言葉にナルトは驚いたように目を大きくさせる。カカシはそんなナルトの青い瞳を覗きこんで「どうする?」と続けた。 「え…でも、いいんだってば?」 「四代目は儀式が済んだあとは、お供の者が付いていれば外へ出る事を許してくれたんでしょ?」 「って言ってたけど…」 「なら、いいんじゃないの?先生が一緒だし、問題ないでしょ」 にこにこと笑うカカシにつられて、ナルトの顔にも笑顔が戻る。カカシは内心ほっとした。成人の儀を終えた後のナルトは少し様子がおかしいのだ。もちろんミナトもそれを心配しており、カカシにナルトの共をするように口添えしたのである。しかし、ナルトが完璧な変化をしていられるのは数時間。最初から時間は決められているようなものだったが。それでもナルトは満足である。まさか、本当に自分が外の世界に遊びに行けるようになるとは思っても見なかったから。両親を心配させた事もあり、しばらくは大人しくしていようと思っていた矢先の事であり、本当に嬉しい気持ちなる。 「先生!すぐに用意するから、ちょっと待っててくれってばよっ!」 ナルトは慌てた様子で部屋の奥へ行ってしまう。そんな様子を見ながら、カカシは安堵の息をついた。
森の奥にある、花畑。その脇には川があって、とてもきれいな場所だ。ナルトは視線を右に左に向けながら、見た事もない花々に笑顔になる。 「すごいってば〜!あっ…カカシ先生。あそこに見た事もない蝶がいるってばよ!」 人里離れた山奥であるが、人間の世界である事は確かだ。この場所ならば迂闊に人間は近付かないし、開けた地形の為、辺りを見渡せる。ナルトが好きな珍しい植物も昆虫もたくさんいた。カカシははしゃぐナルトに笑顔になる。やはり、ナルトの塞ぎこんでいる姿なんて見たくはない。本当ならば人里へ連れて行ってやりたいのは山々なのだが、それはそれで四代目のお許しを得る事になって大変だろう。ちょっとした気晴らし程度ならば、こんな長閑な場所の方がいいのだ。人の手つかずの自然。戯れる動物も植物も太陽の恵みを受け、伸び伸びとしている。 「カカシ先生…ありがとっ!」 本当ならばミナトがここに居るはずだったのだが、急な八岐大蛇兄弟の謝罪の所為でその役を泣く泣くカカシに譲ったのであった。そんな親心を知らないナルトは屈託のない顔でカカシに笑顔を向けてくる。 「今度は、人里へ降りてみよう。その為にも、ナルトはもっと長い間変化してないといけないけどね」 「う…それは、そうだってばよ」 ナルトは難しい顔をしながら、う〜っと唸った。そんなナルトの頭をぽんぽん撫ぜたカカシは、声を上げて笑う。まだまだ、やはりナルトは子供だ。妖という長い命の時間の中で、今日という日は瞬きをするくらい他愛もない時間だろう。彼はこれからもどんどん成長し、きっと逞しくなる。カカシにはそんな気がしてならない。 「ま、頑張りなさいな」 「わかったってばよ…」 ひらりと身体を翻したナルトは、目新しいものに惹かれてカカシに背中を向けた。 そして、数メートルカカシと離れたナルトは人知れず溜息をつく。気晴らしに誘ってくれたカカシには心から感謝している。だけれど、ナルトには考えたい事があったのだ。ちょこんと座ったナルトは天を仰ぐ。そこにあるのは眩しい太陽だ。この太陽の中、この森に来たいと思った数日前とは気分が違う。 ナルトは、あの晩助けた青年の事が頭の中から離れない。彼と目があった瞬間、強い強風に煽られて二人の身体離れてしまった。それは、いとも簡単に。それでも、無意識の内に彼に手を伸ばしてしまった。それは、ナルトが彼と離れたくないと思ったからだと、後から自分の思いを知ったのだ。そして、彼も自分に手を伸ばしてくれた。ナルトが谷底に落ちて行く瞬間に絡まった視線が忘れられない。こんな気持ちになるのは生まれて初めてで、ナルトは思い悩むしかないのである。 もう一度、彼に会ってみたい。この太陽の下で。でも、それは叶わぬ思いでもある。人間の友達がほしいなんて、口が裂けても言えない。また物好きなナルトの我儘だと、ミナトやクシナに思われるのも嫌だった。自分がもっと妖として成長すれば、人里へ遊びに行く事も容易となるだろう。そうすれば、いつか彼に会う事も可能かもしれないのだ。 「こんな気持ち……初めてだってばよ」 無意識に自分の心の内を吐露したナルトは、ごろりと草原に寝転がる。そして、また溜息をつくのだ。自分の心の中に積もり積もっていく思いが、溢れ出て口をつく。ころんと腹這いになって大地に頬をつけていると、カサリカサリと草の倒れる音がする。思わずその方向に視線を向けたナルトは、一匹の白い蛇を見つけた。赤い舌をチロチロ出しながら近づく蛇からは敵意みたいなものは感じられなかった。 「わ〜…きれいな蛇だってばよ」 「あら、ありがとう」 「えっ!」 返事が返ってくると思わなかったナルトは、慌てて上体を腕で支えて蛇と向き合う。 「オレの言葉、分かるんだってば?」 「可笑しな子ね。当たり前じゃない」 「えっと、蛇さんも妖なんだってば?」 白い蛇はくすくすと笑った。それから、鎌首をもたげて首を左右に振る。 「えっと、じゃあ…人間、なんだってば?」 「それも違うわねぇ…人間よりも徳の高い生き物と言ってちょうだい」 ナルトは思わず笑ってしまう。その口ぶりは自来也と同じなのである。この蛇も、仙人と呼ばれるものなのだろうか。 「悪りぃってばよ!」 ナルトがにこりと笑うと、蛇は別に気にもしないと言った様にとぐろを巻いた。 「それより、あなた。何か悩みがあるんじゃないの?」 「…悩み?よくわかんねぇけど…悩みなのかなぁ」 「辛気臭い溜息がさっき聞こえてきたからね」 ナルトは眉をひそめる。 「辛気臭いってのは、言い過ぎだってばよ〜」 白い蛇はぽんぽんとナルトに言葉を投げかけてくる。この蛇も自来也と同じく博学で話を聞いているだけでも楽しい。 「それでさ…この前のことなんだけど…」 聞き上手な蛇は、ナルトの心を組み取るように話を進めて行く。こんな事は初めてでナルトも楽しい気持ちになった。相槌を打つタイミングや、ナルトのたどたどしい話も面倒くさがらずに聞いてくれるのだ。 「オレってば、もう一度その人間に会いたいんだってばよ」 成人の儀の晩の事を離すと、白蛇は考えたように黙ってしまう。 「あなた、恋をしたの?」 「…恋って、なんだってば?」 「それは、ナルトくんがその人間に感じている気持ちの事を言うのよ?もう一度彼に会いたい、そう思うんでしょう?そう思う度に動機が激しくなって、落ち着かなくなるんでしょう?それは、その人間を思っていると言う事じゃないの?」 ナルトは首を傾げてしまう。恋という感情がいまいち分からないのだ。確かに、彼にもう一度会いたいと思う。彼の事を考えると胸が苦しくなる。 「恋って、好きってこと?」 「まぁ、簡単に言うとそうゆうことねぇ」 しかし、白蛇は琥珀色の瞳をきらりと輝かして「でも…」と続けた。 「人間と妖の恋なんて、絶望的なものよ。諦めてしまいなさい」 ナルトはむっとした。なんだか決めつけられて腹が立ったのだ。思わずがばりと起き上がると激しく頭を振った。 「オレの父ちゃんは妖狐で母ちゃんは人間だったけど、ちゃんと幸せに暮らしてるってばよ!」 「………あなた、もしかしてあの四代目の子供なの?」 「そうだってばよ!」 「それはそれは…ごめんなさい。私はついあなたは何も知らない子供だと思ったものだから…馬鹿にした訳ではないのよ?一般的な事を口にしただけ。でもねぇ、本当に妖が人間に受け入れられると思っているの?それは思い違い。あなたのお父上やお母上は特別だったと言う事。ナルトくんにその違いが分かるかしらねぇ」 ナルトは口を噤む。この蛇の言うように、その「特別」がなんであるのか分からないのだ。それにこの気持ちもとても曖昧なものだったりする。暗い気持ちになって思わず俯くと、さらさらと金色の髪が肩から落ちた。 「どうしたら……いいんだってばよ?どうしたらいいか、教えて欲しいってば」 ただ、悔しそうに地面を睨みつけているだけだったナルトは、白蛇の瞳が楽しそうにキラリと光った事に気が付かない。 「簡単なことよ。ナルトくん…あなたが人間になればいいんじゃない」 「そ…そんなん無理だってば!」 変化の術もまともにできない半人前が、人間になれるはずがない。無理難題を押し付けられた気分で視線を蛇に移した。白蛇は身体をくねくねと揺らしながら、ナルトに近づく。そして、舌先でナルトの髪を絡めた。 「私の力を以てすれば、とても簡単な事なのよ。どう?試してみる?」 そして、ぐるぐるとナルトの手に巻きついた蛇が柔らかい頬をそっと舐める。その感触にぞくりとしたものを感じたナルトはぷるぷると震えた。 「そう…怖いのね。そうよねぇ…あなたは妖の世界でぬくぬくと育ってきたんだものね。当たり前の感情と言うものよ。今すぐに決めなくてもいいわ。あなたが感じている感情も、一過性のものだとも考えられるし。でもね、ナルトくん。何か事を起こす時には、それ相応の代償が必要だと言う事も、覚えておきなさい」 白蛇は興味が失せてしまったように、するするっとナルトから離れる。だんだん視界の中で小さくなる影を見ながら、ナルトは思わずその後を追いかけてしまった。 「…待って!待ってくれってばよっ」 「なに?まだ私に用があるの?」 「あの……もうちょっと待って欲しいんだってば」 必死なナルトの形相に白蛇がクククと笑った。 「……いいでしょう。私の気が変わらない内に、この先にある洞窟に一人で来なさい」 「気が、……変わらない内?」 ナルトは白蛇の言葉を復唱する。 「ええ。私はとっても気まぐれなのよ」 白蛇の名前は、大蛇丸と言った。この事は誰にも秘密で、もちろん大蛇丸の事も口外しないようにきつく言い含められる。ナルトはそれに頷くしかなかった。
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また、話は進んでないけど…
悲しいくらいに話は進んでくれないけれど…(>_<)
主要人物の登場終わり!って感じでしょうか?
次回は、やっとナルトが…って感じです。
補足ですが、……一応サス→ナルでもあるのでした(-_-;)