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A story of the first love 2
辺りを見回してみる。もちろん、人っ子一人見当たらない。感じるのは夜の森の中に生息する動物の気配と、木々のざわめきだけ。それと、暗い夜空にはぽっかりと浮かぶ月。 「人間の世界でも、お月さまはまんまるだってばよ〜」 ナルトはわくわくしながら、歩く足を早めた。だが、女物の着物を着ている事もあり、自分が思ったようには動けない。その事にむっとしてしまうナルトだが、要は気の持ちようだと自分を慰める。灯りのない森の中でも容易く歩けてしまえるのは、やはり自分が人外のものである証拠なのだろう。 それでもなんだか物足りない。太陽の中、この森を歩いてみたい。ナルトには人間と言う存在が、自分に危害を加える生き物だとは思えないのだ。父親や祖父の様な存在の自来也は、そんなナルトの思いを感じているのか、事あるごとに自分の立場を考えろと意見してくる。それが、自分に注がれている愛情の一片だと知っているから、ナルトも強気な態度には出られない。ナルトとて、両親を悲しませたくはないのだ。もっと自分が成長して妖の力も強くなれば、父親の様に完璧な変化もできるだろうし、力も使う事が出来る。そうなれば、誰にも文句を言われないで人間の世界にも出てくる事が出来るだろう。いつか、自来也について旅にも出たい。その為にも、この成人の儀式は大切なものなのだ。 そんな事をミナトに言えば、きっと大目玉をくらうことは必須なので気易くは口にしていないが、自来也には一度頼み込んだ事があるのだ。 「どうしたもんかのう?」 自来也はそう言って笑っただけだった。ナルトとしては絶対に叶えたい夢の一つだったりする。 いつもとは具合の違う格好だからか歩幅が制限されているからか、ひどく歩きにくい。ナルトは思わず溜息をついた。それから、水の流れる音に耳を澄ませる。 「…近くに川があるのかなぁ?」 独り言に返ってくる言葉はない。てくてくと音のする方に近づいていくと、川とは呼ぶには忍びない小川があった。月の光が反射してきらきら光る水面を覗きこむ。 「わ〜…キレイだってばよ!」 緊張して喉が渇いていた事もあって、水面に口を付けた。喉を通る水は清々しい気持ちをナルトに与えてくれる。歩きにくい草履を脱いだナルトは、冷たい水に足を付けた。 「冷やっこいってば…」 こんな風に一人きりで夜の森を散歩した事はない。小さな冒険をしている気持ちになって楽しくなる。この際、お供の者が何人付いて来ようとも絶対に太陽の昇っている時間にこの森へ来よう。足先でくるくると小川の水を掻きまわす。母親の大切な内掛けを濡らしてしまう訳にも行かず、近寄って来た魚たちと遊ぶ事もなく小川を上がった。それから悩んでしまう。人の住む里まで行こうとすれば、かなりの時間を要する事になる。この格好で行って帰ってくる事を考えれば相当なものだ。これでは、折角人間の世界にやってきたと言うのに何の意味もない事のように思えてしまう。一応、誰がどこで見ているか分からないので、妖の力を気安く使う事は禁じられていた。それよりも、こんな夜更けに自分一人で居る所を見られるのだけでも、本当は怪しいのではないだろうか。 「ってか……父ちゃんそれを分かっててこんな時間に成人の儀式やるって決めたんだってばよ!」 それに、次にこの場所にやってくる時は一人ではない。それを考えると、なんだか顔つきも険しくなる。それでも、これは儀式なんだから…と自分を言い聞かせた。とりあえずの最初の一歩だと。でも、ナルトは唯一の父親への反抗だとすぐに帰る事はやめた。朝日が昇るまでに戻るようにと強く言われている。このままふらふらして、少しだけ父親をヤキモキさせてやろう。それくらいの抵抗は許されてもいいはずだ。ナルトは大きな木の幹に、よいしょっと腰かけた。特に何をする訳でもなく、身体を大木に預け辺りを見渡した。ミナトが何と言おうと、やっぱり自分は人間の住むこの世界が嫌いになれそうにない。森の木々も、小川の水も、浮かぶ月も、全てが知っている風景なのに目新しく映る。そんな不思議な空間なのだ。それから、着物の袖から水晶玉を取り出す。自来也からこれを貰ってから、肌身離さず持っている。掌をかざして、人の住む里の様子を伺った。そこには、大人たちが何人か映るくらいで、子供や自分と同じ年くらいの人間の姿は映らない。 「みんな、寝てるんだってばよ」 ナルトはこの水晶玉に映る賑やかな里の様子に憧れた。そこには笑顔が溢れ、自分が見聞きしたことがないものがたくさんあった。楽しそうな事を思い浮かべながら、欠伸を噛み殺す。気を張り詰めていた所為か、いつもよりも疲れているみたいだ。すうっと大きく息を吸い込むと、緑の匂いに安心する。 それから、思わず襲ってくる眠気に目を閉じてしまったのである。
「あらら、寝ちゃったよ」 気配を消しながらナルトを伺っていた影の主がくすりと笑う。銀色の髪に、片目を黒い布で覆った彼の名をカカシと言う。ナルトの父親であるミナトとは縁故がある。父親を亡くし一人で居た所をミナトに救われたのだ。同じ妖である事もあるのか、彼なりにカカシを可愛がってくれた。その甲斐もあり立派に成長する事も出来たのだ。普段はナルトの教育係として寄り添っている。それに、妖狐の長であるミナトが動きにくい事を調査したりするのも仕事の一つ。最近はミナトの使いで妖狐の里を離れていたのだが、ナルトの成人の儀の為に呼び戻されたのである。自分がひっそりとナルトを伺っている事を知れば、ナルトは憤慨するだろう。そんなヘマはするつもりはないが、カカシはじっと闇の中に身を潜めた。 カカシは生まれたばかりのナルトの事を思い出す。人型として生を受けたナルトは、人間の赤子のように泣き笑い、それはそれは可愛かった。生まれた時から知っていると言うのも、その感情の大きな要因ではあるのだろう。九尾の力を封印され、妖狐の姿になったナルトがちょろちょろと自分の足元に付きまとう姿も可愛かったのだが。ミナトと同様に金色の毛は美しく、青い瞳は愛くるしかった。そのナルトがとうとう成人なのだと思うと、自分も年を取ったのだと思わず苦笑してしまう。 頃合いを見計らってナルトを起こさなければいけない。それも、自分の存在が彼に知られてしまってはまずい。そんな事になれば、ミナトからきついお叱りを受けるだろう。 「さて…どうしたものかな?」 そう呟いたカカシはふと西の空を眺めた。そこには雨雲が群をなしているのが見える。 「今晩は晴れだったはずなんだけどねぇ…」 だが、確かに湿った風が頬を撫ぜた。これは思ったよりも早く天候が崩れそうだ。そうなる前にナルトを起こさなければいけない。そんな事を考えていると、視界の端でナルトが身じろぐ姿が見える。彼はごしごしと目を擦った後、顔を右往左往させながら立ちあがった。その様子がなんだか慌てているように見え、カカシは眉をひそめた。 「ナルト…?」 一瞬、こちらの気配に気が付かれたかと思ったが違うようだ。手にしていた水晶玉を仕舞ったナルトが、森の奥へと小走りで去っていく。それも、カカシが思った通り西の方向だ。そちらの方向からやってくる暗雲に気が付いていないはずがないのに。はあっと息を付いたカカシは、ナルトを追う為に腰を上げた。 厄介な事に巻き込まれる前にナルトを連れ戻そうとしてしまうのは、ミナトがナルトを甘やかすのと同じ感情なのかもしれない。それに、気になるのはいきなりやって来た雨雲だ。ナルトの成人の儀が行われている事は、他の妖の種には知らされていないはずだが、もしもと言う事がある。それを回避する為に自分は呼び戻されたのだ。カカシは自分の役目を果たす為に、深い闇の中に姿を消した。
ナルトは何度も転びそうになりながら、走り続ける。どこからか聞こえたと思った声。驚いて水晶玉を覗きこんだナルトは、映し出される光景にまた驚いたのである。嵐のように強い雨と風。その風にあおられて人と思われる影が、崖の方に落ちた。 「なんでだってばよ…」 こんな時間に、こんな場所に、どうして人が居るのか。それに、急に変わってしまった天候にも不安が煽られる。丸く空に浮かんでいたはずの月の姿は黒い雲に覆われていた。ナルトの頬にもぽつりと空から降って来た水滴が当たる。一つ、二つと…数える暇もないくらいに天から降り注ぐ神の恵み。それは優しく大地を潤すものであり、時に天災と呼ばれるものにも変わる。 ナルトは歩きにくい草履を脱ぎ捨てた。きっちりと留められていたはずの帯止めも外れてしまい、大切な母親の内掛けも水分を含んでぐっと重くなっていた。焦る気持ちがナルトを急がせる。 人間が崖の方へ風に煽られて落ちたのを知っているのは自分だけなのだ。即ち、その人間を助けられるのも自分だけと言う事になる。よく自分自身でも理解できない使命感を感じて走り続けたナルトが、慌てて足を止める。ガラリと音を立てて崩れる柔らかくなった岩肌。 ナルトは滴る雫を手で払いのけて、屈みこんだ。落ちないようにしながら崖の下を覗きこみ、じっと目を凝らして見つめると、大きくせり出た大岩に確かに人影を確認できた。 「やっぱり居るってばよっ!」 どうしようか一瞬迷う。自分は人ではない。だから、こんな崖くらい降りる事も可能だ。しかし、父親からきつく妖の力を容易に使う事を禁じられている。その約束を成人の儀の日に破ったと知られれば、本当に二度と人間の住む世界には来られなくなるかもしれない。 「でも、……迷ってる暇はないってばよ」 ナルトは心を決める。妖も助け合って生きているではないか。人間を助ける事を責められるなんておかしい。また強い風が吹けば、岩の上にある身体は暗い谷底に落ちてしまうだろう。きょろきょろと辺りを見渡すが、人の気配は感じられなかった。ナルトはぎゅっと掌を握り締めて、崖から降りる為に大地を蹴る。ふわりと浮かんだ身体は、少し赤みを帯びた光で包まれる。多少の風にも動じない身体が、岩肌を蹴りながら下へ下へと降りて行った。 すたりと大岩の上に降り立つと、二人分の重みを受けてぐらりと揺れる。ナルトはそろそろと倒れた人に手を掛けた。 「…怪我、してる…」 意識がない男は岩に打ち付けた時に出来た時傷を負ったのだろう。口の端から赤い血が流れ出ている。そっとその身体を抱き起した。 「うっ…」 苦しそうな呻き声が風の音に混じった。 「大丈夫?今、助けてやるってばよ!」 「い…痛っ、骨が……折れて…」 「骨?痛いってば?」 ナルトの問いかけに顔を歪めた青年は、こくりと頷く事しか出来なかった。ごほごほと咳込んだ青年は一緒に大量の血液も一緒に吐き出す。骨が折れて、内臓を傷つけているのだろう。ナルトの白い襦袢を赤い血が沁み込む。 「死んじゃ、ダメだってばよ。オレがぜってー助けてやるってば」 ナルトは掌にチャクラを集中させる。少しの傷くらいならば自分で治癒する力は持っている。それが他人にまで効くかどうかは不明だが、何もしないよりましだろう。彼を崖の上まで連れて行くにしても、今の状態では身体を動かす事も難しい。 ナルトは出せる力の全てを出すつもりで、チャクラを集中させた。温かな力が手の平を伝い流れ出すようなイメージ。暫くすると、青年の顔に生気が戻る。ほっと息を付いて、自分より少し上背のある身体を抱きかかえた。青年の顔に赤みが戻ったことでナルトは一安心する。来た時と同じようにナルトの身体を包みこんだ赤い光が、二人の身体を崖の上まで運んだ。 ナルトは青年の顔をぺちぺち叩いた。すると、まだ苦しそうに眉をひそめた瞼がそっと開く。ナルトはどきどきした。初めて会う人間という生き物。切れ長の瞳にすうっと通った鼻筋が、自分よりも男らしい顔つきに見える。 「お前…俺を…」 「もう、大丈夫だってばよ?」 ナルトはにっこりと笑う。それから、青年の口の端についた傷に舌を合わせた。こうすることで、見える傷ならば簡単に治す事が出来る。 「あったけえな…夢じゃねえのか」 「夢じゃないってばよ〜」 そこに強い風が吹く。ナルトの身体は、本人が気を緩めていた事もあり造作もなくその風に煽られた。 「えっ?!……あっ!」 水分を含んだ着物が重い。思うように身体を動かせなかったナルトは思わず手を伸ばす。青年も同じように手を伸ばしてくれた。その指先が触れ合うかどうかと言う時に、二人を引き離すような強い風がもう一度吹いて、ナルトの身体は暗い谷底へ引きこまれた。驚愕したように開かれた瞳に、ナルトは安心させるような笑みを見せる。自分は大丈夫だ。人間ではない。だから、簡単に死ぬ事もない。 視界から青年の姿が消えた。ナルトの瞳に映るのは、雲の間から再び顔を見せた輝く月だけ。落ちて行く感覚に眩暈を感じる。 今夜は妖の力を使いすぎた。半ば諦めて意識を手放したナルトが、ふわりと暖かい気配を感じた時にはその姿は闇の中に消えてしまう。
いきなり襲った嵐のように、青年の視界からもナルトは闇に紛れて消えてしまったのであった。
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話は進んでないけど…
ようやくナルトとシカマルの出会いです。
やっと…?ここまで書いて、やっとかい(-_-;)
なんか本人的には嫌な感じですけど…話の進みが遅い!!
早くシカマルの元に行かせたいな〜とか思います。