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A story of the first love 17
ミナトはぽかんと口を開けている。その隣でクシナはくすくすと笑っていた。 「…と、言う事なんだってばよ!」 にこにこと話をするナルトに、ミナトは深い溜息をついたのだ。それから、じっとりとシカマルを睨みつける。別にシカマルの事が憎い訳ではない。そうせずには居られない親心の一片なのだと言える。彼はそれを真正面から受け止めて、頭を下げた。 「訳分からないんだけど?ナルトとシカマルくんが相思相愛なのは分かったよ……それで?なんでナルトが人間の世界で生活することになってるの?」 「いや…あの、暮らすとかじゃなくて俺とナルトの事認めてもらいたいだけで……」 「でも、ナルトの話は違うよね?」 ミナトの口調は厳しいものとなっている。 「認めてもらいたいイコール、シカマルとずっと一緒に居たいって事だってばよ!えっと…オレってば、シカマルと結婚したいんだってば」 シカマルは驚いたように顔を上げると、ナルトを見つめた。それに気がついたナルトはシカマルに向かってはにかんだ様な笑みを見せる。 「ケッコンってのは、好きな人とずっと一緒にいる約束なんだってばよ?シカマルってば知らねえのか?」 それくらいも知らないのかという勢いでまくし立てられて、シカマルは首を傾げてしまう。 「……間違っちゃいねえけど、ちょっとずれてねえか?」 「いいんだってば!」 クシナは笑いながら、ミナトに視線を送る。 「ミナト、認めてあげてもいいんじゃないの。二人とも真剣なんだし?」 「好きなんだから、ずっと一緒に居たいのは当たり前だってばよ〜」 シカマルは少し赤くなりながら、ちらりとミナトを伺った。 「認めないとか認めるの話から外れている様な気がするけど、あのねぇ……話は簡単じゃないんだよ?ナルトも少し頭を冷やす時間が必要みたいだね。とりあえず、シカマルくんは一旦…自分の家に戻った方がいいんじゃないのかな?」 いきなり妖狐の里へ来てしまったシカマルはそれも当り前な話のような気もした。ナルトとの事はミナトが言うように、認めてもらうのに焦る必要もないだろう。二度と会えない訳でもないのだから急く事もない。ミナトの話を総合すると、そうゆう事になるのだ。 「そうっすね…俺もそう思います」 呟いたシカマルにナルトが驚いたように目を丸くする。 「し…シカマル!?」 「お前は、もう二度と誰かを裏切ったりしたくねえんだろ?俺もそんな事ナルトにさせたくねえしよ」 「だって……」 ナルトはミナトをじっと見つめた。ミナトはその視線にすぐに気がつくと口元に笑みを乗せる。 「シカマルくんの言うようにね、別に二度と会うなとか記憶を消すとか言ってないよ?」 「ホントだってば?父ちゃん、約束だってば?」 「男に二言はない。信じなさい」 ナルトはほっとしたように息を吐く。そして、シカマルの手を取った。 「絶対、約束だってばよ!」 「ああ…」 自分の気持ちが不安定な所為でナルトを傷つけてしまったことに後悔している。真っ直ぐに自分に向けてくれるこの気持ちを裏切りたくない。それに、ナルトの事を思う彼の周りにいる人を裏切らせたくもない。辛そうにそれを告白したナルトを思い出すと、シカマルはナルトの事を守ってやりたい気持ちになった。 「じゃ、道案内は彼が適任だろうねぇ」 ミナトの声と共に、ナルトの背後に影が落ちる。振り返ったナルトは影の主を見て笑顔になった。 「カカシ先生だってばよ〜!」 カカシの姿を認識したシカマルは少しだけ心が痛む。ナルトに何かあったら自分を殺せと言ってしまった手前、後ろめたい気分になった。自分は十分にナルトの心を傷つけた。この身体を傷つけた。その行為が彼を死にまで追いやる結果となったのだ。 「やあ、シカマル。久し振りだね」 「どうも…」 軽く頭を下げたシカマルに、ナルトは二人の顔を交互に見た。 「シカマル、カカシ先生の事知ってんだってば…?」 「ま…初対面ではない、な」 「ふ〜ん…そうなんだ?」 その質問はカカシに向けられる。カカシも曖昧に頷いただけだ。 「カカシ先生、シカマルはオレの大切な人だから頼むってばよ」 「……大切な人?」 「ん!結婚すんだってばよ!!」 カカシはぷっと吹き出してしまった。いつまでも子供なナルトの夢物語だと、思わず笑ってしまった。だけれど、視界の端で苦笑しているミナトを見た時、相当話が大きくなっている事にも気がつく。 「ナルト、四代目をあまり困らせないようにね」 「うん、それは分かってるってば」 へへへと笑ったナルトは恥ずかしそうに睫毛を伏せた。カカシには何となくナルトの気持ちを察する事が出来る。素直で真っ直ぐなナルトは、シカマルと初めて視線を交わしてからこの人間に心を奪われていたのだ。それが、今回の失踪事件につながるのだろう。ミナトからは背後に大蛇丸の影がある事を聞かされ、サスケと接触した人間からそのアジトを見つける事が出来たのだ。ナルトの事は自来也に任せ、カカシはサスケの救出に向かったのである。 「カカシ。シカマルくんを無事に里まで送って欲しいんだ」 「はい」 頭を下げたカカシはにっこりと笑みを浮かべてシカマルを見つめた。前に見た時からそんなに時間は経っていないのに、彼の印象が違って見えるのはどうしてだろうか。 「じゃ、行こうか。シカマル」 それに驚いたのはナルトだ。 「え?今すぐ…?別に明日でもいいってばよ?」 懇願するようなナルトの視線を無視してシカマルを見ると、彼は立ち上がりかけていた。 「また、すぐに会えるって。四代目が言う様に、別に一生の別れじゃねえだろ?」 シカマルの言葉に、ナルトも仕方なく頷く。その素直な態度にカカシは正直驚いていた。ナルトと会うのは久し振りだ。彼もこの里を出る前よりも、何かしら成長しているように感じるのだ。カカシの目から見てもナルトは変わった。それはミナトもクシナも感じているはずだ。もう一度、ちらりとミナトを伺うと複雑そうな表情でシカマルとナルトを見ている。
しゅんとしているナルトを背に、シカマルはカカシの後を付いていく。妖狐の里に来た時にも感じたのだが、ここは自分が普段暮らしていた場所と比べても遜色ない。どこがどうなってこの里と人間の住む場所が繋がっているのかも分からないのだ。赤い大きな鳥居を超えた所で、前を歩いていたカカシが振り返る。 「まさか…ナルトの想い人が君だとはね」 にっこりと笑いかけられて、シカマルはじっとカカシを見つめた。 「ナルトは最初に君に会った時から、君に惹かれてたってことか…」 「それは…俺もだよ」 「ふうん。だから、ナルトに危害を加えるつもりはないと言った訳だな。君が探してた少女が実はナルトだと分かったから?」 シカマルはむっとしてしまう。カカシの言葉には棘があるような気がしてならない。 「俺は、ナルトが男でも女でも関係ねえよ!それに、妖狐だって関係ねえっ」 カカシは驚いた様に目を丸くした後、くすりと笑った。 「そんなに必死にならなくても。俺は、お前さんを取って食おうとか考えてないし」 シカマルは言葉に詰まる。最初からカカシの雰囲気はこんな風だ。掴みどころがないと言うのだろうか。わざとそうしているのかもしれない。飄々としているのに、その眼光は時に鋭い。 「シカマル、まずそうだし」 「…はあ?」 「俺にだって嗜好品を選ぶ権利くらいあるデショ」 やっぱり、カカシの事は苦手だ。シカマルは苦々しい気持ちになりながら溜息をついた。そして、自分がよく知った道を歩いている事に気が付く。何時の間に…という不思議な感覚に陥った。ついさっきまでは妖狐の里に居たはずの自分は、もう人の世界に戻ってきている。 「カカシ…もう、一人で帰れる。ここは俺の知ってる道だ」 本心を言うならば、あまり彼と一緒に居たくない。ナルトは懐いているようだが、その事から考えてもカカシもナルトを可愛がっていると言う事になるからだ。きっと自分の事を良い様には思っても居ないだろう。 「シカマル。あんまり四代目を苛めないで欲しいんだよねぇ。あの人、ほんとにナルトの事溺愛しちゃってるからさ。四代目とクシナ様は俺の恩人でもあるんでね…」 遠くを見つめたカカシは、少し小さな声で呟くとシカマルの前から姿を消してしまう。それは先程自分の前に現れた時と同じように、颯爽と。 カカシの言葉は本心なのだろう。茶化す訳でもなく真剣な声色だった。彼の言葉を借りるならば、ナルトの両親はカカシの恩人だと言う事になる。シカマルは自分の存在が、ナルトにとって何なのだろうと考えてしまった。ただ、彼の事を好きなだけではいけないのだろうか。 一度はナルトの事を諦めようとした。彼を好きになり過ぎて、その嫉妬心に駆られ滅茶苦茶にナルトを追い詰めた。酷い暴力で心も身体も傷つけ、ナルトを死の道へと導く結果となった。それでも、ナルトの事を思う気持ちに嘘は付けないと気が付き、ようやくナルトを腕の中に抱く事ができるまでになったのだ。真剣に純粋に自分の事を思ってくれるナルト。死にかけていたただの人間を助けてくれた、優しい彼。 ナルトの笑顔はいつも自分を励ましてくれる。「大丈夫」だと、そう言われている様な優しい笑みを見せてくれる。その中に、天真爛漫な姿を見つけ、どんどんと彼自身に惹かれて行き……… ナルトとの出会いからの事を思い出していたシカマルは、自分の家の前に到着している事に気が付く。門頭の松を見上げて、家屋の中に入る。そこは、ナルトが自分の元を去ろうとした夜から時間が止まっているようだ。カラカラと雨戸をあけ、障子も全開にして風を通す。 ふわりと頬を撫ぜる風が、ほんのり甘い様な気がしてシカマルはふとナルトの事を思い出した。 「ドウダン…散ったな。あいつ…楽しみにしてたのに……」 垣根の白い花は道を覆い尽くす様に、その花が散っていた事を思い出す。山藤も一緒に見ようと約束したのに、それも果たされていないままだ。薄紫の蝶型の花が垂れるのを見せてやりたかった。きっと、ナルトはとても喜んだだろう。満面の笑顔を自分に向けてくれたはずだ。造られた藤棚ではなく、この自然に生息する野生の藤の美しさを。ナルトは草花や動物が好きなように見えたから、自然とシカマルもナルトに多くのモノを見せてやりたいと思う様になっていたのだ。 今でも、こんなにもナルトの事を思うと心が苦しい。その反面、彼の面影を思い浮かべるだけで心の中に温かい感情が満ちてくる。あの、醜い嫉妬心とは反比例した静かな感情。 「ナミカゼ…ナルト」 自分の名に誓って、自分の事を思ってくれるとはにかんだような笑みを見せたナルトが、遠い存在に思えてしまう。 「ナルト………ナミカゼナルト」 呟いたシカマルは急に目の前が眩しい光に覆われた事に気が付いた。 「…ンだっ!」 光を遮る様に手で目を覆う。しゅんと何かに吸い込まれる様にして消えてしまった光をじっと見つめたシカマルは大きく瞳を見開いた。 そこには、庭には、会いたいと思っていたナルトがちょこんと座っていたのだ。 「なんで…どうしたって……――――― ナルトなのか?」 シカマルに呼ばれたナルトが青い瞳をシカマルに向ける。彼も驚愕の表情を浮かべていた。 「シカマル…?」 「お前、里に居たんじゃねえのかよ?どうして…今、ここにいるんだ?」 「オレだって、わかんねえんだもん。父ちゃんと母ちゃんと一緒に居たはずなのに……気が付いたら、ここに居たんだってばよ?」 シカマルは裸足のまま庭に降りると、ナルトの身体を抱きかかえる様にして立たせる。 「本当に、ナルトだよな?」 「当たり前だってばよ〜」 にっこりとシカマルに向けられる笑顔。居たたまれない気持ちなって、その身体を抱きしめる。ナルトの腕もシカマルの背中に回された。 「シカマルの事ばっか考えてたから、シカマルんとこきちゃったのかな?」 にへらと笑ったナルトは真剣なシカマルの表情を見て、同じような顔つきになる。 「やっぱり、離せそうにねえよ」 そう言うとシカマルはナルトの唇を奪う。一瞬ぴくりとしたナルトも、身体の強張りを解くとシカマルの口付けに応えた。 「オレも……同じだって」 こつんとナルトの額がシカマルの肩に当たる。ふんわりとしたナルトの感触を両腕で抱きしめた。どちらともなく、くすりと笑う。少しだけ恥ずかしそうな顔をして、ナルトの方からシカマルに触れるだけのキスを返す。シカマルがその雰囲気に酔ってしまいそうになった瞬間、激しい閃光が空を切った。 ナルトと同じ青い瞳の彼は、怒りを称えた瞳で抱き合う二人を睨みつける。 「どうゆう事だが、……説明してほしいね」 ミナトの言葉は誰に向けられたものだろう。仁王立ちになって激しい感情を隠そうとしないミナトは、じっと押し黙ったまま視線をシカマルに向ける。 「四代目!俺にもナルトにも…意味が分からなく…て」 シカマルはそこで言葉を切ると、ぎりっと唇を噛みしめる様にして立っているミナトを見つめ返すことしかできず、身体の動きが止まる。 シカマルは微動だにする事も許されない雰囲気の中で、只ナルトを抱きしめる事しか出来なかった。
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なんとか…ラストがどんどん近付いてきています。
次回か…その次か。
んなとこだと思ってるんですが。
う〜ん。長々と書いているので、早くエンドマークが打ちたいのですけどね(^^ゞ
次回は第二の山場的…なはずです。