|
A story of the first love 12
肉にめり込んだクナイから伝った赤い血が、ぽたぽたと地面に落ちる。 「何してんだ!バカ野郎…っ」 ナルトはじっとクナイの突き刺さったシカマルの手の甲を見つめる。溢れだす血液。ナルトはそれをシカマルから抜くと傷口に両手を当てた。 『どうしよう、どうしよう…血が止まらないっ!』 ナルトの手が震えた。シカマルは息を付いて腰を下ろすと、ナルトの身体を抱き寄せる。家中のどこを探してもナルトは居なかったのである。もしかしてという思いから庭先を見た時、ナルトはクナイを喉元に突き刺そうとして居た。咄嗟に動いた身体は、どうにか片手だけナルトに届いたのである。 「なんで、俺を殺さねえんだ?お前が死ぬ必要なんて、どこにもねえじゃねえか?俺はお前に殺されても文句は言えねえことをお前にした……お前を傷つけた」 ナルトはシカマルの腕の中で首を振る。 違うのだ。シカマルが自分に与えてくれたものは、それだけじゃないのだ。 「このままじゃ、どんどんナルトを傷つけるだけだ。だから、俺は山を降りる事に決めた……ナルトから笑顔を奪っといて、のうのうとしてる自分自身に腹が立って…どうしようもなかった。俺はお前の事、なんも知らねえから…知ってるカカシやサスケに嫉妬したんだ。小せえ男なんだよ。それでも、俺は……ナルト、お前の事が好きなんだ。ナルトが、好きでたまらねえ……」 シカマルの言葉に、ナルトが顔を上げる。涙でぐしゃぐしゃになった顔に、シカマルは唇を寄せる。 「こんな気持ちを初めて知った……お前を、愛してんだ。……ナルト」 青い瞳が大きく見開かれる。ナルトは自分の耳を疑った。シカマルは何と言ったのだろうか。唇を寄せられている頬が熱い。伝う涙を舌で舐めたシカマルが、そっとナルトにキスをした。 ナルトは胸からせり上がってくる熱いものが、喉に集中するのを感じる。それは痛みを伴って、ナルトの喉を焼く様な痛みを与える。 「あ……っ」 ナルトの短い声と一緒に、血の塊の様なものが吐き出される。はぁはぁと息を付いて、じっとそれを見つめた。血の幕を破ってうねる様に出てきた金色の髪が、まるで生き物のように地を這う。 「こりゃ、なんだ……」 手を出そうとしたシカマルをナルトの腕が止めた。 「触っちゃダメだってばっ!シカマル…」 思わずナルトが言うと、シカマルが驚いたようにナルトを見た。 「ナルト…お前、話せるのか?」 「あ…」 声を出そうとする度に痛かった喉の熱が引いている。もちろん、普通に話す事も出来た。 「ほんとだってば……オレ、声が…」 ナルトが驚いていると、金色の髪がうねうねと闇に紛れようとする。それを、一瞬の閃光が貫いた。 「触るでないぞ、ナルト」 自来也の剣によって貫かれたそれは、しゅうしゅうと黒い霧になって消える。ナルトはシカマルの腕に抱かれながら、じっと自来也を見つめた。 「全く!お前はどれだけ心配をかければすむのかの…?」 腰に手を当てて抱き合った二人を見た自来也はにやりと笑った。 「ごめんだってばよ、エロ仙人…」 ナルトはしゅんとして上目づかいに自来也を盗み見る。自来也は大袈裟に溜息をついた後、手を拱いてナルトを呼ぶ。 「お前にかけられた封印はまだ解かれておらん。腹を見せろ、ナルト」 ナルトはシカマルから離れると、自来也の前に立つ。ナルトの着物の袂を割った自来也が眉をひそめた。肌に残る無数の鬱血痕に、ちらりと黒髪の青年を見る。 「ふうん…」 「エロ仙人?」 「ちと痛むかもしれんがの、我慢だぞ。ナルト」 自来也が掌をナルトの腹に翳す。親指から順に青い炎が灯った。それは、ナルトには大蛇丸がいた洞窟で彼が自分にした封印術と同じに見える。五本の指全てに炎が灯ると、自来也は口の中で解印を唱え、そのままナルトの腹に手を当てた。 大蛇丸にされた時と同様に、鈍痛がナルトを襲う。 「あ…!くっ…は……」 膝を折って腹を抱え蹲るナルトをシカマルが抱き寄せた。 「おい、ナルト!大丈夫なのか…ナルト」 ナルトは唸って、シカマルに身を寄せる。 「すぐに意識は戻る……所で、お前がカカシの言っていた奈良の坊主か?」 自来也はじいっとシカマルを見つめた。シカマルは自分の中を見透かす様な視線に、思わず目を伏せる。自来也は大きな手でナルトの頭を撫ぜた。 「ナルトは昔から破天荒な所があってな。やる事なす事、理解の範疇を超える部分がままあった。子供だと思っていたナルトが、いきなりこんな事をするとはな……」 「こんな事って…」 シカマルの心配そうな顔に、自来也は眉をひそめる。 「説明は後々…それよりも、ナルトの着物を整えろ。こんな姿を見たら、四代目が火を噴くからな」 人のいい笑みを浮かべた自来也は、そっとナルトの胸元を指差す。シカマルはバツが悪い気分になりながら、袂を合わせた。 それと同時に、シカマルの周りにいくつもの影が降りる。その中心に居る人物は、ナルトと面影が似ている。金色の髪にきらりと光る青い瞳。 「ナルト……」 ナルトの顔を見た彼は膝をついて、シカマルからナルトの身体を奪い取る。変わってしまった息子の風貌にミナトの顔が渋いものに変わって行く。長く美しかった金色の髪が短くなっている。それに少しやつれているように見えた。 「どうして、こんな事に……先生!」 先生と呼ばれた自来也は安心させるように頷く。 「心配はないわい。ナルトに掛けられていた封印は解いてある。それに、そこにおる青年がナルトを助けた」 ミナトはシカマルに視線を移した。そこで、ナルトが薄っすらと目を開ける。 「父ちゃん…?」 「ナルト!」 ミナトはナルトを抱きしめる。その腕の中でナルトは困ったような顔をしながら、自来也を仰ぎ見た。 「ミナトもクシナも…どれほど心配した事か。それは肝に銘じる必要があるぞ?ナルト…」 「ごめん…ってば」 それから、はっとサスケの事を思い出す。 「父ちゃん!サスケが…サスケが死んじまうってばよっ…」 「安心しないさい。サスケくんの救出にはカカシを向かわせている」 「大蛇丸だ、ミナト……」 その名前を聞いた瞬間、ミナトの表情が厳しい者に変わる。それから、気が付いたようにシカマルの傷ついた手を取った。 「安心しなさい。傷を癒すだけだ……それにそのクナイ、ちょっと厄介な呪が掛けられているようだね」 ミナトの掌から、青い光が放たれる。シカマルの手に付いた傷がみるみると小さくなっていった。シカマルは驚愕の表情でそれを見つめる事しか出来ない。それでも、指先が痺れるような感覚は引く事がなかった。 「ああ、やっぱり……。とにかく、この地では妖狐の力を使うにも、ちょっと厄介ですね。とりあえず、彼を里に連れて帰ります。それから、然るべき処置をしましょう。えっと、君は奈良…」 「シカマルって言います」 「ナルトが迷惑をかけたね。君には感謝の言葉も尽きないよ」 にっこりと柔和な笑みを浮かべるミナトに、シカマルは後ろめたい気分を味わった。ナルトを暴力で押さえつけ、醜い感情をぶつけた。それを知ったら、ミナトはシカマルを許しはしないだろう。 「いや…あの、俺がその……ナルトの住む所に連れてってもらえるって事っすか?」 ミナトはきびきびとした指示を臣下に与える。まずは奈良の当主にシカマルを預かる事を伝える必要があるだろう。ナルトはミナトの腕から逃れると、シカマルにぴったりとくっついた。ナルトがこの青年に心を奪われているのは一目瞭然だ。ミナトは溜息を付きながら、ナルトの頭を撫ぜる。 「ナルトの命の恩人に、手ひどい事をすると思うかい?」 優しいミナトの口調にナルトは首を振った。 「でも、……父ちゃん、怒ってるってばよ?」 「ああ、もちろん。クシナを悲しませるような事をしたナルトには、怒ってるよ。でも、ナルトのした冒険を俺も聞いてみたいね?大蛇丸の動向も気になるし……とにかく里に戻る。カカシからの報告も待たなくてはいけない。話はそれからだね?」 にっこりと笑ったミナトは、一瞬で厳しい顔つきに戻り臣下たちに指示を与えて行く。ナルトはこっそりとシカマルを見つめる。 「シカマル…オレってば、人間じゃないんだってばよ。人間になりたくって、シカマルに会いたくって……そんで色々あって、上手く言えねえけど、声を奪われちまったんだってば」 「うん、そうか…」 「オレのこと…嫌いになる?」 不安そうに見つめてくるナルトに頬を寄せる。温かい身体をシカマルは抱きしめた。 「…ンな事、ある訳ねえだろ?お前が妖狐だろうとも人間だとうとも、俺の気持ちは変わんねえぞ?」 「ほんとに?」 「当たり前だ…ナルト」 「シカマル…」 ナルトは頬を紅色に染めて、そっと目を閉じた。シカマルはそれにつられるように、ナルトの唇の温もりを求める。重ねるだけの口づけを交わしていると、ごほんと咳ばらいが聞こえた。もちろんミナトのものである。彼はこめかみをぴくぴくさせながら、じろりとシカマルを睨みつけた。 「親の前でする事ではないよ、ナルト!」 「だって!シカマルの事、好きなんだってばよっ!」 反抗するような眼差しを向けてくる息子に、ミナトは溜息をついた。 「とにかく……俺と先生はやる事が残ってるから。ナルトはシカマルくんを連れて先に里に戻りなさい。もちろん、クシナにちゃんと謝る事。シカマルくんの傷が癒えたら、しっかりと言い訳は聞かせてもらうから覚悟しなさいよ」 ミナトの言葉にナルトは肩をすくめる。 「はい…」 ミナトは親指を噛み切ると、その血でシカマルの傷口になにやら文字を書く。応急処置のようなものなのだろう。ミナトは自来也と視線を合わせると、頷いた。そして、ナルトの頭を一撫ぜしてシュンと消えてしまう。呆然とそれを見つめたシカマルは、そっとナルトに視線を移した。少し落ち込んでいるように見えるナルトの肩を抱き寄せる。ナルトはシカマルを見て、にっこりと笑った。 それは、シカマルの好きな彼の笑顔。 「ナルト様、シカマル殿……まずは里に」 頭を下げた臣下にナルトは頷く。彼らが印を結ぶと、空間が歪んで見えた。ナルトはシカマルの腕をとって、その先に彼を促す。 「えっと、シカマルにオレの生まれ育ったとこ……見て欲しいってばよ」 はにかむ様なナルトの笑みを見て、シカマルは頷きナルトの手を取った。
シカマルの目の前に現れたのは、大きな屋敷だった。それはどれくらいの規模があるのか想像を絶するものである。深紅に統一された屋敷は、厳格な雰囲気が漂っている。 慣れたように歩くナルトの後ろを付いていくと、ばたばたという足音が聞こえた。廊下の奥から、髪の長い美人が現れた。 「ナルトっ!」 細い腕でナルトを抱きしめた彼女は、人目もはばからず涙を流す。 「母ちゃん…心配かけて―――――― 」 呟く様なナルトの言葉に、その美人がそっと顔を上げて涙を拭った。 「本当に……生きて戻ってきてくれて……それだけで」 「ごめん…母ちゃん」 シカマルはじっとナルトの母親を見つめる。年の頃は自分とそんなに変わらなく見えるのだ。 「あなたが…シカマルさん?ナルトの母親でクシナと申します。この度は、息子がお世話になりました」 深々と頭を下げられて、シカマルの方が恐縮してしまう。 「そんな…俺は、なんもしてないっすよ」 「いいえ…そんな事はありません」 クシナは一回り大きくなったような息子の姿を見て、多くの経験をしてきたのだろうと感じた。そして、このシカマルという青年がナルトを変えたと言う事も分かってしまう。 「ナルト、着替えていらっしゃい?ミナトから連絡はもらってるわ。シカマルさん…あなたは傷を負っていると、すぐに処置をするように言われています。あなたはこちらに…」 柔らかい手が、シカマルの腕を取る。ミナトを見ても思ったのだが、クシナにもナルトは似ている。もちろん親なのだから当たり前の事なのかもしれないが、醸し出す雰囲気が似ているのだ。それに、クシナという名前もどこかで耳にした事がある。それが思い出せない事が、シカマルも悔しかった。 「シカマル!すぐに着替えてくるからっ」 必死な様子のナルトを見て、くすりとシカマルが笑う。ぱたぱたと走って行く後ろ姿を見つめたシカマルが、クシナからの視線を感じて彼女に顔を向けた。 「ナルトは、本当にあなたの事が好きなのね?」 「あ…それは、その……」 「あの子の目は、あなたしか見ていないもの」 ふふふと笑ったクシナは少女のようである。ナルトの母親だと言うのが信じられないくらいだ。 「ミナトが癇癪を起こすのを、どうやって止めようかしら?さあ、シカマルさん…傷の手当てをしましょう」 クシナが笑みをシカマルに向ける。シカマルは夢のような世界にただ驚いて、頷く事しか出来なかった。
|
きっと、想像通りな展開だと…
本人は思っています。
妖狐に戻れたナルトですが、シカマルと一緒にいるには一波乱!
当たり前ですね〜