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A story of the first love 11
ナルトはクナイを和紙に包み直す。よろよろとしながら、母屋の自室にも戻った。カブトの言葉が頭の中に響く。
< 君が感じている重みは、サスケくんの愛情の重みなんだよ?僕としては、君が妖狐に戻り元の生活に戻る事に反対はしない。寧ろ……サスケくんを見ていると、そうあってほしいとすら思えてしまうよ >
『サスケの愛情の……重み?』 着物に付いた大量の血痕。それは、サスケが深く傷ついていた事をナルトに知らせる。ナルトも幾度か目にした事のある、八岐大蛇の鱗。それは七色に輝きとても美しいものだった。いつだったかそれを口にした時、照れたように「お前の金色の毛の方が、キレイに見える」と言ったサスケの事を思い出す。あの大蛇丸ならば、サスケの鱗を剥がしたという話も本当の事だろう。大量の出血を思い出して、ナルトの血の気も引く。このままでは、カブトが言っていたように、本当にサスケが死んでしまうかもしれない。勝手な事をして出てきた自分がどうなろうとも彼には関係のない話だ。 自分の命が尽きようとも…それを選んだのは己自身なのだから。 ナルトは布団の下に、渡されたクナイを隠した。その布団の隣で、ただ蒼白になりサスケの事を考える。 『カカシ先生が近くにいる…?あの稲荷神社に行けば、父ちゃんに知らせられるかもしれない……』 一刻の猶予も残されていないのではないか。そう考えると、居ても立っても居られなくなった。庭に通じる障子を開けて、足を下ろす。その時である。部屋に物音が響いた。 思わずナルトが振り返ると、部屋の入り口にはシカマルが立っている。その足元には、彼が運んで来てきたのだと思われる食事の残骸が散らばっていた。ナルトが驚いたように彼を振り返っていると、シカマルはずんずんとナルトに近づいてその肩を掴んだ。シカマルの手に込められた力が痛くて、ナルトは眉をひそめた。 「こんな時間にどこ行くつもりだよ…ナルト?」 その声は、やっぱり冷たい。ナルトは悲しい気持ちになり、ただ俯く事しか出来ない。身体を揺すられるようにして、その腕を思わず払った。 「ナルト…?」 胸の辺りで両手を抱えて、シカマルに背中を向ける。シカマルの本当の姿を知っている。彼は優しく笑い、時におどけてナルトを楽しませてくれた。博学であるが、それを鼻にかける様な厭味な所はなく気さくな性格だ。なのに、今自分の前に居るシカマルは全然知らない人間のように感じる。 暫く二人の間に沈黙が流れた。ナルトがはっと顔を上げるのとシカマルが自分の身体を抱えるのは、ほぼ同時だったと言える。ふわりと宙に浮く浮遊感に思わずシカマルにしがみ付いた。 シカマルはナルトの体温を感じながら、そっと脅える様な彼を見つめた。その着物の胸元が赤黒く濡れている。部屋の中にナルトを座らせて、顔を覗きこんだ。 「お前、どこか怪我でもしたのか?」 心配する様なシカマルの声色に、ナルトが顔を上げる。それから、すぐに否定する意味で首を振った。 「なら……その着物の染みはなんだよ?」 ナルトは言われてじっと自分の着物を見つめる。血痕と思われる、赤黒い染み。サスケに抱きつかれた時、彼の傷口から溢れ出た血液がナルトの着物にまでしみ込んだのだ。ナルトは何も答えられない。口がきけても、きっと何の言い訳も出来なかっただろう。 シカマルの手が、着物の袂にかかる。つっと袂を開けた彼が、ナルトに外傷がない事を確認して安堵の息を吐いた。ナルトは垣間見えるシカマルの優しさに思わず嬉しくなって顔を上げた。 だが、ナルトの目の中に入ってきたシカマルは渋い顔つきをしてじっと自分を見つめている冷たい表情。 『…シカマル……?』 シカマルの手がナルトの肩にかかったと思った時、強い力で押された。 「誰だ…」 抑揚のない声。ナルトの心がまた引き裂かれる。 「カカシか…?」 ナルトは身体を引きずるようにして、後ずさった。そして、違うと言うように首を振る。ずるりするりと着物が畳に擦れる音が響いた。 「誰か、臣下の者でもやってきたのか?」 ナルトはまた首を振った。逃げるナルトを押さえつけるように、シカマルの腕がナルトの着物を掴む。そして思いっきり床に身体を押さえつけられる。 「じゃあ、サスケか?」 ナルトの動きが止まる。それを見て、シカマルがくすりと笑った。 「サスケなんだな?」 確かめるようにサスケの名を口にしたシカマルは、ナルトの首筋に顔を埋めた。 「俺に隠れて……あいつに、会ってたのか?」 ぞくりとするような地を這う声。その声を知っている。ナルトの身体を無理やり開いた時のシカマルと同じ声色。感じる感情は、怒りに似たもので。 「なぁ…お前が俺をおかしくするんだぜ?」 耳元でシカマルの声を聞き、ナルトがぎゅっと目を閉じる。彼の言っている言葉の意味が分からない。ただ、シカマルの事が好きなだけなのに、その思いが彼を違った人間に変えてしまうというのだろうか。 「ナルト…」 名前を呼ばれて、そっと目を開けた。悲しみを湛えた瞳で見つめられる。 『シカマル?』
どうして、そんな事言うんだってば? どうして、泣きそうな顔してんだってば? どうして、オレの事……そんな目で見るんだってば? オレは……どうすれば、シカマルを笑顔にしてあげられるんだってばよ?
ナルトは身体をうつ伏せにして、押さえつけられる。シカマルの手が、着物の裾を捲くった。腿を這う冷たい掌。ナルトは、「ああ…」と思う。自分が何をされようとしているのか、咄嗟に感じてしまった。もう、シカマルに自分の声は届かない。すでに、抵抗する気も失せていた。 肉を割りながらナルトの中に入ってくる、熱い塊。秘所が痛みで引きつる。強張るナルトの身体は、ゆっくりと揺すられた。その度に、激痛がナルトを襲うが、だからと言って意識が飛んでしまう程ではない。 何度か抽出を繰り返したシカマルが、ぎゅっとナルトをかき抱いた。 「俺は、明日の朝には山を降りる……里に、帰る」 シカマルの言葉にナルトはぴくりと反応した。 「もう、こんな事はしねえ。お前を……傷つけない。お前は、好きなだけここに居ても構わねえし…」 シカマルはナルトの項に唇を寄せた。震えるナルトは何を感じているのだろうか。彼を見る度に、思いとは反対の行為で傷つけてしまう。このままナルトと一緒に居るのは、ナルトを傷つける事にしかつながらないのだ。それならば、潔く山を降りよう。そして、サスケにでもナルトを託せばいいのだ。ナルトの居た世界に、彼を帰してやる。醜い感情が自分を包みこんで、ナルトを嫉妬の業火で焼き尽くしてしまう前に。それはシカマル自身が望む事ではない。初めて会った頃のように、笑顔を交わす事は許されないのだから。醜い肉の塊をナルトの中から出す。それから、まんじりともしないナルトをじっと見つめてシカマルはその部屋から逃げるように姿を消した。
瞳から自然と溢れた透明な雫が、顔を伝って畳に沁み込む。ナルトは瞬きも忘れ、じっと敷かれたままの布団を見ていた。正しくはその布団の下から少し見える和紙の端っこを見つめていたのだ。 かたかたと身体が震える。 シカマルの言葉を頭の中で反芻させた。
< 俺は、明日の朝には山を降りる……里に、帰る >
シカマルが山を降りると言う事は、里で待つ婚約者と祝言をあげると言う事だ。もう、時間の残されていない自分の命。その命が尽きる前に、シカマルがナルトの前から居なくなってしまう。最後の最後までシカマルと一緒に居たいと思っていたナルトは、突き付けられた現実に恐怖を覚える。 『シカマル…シカマル…』 ぎゅっと手を握り締めて、身体を起こす。シカマルがこの部屋を去ってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。その感覚すらナルトの中にはない。身体を動かす度に、シカマルが入っていた部分が痛む。ナルトはそっとそこに触れてみた。指先に触れる、ぬるりとした感触。指についた自分の血液をじっと見つめる。 『真っ赤だってば……』 その赤をナルトはキレイだと思った。不思議と心惹かれる色だったのである。
< 妖狐に戻りたいなら、そのクナイであの少年の心臓を一突きすればいい。君はその血を浴びる事で、妖狐に戻る事ができる >
カブトの言葉がナルトの耳元に甘い誘惑を囁く。布団の下に手を入れて、指先に触れる鉄の柄をぎゅっと握った。それを取り出すと、自分の顔の前にクナイを翳した。 『シカマルの血で……オレは妖狐に戻れる……?』 ナルトは優しい両親の顔を思い出していた。慈しみ、いつも抱きしめてくれた温かい腕。穏やかな妖狐の里。甘い香りのする風に、陽の光を反射してきらきらと光る水面。大好きだった、世界。野山を駆け巡り疲れて転寝した縁側。そっと肌掛けを掛けてくれるクシナに、優しく頭を撫でてくれたミナト。 ナルトはよろよろと立ち上がった。乱れた着物を直す気にもなれない。ずるずるとそれを引きずりながら向かった先は、シカマルの寝所である。その襖の前でナルトはじっと立ちつくす。 もう、身体の痛みは感じない。感じるのは切り裂かれる心の痛みだけだ。襖に手を掛け中を見ると、部屋の真ん中に敷かれた布団がこんもりしていた。 ナルトのだらりと垂れ下がった手には、カブトから渡されたクナイが握られている。膝をついて、シカマルを覗きこむ。彼はすうすうと寝息を立てていた。その表情が穏やかに見えるのは、どうしてなんだろうか。掛け布団をそっと捲ると、シカマルの身体を仰向きにさせる。そして、その左胸に掌を当てた。 とくり、とくり……指先に伝わってくるのは、シカマルの心臓の鼓動。ナルトの頬を新しい涙が伝った。ナルトは命が惜しくなったのではない。シカマルが、自分の知らない誰かと結婚するという現実が、その思考を捻じ曲げさせ、精神錯乱状態へと追い込んで居たのだ。 自分のものにならないのならば、その命を奪ってしまいたい……初めて感じるナルトの妬心だった。 シカマルが知らない誰かと一緒に笑い、子をもうけ、命を繋いでいく。彼の幸せを祈っているだけでよかったのに、共に居られなくても、彼が笑って居てくれれば満足だったはずなのに。 クナイの切先をシカマルの心臓に当てる。ちょっと力を加えれば、ナルトが手の平で感じた鼓動は止まる。シカマルの瞳は誰の姿も映す事はなくなるのである。 『シカマル…』 ナルトの両手が震えた。 『シカマル…大好きだってばよ』 シカマルが望んでくれなくても、彼と離れたくない。 この身体が朽ち果てようとも、ずっとシカマルを見守り続ける。陽となり、風となり、雨になり、花になり、大地に溶け込み……ずっとシカマルの傍に居たい。 ナルトはシカマルに対する気持ちが、心の中に溜まった闇を振り払ってくれるのを感じる。指先の震えが止まった。クナイをそっとシカマルの胸からどかす。それから、そっとシカマルの唇に自分の唇を寄せた。 きっと、これは最後の口づけ。彼が山を降りてしまう前に、自分は居なくなるのだ。この山に溶けてしまおう。雄大な自然はどんな思いも浄化してくれるのだと、自来也から聞いた事を思い出した。それが本当ならば、この気持ちは消える事はない。初めて愛した人間を、シカマルに対する思いも、この醜い感情も全て一つになり、浄化されればいい。 そして、願おう。シカマルが幸せに、笑顔になれるように。この身は朽ちても、この気持ちだけは永遠に消える事はないのだから。唇に伝わる温もりが、ナルトの後ろ髪を引く。 『シカマル…今まで、ありがとだってばよ』 ナルトはすっとシカマルから離れると、ゆっくりと部屋を後にした。 シカマルはナルトの気配が消えて、そっと目を開ける。彼がこの部屋に入ってきた時から意識が覚醒していた。ナルトが何をしようとしていたのかも、すぐに分かった。とても当たり前の事だ。自分はナルトに殺されても文句は言えない。そう思っていたシカマルに与えられたのは、ナルトの口づけだった。シカマルは頬に残ったナルトの涙を指先で拭う。 「ナルト…」 じっとナルトの涙を見つめたシカマルは、慌てて飛び起きた。
シカマルの家の縁側から小さな池が見える。不意に月の光が反射してとてもきれいだった事を思い出す。 月が消えてしまったこの庭は真っ暗だ。ナルトは裸足のまま庭に降りると、おぼつかない歩みでその池に歩み寄る。 シカマルにクナイを突き付けた瞬間、クシナの笑顔が浮かんできたのだ。父親に対する気持ちを語る彼女はとても美しかった。誰かを好きになる理由は後から付いて来るものだと笑ったクシナは少女の様で、なのに凛としていてとても美しかった。自分も彼女のように純粋な思いを抱いたまま死んでしまいたい。シカマルが、人間だから惹かれたのではないのだ。どこにも理由なんて存在しない。彼を助けた理由も、惹かれた理由も、どこにも存在しない。心が先に行動したのだ。初めて感じた情熱に、愛と言う感情が重なった。 大蛇丸が自分の妖狐の力を欲するのならば、いくらでもくれてやる。だけれど、この思いだけは消してしまいたくはない。シカマルを好きになった事に、後悔は一つもない。 だから、サスケがくれたこのクナイで自分はこの世界にお別れを告げようと決心がついたのだ。サスケの思いは受け取る事は出来ないけれど。 ナルトは微笑を浮かべながら、クナイを天に翳し一気に喉元に向かって突き刺した。
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えっと、なかなか更新できなくてごめんなさい。
今回の話は、2パターン考えてたんですが……
やっぱ痛い展開を選んでしまいました。
書きながら、キッツイなぁと。
マジで思ったのでした(-_-;)