ペット

 

 

 

END ROLL 7

 

 

 意識だけが冴える。抱きしめられている身体は、人肌の温もりを感じていると言うのに、やけに感覚だけが冷めていた。ナルトは溜息に近い息を吐くと、そっと我愛羅の腕を外しベッドの上に膝を抱えて座った。穏やかな寝息を聞きながら、朝が来るのをじっと待つ。

 視線を彷徨わせて、最後には我愛羅に戻す。そして、そっと彼の髪を撫でてみた。柔らかいさらりとした触感。

「……ごめん」

 こんな事を言うのは反則だ。だから我愛羅には聞かれてはいけない謝罪の言葉。彼の感情を利用して、自分の欲を満たしたのだ。そう満たされるはずだった。それなのに訪れたのは、やけに空しい時間だけ。汗が引いて身体の熱が一気に冷めて、怖いくらいに心が凍えた。

 優しくされたから。優しく扱われた記憶しかないから、その分自分自身の存在が卑劣でしかない姿しか見えない。酷いだとかずるいだとかでは済まない道徳的観念の欠落。結局は自分が大切で護る事しか考えて居ないのだ。現実逃避をしようと事実から逃げても、一時の何かは存在したとしても残るものは真実という現実でしかない。

 窓の外が薄っすらと白んできた。心の中で蜷局を巻いていた黒い感情はなりを潜めているがなくなった訳ではない。ただ、我愛羅という存在に癒されたのは確かなのだろう。

 ナルトが望んだのは、穏やかな時間でなかった。もっと衝動的で破壊的なモノ。

「ん……っ」

 身じろいだ身体。ナルトはゆっくりと瞼が開くのをじっと見つめてしまう。ナルトの視線に気が付いたのか我愛羅が口元に笑みを浮かべる。

「おはよう、ナルト」

「……おはよ」

「眠れなかったのか?」

「違うってばよ」

 我愛羅がそっとナルトの腕に触れると、その肌が冷えている。嘘も上手につけない不器用な彼の精一杯の笑みに騙されようと思ってみた。

「でも、また寝るから!」

 我愛羅の視線から逃げるように布団にくるまったナルトは背中を向けて、ぎゅっと枕に顔を押し付けていた。その背中の肩甲骨の辺りに我愛羅が唇を寄せる。びくりと僅かだけれど反応したナルトに苦笑しながら、意地悪をするつもりで肌をきつく吸う。

「……嫌か?」

 声も発することなく、触れた瞬間のように反応する訳でもなく我愛羅の行為を甘受しているナルトはふるふると首を振る。

「あのさ、我愛羅……昨日は、その……」

「何があったのかは、話したいときに話せばいい。だが、俺はお前に後悔すると言っただろう?」

「……後悔は、してねえ。でも、」

 ナルトは言葉を飲み込む。我愛羅の気持ちを知らない訳ではない。知っていて彼を誘って関係を持ったのだ。どれほど人の気持ちを弄んだのかという後悔はあるが、我愛羅とのセックスに後悔はない。

「……オレは特定の誰かと、付き合うとか……そうゆうのは今考えられなくて」

「そうか」

 彼の手は心地よいけれど、彼の与えてくれる毎日は穏やかだけれど。それは、どこか偽りめいていて子供の頃に読んだおとぎ話のような気もする。

「お前に許されたと思ったんだが、それは俺の都合のいい思い込みだったようだな。あんな風に取り乱すナルトを見たのは初めてだったし……」

 ただ、セックスしたいと言われたのだ。それ以外のつながりはいらないとも取れるような言葉で。その場限りの交わりなのかもしれないが、我愛羅にとってナルトはずっと思いを寄せている相手である。愛しいと思う相手からの誘いを断れる理由はどこにも存在しなかった。決して受け入れられる事がないと思って居た気持ちを一瞬でもいいから許されたような錯覚を覚えた。

「―――――― 我愛羅は優しすぎるってばよ……」

「そんな事はない」

 誰でも美味しそうな餌を目の前にぶら下げられて我慢なんて出来ないだろう。一時だろうが幻だろうが千載一隅のチャンスを逃すような事もしない。それでも我愛羅の中には少しだけ自覚した意地悪な感情がある。ナルトが何かから逃げたくて、多分それはシカマルの事だと意識のどこかで認識してしまった。それから逃げたくて自分に縋った事も予測できた。だからこそ、彼の意に反してナルトを抱くときに優しく接したのだ。もちろん、ナルトに酷い事をするなんて事は考えられない。それを本人が望んだのだとしても、どうしても頷く事はできないだろう。

「特別に……お前を束縛する気なんてないから安心しろ」

 ない物ねだりな感情はナルトを好きになった瞬間に捨てたのだ。ナルトには恋人がいて、その恋人の事しか頭にない事は分かっていたし、自分の気持ちが友情を超えて届くはずがないと思って居た。それは悲しい事に、現在進行形である確信もある。自分にとって初めて手に入らないものがナルトという人間だった。だから、彼に関しては多くの事は望まない。今の関係が少しずつ変化したとしても、幸せな結末が待っているという感傷は疾うの昔に捨てたのだ。

「だから何も気にする事はない」

 ナルトの逃げ場所を無くして無理矢理でも自分にものにしたい衝動がどこかに存在していて、それでも自制できるのは彼という存在を無くしたくないと言う恐れが我愛羅の中にあるからだ。

「さて、ナルトはもう一度寝るんだったな」

「…うん、我愛羅……」

「なんだ?」

「おやすみ」

 毛布に包まった背中を見つめた我愛羅はくすりと笑いながらベッドから身体を起こした。

 

 

■■

 

 

 手を繋ぐのが好きだ。指が絡まったり、ぎゅっと握られたり、キスされるのも好き。

 全力疾走した後みたいに息を切らしながらナルトはシカマルを抱き寄せた。

「……シカマル」

「どうした?辛いか…?」

 男同士のセックスはどうしても受け身の方の負担が大きい。額に浮かんだ汗によって前髪が張り付いている。自分を見上げてくる瞳は潤んでいて、少しだけ熱を持った涙の膜が暗闇の中で僅かな光源に煌めいて見えた。

「大丈夫」

 強がりな一言にシカマルはふっと笑う。

「嘘つきだな」

「……シカマルだから、大丈夫なんだってばよ」

 望んでいるものは多くない。ぎゅっとシカマルの指に絡めた指先に力をこめる。

「それは俺が自惚れてもいいってこと?」

「さあな〜」

 好きだという感情がどんどんと大きくなるにつれて、手を繋ぐだけでは足りなくなってきた。唇を合わせるだけでは満足できないようになってきた。当たり前の成り行きで身体を合わせたのはいいけれど、それはそれは身体的にもショッキングな出来事であったのには変わりない。繋がるとかひとつになるとかの精神的な歓喜を味わうはいい。だけれど、その感情に比例して易々とシカマルを受け入れられた訳ではないのだ。それは、身体の構造的にという意味で。

「お前が辛いばっかじゃな」

 ぽつりとシカマルが呟いた言葉に、ナルトはじっと彼の顔を見るめる。慈しむみたいな優しい瞳を向けられて心が満たされていくのを感じる。シカマルに、思われていて求められていて、それがこんなに嬉しくて愛しくて堪らない感情を生むのだ。

 長くて男らしい指が、そっとナルトの髪をすく。そんな些細な事にも胸が締め付けられるみたいに切ない。

「……そんな事、ないってばよ」

「そんな事って?」

 ぴたりとナルトにくっつきながら、シカマルは器用に首を傾げた。

「……えと……」

 ナルトはぼぼっと顔を真っ赤にする。言葉にするのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。口を開こうとしてみるが、真剣な顔つきで見られてますます羞恥心が増した。

「つら、い…ばっかじゃ……ないから」

 必死になって振り絞ってみたのはいいけれど、上手に伝えられない分ナルトは唸りながら眉を顰める。

「ん?」

「だから、スルの……」

「気持ちいい?」

 シカマルの言葉に背筋にぞくりと走ったのは快感の前触れ。

「……―――― ウン」

「痛いだろ?」

「痛いだけじゃなくて、その……」

「だけじゃなくて?」

 耳元に響く低音。耳朶をなぞる様に触れる唇。ぺろりと舐められて、びくんと肩が震えた。

「……知ってる」

「シカ…マル?」

 指先が首筋をくすぐる。くすぐったくて身を捩るが、身体の中で燻り始めるのは快感でしかない。

「最初は、指一本でもすげー辛そうに顔を歪めてるのに……だんだん足りねえって目で俺の事見てくるよな?指を増やしてかき回して、すっげーぐちゃぐちゃに熱くなる頃には……お前、指じゃ我慢できなくなってるだろ」

 煽られているのはなんだろう?羞恥心だけではない、ナニカ。シカマルの精を受け止めた後腔がきゅっと収縮する。それを知っているかのように、肌をくすぐっていた指先が当てられた。

 プツン、と中に入ってくる確信犯の指。

「ん…っ」

「ほら、足りねえだろ?」

「や…っ……シカ、無理……もうっ…!」

「すげー熱い」

 いつの間にか増やされた指が、ナルトの中を弄ぶ。シカマルは空いている方の手でナルトを自分の下半身へ導く。

「シカマ……」

 熱い陰茎に導かれた指を条件反射のように絡める。

「辛いか…?」

 シカマルの声は魔法みたいだ。鼓膜に響く甘い罠。

「俺はお前が足りない」

 吐息を吹き込むみたいに囁かれて、ナルトはきゅっと目を瞑った。すぐに瞼を開いてから大好きな人の顔をじっと見つめる。自分から唇を寄せる。精一杯の同意の合図。ぺろりと舐められた唇。そっと開くと当然のように絡まる熱い舌先。すぐに吐息まで飲み込むくらいの深い口づけに変わる。

 孔に当てられた熱い肉の感覚に息を飲む。ぐっと入ってきた切っ先に一瞬だけ呼吸が止まった。いつも挿入される瞬間は緊張してしまう。先を飲み込んだ器官が、ゆっくりとシカマルを受け入れて一つになる。シカマルの吐いた白濁がより潤滑にその行為を容易なものに変えていた。

「あ…っ、んっ……」

「ナルト」

「…はっ……っん…っ、だいじょ……」

 シカマルが自分の中を満たしていくを感じる。擦れる粘膜が快感を起こし、脳髄にまでその感覚が響いて行くのを感じるのだ。

 泣きたくなるような、満たされる気持ち。心地よくて堪らない。繋がっている部分は熱くて堪らないのに、抱きしめられる腕も重なる肌の感覚も温かくて気持ちいい。

「ナル……」

 切羽詰まったような声色で名前を呼ばれるのが好き。

「シカマル……」

 泣きたくなるくらい、幸せを感じる瞬間。

「愛してる」

 ほら、与えられる言葉は全て信じる。溶けてしまいそうな熱も、穏やかさを感じる温もりも、全てが彼の与えてくれるもの。与え合っているもの。愛だとかの本当の意味なんて分からないけれど、この瞬間だけは本能で、愛を感じる。愛しい気持ちを感じる。

 途切れ途切れの嬌声が闇に紛れて、永遠にも似た感情が胸を占めた。

 

 

■■

 

 

 ナルトは重たい瞼を開く。

 隣で寝ていたはずの我愛羅の姿はない。太陽が高くなっているから、朝と言う時間ではないのだろう。ぶるりと震えた身体を両手で抱える。

シカマル以外の誰かと――それが男とか女とか性別の問題でなく――セックスするなんて考えた事なかった。彼との間には、身体を重ねる意味があったのだ。好きだから、ただ愛しいから……いつまでも続く感情だと、心のどこかで信じていたから。

いつからだったろうか?ある種の執着に近いセックスを要求されるようになったのは。自分の身体の負担を気にしながら抱いてくれていた頃とは違って、お互いのぎりぎりまで求めあうようになった。

「……そっか……」

 お互いに飢えていたのだ。学生というぬるま湯に浸かっていた生活から、社会に放り出されて。二人きりでない時間が増えて、大切にしているものが一つでなくなって、守りたいものが沢山できた。そんあお互いの焦燥感を埋めるために、切羽詰まったようなセックスを楽しむようになったのだと思う。

 いつでも、怖かった。それはナルトだけの感情でなく、シカマルもそうだったのだろうか?どこか余裕で笑顔を向けてくるように見えていた彼にも……同じような焦慮があったのだろうか。

 脆くて危うくて、そんな関係に……不安を感じて。どこかでシカマルから逃げ出したかったのかもしれない。愛情と憎悪が背中合わせであると気が付いた時から、心の中のどこかで。

「それでも、………」

 どんなに、醜い感情に心を支配されても自分と言う存在を求めて欲しいという願望が―――……

 

 

 

 

  

 

 

 

少しずつだけど、これでも終盤に近付いてます。

我愛羅好きなのに、こんなひどい目にあわせてゴメンなさい((o(;;)o))

つか、シカとナルの壮大な痴話喧嘩に巻き込まれてる周りの人たちの話??

 

随分長い事書いてなかったので、ちょっとつらかったりします。

早くハッピーエンドが描きたい…(;д;)