キャリアアップ

 

 

 

END ROLL 6

 

 

「社長、お電話ですよ。二番に、當山(とうやま)さんっ」

 事務所に入った途端に声を掛けられたナルトは、社員への挨拶も出来ない状態のまま自分の部屋へ向かう。点滅している電話のフックを上げると、いつも世話になっている當山の明るい声が聞こえた。造園についてかなりの知識を持っており、決まって石関係やモチーフは當山の経営する石材店に依頼していた。當山は親と言ってもいいくらいナルトより随分と年上である。だが、仕事に対するナルトの拘りや姿勢を気に入ってか、可愛がってくれる取引先の一人だ。

 話を終えてスタッフの元へ戻ると、お茶を差し出される。

「おはようございます。當山さん、何の用だったんですか?」

 ナルトは熱いお茶をすすりながら、椅子に座った。

「なんか、たまには顔出せだって。最近は當山のおっちゃんトコ行ってなかったもんなぁ」

「當山さんとこ行かれるんだったら、これ頼みますよ〜」

 差し出された発注書を見てナルトは納得する。當山の会社の近くには、贔屓にしている窯元がある。年が明けてから一度挨拶へ出かけたきりで、取引先のいくつかはゆっくりと立ち寄る事もできていない。

「それじゃ、行ってくるってばよ。持ってくの、コレだけでいいのか?」

 各自に与えられた仕事をこなしているスタッフに挨拶を済ませると、再び車のキィを手にして駐車場へ向かった。

 

 

 もうすぐ春が来る。梅の花が咲いているのが見えて、もう桜の蕾も枝についているのを確認した。それなりに多忙な生活と、安定した毎日にナルトも少しずつ平穏を取り戻しつつあった。慣れた道を走りながら、今晩来ると言っていたテマリに當山の会社の近くにあるカフェのケーキを買っていこうと思いつく。我愛羅との距離感は適当なもので、彼の優しさに甘えてばかりなのだけれど、彼の与えてくれる環境が自分にとってプラスになっていると感謝している。早めに帰れそうならテマリに連絡して、我愛羅を食事にでも誘ってみようか。そんな事を考えて居ると小一時間のドライブもあっという間に終わってしまった。

「こんちわ〜!」

 事務所へ行くまでの庭を堪能したナルトは機嫌よくドアを開けた。

「おう、らっしゃい」

 シワの数は人生の道だと言う當山は、彫の深くなった顔に笑いシワを刻み付けて笑顔で迎えてくれる。まもなく着工する庭の資料などを手に席に着く。當山夫人がナルトの好きな緑茶を淹れてくれた。

「どうだ?最近の景気は」

「ま、ボチボチみてーな感じだってばよ」

「今のご時世、ボチボチでも感謝しねえといけねえぞ?」

「……だってばね。ま、こうやっておっちゃんと仕事が出来てオレは幸せ者だってばよ」

 環境が変わったのは確かなのに、仕事だけは順調だ。當山とも仕事に関しては何度もぶつかった事がある。プライベートでは仕事は別として可愛がってくれていて、ナルトもつい本当の親のように頼ってしまうのだ。

「おっちゃんの元気そうな顔見ると、オレ落ち着く」

 変わらないものが自分の中に存在しているようで。柔らかい笑みを見た當山は少しだけ表情を曇らせる。何故だかそれが不思議で首を傾げたナルトに彼は曖昧に笑みを零しただけだ。

「孫がな……犬が欲しいとか言いだしてよ」

「へ〜…そっか」

「それでな…、ナルト」

 言葉を濁すようにしていた當山がばっと頭を下げる。

「すまねえ、ナルト」

「おっちゃん……?」

「俺は本当に知らなかったんだ」

「ど、どうしたんだってばよ。顔を上げてくれって……」

 突然の當山の詫びにナルトは困惑するしかない。渋い顔つきのまま話を続けた當山は、依然ナルトに紹介されたブリーダーに子犬の相談をしたと言うのだ。ナルトが付き合っていた友の中で、一人だけ古くからブリーダーを務めている家がある。と言うか、彼以外は知らない。

「おっちゃんは悪くねえ。……別に、キバとも喧嘩別れしたって訳じゃねえんだ」

「いや、でも坊主はそうは言ってなかったもんでてっきり……」

 喧嘩ではない。いきなり、ナルトの方から彼との関係を絶ったのだ。ナルトは首を振る。大丈夫だと言う笑みも加えた。當山が頭を下げるという事は、彼が心から悪いと思っているからだ。体裁だけで頭を下げるような男ではない。

「頑固ジジイの當山のおっちゃんがオレに頭下げるなんて、らしくねえってばよ。それに、オレがキバとの事おっちゃんに言ってなかったんだし……おっちゃんが知らなかったのは当たり前で、オレはそれを信じるってば」

 嘘はつけない當山の顔がくしゃりと歪む。

「ナルト、すまねえな」

「良いって言ってるってばよ!」

 これがシカマルと決別したすぐ後ならば混乱もしたかもしれない。キバとは最後の最後に迷惑をかけたまま別離してしまったのだ。本来ならばナルトから連絡を取って謝らなければいけない。だけれど、今の生活が落ち着くまではと、現実から逃げていた。

「オレも……キバと気まずい感じだったから連絡はするつもりだったんだって。だから、おっちゃんは気にする必要はねえし」

 ナルトがへらへら笑っている時、キイッと扉が開く音がする。思わず音のした方を振り返ったナルトは、一瞬固まってしまった。

「ナル…ト?」

 扉の向こうから現れた久しぶりに見る親友の姿にナルトは瞳を大きくする。當山はまさかこの場所にキバが現れるとは思ってなかったのだろう。勢いよく立ち上がってスネをぶつけている。驚愕しているのはキバも同じみたいだ。まさか、この場所にナルトが居るとは思って居なかったのだろう。

「……キバ、久しぶ、り」

 声が上ずってしまう。キバは眉間にシワを寄せると、ちらりと當山を伺った。

「ナルト、時間あるか?って言うか、作れよ」

「う…ん」

 少し強引に聞こえるキバの科白にも頷くしかない。

「仕事じゃないって奥さんから伺って、子犬連れてきたんで……」

「おう!じゃ、飼い方とか…教えてもらわねえとな」

 緊張した當山とキバの視線が狼狽しているようにも見えてナルトはくすりと笑ってしまった。これは當山なりにナルトの事を考えての作戦だとピンときてしまった。きっとキバは自分との件の深い話を彼にはしてないだろう。それでも、なんとなくキバとナルトの溝に気が付いた當山がこの場を取り計らったのだ。キバの驚いたような態度からも、ナルトがここへきている事は想定外のようにも見えた。

「オレも子犬、見てもいい?」

 ホッとしたような當山の顔にナルトは心の中で頭を下げる。自分に対する好意を当たり前に受け取っていたナルトは、まだ口にはできないけれどいつか當山に対して感謝の言葉を伝えたいと思った。

 

 

 當山の家を出て、近くのカフェへ向かう。流行りのドックカフェと言うやつでキバが飼っている愛犬の赤丸も一緒にお茶をする事になった。

「……元気、か?」

 沈黙を先に破ったのはキバだ。赤丸の頭を撫ぜて、ナルトに視線は向けていない。

「ま、元気……だってばよ」

「そうか」

「そうだってばよ」

 ナルトはそう言ってから赤丸の顎を撫でた。久しぶりのナルトの匂いに赤丸もクウンと鼻を鳴らしただけで、また重たい沈黙が流れてしまう。いつもはふざけた掛け合いみたいな会話をしていたはずなのに、お互いに言葉を探しているような空気。ナルトは無くしてしまった大切なものが目の前にあるような気がしてならない。

「あの時は、悪かったってばよ。キバに病院に送ってもらったってのに……」

「……病院に連絡しても、知らぬ存ぜぬ。慌てて探してもお前の影も見当たらねえ…どんな魔法使ったんだか」

「それは……」

 意識を手放す前に偶然会ったネジに我愛羅へ連絡をつけてもらったのだ。その後の事は他人任せで自分でもよく分かっていなかった。

「実を言うと、キバが病院連れてってくれただろ?そこにネジがいたんだ……んで、転院を無理矢理頼んだ」

「ネジって……あのネジかよ?」

 我愛羅の名前はあえて出さない。ナルトはこくりと頷いただけだ。

「ヒナタの旦那の日向ネジだってばよ」

「マジ、かよ……?」

 キバはぽかんと口を開けている。それはそうだろう。ヒナタはキバの幼馴染と言うやつで、多分キバは今も彼女とのつながりがあるはずだ。

「ヒナタか……頭になかった。灯台元暗しな気分だぜ」

 キバはくすっと笑うと、ようやくカフェオレに口をつける。

「キバに……迷惑、かけたくなかったんだ。チョウジにも同じこと言えるかな。……オレの事、知ってるのに知らないふりとかさせたくなかった、ってのは言い訳かもしんねえ。なんか、シカマルとの繋がり全部切っちまわねえとオレが踏ん切り………つかなかったんだ」

「せっかく姿くらませようとしてんのに、すぐに足がついちまうしな」

 少し嫌味なキバの言葉に反論は出来ない。保身の為に、大切な友人を切ったのはナルト自身なのだ。

「悪りぃ…責めるつもりなかったはずなのに、憎まれ口しか叩けねえよ」

 キバは苦笑すると困ったような表情でナルトに視線を移した。ナルトはキバの言葉を否定する意味で首を振る。

「俺はお前に悪いと思ってる。だから、當山さんから連絡もらった時はすげー嬉しかった。あんな、……別にシカマルを庇う訳じゃねえけど、アイツ……一応、お前ン事探してるみてーだ。俺もそれは同じだぜ?ま、アイツとは違った意味でだけどな。だけど、シカマルはお前の仕事関係には、入り込まねえってルール決めてたみたいでよ」

「……そうか」

 シカマルならば、ナルトの会社の取引先や良くしている人も知っていた。もちろん、会社の事務所などは移転したが仕事をする上で屋号などは変えて居なかった。調べようとすればすぐに新しい事務所も分かるはずである。頑なに現在の住まいは誰にも明かしては居なかったのだが……

「俺は……ナルトの仕事っちゅう領域に踏み込んだ。それは謝らなきゃいけねえよな?當山さん、俺達の事知らなかったみてーだし」

「それは、ホントにいい」

「踏ん切り、ついたのか?」

 ナルトは「わからない…」と小さな声で呟く。社会人になってからは、頻繁に会う時間もなかった。その延長上であると言えばそうなのである。自分の世界から本当にシカマルの全てが消えてしまったのかなんてナルトですら分からない。ただ、考えないようにしているのだけが本当の所である。

「シカマルの結婚の事、知ってたのに……お前に連絡つけるとかお前の気持ち聞くとか、そうゆうのできなかった自分がすげー情けねえんだ」

「キバ……?」

「そうだろ?俺ら、ダチじゃん」

 キバの事が嫌いな訳ではない。あの時は、こうするしか思いつかなかったのだ。時間もなく切羽詰まっていて気持ちの整理もつかなかった。ただ、シカマルとこれからも一緒にいる自信がナルトにはなかったのだ。好きだから、許せない。許すことが出来なかった。話を聞いて、丸め込まれるのも嫌だった。きっと、シカマルから愛していると言われたら……きっと許してしまう自分が、……居たのだ。そして、それは今も心の片隅にある隠している感情。顔を見たら、存在を確認したら、愛しい感情に押しつぶされてしまう。そして、堂々巡りを続けてしまう事が嫌なくらい分かっていた。

「シカマルにはもう……会わないって決めた。まだ自分でも自分が分かんなくて、……落ち着いたらキバにも連絡しようと思ってたんだって。すげー、狡いけどさ……自分がそうできるようになるまで逃げてたかったんだ」

 どっぷりとぬるま湯に浸かるように、今の生活に溺れてみたかった。

「狡くって情けねえけど、まだオレ逃走中なんだってばよ」

 ナルトの笑顔を見たキバはきゅっと唇を噛んだ。気持ちの整理には時間を要するだろうし、シカマルとナルトの関係からその時間がどれだけかかるかなんて予想が付かない。キバは、自己満足するためだけにナルトの元へ押しかけてしまった気分で、申し訳ない気持ちになる。

「オレの問題にキバを巻き込んだのは悪りぃって思ってんだ。だから、許してくれってばよ」

「連絡、しても……いいのか?本当は俺と会うのもキツイんじゃ……」

 ナルトはふっと笑う。確かにキバのいう事は尤もなのである。キバとの思い出がシカマルとの往時に直結する事が多い。

「そん時は愚痴聞いてもらうってばよ」

 ナルトは新しい携帯の番号が入った名刺をキバに渡す。キバが照れくさそうにそれを仕舞っていると、二人の隣を通り過ぎた影が引き返してくる。

「やっぱり!犬塚さん、お久しぶりです」

 キバに話しかけた女性は軽く頭を下げた。美人の部類に入る彼女は穏やかな笑顔をキバに向けた。ナルトは驚いたように言葉を失っているキバの肘を突く。

「キバ?どうしたんだってばよ…?」

「……わり、あ…また連絡する」

 キバが立ち上がった事で彼女の方が驚いてしまったようだ。

「ごめんなさい、私が図々しく声を掛けてしまって」

「いや、いいんすよ。もう帰るところで」

 キバがかしこまって話すのをナルトはじっと見つめる。キバの分かりやすい行動は彼女の言葉を肯定してしまっていた。

「やっと安定期に入って落ち着いたから、ホームパーティでも開こうってつい先日シカマルさんとも話してた所で……お見かけしてついつい。お仕事のお邪魔をしてしまったみたいね」

 耳を通り抜けたシカマルの名前に、咄嗟にキバの顔を見上げる。それから、申し訳なさそうに笑みを作る彼女の姿を視界に入れた。ふんわりとしたワンピースの腹部がふっくらとしている。それからもう一度、キバに視線を向けた。チラっとナルトを見たキバの瞳の色を見て、すぐに自分の疑念が確信に変わる。

 ナルトは胸がむかつくのを感じた。テーブルの上に置き去りになっていた車のキイを取ると、伝票を手にする。キバの、しまったという顔つきに片手で挨拶をする事が精一杯の虚勢だ。

 とりあえず、この場から去りたい。レジに札を置くと、釣りをもらうのも煩わしく駐車場まで歩いた。自分の車が見えた事で何故かホッとして、気丈に振る舞っていた心がポキリを折れる。膝をついて口元を抑えても嘔吐感まで抑えられない。ゲホゲホと咳き込みながら、胃の中のもの全てを吐き出してしまう。呼吸が苦しくて、目尻からぽろりと生理的な零れた。地面の砂利をぎゅっと握って、ぽたぽたと落ちる涙を止められない自分が情けなくてしょうがない。

 キバが紹介しなくても、先程の女性がシカマルの結婚相手である事は容易に想像がつき、彼女が妊娠中である事も分かった。

 渦巻く黒い感情。頭の中をフラッシュバックする、幸せそうな笑顔。彼女の手をシカマルは取ったのだろうか?どんな言葉を囁いて、彼女の腹を撫ぜるのだろう?

 嫉妬なんて言葉では片付けられない憎悪がナルトの心を占める。そんな資格は自分にないと、もう一人の自分が大きな声で自分自身を罵っていた。

 

 

 

 

 鍵を開けて、それからふら付く足取りで三和土に倒れ込んだ。身体はフラフラなのに、頭は嫌なくらい冴えている。アルコールに弱い事はナルト自身がよく知っていることだ。いつもならすでに酔っぱらって眠ってしまっているくらいの量を摂取しているのに意識だけが妙に覚醒している。

「ナルト?」

 物音に気が付いた我愛羅が奥から出てくる。ナルトは座りこんだままで、彼を見上げた。

「来てたんだ…」

「飲んでるのか?」

「飲んでるってばよ〜」

 急に笑いがこみあげてきた。我愛羅はナルトの脇に落ちていたキイを拾った。

「もしかして、自分で運転……してないだろうな?」

 説教するような口調にナルトはヒラヒラと手を振った。

「ンな訳ねえじゃん。タクシーで帰ってきたってばよ」

 ケラケラと笑うナルトをただの酔っ払いだと決めた我愛羅が抱き起した。ふわりと我愛羅の香りが鼻につく。ボディシャンプーはずっと銘柄を変えていない。それをこんなに後悔するなんて思ってもみなかった。こんな瞬間に、思い出したくもない奴の顔が脳裏にチラつく。ナルトは脇を支えてくれる我愛羅にぎゅっとしがみ付いた。

「どうした?気持ち悪いのか……?」

 もう吐き出すものなんて残っていない。ナルトはふるふると首を振ると、抱きついた腕を絡めたままそっと我愛羅を見上げた。

「な〜我愛羅。オレんこと、好き?」

「やっぱり相当酔っぱらってるな、お前」

「好きじゃねえの?」

「帰ってきていきなり絡むな」

 話をそらそうとする我愛羅に食い下がる。好きだと、言われたい。自分だけが好きだとはっきり言葉で聞きたい。我愛羅は自分の気持ちを隠そうともしないが、はっきりもさせない。それはナルトの逃げ道を奪わない彼の優しさだ。

「オレは、すげーズルイし……嫌な奴だし、好きな訳ねえかぁ…」

「ナルト……」

「なに?」

「自分を蔑むような言葉を口にするな」

「なんで?いいじゃん、別に。我愛羅には関係ねえだろ」

 我愛羅の困った顔を見たナルトはふっと笑うと、彼の唇に自分のそれを押し付けた。数秒重ねた唇を離すと、にっこりと口の端を上げる。

「すっげー……セックスしてえ」

「ナル…ト?」

「我愛羅は抱かれんのと抱くのと、どっちがいい?オレとしては、すげー抱かれてえ気分なんだけど?」

 挑発的な視線を送って、そのまま唇を再び寄せた。熱い舌で我愛羅の唇をぺろりと舐める。

「セックス、しねえ?」

「何をいきな…――――― 」

「好きじゃなくてもいいってばよ。嫌いじゃねえくらいなら、それでいい。ただ、シタイだけ。それが理由じゃいけねえの?」

 好かれていると、甘やかされていると、知っている。だから、今まで彼に甘えてきたのだ。好意を利用するみたいに壁を作って、ボーダーラインを引いて、お互いの領域が重ならないようにしてきた。

「後悔、するぞ」

 我愛羅の言葉を否定も肯定もしない。そんな狡い自分が快楽と言うものだけを求めているのが分かる。ドロドロに溶けてしまいたい。何も考えたくない。

 叫びたくて、泣きたくて、……誰でもいいから縋りたくて。

「……オレんこと、めちゃくちゃにしてくれって……ンな事言えんの、我愛羅しかいねえ」

 潤んだ瞳でじっと見つめて、ゆっくりと降りてくる我愛羅の顔に瞼を閉じた。真っ暗になった世界に、舌の絡まる水音だけが響く。ぎゅっと抱かれてぼうっとする感覚の中で、腕の中にある肉体だけを抱きしめる。いつの間にか寝室のベッドに移動していて、柔らかなベッドの上に寝かせられていた。

「優しくなんて、しなくていい……ヒドイことされてーから……」

 首筋に感じた吐息と熱い舌の感触にビクリを身体が反応する。ナルトは天井を見上げながら、目尻から零れた液体が涙なのだと考えて居た。それから我愛羅の後頭部に腕を回して、ぎゅっと彼を抱きしめた。

 

初めて人を殺した。

 何度も何度も、殺す事を考えた。憎しみを向ける相手は、彼女でも彼女の腹の中の命でもないのに。

 泣き叫ぶ女の声を聞きながら、殴って蹴って、血まみれになった塊が動かなくなるまで。

妬ましくて、妬ましくて。

悲しくて、悲しくて。

殺意が生まれる瞬間を、初めて知った。

 意識がそちらへ向いてしまうのだ。眩しい笑顔の幸せの源を全て壊したい衝動に駆られた。だから、意識の中で何度も彼女を殺した。

 飲んでは吐いて、また飲んでの繰り返し。身体は休息を欲しているのに、脳だけが異常に活性化されて眠る事さえ許されなかった。

「我愛羅……オレの事、殺して……」

 もう、何も考えたくない。バラバラに壊されてしまいたくて、感覚を散り散りにしたい。

 

 

全部を壊してしまいたい。

こんな自分なら、息を止めてほしかった。

 

 

 

 

  

 

 

 

とても書きたいシーンてか、セリフがあってそれだけを目指した回です。

言い訳はしませんっ

中途半端な我ナル(と胸を張れない…)ですみません。

 

これでも、シカナルなんですと言い切ります。

またこれも、ゴメンナサイ。