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END ROLL 5
好き。な感情は苦しい。
ずっと、好きで居られるだけで“幸せ”なんてキレイゴト。 相手を思うから、全て欲しくなる。子供が大好きなおもちゃを離さないみたいに。
自 分 の モ ノ に し た く な る。
縛り付けて、部屋の中に閉じ込めようか? それとも、鍵付きのカラフルなおもちゃ箱?
他は見ないで。 思いを移さないで。 ずっと傍に居て。
言葉は簡単。 思いを音にした約束を破るのも簡単。 でも嫌いになる事は、好きで居ることよりも難しい時もある。 縛られているのは自分の方だ。忘れたくないのも、忘れられるのが怖いのも、こんなに求めているのも。
心の中で「どうして?」と問いかけてみても「何故?」という答えしか返ってこない。
こんなにも、もう、自由を奪われている。それでも、己の意思で生きていると言うのだろうか。 心が軋む音が聞こえる。キリキリと何かを削るみたいな音。これが幸せの鳴らす音なのか? 否、違う。 どこかで背中合わせの感情はキレイなままではいられない。笑っているよりも頬を濡らした涙の方が多い事に気が付いた頃から、好きな気持ちが純粋でない事に気がついた。
忙しい毎日を送っていた。季節はもう冬へと移り始めていて、いつまでもベッドの中で怠惰に過ごしたい気分になっている。目覚ましが鳴る前に起きたナルトは、夢見の悪さにふうっと息を吐いた。 久々に見たシカマルの夢。夢をみる事もなく眠りに着きたくて忙しくしていると言うのに、今日の眠りは疲労を倍増しただけだ。寒い空気を感じながら身体を起こす。 遮光カーテンを止めて、太陽の光に感謝する毎日。陽の光で目覚めるのは気持ちいいという事に気が付けた。サイドテーブルには今日の予定の書いたスケジュール表。欠伸をかみ殺しながら目を通すと、現地視察という文字が飛び込んでくる。最近はデスクワークが多くて出かける事が少なかった。気分転換になるかもしれない仕事の内容に、少しだけ期待する。 ナルトの仕事は趣味の延長のようなものだ。簡単に言ってしまえばガーデニングデザイナー。イングリッシュガーデンから日本庭園、はたまたエクステリアに関することまで。庭の造形に関わる仕事をしていた。まずは造形する庭の現地視察を行い、スタッフと共に外観や土壌に関する調査をし、依頼主の意にあった庭を提案する。コンピューターの画面上から小さな模型を作り出したりして、大まかな配置を決定したら後は感性の作業になる。いくつかのコンクールに入賞し、小さな仕事を手掛けるようになってから口コミのようにして広がった人の輪が、今ではそれなりの社員を持てる会社として経営できるまでとなった。もちろん会社としての経営手腕に長けているナルトではない。それよりも土いじりをしたり、仲間と一緒に庭を造っている方が性に合っている。今まではシカマルへ頼っていた部分を、最近では我愛羅に頼るようになっていた。彼以上に的確にアドバイスしてくれる人は見つからなかったし、トップに立っている彼の話は目から鱗な事が多くて勉強になるのだ。今まで、いかに自分が守られて生きてきたのかと思い知らされてしまうのだけれど。 寝室を出ると、コーヒーのいい匂い。昨夜泊まった我愛羅が遅めの朝食を取っているのだろう。 「おはよだってばよ〜」 欠伸をしながらリビングに入ると、我愛羅の姉であるテマリがナルトの顔を見てぷっと吹き出した。 「盛大な欠伸だな、ナルト」 男勝りでサバサバした性格は出会った頃と変わらず、今は美人に磨きがかかったような気がする。長いはずの髪はきっちりと纏められて、藍色のスーツに身を包んだ彼女。 「あれ、テマリの姉ちゃん来てたのかぁ…」 「ナルト、紅茶でいいか?」 「あ、うん。サンキュ、我愛羅」 いそいそとナルトの為に湯を沸かそうとする弟を見て、テマリが呆れたように額に手をやる。 「全く……砂原グループのトップとあろう男が。ナルトの前では、ただの人だな」 テマリの前に腰を下ろしたナルトは寝癖のついた髪を触りながらくすりと笑った。 「我愛羅はいつでも、ただの人だってばよ。オレの大切な親友」 ナルトの言葉にテマリは少しだけ胸を痛める。苦しいくらいの恋情を持っている弟に同情したという所だろうか。ナルトの長所は我愛羅と対等に付き合おうとする部分だ。彼のバックグラウンドに媚び諂う事もない。もちろん、利用するとか恩恵に預かろうとする訳でもない。 「姉ちゃん、我愛羅の淹れてくれた紅茶飲んだことねえの?ミルクティとか最高だってばよ。なんかさ、イギリスに居た頃思い出すっつうか。この前もどっかのホテルのマフィン買ってきてくれてさ」 「……買いに行ったのは私だぞ、私。我愛羅にそんな暇はない!」 「知らなかったってばよ……そっか、ありがとだって。姉ちゃん」 悪びれた風もなくニコリと笑われると、なんだか憎めない。だから我愛羅が構いたくてしょうがない気持ちも分かってしまう。本当は郊外にあるナルトの家よりも、会社の近くのマンションに居てくれた方がテマリ的にも仕事が潤滑に進むのでありがたいのだが……いかんせん、彼がナルトの家に来たいと言うのだからしょうがないのだ。今まで我儘らしい我儘を行ったことのない弟の唯一の望み。それに精神的にも身体的にも、ナルトと一緒に居る方が我愛羅の調子がいいように感じる。忙しくする事が当たり前で、食事なんて二の次だったはずなのに、こうやって朝のティタイムを楽しむ余裕まで出てきている。 「なあ、ナルト」 「ん?」 我愛羅の読みかけの新聞に目を落としていたナルトがテマリに視線を向けた。 「お前に、我愛羅を受け入れる気があるのか」 「えっ!………それ、は」 動揺が走る瞳の色に、テマリはストレートすぎた言葉を悔いる。 「悪い! 今のは忘れてくれ。私の独り言だ……一応これでも、我愛羅の姉だからな」 もしナルトに何か特別な関係を強いれば、我愛羅から嫌われてしまうだろう。きっと彼はこの時間ごと全てを愛しいと思っている。 「姉ちゃん、あのさ…」 「忘れてくれと、頼んだはずだぞ?」 「……うん、そうだな。でも、」 曖昧に笑みを作ったナルトの瞳に影が落ちた。ナルトが今の生活を始めて数か月。気持ちを切り替えろと言っても、無理な話かもしれない。テマリも我愛羅から聞いた事のあるナルトの恋人の事。現在のナルトがフリーなのは知っているが、その経緯は詳しく知らないのだ。傷口に塩を塗りつけるような発言をしてしまったような憂いが走った。 そこへ我愛羅が戻ってくる。俯いて新聞を読むふりをしているナルトの前にカップを置くと、自然とその頭へ手を伸ばしてしまう。 「ひどい寝癖だな、ナルト」 指に絡まる柔らかい金糸。そのまま髪を撫ぜるように、頭を撫ぜる。真っ赤になったナルトは慌てたようにカップとソーサーを手にした。 「い、ただきます……」 いそいそと紅茶を口にするナルトが幸せそうな笑みを浮かべ「美味い」と一言呟くと、我愛羅は満足そうに座る。テマリは残ったコーヒーを飲み干すと、時間を確認して立ち上がった。 「我愛羅、時間だ。昼前には会議が入ってるのと、昼食は商談を兼ねてのものになるから覚悟しておくように。それから――――― 」 スケジュールを読み上げるテマリは、ふと黙り我愛羅を見つめた。穏やかな顔をしている弟の表情を見て、ナルトが我愛羅の思いを受け入れてくれないだろうかと考えてしまう。 「テマリ?」 「…あ、ああ。すまないな、ぼっとして……車を回して来る」 そそくさと立ち去るテマリを見て、我愛羅はくすりと笑った。彼女は自分もナルトと関わるようになって変わった事を知っているだろうか。彼には不思議な力がある。とっつき難いテマリの分かりにくい優しさが最近はよく感じとれる事が多い。いくら我愛羅の頼みだからと言って、ナルトの為にわざわざマフィンを買いに行ってくれるのだから、彼女もナルトの事を好きなのだ。 「さて、俺は行く」 立ち上がった我愛羅にナルトは無意識に視線を移した。 「……おう、いってらっしゃいだってばよ」 「ナルトの今日の仕事は?」 「久々に現地視察なんだって。外に出られるから嬉しいけどさ」 子供っぽい笑顔を浮かべたナルトに、我愛羅も優しい笑みを返した。 「もし、来られたら……また、来てもいいか?」 「は…?」 こんな風に聞かれるのは初めてで、ナルトはドキリとしてしまった。先程のテマリとの会話を聞かれたのか、勘の良い我愛羅がナルトの些細な異質を感じとったのかもしれない。 「なんだよ。いきなり……そんな、当たり前じゃん」 「そうか……」 曖昧に口元を緩ませた我愛羅は、軽く手を上げるとナルトに背中を向けた。ドアの閉まる音が聞こえて、カップをソーサーの上に戻す。 自分のどこがいいのか分からないが、我愛羅が好意を寄せてくれているのは十分に分かっている。そんな彼に甘える事が、どれだけひどい事なのかも自覚がある。境界線をあやふやなままの関係で居たいのだ。 真剣に人を好きになり、好きなだけで生きてきたようなものだから臆病になっているのもある。それでも、心のどこかがざわつくのは完全にシカマルという存在を消せていないからに過ぎない。その自覚があるのに、他の人に目を向ける事なんて出来ないのだ。逃げているのかもしれないが、その甘さを許してくれている誰かに甘えていたい。 人と関わる事は新しい何かの発見や、楽しい時間を得るチャンスでもあるが、過ごした時間や共有したものが密になるほど、楽しいだけでは済まなくなる。それは大人になってから感じた事で、恋愛にも当てはまる大人の狡さだと思った。 まだ、きっと、認めたくないけれど、心のどこかでシカマルの事が好きだ。傷つけられた痛みすら愛しいと感じてしまう自分がどこかに存在している。 彼との決別を別離に決めたのは、二度と会わないため。 顔を見たら、あの声で名前を呼ばれたら………―――――― きっと、動けなくなる。激しすぎる感情に蓋ができなくなる。それが分かるから、絶対に会えない。心の中で蜷局を巻く赤黒い感情に全てを飲み込まれる。理性の端っこで制御できている心が完全に壊れてしまう。 誰が傷つこうが、何を犠牲にしようが、きっと彼を求めてしまう事は分かっているのだ。破壊的な感情に気が付いて、酷く嫉妬深い自分は、最初にシカマルを好きだと思った時のように透明で居られない。彼が落とした染みが少しずつ心身を蝕んで、もう後戻りが出来ない所まで来ている。 穏やかな幸せよりも、一瞬の燃えるような何かを欲している貪欲な本能に支配されてしまう。 お互いの存在に、支配されたくて支配して欲しくて。それを必死に隠してきた。ぎりぎりと締め付けられた精神が狂う一歩手前が“今”という時間。まだ正気を保っていられる間に、自分を取り戻したい。 「……マジで終わってんな、オレって」 失笑して胸の奥がツキンと痛んだ。心が痛むのは厄介だ。不治の病を抱えてしまったように、終わりへ向かうしかないような絶望感が満ちる。 永遠に続くものだと思っていた、ささやかな幸せがそうでないと知った時。ナルトは心の大切な部分のネジが抜けて壊れてしまったのだと思う。 テーブルの上に置いていた携帯が震えた。着信は事務所からで、憂鬱な気分で取った電話の内容も最悪である。今日の予定であった現地視察の延期。せっかくの気分転換までふいになってしまって、なにもかもにやる気がなくなってしまう。在宅での仕事に切り替えて、結局は出社しない事に決めたナルトは紅茶を飲み干すとカーディガンを羽織って庭へ出た。忙しい合間にも少しずつ自分の理想とする空間へ変えている庭。 「植物も見に行きたいな……」 大きな樹木は最初に重機を使って植樹したが、花壇部分の植物は後回しになっている。物色するついでに、発注しているテラコッタやレンガを見に窯元へ足を延ばしてみようか。中距離の車の運転はいい気分転換にもなるかもしれない。ナルトはアドレス帳の中のナンバーを確認して通話ボタンを押した。
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少しずつですが、これでも一応進んでいるのです。
次のターンくらいまでは、まだナルト視点続く模様。
つーか、絶対書きたいシーンが出来たのでそれを目指して頑張ります。
次回に行けるかな、わくわく。