キャリアアップ

 

 

 

END ROLL 2

 

 

 時間にすると茫然としていたのは、僅かな時間だったのだと思う。ふらふらしながら立ち上がり、昼からの仕事を延期してもらえるように頼みシャワーを浴びた。

 自分たちはもう大人で、悪ふざけをして許されていた子供とは違うのだ。その延長できているので、どこか感覚的に錯覚を起こしてしまう事はあるが、許される冗談は多くはないだろう。

 ナルトはシカマルに投げつけたカードを拾うと、日付を確認する。きっちり二週間後。

「時間、あんまねえな…」

 ふうっと息をついて、アバウトに見えて用意周到な彼の顔を思い出した。

「全く、ホントに……」

 いつからなのか覚えはないけれど、お互いを尊重したり束縛したりする事が、愛し合っている事を同じだと考えて居た。周囲の雑音をシャットアウトして、都合のいい物語を作り上げていたのだと思う。その生活に振り回される事はあっても、不満ではなかった。だから、ナルトはシカマルと付き合う事が心地よかったのであるし、今までも彼を好きでいられたのだと思う。

 ナルトは携帯の通話ボタンを押す。すぐに繋がった電波の向こうから懐かしく感じる声が聞こえる。

「もしもし……悪りぃ、急なんだけど。頼みてーことあって、会える?」

 掛け時計を確認して、それからすぐに電話を切った。人を好きになる事が、辛い感情と背中合わせだと知ったのはシカマルと付き合いだしてすぐの事だったと思う。

 それでも、好きな気持ちの方が大きいから、小さな棘みたいな傷の存在は無視するのだと決めた。

 

 

■■

 

 

 キスして訪れるのは、温かいような気持ち。お風呂に入って冷たい皮膚がじいんとあったまっていくような。触れていた唇の間から舌が入ってきたときには本気でびっくりした。

 ぴくんと反応する身体をぎゅっと抱きしめられて、「逃げるなよ」と。

「ちが…っ、…あっ」

 反論しようと口を開いたら、遠慮なく侵入してきたものに全てを奪われる。

「んっ…ん、…っ」

 ねっとりと絡みついてくる熱い舌の感覚に翻弄されて身体の力が徐々に抜けてくる。キスが上手いだとか下手だとかは分からない。唇を重ねるという行為自体が初めてなのだから、比べようがないのだ。ただ、こうされるのが嫌でない。その反対に嬉しい。

 唇が離れて崩れるような身体を抱きしめられる。息が荒いのは、彼に全てを乱されたからだ。

「顔、赤いぞ?」

「息が苦しいってばよ」

「ちゃんと息しろよ」

 くすっと笑ったシカマルの顔が近くにあって、ドキドキが止まらない。季節は夏の終わり。もう少しだけ秋に差し掛かっているせいか、夕方になると空気がちょっとだけ冷たい。だから抱き合って感じる人の体温が心地よいと思えてしまうのかもしれない。

 学校にある裏庭のその裏。雑木林になったそこも学校の私有地である。人が来るとか来ないとかは別として、それなりには整備されている。誰にも邪魔されない事をいいことに、二人で抱き合って延長上でキスをしてしまった。誰かに見られたら言い訳できないような態勢でいる事も恥ずかしい。

「シカマル、顔が、近い……てばよ」

「ん?ああ、また隙見てキスしてーとか思ってるし」

「ええっ! 今、したばっか…じゃん」

「もっとしてえし。お前は違うのか?」

「…そ、それは……」

 頬を寄せられる。唇が頬の上を滑る。ぞくっとして目をぎゅっと瞑ると、柔らかい唇がまた重なった。

 嫌な訳がない。シカマルが与えてくれるものが、嫌な訳がない。全部が好き。全部の自分を許す事ができる唯一の相手。人を好きになったのは恋愛という意味は初めてだし、全てが違った世界に見える。

 ナルトは心の中で、二回目のキスだと浮いているような感覚の中思った。最初のキスは数秒前。シカマルから絡めてくる舌の動きに少しだけ答えるようにしてみる。

「ん…っ」

 それをどう思ったのか、今までよりも深く唇が交わるような気がする。ざわざわとする胸の中で熱い何かが生まれる。舌だとか唇だとか、触れ合う細胞と粘膜が熱に変わる。しがみ付いて居なければ、流れる時間すら忘れてしまいそうな行為に堕ちていくような感覚。甘いような苦いような毒が身体の奥底から沸いてきて、いつか致死量に達してしまうかもしれない。

「…っあ…っ」

 シカマルの唇が離れていく感覚にナルトは無意識の内にそれを追ってしまった。ちゅっと重なった唇にシカマルがふっと笑った。

「まだ、足りねえ?」

「……ちが…っ」

 夢うつつになっているような気分の中で、自分からシカマルに触れるだけのキスをする。

「大好きだから…」

 触れたままの唇は震えていて、濡れた唇が囁く音にシカマルが優しい笑みを見せた。瞼を固く閉じているナルトには見えなかった柔らかい表情。腕が回った背中をぐいっと抱きしめられる。ナルトの両手はシカマルの首に絡まっていた。

 出会った時には、まさかこんな関係になるなんてお互いに思っていなかった。たまたま共通の友人を通じて遊んだのがきっかけ。そんな些細な事なのだけれど、誰もこの二人が恋愛関係に陥るなどとは思わなかっただろう。当人同士がそうなのだから、他人はそれ以上にである。

「きょ、今日さ。キバにカラオケに誘われたんだって……シカマルも行くよな?」

 一応、二人の出会いの起こりである友人の名前を聞いたシカマルは肩をひょいっと上げただけ。そっとナルトを抱く手を解くと、興味がないように空を仰いだ。

「カラオケ?あんま行きたくねえな」

「でもさ、オレは後で行くって言ったし」

「へぇ、そうかよ」

「ウン」

 シカマルはポケットに入れている草臥れたパッケージを取り出す。その中から一本の煙草を唇で銜えて取り出す。慣れたように火をつけると、紫煙を吐き出した。

「やっぱ、興味ねえな」

 ナルトは少しだけ困ったように俯く。風に乗ってきた煙草特有の香りにきゅっと唇を噛んだ。別に特にカラオケに行きたい訳ではない。こうやってシカマルと二人きりで居たい気持ちはある。それでも、恋愛と友情は別物で友人たちとの関係をおざなりにするのも嫌だ。

 シカマルは携帯灰皿に吸殻をねじ込んで、ぱっと立ち上がった。置いてけぼりにされたような感覚にナルトは驚いて顔を上げる。

 逆光になった顔に、差し出された手。半身から温もりが消えただけでこんな不安を味わうなんて思ってもみなかった。見上げてナルトは瞳を細くする。眩しくて堪らないのは彼の存在なのかもしれない。

「立てよ」

「シカマル?」

「人が手出してんだから……恥ずかしーだろ?どうすんだよ、俺のこの手」

 ナルトは迷いながらシカマルの手を取る。ぐいっと力を入れたその腕に身体を引っ張り上げられた。

「しょうがねえな、全く。なんで、俺はこんなにお前に弱えーんだろうな」

「カラオケ、いいの?」

 ナルトはほっとして笑顔になった。

「後からキバにうだうだ言われんのも気に食わねえし。アイツがお前に絡むのも気に食わねえ」

「はあ?なに言ってんの?」

 シカマルだから自分に興味を持ってくれたのであって、自分に特別な魅力があるとは思えない。それでもにやけた顔の緩みは抑えられなくて、恥ずかしいくらいに嬉しい気持ちが表に出てしまう。機嫌よく一歩を踏み出したところで、背中から抱きしめられた。

 ふんわりと身体を包み込む、慣れてしまったシカマルの匂い。目の前で交差された腕に、ナルトは唇を寄せた。幸せだと、心の底から思う。

「ナルト、俺の事…裏切るなよ?」

 真剣な声。ナルトはくすっと笑った。

「そんな当たり前な事、言うなってばよ。オレが好きなのはシカマルしかいねーんだからさ」

「人の気持ちなんて簡単に変わってくもんだろ?」

 四季のように移りゆく事が自然なように、あっさりと心変わりを見せるのが人の常。色恋に約束事なんて無意味なような気もする。

「それは……シカマルの方かもしんねえってば」

「ばーか」

 きっと人の心に鍵をかけてしまうなんて出来ない。だから、明日になってシカマルの興味が別に移ってもおかしい事ではない。

「オレだって、シカマルが裏切ったら……ぜってーに許せねえ」

 今という一瞬の刹那。約束なんて意味がない。なのに、言葉にしてしまうくらいには子供なままの二人。

心に命を懸けるなんてナンセンス。だけれど、それを形にしなければ不安なほどに、二人は子供だった。

 

 

■■

 

 

 洗いざらしの髪。しっかりと乾かしていないからか、うなじの辺りが寒く感じる。長袖のTシャツにジーンズという軽装で、その上からジャケットを羽織っているだけ。

 ガードレールに凭れかかっていると、クラクションが鳴らされる。そちらに顔を向けると、ナルトはサングラスをずらして車の中に居る親友の姿に笑顔になった。

 運転手が高級車の後部座席のドアを開ける。

「悪りぃ、超多忙な社長さん呼出しちまうなんて」

「ちっとも悪いといった顔ではないけどな? とりあえず、乗ったらどうだ」

「ありがと」

 ナルトは車内に滑り込むとサングラスを外してポケットにしまった。

「あのさ、我愛羅。どんくらい時間とれんだってばよ。長いのは無理だろ?」

その横顔を盗み見て、無理矢理にでも時間を作った事は正解だと思う。気儘に人を頼るような人間ではないのだ。と言うか、その立ち位置にはいつも彼の恋人の影があり、自分は……否、自分以外の他人だって必要とされることはなっただろう。

「せっかくのナルトの誘いだからな。それなりに調整してきた」

「うわ…っ、テマリの姉ちゃんの怒った顔が目に浮かぶってばよ!」

 屈託なく笑うナルトに我愛羅は苦笑を漏らした。秘書として自分をサポートしてくれているテマリも、ナルトと言う人間をひどく気に入っている。秒単位で刻んでいるようなスケジュールをどうにか都合つけてくれたのは彼女の功績が大きい。

「それよりも、ナルト。良くないのか?」

 ナルトは我愛羅の視線が胸ポケットに向いている事に曖昧に笑みを漏らした。

「悪くも良くもねえって。ちょっと太陽の強い光はあんまり……目が痛いからさ」

「視力の低下は止まっているんだろうな。お前、紹介した医者にはちゃんと通っているのか」

「あ〜…も、ほんっと我愛羅は生真面目っつうか、会った頃と変わらねえってばよ。すげえ、安心する」

 我愛羅と初めて会ったのは大学に上がったくらいだから、十年以上の付き合いになる。ナルトはそっと目を閉じると、こつんと頭を我愛羅の肩に預けた。

「眠くってさ……話はあとでゆっくりするから、ちょっとだけ眠らしてくれってばよ」

 ナルトは自分が十分に我愛羅の感情を利用しているのだと自覚がある。甘えさせてくれる存在にはどれだけでも甘えたい気分なのだ。我愛羅は自分の事を好きでいてくれるから、嫌がるような事はしない。だから、狡く身体を寄せる事が出来た。

 

 

 

 

  

 

 

 

あんまり進んでませんね、時間軸(笑)

少しの間は、過去のシカナルとかが交錯してる感じで入ってくる予定?

でも、がっつり現代な時や過去話な時もあると思います。

なるべく、ラブ〜なシカナルを入れつつ、

お互いの事しか考えて居ない感じの二人が描けたらニヤリです。

すんごく悩んで我愛羅たん投入。いや、好きだらさ。