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END ROLL
熱がひとつになる感覚が好きだ。 難しい事を考えないでいられる一瞬が好き。 「…っ、ん…あ…っ、も……やぁ…」 ガクガクと揺さぶられる身体。打ち付けられる熱い楔に、腿の内側が引きつりそうになる。でも自分の中で熱量を増すものに肉壁がねっとりと絡みつくのを感じている。 快感だけを追う。それだけで、渦巻いている何かが麻痺して快楽を増殖させるのだ。身体の奥の方に黒くて歪な物が存在していて、根を張るように心身を蝕んでいるのを感じる。その何かが、意識の全てを奪おうとして快感に溺れるようにと誘う。 何度か精を放たれた後腔から、ぐちゅぐちゅと淫猥な音が響く。その音を聞きたくないと思うのに、やけに耳につくのはどうしてだろうか。 もっと、滅茶苦茶にされたい。もっと、もっとって。 気持ちいい事だけでいい、欲しくて堪らなくて。 いつまでも癒えない渇きが、爪の先に引っかかって肉を抉った。 「んっ……!」 生ぬるいのか熱いのか痙攣した孔が全てを飲み込むように収縮する。体中の筋肉が引きつって意識が宙に浮いた後、暗い穴の中に引きずり込まれるような恐怖を感じた。だから、目の前にあるものにしがみ付いた。 息を整え、見慣れた視界が馴染んでくると自分が泣いている事に気が付いた。ぎゅっと抱きついていた背中から、そっと腕を離そうとすると反対に抱きしめ返される。 「バカ、離れんな」 耳元に直接囁かれているような声に、背筋にゾクリとするものが走る。全速力なんて表現じゃ足りないくらいに駆け上がる快感に痺れる感覚が好きだ。熱いはずの身体が汗に冷やされて、お互いの皮膚の存在を感じる。ひとつだった感覚が一瞬で醒めてしまう瞬間、今までの時間が自分に都合のいい妄想(ゆめ)なのだという現実に引き戻される。 「……も、できねえからな」 「よく言うぜ、銜え込んで離さねえのはお前の方じゃねえの?」 辛辣な言葉の端に、彼特有の愛情表現の欠片。声が掠れてしまったのは、バカみたいに嬌声を上げ続けた所為。誰にも責任転嫁できない自己都合だ。 「ナルト」 でも、この声で名前を呼ばれる度に震えるくらいに喜びを感じるのも確か。悔しいくらいに彼の事が好きで堪らないのは自分の方なのだ。 「な…に?」 こほんと咳き込んだ唇に触れた温かい唇。ナルトは疲労した身体の気怠さを感じながらも、そっと瞼を閉じた。こんなに温かくて優しいキスをして、いつもこの行為は終わる。慈しんでいるのか、愛でているのか、何かを感じたら涙が零れてしまいそうな神聖な儀式。 触れるだけでも、気持ちが伝わるようで好きだったキスが何時から苦しいと感じるようになったのだろう。ふうっと深い息を吐いて、ぎゅっと抱きしめられて何かを勘違いしそうになる。 「シカマル、明日……仕事じゃねえの? 泊まってくのかよ」 「ちょい黙れよ。余韻にも浸れねえな」 「……信じらんねえってば」 「ナルト、愛してる」 きゅっと唇を噛んだナルトは心の隙間に入り込んで来るような科白に、緊張を解く。最後の最後ではいつもそう。結局は何もかも許してしまうのだ。ほだされている訳でもないのに、陳腐なキーワードが心を埋め尽くす真っ白な感情に変わってしまう。 「馬鹿だってばよ…」 「馬鹿にバカって言われちゃシャレにならねえよ」 「すぐにそうやって人のことバカにしやがって、めちゃムカつくんだって」 「お前はバカなまま俺のモンでいりゃいいんだよ」 キリキリと軋む心のネジ。彼を思うとこんなにもせつない。 「お前はずっと、俺のものでいればいい」 ぎゅっと締め付けられる。 「シカマル」 言葉が拘束具になってナルトの全てを縛る。痛いのは胸のずっとずっと奥の方。 「愛してる」 「……も、バカ」 「愛してる」 シカマルは嘘をつかない。知っているから、彼の言葉の重みが狂ってしまいそうな程の喜びを感じた。この感情は憎悪に似ている。背中合わせな盲目な感情。 「シカ…、好き」 愛している、なんて到底口に出来ないけれど、好きな気持ちは出会った頃からずっと変わらない。いつからだったか、好きだと言う透明な気持ちの中に一点の赤黒い感情が芽生えた。染みみたいに滲むその色がずっとナルトの中に残っている。好きだという音にすれば単調なフレーズの中に潜む本当の気持ち。 疲れてうとうととして、無意識の内にシカマルの胸に額を寄せる。聞こえる心臓の鼓動が、深い夢の中へと誘っているようだった。
遮光カーテンの隙間から差し込む光に、朝が来た事を知る。 薄っすらと上げる瞼の隙間から、部屋の天井がにじんでいた。身じろいで身体の中に残る鈍痛に顔を歪める。 「あ〜…も、最低。加減しらねえのかよ、ったく……」 同じベッドで眠りについたはずの恋人の姿はすでになく、シーツからは温もりすら感じられない。ナルトは重たいと感じる上体を起こすと、立てた膝の上に頬をくっ付ける。 久しぶりの濡れ事だったのは確かだけれど、シカマルも自分もどこかで枷が外れてしまっていた。翌日に色濃く残る余韻に泣きたい気持ちになる。 後悔はしていないけれど少しだけ反省している。怠惰にシーツの海に溺れて居たい気持ちだけれど、そうゆう訳にもいかないのが社会人の常。ありがたいことにシカマルのように会社勤めをしている訳ではなく、限りなくフリーに近い事を生業にしているから自由は効くのだけれど。 いきなり開いたドアから、逆光になってもシカマルだと分かるシルエット。 「なんだ、起きてたのか?」 「シカマルこそ、もう出かけたと思ってたってばよ」 近寄ってくる彼の唇が自然とナルトのそれに重ねられる。 「もう出るぜ?」 「そっか……オレもシャワー浴びてさっぱりしねえと」 午後から出かける用事を思い出したナルトは、ふうっと息を吐いた。よく見るとシカマルはまだワイシャツを羽織ったままの恰好である。ネクタイを手に持っているのだから、身支度を整えたら出ていくのだろう。ふわりと鼻腔に石鹸の香り。シカマルが好んで使っているのを知っているから、ナルトも自分の使うアメニティを彼に合わせている。単に自分も気に入っているという理由からなのだけれど、この香りだけでもシカマルの存在を感じられるようでとても好きだ。 「なあ、ナルト」 「なに?」 間近にある顔がにやりと笑う。なんだか嫌な予感を覚えたナルトは眉を顰めて首を傾げた。 「お前、すげー昨日感じてたんだろ?」 「かっ…はあ? なにいきなり……」 「久しぶりだったもんな」 「違うっ! って言うか、そんな事言うのは反則だってばよ」 蒸し返される情事の事情なんて朝の光には似合わない。憤慨していると、シカマルがワイシャツの肩をするりと落とした。そして、ナルトの視界に飛び込んできたひっかき傷に声を飲み込む。 「……ごめん、痛い?」 痛くない訳はない。深く爪で抉られて引っ掻かれたような傷。彼に抱きついた時につけてしまったのだろう。 「シャワーがめちゃくちゃ染みた」 「痛い、…よな」 ナルトはぎゅっと握りしめた指を見てきゅっと唇を噛んだ。爪の中に残る黒い汚れは、きっとシカマルを引っ掻いた時に入り込んだ彼の細胞だ。 「そんだけお前が、気持ち良かったって事だろ? なぁ、認めろよ」 「……… 死ぬほど疲れたけど、気持ち良かった」 言葉にするのも照れるけれど、シカマルが求めている言葉が分かるから素直に肯定する。 「俺も」 そう言いながらもう一度唇を寄せられて、ナルトは瞳を閉じる。咥内に入り込む柔らかい舌に自分のそれを絡め、ほんの少しの間にこの行為に溺れてしまいたい自分が存在する。深い口づけが終わると、触れるだけでちゅっと唇を頬に寄せられた。 「お前、起きるんだろ?」 「うん、そうだけど……シカマル、もう出るって」 「渡したいもんあるから、とりあえずリビング来いよ」 ネクタイを締めながら歩く後ろ姿を見送ったナルトは、脱ぎ散らかして床の上で乱れているシャツを引っかける。立ち上がると内股にツッと残滓が溢れるのを感じた。この気持ち悪い感覚は慣れられるようなものではなく、いつになっても不快感を煽る。嫌だと思いながらリビングへ向かうと、すっかり支度を終えたシカマルがきっちりとスーツを着込んでいた。思わずぼーっと見つめてしまうと、その視線を感じた彼が傲慢な笑みを口元に浮かべる。 「惚れ直してんじゃねえよ」 「へ、減らず口っ!」 北欧風のテーブルはナルトの趣味で、その上に白い封筒が置いてある事に気が付く。 「これ?」 この封筒が用事なのかと尋ねると、シカマルが頷いた。ナルトは宛名のない封筒を開けると、中に入っているカードを取り出した。 シカマルは白いカップに入ったコーヒーを飲み下す。 「お前、分かっていると思うけど絶対に用事なんか入れんなよ?」 ナルトの手が小刻みに震える。見開かれた瞳が色を失うように、一点にカードを見つめていた。 「これ……どうゆう、……意味?」 確かめなくてはいけないのは、自分の中の疑念。ゆっくりと視線をカードからシカマルにシフトする。 「どうゆうも何も、結婚式の招待状だろ。どう見ても」 「それは分かるってばよ。 なんで、オレがお前の結婚式とか披露宴なんて行く必要あるんだって」 「お前が俺の結婚式に来ないなんておかしいだろ、どう考えても」 「どう考えても、オレが行くほうのがおかしいっ!オレは行かない、結婚したけりゃ勝手にすればいいってばよ。別れたいって言うなら、こんな手の込んだ嫌がらせすんなっ……オレは、お前に縋りつくようなめんどくさい事はしねえっ」 カードをシカマルに向かって投げつけると、シカマルは興味がないような顔でふっと笑った。 「なんか、お前勘違いしてねえか。 誰がお前と別れるって?ンな事一言でも口にしたか?」 「は…? シカマル、わかんねえ……お前の言いたい事」 「俺は別れるつもりなんて一切ねえよ。お前の事を俺が離す訳ねえだろ」 「何言って…そんなの、間違ってる…………お前、結婚するって招待状……」 好きで好きで堪らなくて、一緒に居るだけでいいと思っていた頃とは随分と変わってしまった二人の関係。体よく友人に戻れるはずもなく、恋人として付き合っていくのも不可能だというのが現実。 シカマルがちらりと時計を見る。 「時間、ねえな」 「待てよ、シカマル! こんなの、オレは認めないってばよ」 「それはお前が決める事じゃねえよ」 動けないで突っ立ているナルトの頬にシカマルの指先が滑った。ぞくりとする感覚にきゅっと目を瞑ると、唇が重なる感触。 「じゃ、いってくる。またな」 キリキリと軋む音が耳の中で洪水になっている。今までどうにか動いていた心のネジが外れる音が聞こえたような気がした。 シカマルが消えたリビングの真ん中で、ナルトは床にぺたりと座る。緊張の抜けた身体が脱力感の中で何かを否定しているような気がした。頬を流れていた涙の訳に気が付いて、ナルトは途方に暮れる。
シンと静まり返る部屋の中で、赤黒いシミが心全体に広がっていくのを感じる。 ひとつひとつ、またひとつネジが外れて、崩れていく心の音だけが鼓膜の奥に張り付いていた。
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キリ番40000GETのライムさまのリクエストです。
ダークorシリアス系で、最後はラブラブなんですがいろいろあります(笑)
色々はネタバレになるので、最後にカキコしますね。
この話は大人なんだけど、子供っぽい二人ってのがRUIの中で最初にありまして。
愛ゆえに「お前サイテーだな」ってこともあるのですが……お許しを。
理想、アラサー。萌えるよね、リーマンとか!ネクタイとかスーツとか!!
二人の為に世界があるってのがテーマかも……