キャリアアップ

 

注意 ナルトさん女装してます。好きでない方はブラウザの「×」で閉じてください。

   女体化でないので、ナルコさんに非ず(笑)

 

 

 

 

Candy Girl 6

 

 

 ナルトは髪をほどいた。

 早めに帰宅して制服を脱ぎ捨てる。私服の入っているクローゼットを見つめながら、そんな自分がおかしくてくすりと笑ってしまった。

 今日はシカマルと会う。昨夜、彼からメールでの誘いがあった。

 最後でいいからもう一度会いたいと言われ、心のどこかで落胆した自分がいた。それは認めてはいけない感情で、視線で液晶画面の文面を追いながら、ぼうっとしてしまった午後の授業。

 毛先をくるくると巻かれていたので、結っていた髪をほどいてもいつもと少しだけ印象が違う。ナルトが選んだのは膝丈のワンピース。濃い緑色のチェックと五分袖が少しだけ秋らしい。細いベルトをして、ふんわりとフロントを引っ張り上げると胸のないのがなんとか誤魔化せる。

 玄関で座り込んでキャメルのショートブーツを履いていると、後ろから声を掛けられた。

「ナル、遅くなるの?」

「……あまり、遅くならないようにするってばよ」

「ん? なによ、元気ないじゃない」

「そんな事、当たり前だろ? オレ、男なのにシカマルとデートとかするんだってばよ?ぜってーにおかしいじゃん。母ちゃんはそう思わねえの?」

 珍しく刺々しいナルトの科白にクシナが目を丸くした。エプロンで手を拭きながら「どうかしらねぇ」と呟いている。

「夕飯は外で食べてくるんだよね。ナルト、お小遣い足りてる?」

「大丈夫。ちゃんと、携帯も持ってるから」

 俯き加減なのは変わらず、ナルトはクシナの顔も見ないで扉を閉めてしまう。その分かりやすい駄々っ子ぶりにクシナは、ふふっと笑った。

 

 

 

 待ち合わせの時間には余裕を持ってなんて出かけない。

 場所は最初に出かけた時と一緒の時計台の下。壁に凭れかかって、今日もシカマルより早くついてしまった事に気が付く。

 今日が、最後。ずっと何度も何度も頭の中で繰り返し考える。

 自分から言い出した事なのに、それをシカマルが飲んでくれただけだと言うのに。

 はっきりしない自分の気持ちは、正面から向き合わないようにしていた。シカマルとは仲良くしたい。だけれど、彼が望むような恋愛関係にはなれない。それでも、友人のままでいたいと告げたら……シカマルはなんと答えてくれるだろうか。自分に都合のいい事ばかり考えて、思わず嘲笑してしまう。

すごく狡い自分が大嫌いだ。

「おい、ナルト」

 名前を呼ばれて顔を上げる。顔を上げて視線が合った彼は、待ち人にあらず。

「……今、帰り?」

「あ? ああ……お前こそ、なんだよ。そんな格好して」

「また、うまく化けてるって言えばいいってばよ」

 自虐的な言葉を口にすると、目の前の彼が困ったように眉を顰める。

「あの時は、あんな言い方して悪かった……確かに好き好んでんでじゃないよな」

 素直に謝って来たサスケにナルトの方が面食らってしまう。

「隣、座るぞ」

 ナルトが凭れていた壁にはベンチが存在していた。

「お前、どっかでかけるのか?」

 サスケの方は見ない。きっと彼だって自分の方を見ていないと思う。

「そう、デート。婚約者と」

「……は?婚約、って 」

 呆れたような声に、ナルトがくすくすと笑う。サスケの反応が至極全うなものだ。男である自分が性別を偽って生活している事を知っているのだから、婚約者だとかデートだとか理解できないだろう。

「なんかさ、父ちゃんが悪い虫がつかねえようにとか言って、オレの事情知ってる人に頼んで見合いしたんだってばよ。笑えねえ?」

「マジかよ? ……おい、待てよ。お前がその恰好してるって事は、その婚約者様ってのはお前の素性を知らないんじゃ……」

 ナルトはちらりと隣を伺う。驚いたような呆れたような表情のサスケが自分を見上げていた。

「もちろん知らねえってば。でも、一応婚約者だから。それに怪しい奴じゃねえし、いくら婚約者だからっていきなり押し倒されたりしねえだろ?今んとこバレてねえもん」

 と言うか、絶対にシカマルにばれたくない。ナルトは不意にちくんと胸が痛むのを感じる。

「親への体裁あるしな、ま……それは安心か」

 サスケは何かを考え込むように無口になる。ナルトは少し不思議な気持ちでサスケに視線を向けた。こんなまともに会話をしたのは幼少以来だ。よく知っているようで、知らない横顔。小さな頃の面影はあるけれど、やっぱり姿は男のそれになっている。それに比べて自分はどうだろうか。どうしようもないくらいに、宙ぶらりんだ。

「サスケ」

「なんだよ」

「お前、すげー女子部の方でもててんだってな?聞いてびっくりした。さすがにオレの知り合いとかは誰にも言えない」

「なんでだよ?」

「女の子の嫉妬って、すげー怖いの。オレ、友達のが大切だもん……嫌われたくねえし」

 一番の親友であるサクラがサスケに気持ちを寄せているのは知っていた。もし、サスケと自分が知り合いだと知ったら彼女は喜ぶだろうか。もし、サクラの恋の橋渡しができるならそれはそれで嬉しい。

「なあ、ナルト。たまには遊びに来いよ…その、小さい頃みたいにさ。イタチ兄さんも喜ぶし……」

「母ちゃんはサスケの母ちゃんと会ってるみてーだってばよ?たまに話聞くもん」

 母親同士の仲が良く、サスケとナルトが同年代という事もありよく交流していたことは確かである。小学校に上がるくらいから、サスケとナルト同志の交流はほぼなくなっていた。

「おい、ケータイ。持ってるだろ?番号教えろ」

 ぶっきら棒なサスケの言葉にナルトはむすりとしながらも、鞄から携帯電話を取り出す。

「オレ、こーゆうの苦手なんだって。サスケ、やってくれってばよ」

「お前、バカは健在か……」

「一言多いっての…、ムカツク」

 ナルトからすれば、曲がった物言いは小さな頃と変わらない……と言うか、ナルトが自分と同じ男だと知ってから変わらないのかもしれない。ナルトが女の子だと思っていた時期にはサスケなりに気を使ってくれていたような気もする。サスケから携帯電話を受け取るって視線を上げると、すぐ近くにシカマルの姿が見えた。

「じゃ、じゃあな。サスケ!」

 雰囲気からして、サスケと話しているナルトの邪魔にならないように遠慮しているようにも伺える。なんだか気まずいような気持ちのまま、サスケに別れを告げるとシカマルの居る方に小走りに駆け寄る。

「ごめん、待たせた?」

「待たせたの、俺の方じゃねえ? あいつって、扇だよな。扇サスケ」

 シカマルの言葉にナルトが後ろを見ると、サスケの背中が見えるだけである。

「あいつも、木の葉だってばよ。知ってる?久々に話したけど、やっぱ性格悪い」

「名前は知ってるけど、話したことはねえかな……」

 少しだけ不機嫌そうに見えるのはナルトの勘違いだろうか。ナルトは首を傾げながら彼を見上げる。その視線に気が付いたシカマルが、ふっと笑みを返してくれた。

「今日は、ちゃんとしようぜ」

「なにを?」

「デートだろ、デート」

「ででで、デートっ!?」

 会うイコールデートだと言う認識のなかったナルトは真っ赤になってしまう。一緒に遊びに行く事はやっぱりデートなのかもしれない。

「ど、どこ行くつもり?」

「まず、飯か。その後は、水族館?夜までやってるとこあるから。ちゃんと帰りは送ってくから安心しろよ」

「あんまり遅くなれないってば、結構ウチは時間とかうるさいし……」

 適当に会うだけだと思っていたナルトはしどろもどろに返した。時間的に食事くらいは一緒にするかもしれないと思っていたが、どこかへ出かけるつもりは毛頭なかったのである。

「適当に遅くならねえようにする」

「あ、ウン。よろしく…」

 食事はイタリアン。すでに店は決まっていた。シカマルいわく勝手に親が予約したそうで、支払いも全てお膳立てされているらしい。シカクはナルトの素性を知っているが、母親のヨシノは多分本当の事を知らないから気を使ってくれたのかもしれない。フルではないコース料理だったけれど、十分に満腹になる。デザートの桃のコンポートはクラッシュされたゼリーの上に乗っていて見た目もきれいなのに可愛い。二人でこんな風にまともな食事をするのは初めてかもしれない。何故かいつもハンバーガーだった事を思い出してナルトがふふっと笑った。

「思い出し笑いしてんだろ?」

「だってさ、シカマルとこんな風にゴハンとか初めてだし」

「いっつもバーガーだったもんな」

「でもアタシ、ハンバーガーも好き」

 何を食べるのではなくて、誰と一緒に食べるかの方が重要だ。おいしいと思って食事ができれば幸せだと言ったのはクシナだっただろうか。ぽつぽつと緊張しながら言葉を交わしてきたが、ようやくその緊張も解けてくる。

 静かな佇まいの店を出ると、少しだけ夜風がひんやりと感じる。それから連れて行かれた水族館は夜間営業期間らしく、夜なのに小さな子供の姿もちらほら見える。

 たまに言葉を交わす。幻想的に見える空間に、多くの会話は必要ないように思えた。それよりも独り言の方が増えている。小さなアクアリウムに入った魚を見てはしゃいでしまった。それから筒状になっている大きな水槽。それは建物の真ん中にあって、色んな魚たちが共存している。

「あ、サンマ?」

「違う、イワシ」

「……間違えたんだって」

「いや、マジで言った」

「あ、あれ!マグロ」

「正解」

 分厚いガラスに張り付くように水槽を覗き込んでいたナルトが笑顔のまま振りかえる。そして、夢中になっている自分の真後ろにシカマルが居る事に驚いてしまった。こんなに間近にいるなんてちっとも知らなかったのだ。

「マグロってずっと泳いでるだろ。泳ぎが止まると死ぬんだぜ?」

「な、なんで?」

「呼吸の問題。ああやって泳ぎながら呼吸してんだってよ。だから、泳ぐのを止めたら窒息して死ぬってこと」

 泳ぎ続けなければ死んでしまうなんて、なんだか可哀想な気がしてくる。

「泳ぎ疲れたら、……どうするんだろ」

「疲れても前に進まねえと死んじまうだろ。だから、ずっとああやって泳ぐ。なんか人生と似てんよな」

 意識すればするほど、シカマルの体温を感じてしまうようで恥ずかしい。ナルトは気にしていないふりをする為にじっと魚を見つめる。

「泳ぐのやめたら死ぬって分かってるから、泳ぎ続けるんだろうな」

「………人生とか難しい事わかんないってば」

 立ち止まったら終わりなのだろうか。ずっと死なない為に泳ぎ続ける事に意味はあるのだろうか。

「しょうがねえ、生きるために生きてる。理屈とかじゃねえだろ。俺らだって腹減ったらなんか食うし、眠たかったら寝る。生きるために全部やってることで、マグロだって同じだってこと。生きるために泳いでんじゃねえのかな…、とかさ」

「そっか……」

 中央の水槽を離れると、トンネル型になっている水槽の通路を通る。上を仰ぐとまるで自分が水の中にいるようで不思議な気分になる。

「すごいすごい! なんか、魚と一緒になってるみたいだってばよ」

 手を伸ばしても、たゆたう魚に触れられる訳もないのに両手を上げてしまう。余分な光源はない。ただ透けて見える上側の人工的な光が水から透けて見えるだけ。仄暗い空間が余計にこの場所を、水の中と認識させるのかもしれない。

「俺、すげーここ好きなんだ」

「シカマル、来た事あるの?」

「なんかさ…見上げてんのは海なのに、空を見てるような気分になるっつーか。俺、空に浮かぶ雲見てんのが好きなんだよ。ただ、意味もなく流れてくような雰囲気みてーなの」

 シカマルの言葉を聞きながら、上を見ていると彼の言葉がすうっと入り込んでくるような幻想的な感覚を味わう。シカマルが言うように、水面が反射する様が空に浮かぶ雲に見えなくもない。

「空も海も青なのに、同じようで、やっぱ違ってさ。でも、俺はどっちも好きかもしんねえ」

「その感じわかるかも……」

 音にしてしまえば、一緒の青色や水色と言ったただの“色“なのかもしれないが、本当はこんなに趣が違う。光が当たったり、明るかったり、暗かったり。きっと見る人の気分によってもそれは色という一括りの何かを逸脱するのかもしれない。

「ナルトの目の色も、同じ色だよな」

「え? アタシ…?」

「俺の好きな色」

 照れたように笑みを作ったシカマルに、ナルトは頬が熱くなるのを感じた。自分の事を好きだと言われているような気持ちになる。都合よく解釈しながらナルトは俯いてしまった。心の中で、名前のまだついていない感情がゆらゆら揺れる。

「も、帰らないと……」

 ナルトはぽつりと呟いた。シカマルにもう会わないと言ったのはナルトで、最後でいいと言ったのはシカマル。だから、今夜別れてしまえば会う理由はない。ただ、婚約者という肩書が二人の周りを意味なく踊るだけだ。

 電車に乗っている時も、歩いている時も、特に話はしない。ナルトは断ったのにシカマルが自宅近くまで送ると聞かないので困ってしまった。

「暗いな〜…やっぱ、住宅街だからか?」

「いつもはもっと早く帰るし、そんな風に思った事ないけど……」

 頬を撫ぜる風がやっぱり冷たい。太陽がない空気が夜のそれに変わっている。すぐ前に見える角を曲がったら、家に到着する。寂しいようなほっとするような、複雑な感情が交錯していた。

「俺、今日誕生日なんだぜ?」

「へっ? 嘘、ほんと?知らなかった……言ってくれたら、プレゼントとか」

「俺はナルトの身上書見てるから、お前の誕生日知ってるぜ?」

 見合いの時にお互いに作られていたのだろう。もちろんナルトはそんな物が存在している事も思いつきもしなかった。

「今日はお前に付き合ってもらったから、それで十分」

 胸のドキドキが止まらない。もう、ほらすぐそこにサヨナラが存在していて……もう、会う事はないのに。決めたのは自分で、それ以上を望む事はできないと分かっているのに。

 思わず駆け出しそうになる腕を、シカマルに掴まれた。

「離…して、も…すぐにウチだから、大丈夫だから……」

「ああ」

 シカマルの返事にほっとした瞬間に引き寄せられる。ナルトは自分の置かれた状況を把握できないまま、自分を抱きしめるシカマルの存在に気が付いてはっとした。

「な、なに…ちょ、シカマ……」

「なんかさ、よくナルトが口にするだろ?可愛いって……俺の感覚的にはあんま理解できねーっつうか、髪とか服とか化粧とか興味ねえって言えばいいのか?でも、可愛いっつうがなんとなく飲み込めるようになってきた」

 ダイレクトに感じるのはシカマルの体温。それ以外は遮断されたような五感。

「やってる事とか言ってる事とか、なんとなく仕草とか……すげー可愛いって思う」

「かわいくなんか……ないっ」

 ナルトは自分から少し離れた体温に思わず顔を上げてしまう。そして、近くにあるシカマルの瞳から視線を外せない。ゆっくりと近づいてくるシカマルに、この後の展開が嫌でも想像できてしまう。

 それでも視線を外せなくて、せつない感情が身体中にどっと流れこんできた。もう少しで唇が触れると言う瞬間に、シカマルの唇にナルトの両手が当てられる。

「だ、ダメ……」

 その両手首をシカマルにぎゅっと握られた。

「ダメってのは、ナルトが言う無理ってのと同じだよな。付き合おうってのも、無理。キスしようとしてもダメ……でも」

 ぐいっと両手を掴まれても、ナルトは精一杯の拒絶をするように顔を背ける。

「だめだってばよ……」

「ナルト」

 名前を呼ばれて、震えながら顔を上げてしまう。

ゆっくりと止まった時間。触れるだけの優しいキス。

それだけなのに、苦しくてしょうがないのはどうしてだろう。

「……ナルト?」

 離れたシカマルはナルトの頬を伝う涙を見て眉を顰めた。

「お前は、無理だともダメだとも言うけど…俺の事を嫌いだとか嫌だとかは言わねえ。俺は自惚れちゃいけねえのか?」

「ちが…っ……ごめ、ごめん。ごめんなさ…っ…っごめんなさいっごめんな…さいっ」

 ナルトの両手がシカマルの身体を押し返す。じっとシカマルを見つめてから、ばっと背中を向ける。自分を呼んだシカマルの声を聞いた気がするけれど、振り返る事は出来なかった。

 家まで全速力で走って玄関でブーツを脱ぎ捨てる。階段を駆け上がってから、初めて部屋についている鍵をかけた。こんなものは必要ないと思っていたけれど、今は少しだけありがたいと思う。扉の外からクシナの呼ぶ声が聞こえた気がする。それにも答える余裕がなかった。

 シカマルの事が、好きだ。同じ男に対してこんな感情を抱くなんて思っても居なかった。真っ暗な部屋のベッドの上。せり上がる何かが嗚咽に変わる。

 男だから、付き合う事は無理。

 男同士だから、キスをするのはダメ。

 シカマルは自分の事を女の子だと思っているから、好きでいてくれる。ナルトは震えながら枕をぎゅっと握った。指先が震える。

「…っ、はっ…う…っうう…っ」

 声にならない。この気持ちは声にならない。

 シカマルの事を騙している。そして、それを知られて彼に知られる事が心底怖いと感じる。

 ナルトは枕に顔を寄せると、ぎゅっと顔を押し付けた。

「… ―――――――――― っ!!」

 押し殺しても溢れる感情が止められない。叫ぶみたいに声を発しながら、心の中で何回もシカマルに謝る。

 

――――――――― ……好きになって、ごめんなさい。

 

 

 

 

  

 

 

 

ああ、シカ誕に間に合わなかったですー

誕生日の話だから、いいなとか思ってたのに。

でも、楽しい誕生日でないよな〜(笑)

サスケさんちょっと出しちゃった。最近のシカナル的には珍しいキャスティングかな?

水族館好きです。でも、たまにガラス張りになってる水槽とかは上に立てない。

めちゃ怖い……

ナルちゃん、自分の気持ちをようやく認めました。でも、泣かせてしまった。