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Welcome Home
家に帰ると、まずばたりとベッドの上に倒れ込む。 「つ…疲れた〜」 誰にも聞こえない独り言を呟き。 「はぁ…風呂」 埃にまみれた身体をさっぱりさせたくて、風呂に湯を張る。その間に腹の虫がなり、いつもの如くカップラーメンの入った棚をがさごそやり始めるのだ。 その日の気分に合わせて味を決めて、風呂をためている事も忘れて薬缶をガスコンロに掛ける。 「よっしゃ、完了!」 テーブルの上にカップラーメンの蓋をあけてスタンバイ。
ふう…。 ナルトは溜息をついた。毎日繰り返される、変わらない日々。なのに、何かが足りない。それが何か分かっている。分かっているけれど、どうしようもないまま、夜は暮れて朝はやってくるのだ。
『またカップラーメンかよ?』
「うっせーってば、上手くて早いのはラーメンなんだってばよ」
『おい、風呂がわいたみてえだぞ』
「まずは、晩飯が先なんだってば……」
幻聴でもなんでもない。聞きたいけれど、聞けない声。彼がいつも自分に言ってくれる科白が頭の中で反芻されただけだ。ナルトはむっとしながら、カレンダーに視線を泳がせる。 最後に彼に会ったのはいつだっただろう。任務が重なると、会えない事なんてよくあることだった。だけれど、妙に気になってしまう。 いつも、いつも、会いに来てくれるのに。 「シカマル…」 どうして、来てくれないのだろう。任務が伸びているのだろうか。なにか、あったのだろうか。 ナルトはガスコンロの火を止めると、脱ぎ捨てた上着に手を掛けた。
呼び鈴を鳴らすと、見慣れた笑顔がナルトを迎えてくれた。 「あら、いらっしゃい。ナルトくん」 「あの…おばちゃん…」 「立ち話もなんだし、ほら…入って入って!ね?」 彼女のパワーには毎回負けてしまうのだが、最近は奈良家へ顔を出す事も減っていた。それは、自分がここに来なくても、シカマルが自分の所へ来てくれるからで……久々にナルトを迎えたヨシノはひどく嬉しそうだった。 ダイニングテーブルに座り、お茶を勧められる。ヨシノは夕飯の準備の途中だったのだろう。そこにはおいしそうな匂いが漂っていた。 「おばちゃん、シカマルは…」 一番聞きたい事を口にしたナルトはヨシノをじいっと見つめてしまった。ヨシノは布巾で両手を拭いながら、「ああ…」と頷く。 「そうねぇ…昨日くらいに帰ってくる予定だったんだけど、帰って来なかったって事は今日くらいかしら?」 奈良家の縁の下の力持ちはあっけらかんと答える。息子や夫がいつ帰ってくるか分からない事には慣れたものだと付け加えられた。ナルトは出されたお茶をずずっと口に入れる。 「ねえ、ナルトくんもご飯食べて行くでしょう?」 「え…オレは…、その」 「ちょっと、買い物に行くから少しの間お留守番頼める?」 「え?」 ナルトの返事を待たないヨシノは、エプロンのポケットに財布を入れると笑顔を残して背中を向けてしまう。突然の事に驚いたナルトは、どうしようか悩む。留守番を頼まれてしまっては帰る事もできない。だけれど、やっぱり手持ちぶたさは変わらない。手の中の湯呑をくるくる回しながら、ぷうっと膨れた。シカマルに会いたくて衝動的にやって来たのだが、それは叶えられるかどうか分からない望みなのだと言う事を突き付けられてしまった瞬間。ナルトは手にした湯呑を見て、いつもと違う事に気が付いた。客用に用意されるものではなく、自宅使いと言った風貌のそれ。白地にオレンジ色のまだら模様。その中に鹿の絵が施されている。 「こんなの見た事なかったなぁ…」 首を捻って考えていると、呼び鈴が鳴ってびくりとする。こういう場合はどうすればいいのだろうか。やっぱり、留守番を頼まれたのだから「この家の人は留守です」と出て行くべきなのだろうか。しつこく鳴る呼び鈴にナルトは腰を上げた。 ドアを開けると、不機嫌そうな声が降ってくる。 「母ちゃん、いるなら早く開けてくれや……」 「おっちゃん…?」 「……?なんだ、ナル坊じゃねえか」 いつものようにぐりぐりと頭を撫ぜられて、ナルトはまた考えてしまった。こういう場合は「おかえりなさい」だろうか?この家の住人ではない自分が、シカクにそう言うのは可笑しい話だとも思えた。 「おばちゃん、買い物にいっちまったんだってばよ。そんでオレ、留守番頼まれて…」 一応説明してみるが、シカクにとってはどうでもいい事らしい。 「母ちゃんらしいなぁ…ま、いい。ナルトが晩飯食ってくって事だな?」 「……おっちゃんには分かるんだってば?」 「母ちゃんの事は大抵お見通しだ」 照れ臭そうに笑ったシカクに背中を押され、ダイニングに逆戻りしたナルトはふと思いついた。 「おっちゃん、茶…飲む?」 奈良家での習慣なのだろうが、帰宅時や食後などよく茶が振る舞われる事を思い出したのだ。ナルトもその習慣を気に入って、ヨシノに茶葉を分けて貰っている。奈良家で飲まれるお茶は、農家から直接仕入れているので、そこらのスーパーでは手に入らないのだ。シカマルが茶を飲むのが好きだと知っていたし、自分も気に行ったからそれに倣っている。 「なんだ、ナル坊が淹れてくれるのか?」 「オレってば、お茶くらい淹れられるってばよ!」 急須に茶葉と湯を注ぐ。それから、湯呑を温めるために戸棚をごそごそと探す。 「おっちゃんの湯呑ってどれだってば?」 「戸棚の一番右だ、右端の黒いのだ黒いの!」 遠くから聞こえた声に従うと、シカクの言う場所に湯呑はあった。それを手にとって、ナルトはじいっと湯呑を見つめる。黒地に白いまだら模様。それに鹿の絵柄。家紋も一緒に入っている。 もたもたしていると、茶葉が開きすぎてしまう。ナルトは慌てて湯呑を温めて、新緑色の液体を湯呑に注ぎ入れた。 テーブルの前でふんぞり返るシカクの前に、湯呑をコトリと置く。 「おお、悪りぃな。ナルト」 彼は嬉しそうに口をつけた。じっとシカクの反応を見ていたナルトは、にかっと笑ったシカクの顔にホッとしてしまう。 「お前、うめえな。俺は茶もろくに淹れられねえからなぁ…合格だ、合格!」 「えっと、おっちゃん湯呑変わったってばよ?」 黒塗りのそれをじっと見つめたシカクは、うんうんと頷く。 「この間、母ちゃんが古くなったもんは変えるって窯元に言ってたからな。これもその一つだろうよ」 だから、自分が口にした湯呑も初めて目にするものだったのだと、ナルトはようやく納得した。テーブルの上に置かれた白い湯呑を見たシカクは、くすりと笑う。 「なぁんだ、ちゃんとナル坊の分もあるじゃねえか」 「え…?オレの?」 「お前は俺にとっても母ちゃんにとっても、客じゃねえ。家族の一人みたいなもんだからな…。母ちゃんは気にしてたんだろうよ」 「でも、オレは…」 「はは…おめえは母ちゃんの我儘に付き合ってくれりゃいいんだよ」 ナルトはぐっと押し黙る。ヨシノもシカクも自分の事をとても大切にしてくれている。息子であるシカマルと分け隔てなく相対してくれている。それが嬉しいし、申し訳ない気持ちもあったりするのだ。 「こういう時って、ありがとうでいいのかな?おっちゃん…」 「ん?そうだな、それでいいんじゃねえのか?」 その口調はシカマルと似ている。親子なんだから当たり前なのかもしれない。ナルトは急にシカマルに会いたい気持ちがこみ上げてくるのを感じていた。 ずずっと茶を啜ったシカクがようやく気が付いた様にナルトを見つめる。 「そういや、珍しいな。最近、お前…来てなかっただろう?」 「あの…シカマルに――――――― 用が、あって」 半分嘘で、半分本当の事。 会いたいと思ったら、居てもたっても居られなくて、奈良家へ来てしまったのだ。衝動的に。 「だから、母ちゃんも張りきったって訳か…」 ナルトは首を傾げる。シカクの言う意味が分からない。 「おばちゃんの話だと、シカマルは今日くらいに帰ってくる…予定だって言ってたから」 「そういや、あいつとも暫く会ってねえな」 しらっと答えるシカクにナルトは驚いた様に彼を見つめる。 「なに鳩が豆鉄砲くらった顔してんだ?家に帰ってくるのも一カ月ぶりなんだ。シカマルとまともに会ったのは……二カ月前くれえになるか?」 懸命に思いだそうとしているシカクに、ナルトはまた驚いた。自分なんて半月程会えないくらいで、こうやって彼の所へ押しかけてしまったと言うのに。 ナルトが押し黙った所で、パタパタという足音が聞こえた。暖簾の奥から顔を出したヨシノが、シカクの背中を見つめてナルトに視線を移した。 「ナルトくん、お留守番ありがとう」 シカクは振り返らず湯呑に口を付けている。 「お父さん、おかえりなさい。あら、お茶淹れて貰ったのね?」 ヨシノはシカクがお茶の一つも淹れられない事は承知しているのだ。 「ナルトはなかなか上手いぜ、母ちゃん」 「あら、そう?良かったじゃないの」 「なかなかいい焼きだな、この湯呑。いい照りだ」 「私も気に入っているのよ。お茶碗なんかも一緒に誂えたから」 「うん、分かった」 ナルトはシカクとヨシノの会話に聞き入ってしまった。一か月ぶりに会う夫婦の会話とはこんなものなのだろうか。ナルトには分からない信頼関係がこの二人の間にはあるのだろう。そんな事を考えて、ふと寂しくなる。自分とシカマルはどうだろうかと。いつも自分は与えてもらうばかりだ。そうされる事に慣れてしまっていた。それに気が付いたナルトは、無性に寂しい気持ちになる。 俯いて、冷めてしまったお茶を口にいれる。本当は泣いてしまいたいくらい情けない気持ちになっていたのだが、そんな事は出来るはずもない。 「ただいま…」 疲れた風の声が聞こえ、ナルトは顔を上げる。視線がシカクを通り越して、彼に辿りつく。 「……シカマ」 「ナルト、どうしたんだ…?」 驚いた様なシカマルの表情を見て、ナルトは懸命に口元に笑みを乗せる。彼はナルトのよく知っている笑みを口元に乗せると、ナルトの隣にどかりと座った。 「あら…帰ってくる時は、みんないっぺんになのね〜」 ヨシノはくすくすと笑いながら、息子と夫に視線を向けた。ナルトが見たヨシノは少し嬉しそうな顔をしているように見える。彼女はナルトの湯呑を手にすると「新しいものに淹れかえるわね」と笑顔を見せてくれた。シカマルの分も一緒に淹れる為だろう。 「ありがとだってばよ、おばちゃん!」 「これが私の楽しみなのよ、ナルトくん」 特に会話をしないシカクとシカマルは、お互いに興味がないように見える。それはナルトの目からみてだが。きっと、特に会話をしなくても繋がっているものがあるのだろう。ヨシノとシカクが夫婦であるように、シカクとシカマルも親子なのだから。 「やっぱ、任務後の茶は格別だなぁ……よう、シカマル」 「よかったじゃねえかよ」 「それも今日は特別だ。なんせ、ナルトが淹れてくれたんだからなぁ〜」 シカマルが一瞬、むっとした。 「そりゃ、良かったな」 むすりとするシカマルの前に、深緑色の湯呑が置かれた。それを見たシカマルが、湯呑を手に取って見つめた。 「母ちゃん、焼き上がったのか?」 「そうなのよ。お父さんも気に入ってくれたみたいよ…はい、ナルトくん」 お揃いの湯呑を見たシカマルは、優しい瞳をそれに向ける。ナルトはシカマルを見上げて、照れ臭そうに笑った。 「オレの分だって…」 「いい色に出来あがってんな、いいじゃねえか」 「うん」 笑って頷いた所で、ナルトの足にシカマルの足がそっと触れる。ドキリとして目を大きくした。そしてシカマルをじっと見つめてしまう。それは誰にも知られる事のない、二人だけの合図のような気がする。足の甲をそっとなぞる様に、シカマルの足の指が行き来する。 その感覚に、背筋に走るものがあった。快感に近い感覚。ナルトはどきどきしながら、俯いてしまう。きっと頬が赤くなっているはずだ。恥ずかしい。少しの触れ合いで身体が熱くなる。 「シ…シカマル?」 「ンだよ…?」 「なんでも、ない…けど」 夕飯までには時間があるからと、シカクは風呂に追いやられた。シカマルは着替える為に自分の部屋に戻って行く。ナルトは意味もなくシカマルの後ろを付いて行った。 部屋の扉が閉まった瞬間に抱き寄せられる。抱きしめられて吸いこんだシカマルの匂いに、ナルトは彼の背を抱く手に力を入れた。 「びっくりしたぜ?帰ったら、お前が居るなんてな」 「……迷惑、だった?」 「ンな訳ねえよ。思わず抱きしめそうになった…」 「ほんとに…」 その言葉の続きをシカマルの唇によって奪われた。深く重なる唇と、熱く絡まる舌の感触が久しぶりでナルトの感覚が宙に浮く。 「ふ…んんっ…シカ…マ」 「ナルト…」 唇が離れても至近距離にある顔に、ナルトの顔が真っ赤に染まる。 「白状しろよ、どうしたってんだ?」 「シカマルに会いたくて……我慢、出来なかったんだって…」 正直に心の中を吐露する。それ以外言葉は見つからなかった。 「声聞きたくて、抱きしめたくて、我慢出来なかった……」 「くそ…煽るなよ」 求めるまましきりに抱きしめ合って、もう一度唇を重ねた。キスだけでは足りない。それはお互いに感じている事だったのだが、今という時間ではこうするのが精一杯だ。 「母ちゃん、張りきってんからな。付き合えよ、ナルト」 「…ん」 「もちろん、俺にもな」 艶を乗せたシカマルの表情に、ナルトも赤くなりながらコクリと頷いた。
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ナルトは奈良家の嫁か?嫁、確定か?!
全く、そんな扱いになっている。
毎回書きますが、シカクとヨシノはナルトを構うのが好きです。
もちろんRUIの趣味です(笑)
ナルト、可愛がられてんな〜。RUIも可愛がりたいなぁ…