柏 戸建 船橋市 不動産

 

 

 

バレンタイン2010

 

 

 ナルトがにこにこしながら、大きな紙袋からそれを取り出した。

「はい、サクラちゃん。ついでにサイも」

 ラッピングされた小さなモノを渡されたサクラは、眉をひそめながらナルトを見返す。

「なによ…コレ」

「友チョコだってばよ。いつもお世話になってるサクラちゃんに!」

 笑顔を張りつけたナルトにサクラは、う〜んと唸る。完全に友人の一人にされた事に文句はない。ないのだけれど、男の子から受け取るチョコも微妙だと感じていた。

「ね、ナルト。ボクはついでって…一応、友達だよね?ボクたち」

「……否定はしねえけど、肯定するのもなんかムカツクから、適当に考えてくれればいいってばよ」

「…ムカツク?」

 サイはサクラとは違った意味でチョコレートの包みを見つめた。一応でも友人の一人だと数えられたのだから、まだマシだろうか。それとも、しっかりと友達だと認定してもらってから貰った方がいいのだろうか…今の状況では余りにも自分が可愛そうな気がしてきた。

「ナルト…あの」

 視線をチョコレートからナルトへ向けたはずだった。だが、たった今まで目の前にいたナルトの姿がない。

「あれ、ナルトは?」

 隣に居たサクラに訊ねると失笑された。

「アンタがチョコレート見つめてる間に、次に行ったわよ。あのバカ」

「次?」

 話が飲み込めないサイにサクラは盛大な溜息をついた。

「ナルト、今年は友チョコを配る事に決めたみたいだから。あの紙袋見たでしょ?同期メンバーんとこに行ったんじゃない…?」

「なんだ。ボクはちゃんとナルトに友達だと言われてから、これを貰いたかったなぁ」

「ん?なによ…貰えた時点で、友達だと認められてんじゃないの?」

「だって、ついでだとか適当だとか言ってたし」

 困ったようなサイに、サクラはぷっと吹き出した。出会った頃の無機質な彼と違い、少しずつ感情を表に出す事に慣れてきたサイから人間臭さを感じる事ができるようになってきた。たまにピントがずれていると思う事もしばしばなのだが、それはサイだからと言う理由で目を瞑ってやる事にしている。

「あれは、あいつなりの照れ隠しってやつよ。ちゃんと、サイの事友達だって認めてるわよ」

「ほ…ホントかな?」

 少し嬉しそうな顔をしたサイを見たサクラは、こくりと頷く。

「そーよ。自信持ちなさい、アンタも私たちとチーム組むようになって長いんだし。ナルトの性格も分かって来たでしょ」

「それが、よくわかってないって言うか。ナルトがバカくらいしか分からないよ…」

「それが分かってれば、十分よ」

 くすりと笑ったサクラは、ナルトから貰ったチョコレートを見つめる。

 馬鹿みたいに正直で、真っ直ぐで。サクラやサイがナルトに「バカ」だと言うのは、彼らなりの愛情表現だったりするのだ。時々、方向がめちゃくちゃだったりするのだが、それにも慣れてきた。

「それにしても、友チョコなんてねぇ」

 ナルトは本命にチョコレートを用意しているのだろうか。そんな事はサクラには関係のない事のだが、一緒に任務に就く時のナルトのモチベーションを左右する彼の事を思い出して空を仰いだ。

 

 

 

 

 チョコレートを渡した友人たちのリアクションは様々だった。素直に喜ぶ者もいれば、訝しげな視線を向けてくる者もあり…。もちろん同期や、よく一緒に任務にあたるメンバー、恩師など…自分なりにチェックリストを作って渡してきたのだ。サクラからは貰えなかったが、いのやヒナタからは反対にチョコレートをもらえたりもしたのだ。ちょっとだけラッキーな気分になる。

 感謝の気持ちを込めてチョコレートを渡す。それはバレンタインに便乗したナルトなりの、感謝の気持ちの伝え方のひとつだと言える。帰宅したナルトは上機嫌で、薬缶を火に掛ける。湯がわくのを待つ間に湯呑を温めて、戦利品の一つであるチョコレートを口にした。

「…うまい」

 いのが作ったショコラクッキーを口にして唸ってしまう。一応、ナルトの料理の師匠である。シカマルには料理をする事をとめられているのだが、たまには教えてもらっているのは内緒だ。

「おっかしいな。教えてくれてるのは、いのなんだから…同じもんができてもいいはずなのに……う〜ん」

 いつもなぜか見た目が違う。確かに手先の器用さの関係もあるのだろうが……見た目はかなり悪い。味は、まぁソコソコだと思っているのだけれど、まだ誰かに出せるような代物ではないのだ。いのには精進あるのみだと肩を叩かれた。早い所、シカマルにリベンジしたいのだが出来そうにない。彼は意外にも器用だったのである。ナルトのようにレシピを何度も見直す必要がないのは、全て頭の中に入れてしまえる彼の頭脳の秘密にある。後は、覚えた事を順におっていくだけなので、不細工な野菜の形などを無視すれば、ナルトとは全く違うものが出来あがるのである。だから必要に迫られればシカマルが料理をすると言う事で、ナルトには必要がないと言われてしまったのだ。

 だけれど、今日は違うと拳を握りしめる。

「見てろよ、シカマル!」

「…ンだって?」

「わわっ!」

 耳元でした声にナルトが大袈裟に驚く。少しだけ身をかがめたシカマルの顔が真横にあった。

「シカマル!気配消して近づくなって〜ってか、何時の間に来たんだってばよ」

「普通に入ってきたっての。気配消すとか、別にそんなの必要ねえだろ?めんどくせーじゃん」

「…ん、ま、そっか」

 いつもと同じく部屋に入って来た事に全く気が付かなかった自分に問題があるような気がして反対に凹んでしまう。

「いいタイミングだったな。俺にもお茶、淹れてくれっか?」

「あ、うん!シカマル、おかえり〜」

「ん、ただいま」

 少しだけ気だるそうなシカマルがナルトの唇に自分のそれを寄せる。触れるだけの口付け。啄ばむみたいなそれにナルトの頬が赤くなる。舌を絡めるようなディープなキスも好きだが、こうやって触れるだけのキスも好きだ。それが当たり前のように自然に寄せる唇。ふっと見上げたシカマルと視線が絡まる。どきんとした胸の鼓動が少しだけ騒がしくなる。

「どうしたんだ?」

「別に…なんもねえって…」

「ふ〜ん、そっか」

 ふっと眼を閉じたナルトにもう一度唇を落としたシカマルは、欠伸を噛み殺しながらダイニングへ戻っていく。ナルトは口元に笑みが浮かぶのを感じながら、薬缶の火を止めた。急須にお湯を入れて、それを湯呑に注ぎ入れる。盆の上にそれを置いてシカマルの所へ行くと、彼はまた欠伸をしていた。

「シカマル、眠てーの?」

 湯呑をテーブルの上に置いて、ナルトも腰を落ちつけた。茶をすすりながら、シカマルは生返事をしながら、ふうっと息をつく。

「なんだかな〜…昨日、あんまり寝てねえから。今更ながらに睡魔がやってきたんだろうな」

「へ〜。珍しいな、シカマルがこんな風なんて…」

 ふとテーブルの上に目線を落としたナルトの視界の中に、見た事のない箱が見えた。それは、いのやヒナタがくれたチョコレートの包みとは違うもの。もちろんナルトが持ってきたのではないのだから、シカマルが持ってきたものだと分かる。

「シカマル…これ、どうしたんだ?」

 聞かなくても分かるのに、聞いてしまうのは胸の奥に少しだけ疼いた感情の所為。

「なんか、いつもお世話になってますだって。俺は食わねえけど、お前は甘いもん好きだろ?」

「好きだけど…」

 じいっとシカマルを見る。シカマルはすぐにその視線に気が付いて眉をひそめた。

「おい、そのメンドーな目はなんだよ」

「べっつに」

「お前だって、貰ってきてんだろ?たかが、義理チョコを丁寧に返すのも可笑しい話じゃねえか」

「そうだけど……」

 やっぱり嫌なものは嫌だったりする。きっと、シカマルからすればとても下らない拘りだとしても、嫌なものは嫌なのだ。もしかしたら、この義理チョコの中に本命チョコだって交っているかもしれないではないか。シカマルはそう感じないのだろうか。

「オレはヒナタといのからしか貰ってねえってばよ。サクラちゃんだって、くれなかった!」

「いの…?ああ、なんかその大きい包みがそうだぜ?」     

 自分が彼女から貰った包みとは大きさも違う。リボンをほどくと、中からはこぶりなケーキが出てきた。粉砂糖がかかったそれはとても美味しそうである。

「ナルトと一緒に食えって言ってたな」

「オレはクッキーもらった」

「……開けてよかったな。あいつの事だから、お前と俺の中身を変えたのわざとだぜ?」

「なんでそんなややこしい事すんだってばよ」

 シカマルはくすっと笑う。

「あいつは、俺のチョコがどの腹ん中に入るのか知ってるからな。ちゃんと食ったかどうか確かめるために、ナルトと俺に渡すものを別にしてんだよ。ったく、女ってめんどくせえ」

 そうだろうか。ギリだろうがホンメイだろうが…渡したんだから、食べて欲しいと思う心はプレゼントした側からしたら当たり前だと思う。だけれど、それとこれは別物である。シカマルの貰ったチョコレートをじっとりと見つめた。

「お前にやるから、思う存分食っていいからな」

「いらねえ」

 食べ物には罪はない。

「どうしたんだよ」

「いい。いのとヒナタから貰ったのあるから」

「…は?」

 罪はなくても、少しくくらいヤキモチをやく権利は自分にあるはずで。それが、シカマルにとって面倒な事でもなんでも。

「年の為に聞くけど……俺がチョコレート貰ってきたのが気に食わねえとか、言わねーよな?今更…」

 まさかこんな展開になるとは思わなかった。もちろん、お返しなどと面倒な事は嫌なので貰う時には一応断りを入れている。そんなものを期待して居る訳ではなく、日頃の感謝だと言われて断りきれなかったのだ。もちろん、お返しは母親に適当に見繕ってもらえばいいくらいの気持ちで居たのも確かなのだが。

「…ナルト。お前がいのやヒナタから貰ったのは良くて、俺はダメなのかよ?」

「いのとヒナタは、交換みてーなもんだもん」

「交換?」

 バレンタインには仲間や恩師に「友チョコ」を贈った事を口にする。だから、いのやヒナタとは「交換」と言う事にしようという話になったのだ。だから、誰からもチョコレートは貰っていない。それが義理でも本命でも。

「なのに…シカマルは簡単に受け取るなんて、愛がねえってばよ」

 シカマルは溜息をつくと、湯呑の中を飲みほして立ち上がる。

「先に風呂かりるぞ。俺、眠てーから…」

「シカマル!」

 さっさとベストを脱ぎ捨てたシカマルは、髪をほどいてバスルームに向かってしまった。その背中を睨みつけたナルトは、ぶすりとして口を尖らせる。

「信じらんねえっ!」

 こんな事に拘る自分を、きっとくだらないくらいに思っているのだ。確かに、下らないとも思う。だけど、少しくらい自分の言葉を否定するような事を口にしてくれてもいいではないか。少し、女々しいような気もしたが、やっぱり少しだけ寂しい。

「バカシカ…」

 呟いたナルトはテーブルの上に突っ伏しながら、重たい溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

今年は、ちゃちゃっかとバレンタイン話をアップする予定でした。

そして、予定は思いっきり未定になってしまいました()

おっかしいなぁ。

ちょっと、書き直しとかしてたら違う話が出来あがってしまったみたいな??

去年の教訓が余り生きてない事に、今更に気が付く(^^

可愛い話にしたいという野望はいまだ持っています…