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バレンタイン2009
「ね〜ナルト知ってる?今年のバレンタイン、逆チョコが流行ってるんだって」 サクラの瞳がきらきらしているように見えるのは、自分の目の錯覚だろうか。ナルトは「ん?」と 口をしかめた。 「逆チョコって…なんだってばよ?」 「はぁ〜っ…アンタってほんとに馬鹿なんだから!バレンタインが何の日かは知ってるわよね?」 呆れたように広いデコに手を当てたサクラはわざとらしくため息をついた。そして、ナルトの顔の前に人差し指を立てる。 「そりゃ…知ってるってばよ」 照れたように笑うナルトを見て、サクラがにやりと笑う。 「簡単に言うとね。逆チョコってのは、その反対ってこと!」 「ぎゃ…逆ぅ?」 「そうよ。馬鹿なアンタでも、ここまで言ったげたんだから意味、…分かるわよね?」 「好きな人にチョコあげる日だってばよ?」 一応、ナルトの言っていることは合っている。だが、サクラが声を大にして言いたいことは違う。 「アンタ、マジでほんとに心底呆れちゃうわよ!」 サクラの視線が剣呑なものにかわる。ナルトの頭の中で「危険信号」が鳴り響いた。 「いい?バレンタインっつうのはね。女の子が好きな人にチョコレートかこつけて愛を告白する日なのよ。この乙女心分かるわよね?もう、何日も前からドキドキで眠れなくって。チョコをちゃんと渡せるのか、その日のファッションは何系でいこうか…なんてトキメキ感じちゃう一大事。もしかして、そのままキ…キスまで行っちゃうのも〜!きゃ〜っって感じの日なのよ〜ぉ。アンタにこの繊細な気持ちまで分かれなんていわない。そんな贅沢言ってもしょうがないもん。いい?今年はその逆よ、逆!乙女にとってのこの神聖な特権を男の子にも分けてあげようという、素晴らしいコトになってんのよ」 鼻息を荒くして語るサクラの右手が拳を作っている。ナルトはどう答えていいのか、とても迷う。 「サクラちゃん…オレからチョコ欲しいってば?」 「はぁ?……ンなこと言ってないわよ!教えてあげてるんじゃない。アンタも好きな子とかいるんなら、頑張んなさいよ」 サクラの頬が少し赤いような気がするが、ナルトは素直に頷いた。 「でもよ、サクラちゃん。カカシ先生は製菓会社のイベントに惑わされるな〜って言ってったてばよ?」 「カカシ先生のコトは、別に関係ないでしょ」 ギロリと睨みつけられて、ナルトは返答に困る。今までの人生でバレンタインなんて行事が自分に関係あったことは少ない。サクラから「超ギリチョコ」を渡されたことがあるくらいだ。 「ふ〜ん…、まぁ……なんとなく分かったっつーか」 「アンタがなんとなくでも分かっただけでも、満足よ」 サクラは機嫌よさそうに手を振ると、ナルトに背を向けてしまう。 「あ、サクラちゃ…」 もはやナルトの声はサクラに聞こえていないのだ。小さくなる背中を見つめながら、ナルトは唸る。サクラの事は好きだが、彼女は自分からのチョコレートはいらないと言っていた。素直にサクラの言葉を受け取ったナルトは、とりあえず自分のトリビアが一つ増えたことに満足して帰路に着くのだった。
「そう言えば、今年のバレンタインは逆チョコが流行ってるって知ってた?」 チョウジとシカマルは、伺うようないのの言葉に顔を見合わせる。任務の途中で休憩しているのだが、いきなりの話の展開に驚いてしまう。と、言うか突然である。話の脈絡も何も関係ない。 「……ボク、チョコはやっぱりもらいたいけど」 チョウジはポテトチップスをぱりぱりと食べる。 「めんどくせえよ。ンなコト、どうだっていいだろ」 シカマルは竹筒に入った水で喉を潤す。いのは不機嫌そうに目を吊り上げた。 「ちょっとウチの男供のこの体たらく具合はいかがなもんよ!」 いのはじっとりと、チョウジとシカマルを順に睨みつけた。 「いっつもお世話になってるいのちゃんに、コディバのチョコでも贈っちゃおうかとか思わないわけ?」 「あ!ゴディバのチョコレートフローズンドリンク、おいしいよねぇ」 チョウジの言葉にいのは深いため息をついた。 「毎年、友チョコやご褒美チョコや…あんなん製菓会社の陰謀だろ。今年は女ばかりか男までターゲットかよ」 シカマルの科白はいのをより一層落ち込ませる。 「……あんたら、告白したい子の一人もいないわけ?」 「いのは告白されたいの?」 「わ…私の話はどうでもいいのよ。心配してあげてんでしょ!」 シカマルとチョウジは視線だけ合わせると、いのの苦しい言い訳を聞き流す事に決めた。 「めんどくせえ…」 絶対に確実に、いのからの「催促」であることは確かだ。チョウジと金を出し合って、いのにチョコレートを贈るのはいいのだが、きっとこれには裏がありそうである。それがどうもシカマルには引っかかってしまう。本当に面倒な事に巻き込まれそうで。 「分かったけどよ…お前、ダイエットだどうとかいつもうるせぇじゃん」 「そ、それは…気持ちの問題よ、キモチ!」 「あはは。いのもポッチャリ系の仲間入りだね」 少し話しの観点がずれているチョウジに、いのが乾いた笑みを返した。彼女からしてみれば、この際チョコが貰えればなんでもいいのだろう。シカマルは、ますます怪しい態度に白けた視線を送ったのだった。
コンビニで仕入れるのは、本日発売の限定味噌ラーメン。ナルトはわくわくする気持ちを抑えられないまま、店の扉を潜る。そして、目に入ったかわいいハートのポップにサクラの言葉を思い出した。 「好きな子いるなら、頑張れ…って言ってったけっか?」 バレンタインは女の子のイベントだと思っていたナルトには、陳列されたバレンタインチョコなんて自分には関係ないものだと思っていた。色とりどりにラッピングされたチョコレート。じいっと見つめて、やっぱり恥ずかしくなる。サクラの言うような繊細な気持ちは本当に分からない。少し悩んだナルトは、チョコレートを見ないようにしてカップラーメンコーナーに向うのであった。 ビニール袋に入ったラーメンを見つめ、ナルトはニヤニヤしながらアパートまでの道を歩く。零れてくる笑みを隠さないまま、今夜の食事が楽しみでたまらない。限定味噌ラーメンは一人三個までの購入と決まっていて、その一個を本日の夕食に当てようと考えていた。 「へへへ〜」 間抜けな笑いをあげながら、ふと前を見る。そこには、ズボンのポケットに両手を入れながらタラタラと歩いている見慣れた姿。 「シカマル〜!」 ぶんぶんとビニール袋ごと腕を振ったナルトに嫌でも気づいたシカマルは顔を上げる。 「シカマルも任務終わったんだってば?」 走り寄ると、シカマルは軽く頷いてナルトのビニール袋を覗き込む。 「お前、またラーメンかよ」 ナルトはそれをさっと身体の後ろに隠した。批判に聞こえるシカマルの科白に眉を顰める。 「これはただのラーメンじゃなくって、限定ラーメンだってばよ」 「限定だろうが、ラーメンはラーメンだろうが」 「……分かってないってばよ。限定はそん時しか買えない貴重なもんなんだからな。しかも、一人三個まで!」 力強く反発するナルトにため息をもらす。 「あんなぁ…」 「なんだってばよ」 ナルトはまだ何か言いたげなシカマルをじっと見つめた。その強情な眼差しにシカマルは根負けした気分になる。道端で言い合う内容でもない。 「一人三個までなんだろ?俺も買ってきてやる」 シカマルの言葉はナルトには意外なもので、驚いたように目を丸くする。 「え?ホントだってば?」 「こんなことで嘘付いて、俺になんか得あるのかよ」 「…ないけど」 食生活には煩いと言えるシカマルの言葉には聞こえない。ナルトはポケットから、蛙のがま口を取り出した。 「別にいい。俺もお前んちで食うから」 がま口を覗き込んでいたナルトがまた驚いたように顔を上げる。シカマルはにんまりと笑みを浮かべる。 「お湯くらい出るだろ?」 「失礼だってば!牛乳もつけるってばよ」 「…茶ぐらいだせっつーの」 真剣なシカマルのお願いなのだが、ナルトはご飯に牛乳でOKなのでなんとも思わない。頭の痛い悩みの種を抱えた気分で、シカマルはコンビニを目指すことに決めた。 「沸かしとけよ〜」 それだけ言うと、さっさとナルトに背を向けてしまったのである。シカマルは待っていろとは言わず、「湯を沸かしておけ」と行った。ならば、ここで訳も無く待つ必要も無い。ナルトは不思議な気持ちでシカマルの背中を見つめ、少しでも部屋を掃除しておこうとアパートまでの歩みを速めた。 偶然に会えたシカマルが、当たり前のように遊びに来てくれるのが嬉しい。そんな気持ちが、心をほんわか温かくさせる。部屋に散らばる物たちを集める。集めて、重ねて部屋の隅に置く。シカマルから言わせると掃除の部類に入らないナルトの行為も、本人的には十分に掃除だったりするのだ。溜まってしまっている洗濯物をかき集めて、籠の中にバサリと入れた所で呼び鈴が鳴った。 がちゃりとドアを開けると、シカマルがいる。ナルトは自然と笑顔になっていた。 「早かったってばよ!」 「…おい、お前。一応外確認してから開けるとかしないのかよ」 「シカマルが来るって言ったから、シカマルだと思ったんだってば。シカマルもそのまま入ってくればいいじゃん」 ナルトにしてみれば至極真面目な思考なのだが、シカマルは呆れたようだ。その顔を見て、ナルトは重大な事を思い出す。 「シカマル!今からお湯沸かすから…」 慌てて背中を向けると、その動きをシカマルの長い腕によって止められる。引き寄せられて抱き込まれた。 「わわっ」 驚いたナルトの声も、彼の唇に奪われてしまう。シカマルの手で顔を固定されているので逃げるにも逃げられない。触れていた唇の隙間から進入してくる舌はいつも熱い。 「あ、の…お湯……」 すぐに絡み付いてくる舌に応えてしまったのは、本当は嬉しいからだ。こんな風に求められることが嫌いではない。いつの間にか体制が変えられて、二人で向き合うような形になっている。シカマルの右手はナルトの後頭部に、左手は腰を抱いている。夢中になったナルトはシカマルの首に両手を絡めた。 「あ…は…、シ…カ…んっ」 吐息の合間に漏れるナルトの鼻から抜けたような声が、甘えているようで可愛く感じる。ちゅっと唇に触れるだけのキスをしたシカマルはじっとナルトの顔を覗き込んだ。 「おい、顔赤けぇぞ」 「息が苦しかったんだってばよっ」 「お前いつもそれだな」 苦し紛れの言い訳をするナルトは、鼻先をシカマルの頬に寄せる。猫が甘えてくるような仕草を見せるナルトが照れているんだと言うことは重々承知だ。シカマルは足元に置きっぱなしになっているビニール袋を取ると、中をごそごそやりだす。何を始めたのだろうと覗き込んだナルトの目の前に、板チョコが現れた。間抜けにじっとチョコを見つめていると、シカマルが不思議そうに尋ねてくる。 「食わねぇのか?」 「…食う」 不意にナルトの頭の中にサクラの笑顔が浮かんだ。 「シカマルは、繊細な乙女心とか分かるってば?」 「お前、いつから乙女だよ?」 「は?オレじゃなくて、シカマルの事言ったんだってば……」 「女は何考えてんのか、分かりやすいようでメンドクセーからな。考えたくもねえな。っつうか…乙女とかなんだ?」 「話すと長くなるってゆうか…あんま覚えてないかもしれねーってば」 「……いいわ、聞きたくねぇ感じだから。それよりも、湯沸かせよ」 「シカマルが止めたんだろ」 自分が掃除をしていて、お湯を沸かすのを忘れていたことは棚上げでぷうっと頬を膨らました。ナルトはぶつぶつ言いながら、薬缶を火に掛ける。テーブルの上に起きっ放しになっていた、コンビニの袋。それをごそごそやりながら、カップ麺を二つ取り出す。サンダルを脱いだシカマルは、ナルトの前にビニール袋を置いた。 「サンキュ」 ナルトは袋の中を覗き込んで、じっと考える。一応考えてみて、自分の前に立つシカマルに小さな箱を渡した。 「なんだ…?」 見慣れたパッケージを手渡されたシカマルは伺うようにナルトを見つめる。 「酢こんぶ…シカマル好きじゃん」 「おう、まぁな」 それと、一口サイズのチョコレートをテーブルの上に取り出す。 「ついでに…コレも」 「チロルチョコ…?」 「サクラちゃんが言ってたんだってばよ。今年の流行は逆チョコなんだってば。えっと…乙女の新鮮な特権らしい」 シカマルはナルトの言葉を聞いて呆れたように笑った。いのがいきなりチョコを強請ってきたのは、サクラ絡みだった訳だ。ようやく納得しておかしくなる。 「新鮮な特権って、なんちゅう例えだよ」 「サクラちゃんの受け売りだってば!」 男の子が好きな人にチョコレートをあげてもいいと、言ったのだ。そんな事は自分に関係ないと思った。けれど、自分の好きな人と言えばシカマルだろうとコンビニで思いついたのだ。思いついたのはいいが、バレンタイン仕様のチョコレートを買うのも恥ずかしいし、当のシカマルが喜ぶかも不安だったので、彼の嗜好に合わせることにした。それだけでは芸がないと考えた挙句がチロルチョコレート。一口ならシカマルも口にするかもしれない。 「シカマルも板チョコくれたってばよ!」 「ばか。バレンタインは関係ねぇよ」 ピーッと薬缶が鳴り、お湯が沸いたことを知らせてくれる。ガスコンロの火を止めたシカマルは、腕をナルトの首に引っ掛けた。 「どうしたってば…?」 薬缶をそのままにしてきたシカマルを不思議に思って見上げると、頬にシカマルの唇が当てられる。どうゆう意味だが咄嗟に分かったナルトは、恥ずかしくて顔を真っ赤にした。 「やめとくか?」 「…やめねぇってば」 こんな時、シカマルの事をとても意地悪だと思うのだ。彼の誘いを断るはずもないのに。わざわざ尋ねてくるなんて、意地が悪いとしか思えない。 「先にメシとか言いそうなのにな?」 「い…言わないってばよ…んなこと」 「先に俺?」 ナルトは、ぎゃあと叫びだしたいくらい恥ずかしい気分になる。きっと、最上級の嫌がらせだ。 「如何わしい言い方すんなってばよ!」 「イカガワシイことすんだろうが」 肩越しに見たシカマルの目が挑戦的で、ナルトはすぐにそらしてしまう。行為に及んでしまえば、それはそれで大丈夫なのに、その直前というのがとても苦手だ。キスをするのも抱き合うのも嫌いじゃない。なんとなくその場の雰囲気で、シテしまう時は平気なのに。 「恥ずかしがる事かよ」 「恥ずかしい事だってばっ!」 ナルトはそれ以上口にしたくなくて、ぎゅっとシカマルの腕に縋りついた。
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バレンタイン当日をすっ飛ばした挙句、続きもんですよ!
だめだろ…自分って感じ。
書いても書いても、終わらないので。
分けてみることにしました〜(言い訳…ってやつ)
木の葉にコディバがあるかどうかわかりませんが。
チロルチョコはあるでしょう!