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雨月夜3
ナルトの頼んでいたという月見酒を持って仲居がやってくる。ついでに、布団の用意もしてくれているらしくごそごそと酒の用意をしているナルトに思わず言ってしまった。 「ナルト、いつも風呂風呂ってうるせーけど…行かなくていいのかよ。露天風呂」 仲居の話では、月見と同じくらいに風呂もいいという話だ。 「あ…それは…その、入るけど……さ」 なんともはっきりしないナルトの返答に首をかしげて居ると、床の用意を済ませた仲居が不思議そうな表情を浮かべる。 「あら、お客様…まだ庭の露天風呂は入っていらっしゃらないんですか?」 「…庭?」 シカマルの問いに仲居はにっこりと笑った。 「お連れ様にはご紹介が遅れまして…伺っているものばかりと失礼致しました。このお部屋には庭に個別の露天風呂が設けてあるんですよ」 それも自慢の一つなのかと納得していると、顔を赤くしたナルトが俯いているのが見えた。その心情を少しばかり見透かしてふっと笑う。 「へ〜そりゃ、風流だ。露天につかりながら、月見酒ってのは最高なんでしょうね」 「その月が今夜は隠れていますが、ちょうど雨もやんだ合間でございますので……どうぞお楽しみください」 「どうも」 ごゆっくりと声をかけて部屋を去る仲居を見送って、まだ俯いているナルトに視線をやる。 「部屋に露天なんて、けっこう値が張るんじゃねえのか?」 「…え?! あ、…ンなことねえよ。ちょっとだけの違い、だし」 「俺に隠してた?」 「違うってばよ。言うタイミングなかったじゃんっ!」 宿に到着して早々にお互いを求め合い、それから夕食。確かに風呂に入る間などなかった。それでも、いつものナルトならば、食事を終わらせたら「風呂!」と出かけて行きそうなものなのに…… 「なあ、楽しむか?」 「…ん? あ、入る?」 「お前、お楽しみの意味分かってんのかよ?」 「露天風呂と、月見酒じゃねえの?」 きょとんとしているナルトに、シカマルがにやりと笑う。先程まで真っ赤になって俯いていた理由はシカマルが意地悪で言葉にした“お楽しみ”に直結していると思うのだが、当のナルトはそんな事は露知らず……のとぼけた返答である。天然だとかのレベルじゃなく、たまに本気で抜けていると思うのだが。それはシカマルの思い違いでナルトからはぐらかされているのではないかと邪推してしまうくらいに。 シカマルを傍目に風呂の為にタオルを用意するナルトは、からりと庭へ通じる襖を開けた。シカマルは小さいながらも立派に整えられた庭に思わず見入った。沓脱石から庭へ下り立ち、飛び石を踏みながらぐるりと見渡す。 「こりゃ、父ちゃんや母ちゃんが喜びそうだな……」 思わず口にしてシカマルはしまったと思う。庭へ一緒に降りてきていたナルトが「そうなの?」と首を傾げたのだ。 「………好きだからな、こーゆう雰囲気」 「じゃあ、今度ヨシノのおばちゃんにも教えてあげよっかな」 わくわくしたような瞳で言われてしまって、なんだか寂しいような気がする。一番悪いのは緩んだ自分の口だ。この世の中で一番の敵である両親は、あの手この手でナルトを懐柔している。それが非常に気に入らないのがシカマルだ。たとえ、血のつながった両親にでさえささやかな嫉妬心が生まれる。ナルトの喜んだ顔をみるのが好きなのはシカマルだけではない。両親とて同じ事で、ナルトを可愛がりたくてしょうがないといった風なのだ。 「あのさあのさ、おっちゃんやおばちゃんが好きって事は、シカマルも……好き?」 少しだけ声が小さい。シカマルはひょいっと肩を竦める。 「好きだし、落ち着く。ジジィくせーとか言われてもな」 「ジ、ジジィなんて思わねえってばよ!だって、オレも好きだもん。シカマルんちの庭とかすげー落ち着くし、緑とかいっぱいあんのとか好きだってばよ」 必死になるナルトにシカマルはくすくす笑いながら、柔らかい髪を撫ぜた。 「お前、ウチの庭好きだもんな」 「色んな植物あるし、すごい楽しいからさ。見てて飽きない」 見ていて飽きないのはナルトの方だ。ころころと子供のように変わる表情に、シカマルの方が癒される。どんなに疲れてていても、彼の声をきいたり温もりを感じると安心する事が出来た。 シカマルは縁側に用意された酒の用意を見て座った。ちょうど雨はやみ、確かに月見が出来ないのは残念だがこうやって庭を愛でながら飲む酒も乙である。 「座ろうぜ」 「うん」 シカマルにお猪口を渡したナルトは銚子から燗された酒を注いだ。シカマルもナルトに猪口を渡すと酒を注いだ。 「シカマル、誕生日おめでとうだってばよ」 「サンキュ」 へへっと笑ったナルトがお猪口に口をつけた。シカマルもそれに習いくいっと煽った。ナルトが好みそうな甘口の酒である。後味はさっぱりとフルーティに感じるから、甘口だといってもくどくはない。 「ここの地酒なんだって、あと、こっちは冷酒。氷は部屋にあるからさ」 「うめーな」 「旨いってばよ」 月見酒と言っても、ほどほどに嗜む程度にしか用意はされていない。シカマルの肩に、ことりとナルトの頭が当たる。 「酔ったのか?」 「ん〜…?酔ってねえってばよ。ただ、こうしたいだけだってば」 「そうか」 口あたりのいい酒は喉越しも良くて進んでしまうのがいけない。ナルトはもう飲む気がないのか、お猪口を盆の上に戻している。きっと、日の光に照らされたこの庭も立派なものなのだろう。宿に到着した時に見た庭園も良かったのだが、部屋付になっている小さな庭も趣があっていい。視界の中には仲居の言っていた露天風呂があった。 「入るか?風呂、お前今にも寝ちまいそうじゃねえか」 「そんな事ねえってばよっ!」 がばりと身体を起こしたナルトが、むうっと唇を尖らせてシカマルの顔を覗き込む。頬が赤い。アルコールに弱い訳ではないが、それなりに酔っぱらっているようだ。 「ナルトは酔っぱらうと寝ちまうからな、心配してやってんだって」 「大丈夫だって……」 ナルトはちゅっとシカマルにキスをしてから、浴衣の帯を解いた。 「酔ってねえもーん…めっちゃ、平気だしっ!」 するりと解いた帯を投げ捨てて、来ていた浴衣を肩から落とす。夕方に着けた紅い印が白い肌に花弁のように散っていた。それが扇情的で、とろんとした青い瞳が色香を放つ。そこで、ナルトはシカマルの手を取る。 「シカマルは入らねえの?」 「入る入る」 両手を取られて立ち上がったシカマルは、足元が少し危ないナルトを抱きしめた。それから、まだ腕に引っかかっている浴衣をそっと脱がす。恥ずかしがり屋なくせに、この大胆さはどこから来るのだろう。ぎゅっとシカマルに抱きついたナルトの手がシカマルの帯に掛かる。 「浴衣着たまんまじゃ、入れねえって…」 「なんだよ、脱がしてくれるってか?」 「ん…そのつもりなんだけど、上手くいかねえってか……」 力の入らない指先にイライラした声色のナルトが、顎をシカマルの胸に乗せながら顔を上げた。潤んでいる青い瞳も、赤らんだ頬も、むっと引き結んだ唇も、全てが可愛いなんて思えてしまうのだから、かなり重症だ。触れた体温に、冷静で居られない理性を試されている。 「抱きついたままじゃ、脱げねえ」 緩んだナルトの腕を名残惜しいと感じてしまう正直な下半身。二人の浴衣を縁側に脱ぎ捨てると、へらへら笑うナルトの手を取って飛び石を踏んだ。 「完全に酔っ払いじゃねえか」 出来上がっているナルトは機嫌よく、風呂の中へ足を入れた。外気がひんやりとしているからか湯の温度は適温である。少しぬるいとも感じるけれど、ゆっくりと入るのには丁度いい。ナルトはほわほわとする頭の中と身体の感覚にシカマルに寄り添った。 「いい湯だってばよ…」 ほうっと息をついて一緒に出た本音にシカマルの笑った気配を感じた。空気が揺れた。だから、シカマルの唇が笑っているだろうことが予想できる。彼は両手を広げ岩に引っかけながら、空を仰いでいた。その脇に体重をかけていたナルトが顔を上げて、シカマルの首に両手を絡める。そのまま唇を塞ぐと、すぐに応えてくれるシカマルの舌。 「ん…っ…」 ぴちゃりと静かな空間の中に響く水音に、ゆっくりと唇が離れる。 「月見、できたら良かったなぁ」 「来年があるだろ?」 「うん…でも」 「ちょい黙れよ。イイトコだろ?」 シカマルの腕がナルトの身体を抱く。キスの続きを求めた彼にナルトは身体を預ける。さわさわと湯に波紋が広がる。ナルトの背筋をすうっと意図ある指先が撫ぜた。 「あ…っん…」 ナルトの中から性感を呼び起すようなその指先に一瞬身体が逃げる。 「逃がさねえよ」 「シカマ…そ、と…だって……」 「ん?外じゃねえよ、部屋についてる風呂なんだから、部屋と一緒だろ?」 「それって屁理、屈……あ…っ!」 「おいおい、誘ってのか違うのかどっちかね」 「ちが…っ」 胸元に顔を埋めると、紅い尖がりに舌を這わせる。 「ん…っ」 アルコールの作用なのかいつも以上に敏感になっているソコを甘噛みすると、ナルトの腕がシカマルの頭を抱えるようにして抱く。 「もっとしてほしいってか…」 舌先で一つを転がして、もう片方は指で愛撫を加える。白い肌が火照るような色に変わるのを視覚で楽しみながら、漏れる嬌声を耳で味わう。湯の中にある双丘の間に空いている指を滑り込ませると、ぴくんとナルトが反応した。 「ホントに…ここ、で…すんの?」 確かめるように聞いてくるナルトに答えるように、彼の足をとって自分の上に跨らせる。それから改めて蕾であるそこを指の腹で撫ぜた。 「や…っやだ……っ」 言葉での反論を聞こえないふりをして、指をその蕾へ進めた。熱い中がシカマルの指をぎゅうぎゅうと締め付ける。拒まれているような、それでいて誘われているような後腔の収縮にシカマルがククっと笑った。二本の指をぐいっと押し込むと、声にならないナルトの息遣いが聞こえたような気がした。遠慮なく熱くなる肉襞をかき分けて奥へと進める。ナルトの一番悦い場所なんて聞かなくても分かっていて、くいくいと刺激してやると内股がびくびくと反応するのを感じる。 「ったく……可愛いな」 ナルトを見て十分に反応しているモノをそこへ宛がう。シカマルの愛撫に震えたナルトが顔を上げる。かち合った視線をシカマルも反らす気はなくて、じっと彼を見つめながら彼の中に自分を穿つ。ゆっくりとその存在を確かめるように埋める肉欲に、ナルトがパチパチと瞬きをした。ほろりと零れた雫を舌先で掬いながら、にんまりと笑う。ぐいっと突き上げるように全部をナルトの中へ沈めた。 「……っお、湯が入って……あ…、もっ……!」 うなじから背中、腰まで指を這わせてしっとりとすいつく肌を確かめる。ゆっくりと下から腰を打ち付けると、再びナルトの腕がシカマルの首に絡められた。 「あ…あ…っんっ……あっ、や…っ…やあ…っ……」 揺れる視界に見えるのは愛しい人の顔で、じっと自分を見つめる瞳。ナルトだけを移すその漆黒の瞳に吸い込まれるような気分になる。 律動を感じて、すぐに達してしまいそうな浅ましさを隠したくてシカマルの唇を求めた。すぐそこにあるようで、果てしない先のようなゴールが近づいては遠ざかる。熱の解放を待っているのに、そうなってしまうのが少しだけ寂しいような気もするのだ。 揺れているのは身体だけでなく、心も一緒だ。 「シカ……す、きっ……好き…」 「ナル……今夜は、離せねえな」 呼吸が早くなって、瞼の奥で弾ける光の粒。強張った腕でシカマルに抱きつきながら、ジンと自分の中に放たれた熱の存在を感じる。 「……も、お湯……汚したら、いけねえのに……」 「問題ねえよ、かけ流しだ」 のぼせたナルトを風呂の中から抱き起すと、もう一度抱きしめて唇を求める。 「俺も好きだぜ?」 「ん?」 「だから、今夜は付き合えっての」 「……うん」 足りないのはナルトも同じで、どれだけ貪り食ってもきっと満たされる事はないのではないかと思うくらいである。部屋に戻っても身体の火照りは止まる事もなく、シカマルの熱も絶えることがなく、何度も求めあった。
朝がくると、機嫌のいいシカマルに叩き起こされる。 もうすぐ朝食の用意の為に仲居のやってくる時間だ。新しい浴衣の袖を通したシカマルは、部屋に備わっているお茶をのんびりと飲んでいた。 「シカマル、なんか……元気だってばよ」 「枯れちゃいねえよ」 「そっ…そーゆう意味で言ったんじゃ……!!」 シカマルはくすりと笑うと、ナルトにもお茶を進めた。茶筒にあった茶葉はなかなか高価なものだったのか、かなり味がいい。くしゅんと小さなくしゃみをしたナルトの為に、羽織を出してやると鼻をぐずぐずやりながら浴衣の上から羽織っている。その方が首筋に着けてしまった情痕を隠すにもいいのだが、あえてナルトに伝えるのは止めた。 「湯冷めしたか? 風邪とかひいたんじゃねえだろうな」 どうしても、身体を合わせるとなると受け身な分ナルトの負担が大きくなる事が心配だ。 「違うって、大丈夫。なんか鼻がぐずぐずしただけだってばよ」 湯呑に口をつけてお茶を飲んでいるナルトからは、昨夜の扇情的な色香は感じられない。それでも、シカマルが求めればその花をすぐに咲かせるのだろう。 「ま、改めて言うのもなんだけど……ほんとにありがとな」 ナルトが傍にいてくれるだけで満足だと心の中で付け足す。口に出来ないのは単に恥ずかしいだけなのだけれど。ぱあっと笑顔になったナルトは、嬉しそうにへへっと笑った。 「シカマルに喜んでもらえてオレも嬉しいってばよ」 「ま、たまに違う場所でやんのも、燃えるな〜」 「………は?」 「すげー燃えてたじゃん、お前」 「信じらんねえっ!シカマルだって同じだろ?」 「ああ、すげー燃えたけど?」 さらりと肯定されてナルトは返す言葉を失う。さすがに露天風呂の中でいたすとは思ってもみなかった。そんな雰囲気になっても、部屋まで戻る自信があったと言うのに、なし崩しのようにシカマルを求めてしまった。 「シカマルが好きだから、オレの負けだってばよ」 どこまで行っても、自分が恋人に弱い事は知っている。思い知る事もしばしばあるのだ。だけれど、それが嫌な訳ではない。好きだと感じる度に、嬉しかったり切なかったりと心の中は大賑わいなのだ。 「そうか? なら、俺もお前には負けねえくれーだけどな」 「ええっ!!」 真っ赤になったナルトが、本当に驚いたような顔でシカマルをじっと見つめる。にやりと笑った口元に男くささを感じてドキドキしてしまう。 襖の前で朝の挨拶をする仲居の声を聞いたナルトは、真っ赤なまま俯いてしまった。不思議な顔をして朝食の用意をしてくれる仲居の顔を見られないまま楽しそうにしているシカマルの表情を盗みみながら、開け放たれた障子の向こう側に視線を移す。 今朝は昨夜とは打って変わっての晴天で、暗闇の中とは違う趣を見せる庭が広がっているのだが、その庭にある岩風呂を見ると、どうしても情交の事を思い出してしまい純粋に干渉できそうにもない。 「シカマルのばか……」 楽しそうに仲居と雑談を続けるシカマルに呟くと、ちらっと彼の瞳がナルトを移した。会話をしながらもナルトの言葉を聞きのがしていないという視線に、ふいっと顔を背ける。 シカマルがナルトを抱き込んだのは、朝食をおいしくいただいた後の出来事である。 昼過ぎまで怠惰に貪り合った後、ナルトは疲労の為か眠りに落ちてしまう。小さな子供のように丸くなって眠る恋人を愛しく思い、せめてゆっくり寝かしてやりたい気持ちになる。 「悪りぃな、セーブできなくてよ」 金色の頭を撫ぜながら呟くと、ナルトが笑ったような気がした。ふいに訪れた幸せの瞬間に、シカマルの気持ちも温かくなる。 連泊する事を決めたシカマルが受付へ向かう。ふと見上げた空には、雲の切れ間にぽっかりと浮かぶ月が望めた。今夜は改めて、月見をしよう。ナルトの喜ぶ顔を見られるだけで自分も嬉しい。 昨夜は昨夜で、楽しい夜を過ごせたのだけれど。また違った夜が過ごせるだろう。 そんな事を思い浮かべるシカマルの口元には優しい笑みが浮かんでいた。
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ようやく、シカ誕を終える事ができます。
1年モノです(笑)でも、熟成された感はありません…
当初から、露天風呂で!!ってのが目標でした(笑)
おめでとうを言わせるために、こんなに長々と続けてしまってすみません。
やっぱ、、ラブラブなシカナルはいいですな。