札幌 賃貸マンション 不動産

 

 

 

雨月夜

 

 

 去年はできなかったので、ナルトはうきうきした気分でその日付に赤マジックで大きなマルを書く。

「……ん?」

 マルをつけて、ナルトは日付の数字の下に小さく但し書きみたいなものがある事に気が付いた。

「そうなんだ……」

 ほーっと息を吐いたナルトは、思った事を実行に移すためにアパートをダッシュで飛び出したのだった。

 

 

 

 その日は晴天!の、予定だったのだ。

 それなのに、空は灰色の雲に覆われている。それを見上げたナルトが心底残念そうな溜息をつく。その隣を歩いていたシカマルは何度目かの溜息に、思わずくすりと笑ってしまった。

「おいおい、その暗い溜息どうにかなんねえの?」

「……それは」

 せっかくの二人での旅行、なのに……この天気はどうだろうか?

「オレ、日頃の行いは良い方だと思うってばよ」

「へ〜…んじゃ、今日こんな天気なのは俺の所為かもしれねえなぁ」

「ちが…そうゆー意味じゃなくってさっ!」

 慌ててシカマルの言葉を否定しようとしたナルトは、眉をひそめてシカマルを見上げた。横目でちらりとナルトへ視線をやっていたシカマルは、にやりと笑うとナルトの首に腕を引っかける。

「シカマ……」

 何かを言おうとしたナルトは、いきなりのシカマルからのキスに固まってしまう。ここは公道だ。山道と言えど、誰が歩いているか分からない道端である。

 触れるだけの行為に目を見開いたナルトは、瞬きした時には離れていったシカマルを凝視してしまう。

「おい。顔、すげー赤い」

「あ、あ、当たり前だってばよっ!!こんなっ…信じらんねえっ」

 別に誰かに見せびらかしたい訳でもないし、人前でするものだとも思っていない。もし、誰かに見られたら憤死してしまうくらい恥ずかしいだろう。自分の前で堂々としている男の中には、羞恥心というものがないのだろうか。

「そんなに、俺とキスすんの嫌?」

「…嫌…、じゃない」

 嘘はつけない。シカマルとのキスは好きだ。シカマルとの間の行為だからこそだとも言える。

 むしろ、好きの部類に入る行為。

「じゃあ、問題ねえだろ?」

「あるっ!」

「嫌じゃないんなら、問題ねえだろ?」

「嫌じゃないけど、問題はあるってばよ」

「なんだ?」

 平然と言ってのけるシカマルに、ナルトの方が気遅れた。

「そ…それは、こんな、トコで……誰が見てるかもわかんねえトコで、するもんじゃねえもん」

「へ〜…なら、どこならいい訳?俺としちゃ、出来るときにしてーけどなぁ…」

 のんびりと返されて、ナルトは開いた口がふさがらない。シカマルの科白は真剣だ。嘘とか冗談とかからかうとか一切そんなものは感じられない。

「そりゃ、二人っきりで誰もいねえ時じゃんっ!」

 ムキになって反論することに疲れてしまうが、自分の意見はしっかりと相手に伝えておきたい。シカマルは本気になって返してくるナルトに思わず吹き出してしまった。

「シカマル〜〜〜〜っ!」

 本当ならば、誰にもナルトを見せたくなんかはない。恋人の欲目だと言われても構わないとまで思っている。こんな事をいのやチョウジが聞いたら失笑されるのかもしれないが……

 付き合いが長い分だけ言葉にしなくても、なんとなく伝わってしまうものがあるのだ。したくないけど、以心伝心と言うのだろう。

 ナルトがキスという行為が嫌いでないことはよく知っている。駄々を捏ねたり、拗ねたりしている時だって無神経なふりをして唇を重ねれば、ナルトの心が動くのを感じるのだ。

強張った身体から力が抜ける瞬間が好きだ。青い瞳が潤むのも好きだ。眉を顰めながら睨みつけてきたって、その表情すら可愛く見えてしまう。シカマルだってよく分かっている。欲目だなんて言葉では言い表せないくらいに、目の前の恋人に骨抜きな自分の存在を。

柔らかな唇が重なる瞬間も、熱い舌が絡まる瞬間も、甘くて頭がクラクラしそうなくらい酔ってしまう。ナルトが唇を合わせるという事をとても大切にしている意味がシカマルにも理解できた。もちろん、それは「恋人」限定。他の誰でも同じような感情は沸いてこない。ナルトだから、意味のある事なのだ。

だから、甘い誘惑をはらんだ瞳を誰にも見せたくなんかはない。自分だけしか知らない、ナルトの秘密を誰にも分けてやるつもりはないのだ。それは、密かなシカマルの楽しみであり当の本人であるナルトすら気が付いていないだろう。

「それじゃ、お前の所望通り……二人っきりの時は遠慮なくていいんだな?」

 確認の意味を込めて言葉にすると、真っ赤になったナルトがきょろきょろと辺りを見渡してからコクリと頷く。

「…ったく、可愛いカオしてんじゃねーぞ」

「はあ?!可愛いとか、そーゆう感覚わかんねえってばよ!」

「ば〜か。 襲うぞ?」

 ナルトはもっと顔を赤くさせて、ぶんぶんと顔を横に振る。過去の体験による羞恥を思い出したのか必死になってシカマルを睨みつけた。

「シカマルこそ、ばーかっ!」

 精一杯の強がりを笑って流したシカマルは、怪しい雲が泣き出す前に歩くテンポを早めたのだった。

 

 

 

 

 こじんまりとした旅館は古いが手入れが行き届いており、老朽さえも格式を感じられるものだ。

「へぇ…こんなとこに、宿ね」

 感心したようなシカマルの声に、ナルトはにししと笑った。散々と山道を歩かされて、最後には神社のような長い石階段まで上るはめになった。その時は、正直シカマルもうんざりしていたのだが、宿構えを見た瞬間に疲労もどこかへ消えてしまう。

 今日の旅行はナルトが計画したものだ。ナルト曰く、計画なら任せろ!らしくシカマルは一切ノータッチである。どうしてもシカマルの誕生日にあたる今日に二人で旅に行きたいと言い出したのはナルトだ。

 任務の関係もあり、ナルトが望むように休みが取れるか確証もなかったのだが。ナルトの執念に近い思いが叶ったのか、二人揃って公休をもぎ取れた。

 自分たちの母親と同じくらいの年に見える品のいい女将が、シカマルたちの姿を黙視するとゆっくりと腰を折った。珍しくテキパキと宿泊の手続きを進めるナルトは、さすがカカシ班で旅慣れしているように見える。その間に、受けつけの脇にある椅子に腰かけると、ガラス越しに庭園が広がっていて、知らずと心が和む。

「シカマル〜。行くってばよ?」

 仲居に荷物を預けたナルトが、ひょいひょいと手招きをする。ばたばたと騒々しい所は、いつも通りである。それでも、久しぶりに外野もおらず二人でゆっくり過ごせる事が嬉しくない訳ではない。ナルトのようにはしゃいではいないが、気持ちが穏やかになるのを感じる。

 長い廊下を歩いて通された部屋は、広い。

「お越しいただいたのに、あいにくのお天気で…」

 笑顔を浮かべた仲居がお茶を用意しながら、世間話を始めた。

「いや、いい所ですよ」

 お世辞ではなく本当にそう思う。宿全体がいい意味での静寂を持っているように感じるのだ。喧騒から離れたような贅沢。時間に追われる事の多い生活を、ひと時でも忘れられそうな気がした。

 山奥にあるという事もあり、静かなだけではなく自然も多くある。気持ちが落ち着く理由が、なんとなくわかったような気がした。

 湯呑に注がれた茶の香りにほっとする。

「ホントに……雨なんてさ〜」

 頬を膨らませるナルトに仲居がくすりと笑った。見た目より子供っぽい仕草に好感を覚えたと言ったところだろうか。床の間に飾られたすすきを見て、シカマルがふと首を傾げる。

「晴れますとね、本当に月がきれいに見えるんですのよ」

 そう言われ、シカマルはようやくナルトがこの宿を予約した理由を知った気がした。あまり興味がなかったが、今日は十五夜というやつだ。中秋の名月などと言われている。

「いや、月見もいいですがゆっくりさせてもらいますよ」

「ええ、温泉も当宿の名物となっておりますので、露天風呂もお楽しみくださいね」

「のんびり過ごすには雨月も乙ってやつじゃないですかね」

「ごゆっくりと羽を伸ばして頂けたら、わたくしどもも嬉しく思います」

 軽く会釈をすると仲居が襖をしめて退室した。ナルトはふうっと息を吐いてから、シカマルの隣に座るとぎゅっと徐に抱きつく。

「ナルト?」

「シカマルの匂い!」

 よく分からない事を言って甘えた所作を見せる恋人が可愛い。肩に手を回すと、シカマルもナルトを抱き寄せる。

「…恥ずかしがったり大胆に抱きついてきたり、お前ってわかんねー奴だな」

 ナルトの全てがシカマルのツボに入る。ワザとでもなく、媚びるわけでもなく自然なままのナルトが好きだ。飾らない態度で、それでも愛しくて。可愛くみえるのはこういった自然体の姿なのかもしれない。

「シカマルとさ……一緒に居たいのもあったんだけど、去年一緒に月見できなかったから。今年はしてーなぁとか思ったり?でも、雨だもんなぁ……」

「いいんじゃねえの?月は出てなくても、月見酒で」

「それに、お月見料理だってばよ〜?」

 二人は同時にくすくすと笑う。

「なぁなぁ、シカマル。“ウゲツ”ってなんだってばよ?」

 仲居との会話を思い出したのか、ナルトが首を傾げた。見上げてくる恋人が愛しくて、額に唇を落とす。

「ああ、十五夜の晩に雨が降って月見ができねぇことを言うんだ、雨月ってな。季節的に良夜ってのも恵まれねえこともあるしな」

「シカマルの話は難しい言葉ばっかだってば〜」

「少しくらい本とか読めよな」

 そんな風に言いながらも、自分の知らないことを甘えたように聞いてくるナルトも可愛い。どうしてなのか、愛しさが溢れてくる。思い返せば、こうやってゆっくりとした時間をとれるのも本当に久しぶりだ。すれ違いにも似た生活を過ごし、一緒のベッドで眠ることはあっても、季節を愛でながらのんびりとする事自体にご無沙汰気味なような気がする。

 だからだろうか。二人で過ごす、他愛のない時間を愛しく感じるのは。

「それとさ、今日はシカマルの誕生日だし。全部、オレが出すって言ったじゃん。さっき、仲居さんに心付渡してたってばよ……」

「なんだよ、いいだろ?それくらい。細かいこと気にすんなって」

「なんか…すっごい自然にそーゆうコトできるシカマルにちょっと嫉妬だってば」

 同じ年……この瞬間には、一つ上なのだが、そのシカマルが自分よりもずっと大人な感じがしてなんだか自分が情けなく感じる。

「それは……なんてーか、親父の影響だろ?けっこう、親父って古い人間だからよ。自然とな」

 その自然が羨ましい限りなのだが、シカマルにはわかってもらえないだろう。

「ふ〜ん」

 自分への不満を込めて答えてしまったのだが、ふくれっ面のナルトを見てくすっと笑ったシカマルと視線が合った。優しい眼差しに心臓がトクリと跳ねる。

 

こんなに間近で、体温も鼓動も感じられる距離で……

 

ナルトは少しだけ気恥ずかしくなりながらも、ふっと瞼を閉じた。それが合図なのか、引力のようにシカマルとナルトの唇が重なった。啄むように、軽い口づけを繰り返した後に深く唇が交じり合う。優しく舌を吸われて、快感を孕んだ声がナルトの口から洩れる。

「……んっ…っ」

 舌を絡め合いながら、シカマルの指先は柔らかい金糸で遊んでいる。余裕を奪わるようなキスの感覚に、ナルトはシカマルの上着をギュッと握った。

「あ…っ……」

 甘い声が吐息に交じる。触れ合うだけで、身体が火照る。そして、目の前の彼だけを求めてしまう。

「ナルト……エロい顔してるぜ?」

 カッと頬に朱が走る。ナルトは紅く色づいた唇をきゅっと噛みしめた。

「だって……すごく気持ち良かったから —————— 」

「感じたってか?」

 そして素直にコクリと頷く。

「ったく……」

 シカマルはちらりと部屋の片隅にある置時計に視線をやった。夕飯は部屋食だ。それまでに、ナルトと愛し合う時間はあるのだろうか?いっそのこと、食事なども忘れて恋人に溺れたい。でも、それでは月見料理だ月見酒だと張り切ってくれたナルトの気持ちも無駄にしたくはない。

「手放せねーなぁ…」

 ナルトの身体を畳に押し付けたシカマルは、にやりと笑いながら誘うように瞳を潤ませる瞼に再び唇を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッピーバースディ、シカマル!!

という話をちゃんと、シカの誕生日当日にアップしたかったのですが…

あはは…いつものことですが!!(^^

書いても書いても終わりが見えなくて(ええ、いつもの事ですが)

キリのいいとこでアップします〜orz

と言うか、お楽しみ前(シカマル的に)かよ!って感じです。

タイトルは「雨月」と「月夜」を足した勝手なゴロ合わせです。

なんて読むのかはわかりませんので、テキトーに読んでください。

ウゲツヤかなぁ?……致命的な作者。頭悪りぃよ……

すみません。シカマルのお楽しみ(RUIのお楽しみ?)にもう少しだけお付き合いください。